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413話 悩む親子

前回のあらすじ「城下町でお買い物」

―「魔国ハニーラス・城下町」泉視点―


「全く……寿命が縮んだよ。こんだけのレア素材を一堂にするなんて……で、まだ持ってるのかい?」


「竜の鱗もありますけど……今は黒までしか出せ無いですね」


「もういい……頭が痛くなるよ。ったく……」


 お婆ちゃんはそう言って、この話を切り上げる。周りにいる従業員達も『これ以上はお腹一杯』とも言いたげな表情をしている。


「さてと……素材の買取だが、ぜひ買い取らせてもらいたい。とは言っても、こんなレア物をすべて買い取るのは金銭的に無理だからね。いくつか……それでいて少量って所かね」


「売れないッスかね」


「売れはするが……身を崩す訳にはいかないんでね。買い取れるギリギリの量で頼むよ」


「いいですよ。魔国で利用できるお金が欲しかっただけですし……大金があっても、上手に買い物が出来ないですから」


「それなら……うちの商品も付けようじゃないかい。それでいいかい?」


「はい! 2人もいいよね?」


 私がレイスとフィーロに尋ねると、2人とも同意してくれたのでその内容で素材を買い取ってもらう事にした。そのためにも、ここの商店で買う物を決めないといけない。


「それで……生地とかありますか?」


「あるよ。嬢ちゃんは服飾の仕事でもしてるのかい」


「はい。今着ているこの巫女服も自作ですね」


「ふむ……さっきの話からして、とんでもない素材で作られているようだね。それを満足させるような生地は無いかもしれないが……」


「大丈夫ッス。戦闘服じゃなくて、普段使いとか祭り用に使うッス!」


「それならいいのがあるよ……おーい! 昨日仕入れたアレを持って来てくれ!」


 そう言って、従業員に指示を出すため、その場を離れるお婆ちゃん。その間に、私達はお店に並んでいる商品も物色していく。置かれている品々は雑貨であり、リーリア姫に教えてもらいながら、それらの値段を確認するとそこまで高価な品々は並んでいない。


「戦時中だから物資不足……とかは無いのです?」


「武器や防具……後は薬とか魔石も不足気味だ。だが、日用品に関しては、前線に出れない者達が大勢いるからな……そんな彼らのお陰で不足することは少ない」


「戦える人物って少数って事ッスか?」


「そう言う意味ではないさ。まさか、国中の国民全員を戦闘要員にするとか、そんな事をしないだろう? 戦いが不向きな奴は、自分が出来る事で我々を支えているんだ……他の国だってそうだろう?」


「それも……そうなのです」


「そういうことさ……まあ、当てはまらない連中がいるがな……」


 リーリア姫はそう言ってこの話を締めようとする。彼女が言ったその連中というのが『魔族』なのだろう……つまり、彼らは戦うしか能が無いと言いたいのだろう。


「ほれ。確認しておくれ」


 そこにお婆ちゃんが生地を持った従業員を連れて戻って来た。私は気を取り直して、必要な生地を購入していく。これといった珍しい物とかは無かったが、それでも作りたい衣服のイメージにぴったしの肌触りや色合いの物があったので十分な収穫である。


「それと魔道具も見たいんだったね……うちには日用品程度しかないから、近くの魔道具屋に行ってみるといいさ。オライン……帰って来てすぐで悪いんだが、この嬢ちゃん達を案内しておくれ。それと、欲しい魔道具があったら、これで買っておやり」


 そう言って、お婆ちゃんがオラインさんにお金の入った布の財布を渡す。手渡す際に『ジャラジャラ』と硬貨同士がぶつかり合う音がする。


「この予算内で買い物をしておくれ……まあ、足りなかったら持っている素材を売り飛ばせばいいと思うがね」


 お婆ちゃんはそう言いながら、従業員達と一緒に私達を見送ってくれた。


「ありがとうなのです!!」


「また来るッス!!」


 レイスとフィーロの2人が手を振って別れの挨拶をする。ふと、リーリアさんの方へ視線を向けると複雑そうな表情をしている。まあ、どうしてそんな表情を浮かべているのか、その理由自体は分かっている。


「こっちじゃ!」


 オラインさんの掛け声に、私はリーリアさんに特に声を掛ける事無くオラインさんの後を歩く。他の3人もオラインさんの後を付いてくる。


「これから向かうのは、婆ちゃんの知り合いのお店なのじゃ。商品の質は保証するのじゃ!」


 楽しそうに笑顔を浮かべるオラインさん。この買い物の後、オラインさんは家族の元に帰り、家族団欒を楽しむ予定であり、あちらで体験した……いや冒険話に花を咲かせるのだろう。しかし……その彼女も数日後には、私達と一緒にこの世界で一番危険な場所へと向かう事になる。


