40話 打ち合わせ
前回のあらすじ「3名様ご案内」
―「ビシャータテア王国・王都王宮前」―
「よし! 薫! レイス! 作戦通りいくわよ!」
「「りょーかい!」」
鉄壁をかけて準備万端。ターゲットまであと少し……。
「3、2、1……行くわ!」
「ウェルカーーぶふ!!」
サキが窓から飛び出してドロップキックをカシーさんに食らわせる。
「よし! 今のうちに!」
「え、ええ!? いいんですか?」
「あー……うん。紗江さん。直哉がもう1人いると思ってくれれば分かるよ」
「どういうことだそれは?」
「ああ、なるほど。という訳で降りますよ社長」
榊さんが直哉の腕を掴む。
「はい。そうですね。降りましょうか社長」
紗江さんが直哉を馬車から降ろすために押す。
「ちょ、おい!! 押すな!! というかさっきの意味はなんだ!?」
「はいはーい。素直に城内に入りましょうね」
「薫! お前もか!」
「薫! カシーさんが起き上がってきたのです!」
「呪縛!」
起き上がるカシーさんにトドメの重力で動きを止める。
「敵の沈黙を確認……」
「ナイス薫! レイス!」
「これらは没収しといて……よし。これで少しの間は静かに会談ができるな」
カーターがカシーさんから何かを回収し、静かになったカシーさんをそのまま放置して城の中に入り、この前の2階の客室に向かう。
「これは、凄いですね!! デザインも凝ってますね!!」
「いや……このライトを見ろ。薫の言っていたライトだ。電気でも火でも無い魔法の力で発光している光……すばらしい!」
「それより、私としてはえーと。さきほどのあの方は?」
直哉と榊さんが城内にある魔道具に感激している中、紗江さんがおもむろに聞いてくる。
「この国の賢者でカシーといいます。研究の事になると暴走気味になりまして……お客人に危害を加えそうになったのでああしたまでです」
「一昨日から興奮していて、どうやって止めようか打ち合わせしてたもんね私達」
「まあ、この後すぐに復活して、皆さんにご迷惑をおかけするとはおもいますが……どうかご容赦ください」
「なるほど。こちらの研究者って訳か。ははは!! 実に楽しみだな!!」
その瞬間、直哉以外の全員が一斉に目を合わせる。果たして合わせていいのかと……。
「避けれませんよね?」
「そうよ……ね」
「なのです」
「うん……そうだよね」
とりあえず、変な方向に脱線しないように、しっかり連絡を取り合おうと互いの考えを合わせるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「王宮・2階客室」―
「ようこそ我が国へ。俺がこの国の王でサルディオ・ホワイト・クレーンだ。まあ、気楽に喋ってくれや」
「お会いできて光栄だ。私は笹木クリエイティブカンパニー社長の笹木 直哉だ。よろしく頼む!」
そう言って直哉が手を出す。王様はそれに応えて手を出し握手をする。部屋には王様とカーターたちが僕たちの対面に座っている。今回は王女様たちはいないらしい。
「私は楠木 紗江といいます。社長の秘書みたいな事をしています」
「自分は従業員の榊 竜也といいます。技術者で、まあ今回はカメラでの撮影なんかを務めさせていただきます」
「薫が言っていた動く絵画を作る機械か……何か緊張するがまあよろしく頼む。それで、あちらの研究者と聞いているんだが」
「その通りだ。こちらには無い電気やガソリンなどで動く機械を会社では作っているが、私自身、他の分野に関しても理解があるからそちらの研究に対して幅広く対応できると思うぞ」
「自分達、社員もそれぞれ得意とする専門分野があるので、色々な実験とか開発とかできると思います」
「それは助かるな。こちらもいるんだが……魔法以外は下手するとそちらの文明より遥かに後れを取っている可能性があるから、指導とかしてもらえると嬉しいんだが……」
「こちらとしては問題ありません。必要なら勉強会なども開かせていただきます」
「分かった。他の者とも一度話し合って何がやりたいか決めておくとしよう」
「それと、薫から聞いたのだが……なんでも、こちらの材料で気球を製作しているとか……」
「既に試作機は完成している。今日これから実際に飛べるか試験するところでな……ぜひ立ち会ってほしい」
「もちろん。それと……こちらの世界の気球を持ってきた。こちらの完成品があった方がそちらも比較しやすいだろう」
直哉が車に持ってきていたのは気球で今はアイテムボックスに入っている。僕たちが住んでいる場所は日本では唯一の一年中飛行可能な場所内であり、エリアも広いのでロングフライトも可能である。直哉の会社ではその中心地である遊水池からたびたびフライトをして楽しんでいる。
「今回、飛ぶなら係留飛行がいいだろう。フリーフライトは慣れてからのほうがいい」
「イベント会場のあれか……」
「薫。それは私達にしか分からない表現だと思うのだが」
「ねえ。けいりゅうひこうってなんなの?」
今まで沈黙を保っていたサキが聞いてくる。
