412話 城下町の散策(男子禁制!)
前回のあらすじ「用意したお酒の総額200万ほどらしい」
―午後「魔国ハニーラス・城下町」泉視点―
リーリアさんとオラインさんが陛下達からお叱りを受けた後、私はその2人と、レイス、フィーロと一緒に魔国の城下町に来ている。目的は……。
「こっちじゃ! しかし、まさかあちらの商業ギルドのような場所に行きたいとは……」
「ほら、こっちで買い物するにしてもお金が無いからさ。こっちで何か売りたかったんだよね」
「ここで買い物か……我が国の物より、あっちの世界や西の大陸で十分に揃えられるのではないか?」
「分かりませんよ? 意外に値打ち物があったりして……ね?」
「そうッスよ。それに、レイスにとってはお姫様としてのお仕事ッスからね」
「なのです! 魔国がどのような国なのか知るのは、次期女王として知って起きたいのです!」
「けど……薫と別行動を取るほどなのか?」
「大丈夫なのです。他の魔法使いも近くにいますし、それに……女の子同士でしか話せない事もあるのです」
レイスの話を聞いて渋々と納得するリーリアさんとオラインさん。まあ、実際の理由は違うのだけど……。
「(普通にグロッサル陛下の頼みと言えばいいんじゃないッスか?)」
「(それを言っちゃうと、リーリアさんが気にしちゃうでしょ? ここは私達のワガママって事にしておきましょ?)」
そう。これはグロッサル陛下からのお願いなのである。リーリアさんはその立場上親しい友人はオラインさんしかおらず、オラインさんがいなくなってからは、ずっと魔族への対応ばっかりしていた。そんな娘に、オラインさん以外に親しく遊んでくれる友人が現れたという事で一緒に『城下町で気晴らしに行ってくれないか』と頼まれている。
私より長い人生を歩んでいる彼女の友人がオラインさんだけというのは、本当かどうか疑問に思っていたのだけど……。
「姫様! ご無事で何よりです!」
「ごきげんようリーリア様。このたびは……」
「ごくろうさまですリーリア様!」
リーリアさんの姿を見て、挨拶をする人達を眺めていると、どこか他人行儀なところがあった。オラインさんもリーリアさんとは『姫様と従者』という一線を画そうとするのだが、砕けた口調が出てしまったり、立場関係なく自分の意思を告げたりして、その様子は従者であり親しい友人という感じだった。
「なるほどね……」
魔族との戦いが今も続いている魔国ハニーラスのお姫様であるリーリアさんを見る目……それは『姫様』であり『戦士』だった。話を聞いていると、彼女の無事を喜ぶ半面、それ以外は『これからの魔族との戦い』や『どうすれば強くなれるか』などばっかりで、彼女についての話は全くなかった。
「……昔の私なのです」
「ああ……他の奴もあんな感じだったッスね……」
レイスとフィーロもそのリーリアさんの姿を見て、私と同じような印象を受けているようだ。皆、畏敬の念を持って接しており、失礼の無いように努めているのが分かる。
「すまないな。皆、私が無事だと知って声を掛けてくれるんだ」
「大丈夫ですよ」
私達は平然とした表情で、なかなか目的地に着かない状況を気にしていないことを告げながら、彼女の様子を伺うが……特に変わらない様子だった。彼女にとってそれが……王家の者として当然の扱いだという事なのだろう。
「(いいお父さんなのです)」
小声でそう呟いたレイスに、私は静かに頷くのであった。それからしばらくして、オラインさんの案内で1つの建物に辿り着く。他の建物より大きく立派な佇まいをしており、その建物の前では鬼人の従業員の方が掃除をしていた。
「うん? ああーー!?」
すると、こちらを振り向いた鬼人の従業員が驚いた表情を浮かべ、そのまま建物の奥へと慌てて入っていく。すると、すぐに2人の鬼人の男女が建物から出てくる。
「オライン! 帰って来たのか!!」
「ただいまなのじゃ! 父上、母上!」
そう言って、オラインさんが両親の元へと歩み寄る。対して、オラインさんの両親は娘を抱き寄せて無事を祝う。その後、3人は笑顔で会話を始める。オラインさんのお父さんなんて、涙で顔がぐしゃぐしゃであった。
「ここ……オラインさんのご実家なんですね」
「ああ。オラインの家は商家でな。度々、私も利用させてもらっている」
「全く……姫様を無視するなんて……」
すると、建物の扉から杖を突きながら強面のお婆ちゃんが現れる。頭に角があるので、このお婆ちゃんも鬼人であることが分かる。
「だって、婆ちゃん! 死んだと思った娘が1年ぶりに帰って来たんだぞ!! これが祝わずにいられるかって!!」
