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411話 お酒の恨み

前回のあらすじ「全員集合!」

―「魔国ハニーラス・王城近くの広場」―


 僕たちはフロリアさんの案内で王城の近くにある市民も使用できる広場へと訪れる。そこには大勢の市民が着陸した3隻の飛空艇を眺めており、その市民が飛空艇に近付かないように兵士が見張っている。


 僕たちはその兵士たちの横を通り飛空艇へと近付く。すでに飛空艇から数人の人が飛空艇から下りており、位の高そうな兵士たちと会話をしていた。すると、兵士たちがこちらに……いや、フロリアさんが来たことに気付いて、その場で敬礼をする。


「フロリア様!」


「ご苦労様……それで、こちらがこの船団の代表の方々かしら?」


「はい。停泊許可を頂きありがとうございます。城壁外に停めるように言われるかとヒヤヒヤしました……」


「気にしないで頂戴。こちらとしても、これほどの戦力を手放したくないもの……そちらだってそうじゃないの?」


「いやはやおっしゃる通り……これほど興味深い存在をないがしろにする事は出来ませんね。あはは……」


 カイトさんがどこか違和感のある笑顔で笑い始める。それに釣られてフロリアさんも『うふふ……』とこちらは何かを企むような笑みを浮かべながら笑う。互いに協力関係を結ぶつもりのはずなのに、これだとこれから騙し合いでも行う雰囲気である。


「はいはい……そんな事をしていないで、ちゃんとした話し合いをしましょう。薫……ちゃんと話をしてるのよね?」


 そこにミリーさんが手を叩きながら、2人の話を遮る。あのままだと変な事になっていたと思うので非常に助かる。


「もちろん。ここにはいないリーリアさん……じゃなくてリーリア姫のお父さんであるグロッサル陛下にもしっかりと伝えてるよ」


「そう……それで、あなた達が魔王アンドロニカスの討伐に向かうのかしら?」


「それなんですけど……」


 僕たちはそこでミリーさんたちに、昨日からの話を要点をまとめて話をしていく。


「斥候となると……私ね。そもそもあなた達と行動した事のある人物って、私ぐらいじゃないかしら?」


「ええ……だからこそお願いしたいんですけど」


「問題無いわ。アンドロニカスをこのまま放置したら、私達の国に被害を被るのは明白なのだから。そうなる前に手を打たないと……ね」


 そう言って、ウインクするミリーさん。前線で戦う覚悟は出来ているようだ。


「度胸があるわねあなた……相手は私達のような存在でも手に余る連中だというのに」


「これでも、危険な任務は何度も経験済みよ。それに……今回はあくまで斥候。正面切って戦うつもりはゼロよ」


「なるほど……」


 ミリーさんをジロジロと見た後、どこか納得するフロリアさん。僕みたいに気配を読む能力に近い何かがあるのかもしれない。


「これが飛空艇か」


 そこにグロッサル陛下が、リーリアさんとマクベスを連れてやって来る。


「マクベスさん……無事だったんですね」


「ええ、まあ……剣を首に当てられましたけど」


 泉の言葉に、そのような返事をするマクベス。グロッサル陛下とリーリアさんが否定しないので、実際に首を刎ねられそうになったのは間違いないようだ。まあ、こうやって一緒に行動している所からして、ある程度の折り合いはついたのだろう。


「それで薫……いつ向かうのか決まってるのかい?」


「とりあえず……準備が出来次第ぐらいしか……」


「2、3日待って欲しい」


 僕とカイトさんが話をしていると、そこにグロッサル陛下が混ざる。


「リーリアとコークスに2人の装備の準備がしたい。それと、魔王アンドロニカスの居城までの道のりの打ち合わせしないとな」


「それも……そうですね」


 移動中に戦闘になるかもしれないこの状況……一番最悪な連戦という状況になるのを防ぐためにも、しっかりとした道筋を立てる必要があるだろう。


「後、補給もしておこうか。どれだけの長い移動になるか分からない以上、長期保存できる食料品とか、しっかり体を休める事が出来る寝袋やテントなどを人数分用意しておかないとね……」


 これだけの人数で動くとなると、今のアイテムボックスに入っている食料では量が足りないし、行軍するにしても、寝袋などの道具が少なすぎる。それに、ゆっくり補充できるタイミングもここが最後になるのだ。悔いの無いようにしっかりと準備をしなければ。