「係留飛行は気球と地上をロープで繋げて飛ぶ方法だ。そんな高くは飛べないがうっかり風で変な所に飛ばされるということが無い」
「なるほどね。でも、風なんて魔法で起こせるわよ?」
「「「……」」」
笹木グループ3人が黙る。まあ、うん。そうなんだよね。魔法使いなら射程内の好きな所に好きな威力で出せる。そう出せるんだけど……。
「……どうします社長? 風を意のままなら係留する必要はないのでは?」
「それは止めときましょう榊さん。どの程度か把握しきれていない以上は危険だと思います」
「こっちも気球がどんな風に飛ぶなんて分からねえからな。ここは安全な方法でいくとしようぜ」
「王様の言う通りだ……係留飛行でいくぞ」
とりあえず今回は様子見という事で係留飛行に決まった。
「それで話が変わるのですが……私どもの会社としては魔法と科学の研究によって出来た商品の販売に関しての契約を結びたいのですが……」
「もちろんだ。ただ今すぐはちょっと難しい」
「というと?」
「約2ヶ月後に他国との会議がある。ここで下手に契約すると軋轢を生みかねない」
「なるほど。となるとその会議に私共も出席した方がよろしいですね……」
「ああ。今回の会議には薫達も含めてここにいる全員には来てもらいたいと思っている」
「私は構わない。むしろ歴史が変わるその現場に居合わせる……いや張本人になるのだからな!」
「お客様へのプレゼンは当然の事。ご納得される仕事をさせていただきます」
「そうしたら、連絡は薫を通して伝えるのでよろしく頼む。気になることがあったらその時も薫を通してくれ。ということで薫。すまないが頼むわ」
「いいですよ」
現在、あっちに行けるのが僕たちと泉たちの2組しかいないのだから当然そうなるだろう。そして会議が2ヶ月後となると大体4月下旬から5月上旬辺りか……。
「よし。それでは気球の準備をしま……!?」
「どうしたの榊さん? こっち向いたまま固まって?」
「か、薫さん。後ろ……後ろ……!」
「……」
皆の顔を見ると、何か恐いものを見ているような表情になる……いや、気配で何となく分かるんだけど……。
「か~お~る~!!」
後ろから声をかけられる。呪縛が解けたかな? 座ったまま後ろを振り返ると、赤い髪を振り乱したお化けがいた。
「あ、カシーさん。お早い復活で。ちょうど、これから気球を飛ばすので一緒に行きませんか?」
「その前に何か言うことあるんじゃないかしら……?」
「すいませんでした!!」
「許すか~!!」
すかさず立ち上がり、カシーさんの攻撃を避ける。
「避けないでくれないかしら?」
「やだよ!? というより……カシーさんが事前に変な道具とか準備してるところを確認したカーターたちが、直哉たちに危険が及ぶかもしれないという事で、他の皆から頼まれたから止めたんですからね!」
「変な道具? 私はただ月の雫を施したロープに猿ぐつわに……」
「その時点でアウトだから!」
何を用意しているのか知らなかったが……なんちゅう道具を用意してるんだ! もう完全に捕獲する気だこの人!
「な、なるほど。どうりであのような手荒い事をしたんですね」
「いや……すまん。あれの探求心は俺でもどうにもできなくてな……」
王様がそう言って手を挙げる。お手上げって……僕がそんな事を考えていると。
「ほうほう? 月の雫ってのはこちらの魔法世界では当たり前の品なのかね?」
「いいえ。私達、賢者じゃないと作れない珍しい物よ。魔石を液体にした物なんだけど」
「素晴らしい! 機械に使えばより革新的な物が作れる! オイルみたいにまずは使えるのか検証したいところだ」
「……あなた、まさか」
「ん。ああ。紹介が遅れたね。笹木 直哉。あちらの世界の研究者だ! 私としては君とじっくり話したいのだが……」
「カシーよ。私としてもあなたのような人と技術の話をしたかったわ……フフフ」
「ハハハ……」
「今日は実に楽しい日になりそうだわ!」
「奇遇だね! 私もだよ!」
直哉とカシーさん……この2人が笑いあっている。お互いに各々の世界の知識を誰よりも有している存在。互いが禁断の書を手に入れたように見える。
「遂に会ってしまいましたね……」
「まさに……混ぜるな! 危険! ですね」
「大丈夫かな?」
「どうなんでしょう……?」
各々がこの光景を見て危機感を覚える。僕たちも阻止をするが……そもそも本人たちが盛大に道を外さないように祈るだけだ。
「と、とりあえず、気を取り直して気球を飛ばしましょう!」
「そうだな。それじゃあ行くぞ。カシー」
カーターたちが外に出て気球を飛ばすために部屋にいる人たちの退室を促す。
「ええ。分かったわ。あ、ちょっと待ってくれないかしら」
「飛翔!」
すかさずレイスと一緒に部屋の上に逃げる。高い天井で良かった……。
「ちっ!」
カシーさんがこちらを睨みつけながら舌打ちする。あ、危なかった…あの様子だとただじゃすまなかったな。
「おーい。すまんがここから退室してくれや。なるべく人目につかないようにな」
王様が窓を開けてくれたので、そこから僕とレイスは脱出するのであった。
「とりあえず一安心……かな」
「……なのです」