「だからといって、姫様を立たせっぱなしにするんじゃないよ。すまないね……」
「いいえ小母様。私もオラインが無事だと知った時はこんな感じでしたから……それで、こちらが怪我していたオラインの保護をしてくれた恩人達だ」
「初めまして」
リーリアさんの紹介で、私達はオラインさんのご家族に挨拶をする。
「そうかいそうかい……娘が世話になったね」
「いえいえ。こちらの都合でなかなかこちらに帰すことが出来なくて……ご家族の方々にご心配をおかけしたことをお詫び致します」
「ははっ! いい子だね……これからも娘と姫様の事をよろしく頼むよ」
そう言って『かっかっか!』と笑うお婆ちゃん。そこには2人の友人としての意味があるのだろうと思った。
「婆ちゃん。そこの泉達が素材の売却をしたいそうなんじゃが」
「かまわないよ。姫様もここにいるって事は、かなりの上客なんだろう? すぐにやってあげるさ……ただし、びた一文負けないがね」
「ええー……そこはちょっとサービスして欲しいッス」
「これでも商人だからね……さあ、入っておくれ。ほら、あんたたちも娘の恩人のために働きな!」
お婆ちゃんがそう言うと、オラインさんとオラインさんの両親が建物の中に入っていく。その後、お婆ちゃんと一緒に建物の中に入ると『いらっしゃいませ!』と従業員達から力強い挨拶で歓迎された。そのままカウンターへと案内されるのだが、先に入ったオラインさん達が近くにはおらず、こことは別の場所で騒がしい声が聞こえ来るので、店の人達に自分の無事を伝えている最中なのかもしれない。
「じゃあ……嬢ちゃんが売りたい物をここに出しておくれ」
そう思っていると、お婆ちゃんから、カウンターの上に置くように言われたので、さっそくアイテムボックスに入れていた木材と薬草を取り出す。
「木材と薬草かい……ふむ。チョット待ってな」
お婆ちゃんはそう言って、カウンターの奥へと向かう。すると、お婆ちゃんと一緒に大柄の1つ目の正装した大男が現れる。
「サイクロプス?」
「そうだよ~……で、売るのはこれかな~……うーん。あっちの国の木材と薬草か~……上手く値段が付けられるか怪しいよ~」
そう言いながら、ポケットから大きなルーペを取り出し、早速鑑定を始めるサイクロプスの男性。
「ふ~ん……これは~うん?」
鑑定していたサイクロプスの男性が、持っていたルーペを乱暴にカウンターに置くと、そのまま再度カウンターの奥へと入っていってしまった。
「珍しいね……あの男があそこまで慌てるなんて……」
お婆ちゃんからして、あのサイクロプスの男性がこうやって慌てるのは珍しいようだ。すると、サイクロプスの男性は片手に本を持って来て、それをカウンターの上で開きながら、再度、木材と薬草を確認し始める。
「え……嘘だよね~……?」
「どうしたんだい。そんなに珍しい植物だったんかい?」
「珍しいも何も~……これ『フソウ』と『エリクサー』だよ~」
「……はい?」
「だから~……『フソウ』と『エリクサー』だよ~。ほら、この図鑑の特徴に当てはまってるし~」
『そんな馬鹿な!?』と言いながら、お婆ちゃんは図鑑を乱暴に手に取り、自身の目でこの2つを確認し始める。
「そんな馬鹿な!? 国宝級のレア物じゃないかい!!」
「そうなんッスね……で、いくらッスか?」
「その前に、そこにいる姫様に献上だよ。上手くいけば、魔族との戦いを優位に出来るかもしれないよ……そうだろう姫様?」
「ああ……安心してくれ。既にいくつかもらっている」
「いくつか……? あっちの大陸には群生地でもあるんかい?」
「それらは、ここにはいない薫と泉の2人が管理する施設で栽培している物なのです」
「……はい?」
何を言ってるのか分からなくなったお婆ちゃんは、そのまま黙り込んでしまった。手っ取り早く、稼ぐには高価な素材を持ち込めばいいだろうと思っていたのだが……失敗だろうか。
「あの~……この素材がダメなら、別の物があるんですけど」
「……何だい?」
「ミスリル、ヒヒイロカネ、ダマスカス、アダマンタイトの延べ棒……あ、少量だったらオリハルコンもありますよ」
「ば、婆様~! しっかり~!!」
突如、呆然と立ち尽くしてしまったお婆ちゃんを、サイクロプスの男性が揺さぶって起こそうとする。が、一行に意識は回復しない。
「これもダメッスかね?」
「みたいなのです」
「しっかりして~……誰か~!!」
サイクロプスの男性の叫びにオラインさん達もやって来て、全員でお婆ちゃんの介抱をしていく。そして……お婆ちゃんの意識が戻ったのはそれから30分後の事になるのであった。