「ああそうだ! 後、薫宛に荷物を預かってるんだけど」


「うん? 僕宛ですか?」


「そうそう。鈴木商店の店長さんからで……『遅くなってすまなねえ。その分、最高の酒を用意したからな!』って」


「ああ! 良かった……グロッサル陛下たちへの献上品として用意していたのが、ようやく届いたんだ」


 その僕の一言に、グロッサル陛下とフロリアさんが驚いた表情になる。


「我への献上品……待て。昨日の夕食の際に出したあの酒は何なのだ? アレはすばらしい酒だったぞ?」


「そうそう。私だってあんな上等なお酒をいただいたのは久しぶりよ?」


 2人の言う素晴らしいお酒……それは、僕がアイテムボックスに入れておいた料理に使うためのお酒である。とは言っても、料理酒ではなく一般に広く流通している普通の日本酒とビール、後はワインの3つである。昨日の食事会の時に、こちらの食事についての話になったので、その際にお出しした物である。


「あれは一般に流通しているお酒ですよ? 献上品としてご用意したお酒は、製法にこだわり過ぎて年間100本しか作られないブランデーとか、特別仕込みの日本酒……後は、こちらでは珍しいブドウ以外で作られた高級果物で作られたワインとか……一般の庶民である僕たちじゃあ滅多にお目に掛かれない品々をご用意させて頂きました。味は……リーリア姫のお墨付きです」


 それを聞いたグロッサル陛下は少しだけ何かを考えた後に、素早くリーリアさんの方へと振り向く。リーリアさんはその目に視線を合わせないように、別の方向へと視線を向けている。


「……リーリア?」


「何でしょうか?」


「なぜ『あれより美味い酒がある』と言わない? いや……お前が味見したって事は、そのお酒を謁見の際の献上品として持ってこれたはず……だよな?」


「……」


 リーリアさん怒った表情でこちらを見る。いや……それに関してはそっちのせいである。献上品として用意したのに『父上の好みに合うか分からないから試しに飲んでみる』と言って、用意していたお酒を全て飲んでしまったのだから。


「おお! 陛下……お久しぶりなのです!」


 すると、何も知らないオラインさんが船から下りてきて、陛下の前に膝を付く。


「うむ……よくぞ帰って来てくれた。色々報告を聞きたいところだが、家族にも久しく会っていないのだろう? すぐにでも顔を出してくるといい」


「はは! ありがとうございます!」


「オライン! 少しいいか?」


 久しぶりの家族の元へと向かおうとするオラインさんをリーリアさんが引き止める。先ほどの話からして何をしようとしているのかが分かってしまう。


「何でしょうか姫様?」


「あのリンゴのお酒……美味しかったよな?」


「え、ええ……薫が用意したお酒ですよね。2人で空にした……」


「……我の献上品の酒を飲み干したのか?」


「え? えーと……薫、これってどういう状況なのじゃ?」


「リーリアさんが献上品のお酒を飲み干した事がバレました。そして……今、それの共犯者としてオラインさんがいた事を遠回しにグロッサル陛下にお伝えした感じです」


「はいぃっ!?」


「あなた達……ちょっとここに座りなさい!!」


 すると、黙っていたフロリアさんの我慢がついに爆発。リーリアさんとオラインさんの2人に自分達の前に来て座るように命令する。それに付随して、グロッサル陛下も同じような命令をする。


 そこから、2人のお叱りが始まる。たかがお酒……と思う人もいるだろうが、娯楽が少なく、料理のレパートリーも少ないグージャンパマではお酒は数少ない楽しみの1つであり、美味いお酒を作った酒蔵に関して、王様が直々に表彰する事もある。それは、この魔国でも、夜国でも変わらない……と、ユノとリーリア姫が自宅の居間で話していたのを思い出す。


「食べ物……じゃなくて、お酒の恨みは怖ろしい……カイトさん。追加で発注とか出来ますか?」


「こっちに転移魔法陣を設置してからなら可能だよ。出来れば薫がどんなお酒が欲しいのか要望を出してもらえると助かるんだけど……」


「分かりました。今回の献上品を飲み終えた明後日にでも訊いて、まとめておきますね」


 両国の王様たちに怒られているリーリア姫とオラインさんを離れた場所から眺めつつ、そんな話をするのであった。


「勘弁して欲しいのじゃーー!!」

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