 先ほどのリーリアさんのあの表情はそれを憂いての事だろう。魔王アンドロニカスと戦い、その後、無事にここに帰って来れる保証など無いのだから。


(そんな、すごく危険な場所に行こうとするなんて……とんでもない馬鹿なのかもしれないな……)


 『1年ちょっと前はただのコスプレイヤーであった私がそんな決断をするなんて、当時の私からしたら驚きの内容だっただろうな……』と思いながら、私は目ぼしい魔道具が置いてあるかもしれないお店へと案内してもらうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「魔国ハニーラス・王城 応接室」―


「……になります。以上の品々を王家へ献上させて頂きます」


 王城に戻った僕、はさっそく送り届けられたお酒をグロッサル陛下とフロリア女王にお渡しする。その時、横にいる護衛の人達から唾を飲み込む音が聞こえた気がするのだが……気のせいだろう。


「試しに飲ませてもらったこのお酒……それと同格の価値のあるお酒をこんなに頂くとは……」


「こんな時じゃなければ、今日の晩酌で飲んでたわね……」


 そう言って、2人が溜息を吐く。どんなお酒を用意したのかを口にするより実際に飲んでもらった方が早いので、用意したお酒の1本を開けさせてもらってそれを試飲しているところである。


「この香りを楽しみながら飲むというのはいい物だな……しかし、もっと注いでくれてもいいのではないか? たった2口程度で終わってしまうぞ?」


「皆さんが飲んでいるお酒より遥かにアルコール度数が高いお酒です。この後もお仕事があるでしょうし、この位にしておいて下さい」


 僕がそう言うと、フロリアさんが駄々をこね始めるが……そうはいかない。そもそも、2人が飲んでいるお酒はブランデーであり、アルコール度数は4、50程度はあるのだ。しかも、お値段が1つ50万円もする高級品……そんなガバガバ飲むようなお酒ではない。


「私達なら問題無いのに……お姫様やその従者が飲み干しても問題無かったでしょ?」


「べろんべろんに酔っぱらってはいましたよ……」


 フロリアさんの文句に、僕はそう言って反論する。しかし、実際の所はこのブランデー以外のお酒を飲み干してべろんべろん状態であり、恐らくこの2人ならジュース感覚で済むかもしれないとは内心では思っていたりはする。


「ふーーん……あの子がそこまで酔い潰れるなんて珍しいわね。そんな気の抜けた姿を見せるなんて滅多に無いわよ」


「そうなんですか? 僕たちと一緒に行動している時は結構な頻度であったと思いますよ?」


「なるほど……ふーーん……」


 すると、フロリアさんが僕を興味深そうに眺めている。その際に『体つきはアレだけど……』とかブツブツと言っているが、僕の何を見ようとしているのだろうか。


「ねえ……あなたの娘って……こんな子が好みなの?」


 『ぶっ!?』と飲んでいたブランデーを吹き出すグロッサル陛下。どうやらフロリアさんが見ていたのは、僕がリーリアさんの好みの男性なのかを確かめていたようだ。


「それは無いですね。きっと、リーリア姫はもっと凛々しい男性が好みじゃないですか? リーリア姫がそこまで気を許していたのは、同じ女性である泉たちがいたからじゃないでしょうか」


「な……なるほどな。フロリアの言葉に驚いたが……昨日からのリーリアの様子を見たら、確かにそのような関係ではなさそうだな……」


 グロッサル陛下は口元を拭きながら、冷静にフロリアさんの発言が正しいかを判断してくれた。もし、勘違いされたらどうなっていた事だろうか……。数日後に魔王との決戦があるこの段階での仲違いは非情に不味いのだ。是非ともフロリアさんには気を付けてもらいたいところである。


「分かってもらえて嬉しいです。それでは、僕はまだ飛空艇にいるカイトさんと話し合いがあるので、ここら辺で失礼しますね。あ、もし追加で欲しいお酒があれば要望を承りますので」


「あ、チョット待って欲しい」


 僕がお暇しようとすると、グロッサル陛下から声が掛かる。再度、グロッサル陛下の方へと振り向くと、何か言いたそうな感じはするのだが、その次の言葉がなかなか出てこない。


「いや……すまない。気のせいだ」


「そう……ですか? それでは失礼します」


 僕は2人に挨拶をしてから、その部屋を後にする。グロッサル陛下の昨日からの様子……出発前にバレてしまうのでないかとヒヤヒヤする。


「打ち明ける時、どう説明したものか……な」


 周囲に誰もいない事を確認しつつ、僕は魔王との決戦後にある面倒事に溜息を吐くのであった。 

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