407話 三者の視点
前回のあらすじ「2人の王と謁見」
―謁見の直後「魔国ハニーラス・王城 貴賓室」―
「ご苦労だったな4人共。それと……不快な気分になっただろう。すまなかった」
そう言って、頭を下げるリーリアさん。そんな中、ルーネさんは取り乱すこと無く、僕たちにお茶を静かに出していく。ちなみにカーターたちはこの場におらず、この王宮にいる魔法の第一人者に会いにいったカシーさんの付き添いをしている。なお『安心しろ。絶対に止めるからな』と指をパキパキと鳴らしながら意気込んでおり、カシーさんが暴走した時、武力鎮圧も辞さないようだった。
「気にしないで下さい。最初から言われてましたから」
「……」
こちらを見て怪訝そうな顔を見せるリーリアさん。何か気に障っただろうか?
「リーリア姫?」
「溜口でいいぞ。ここにはルーネしかいないからな」
「……ルーネさんいいんですか?」
「ここは公の場ではありませんからね。姫様がそう仰るなら問題ありませんよ」
『あはは!』と笑いながら答えるルーネさん。口が堅く、信頼できる人という事なのだろう。この城には他にもメイドさんがお城に仕えているのだが、ここにはこのルーネさんしかいないところからして、かなり慎重になっているとも伺える。
「さて……ルーネ。お前に1つ協力して欲しい」
「何でしょうか姫様」
「薫の事なんだが……彼はやけどなどしていない。別の理由でこの仮面を付けてもらっている。そのため、彼らの給仕に関してルーネ1人にお願いしたいのだが」
「それが協力ですね……で、秘密とは?」
ルーネがそう言うと、リーリアさんがこちらに顔を向けて合図するので、僕は付けていた仮面をそっと外す。そして、そのままルーネさんの方を見ると、とってもビックリした表情になる。
このお城にはところどころ、お婆ちゃんであるアンジェの肖像画が飾ってあった。それはかなり写実的な絵であり、カメラで撮影したのでは無いかと思うぐらいだった。よって、僕の顔と肖像画の絵がそっくりだというのは誰でも分かるような状況だったりする。ルーネさんにしたら、脳裏に焼き付いている位に見た絵のモデルが目の前に現れたようなものである。
「私の叔母上とそっくりな顔をしていてな……それに、この薫と泉は実際に叔母上の血縁者でもあるのだ。それを父上が知ったら、魔族との戦闘に集中できないだろうからな。しばらくは黙ってて欲しい」
「え、血縁者……それは!?」
ルーネさんがそう言って、両膝を付いて先ほどまでの口の利き方に関して謝罪を申してくる。それに対して、僕たちは血縁者ではあっても、王族じゃないので気にしないで欲しいと伝える。
「しかし、陛下がお二人の事を知ったら……」
「その時までは、この2人の扱いは客人として扱ってくれ。事が終わったら……」
そこで、リーリアさんが一旦話すのを止めて、僕たちの方へと視線を向ける。そして……。
「私から告げるさ。私以外に家族がいるとな」
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―「旧ユグラシル連邦第一研究所・談話室」シェムル視点―
「キィッーーーーーー!!!!!! アイツらーーーーーー!!!!!! よくも私の計画をーーーーーー!!!!!!」
「……五月蠅いな」
俺は遠くから、先程から五月蠅くて五月蠅くてたまらないエイルの様子を確認する。薫達が乗っている空飛ぶ船を堕とすため、ご自慢の改造魔獣を仕向けたらしいが……失敗したらしい。
「どうしたんだアイツは?」
そこに、いつものようにフードで頭を隠し素顔が見えないネルがやって来た。ただ、先程の口調や、頭に手を当てている所からして、こちらもお疲れっぽいけど。
「どうしたの。疲れてるみたいだけど?」
「魔国ハニーラスの主要拠点である港町フォルニカに送った軍が全滅した……突如として、現れた化け物共によってな……一体、何が……」
「……あ~なるほど」
「何か知ってるのか?」
「エイルが薫達が乗ってる空飛ぶ船の撃墜に、つい最近失敗したみたいなんだけど……恐らく、薫達は無事にこの大陸に到着。で、たまたま起きていた争いに介入したんじゃないかな」
「とんだとばっちりだな……はあ」
深い溜息を吐くネル。どうやら今回の侵攻に関して、自信満々だったのだろう。それが運悪く薫達によって防がれてしまうとは……。
「ご愁傷様……」
バサバサ……!!
すると、そこに俺があっちこっちに飛ばしている蝙蝠型の偵察魔獣が戻って来た。確かこいつは……。
「王都で何かあったの?」
「キキーッ!!」
こいつはハニーラスの王都で情報収取をさせていた奴だ。時間帯は昼間……こいつらには急ぎじゃなければ、夜中にゆっくり帰ってくるように躾をしている。ということは、王都で何か面白いことが起きたということだろう。
「で、どんな連絡?」
「キッ!」
俺のしもべが『キーキー』と叫んで説明を始める。他の奴らは五月蠅く鳴いているだけに聞こえるが、俺にはそれがちゃんとした会話文として聞くことが出来る。
「ふんふん……へえー、それは不味いね。報告ご苦労様。ゆっくり休んでいいよ」
「キキッ!!」
報告が終わったしもべが、窓から外へと飛び立っていった。この建物のどこかにある住処で夜が来るまで眠りに就くのだろう……羨ましい限りである。
「何があった」
「うーーんとね……エイル!」
「何よ!? 今、私が機嫌が悪いの分かってるでしょ!?」
「エイルが始末したはずの王女が帰って来たって!」
「はぁああああーーーーーー!!!!!!?????? そんなわけないでしょ!! あの王女は失敗作である『異世界の門』でちゃんと飛ばしたわよ?」
「でも……俺のしもべが見たってよ? 薫達を連れて帰って来たって……知ってて、薫達を襲ったんじゃないの?」
「え!? あの船に乗っていたの!? そんな……どういう事なのよーーーー!!!!」
さらに機嫌が悪くなるエイル。髪が逆立ってるところからして、怒りが頂点に達したようだ。これ以上、話すのは面倒だし……止めとこう。
「シェムル。その話は本当か」
「ネルも聞いたでしょ? 俺のしもべが見たって。これ以上は信頼できる奴を送って、確認してもらうしかないんじゃない?」
「そうだな……それに、もしそれが本当なら……我々の次の目的への第一歩になる」
「薫達の世界の侵略か……どんな世界か楽しみだね……」
この世界を魔王様が手中に収めた後の話……ついに、それが現実的な物になってきたようだ。異世界には薫のような強者がどれだけの数いるのだろうか? 薫の強さはあちらではどの程度なのか……変な道具を持ってたりするし、想像するだけでワクワクしてしまう。
「時期に魔王様がお目覚めになる……その時までに、情報をある程度まとめておくぞ」
「襲って来る奴らを撃退中なんだけど?」
「来るまでは暇だろう? いくぞ」
「えーー……」
余計な事を言わなければ良かったと、俺は心底悔やむのであった。
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―ほぼ同時刻「魔国ハニーラス・王城 王の執務室」グロッサル陛下視点―
「……どうした? 先程から思慮に耽ってるみたいだけど」
「あ、ああ……何でもない。まさか、人族の力がここまでとは思って無くてな」
異世界人と西の大陸の住人達との謁見の後、私は彼らとの晩食の前にフロリアと意見を交えていた。
「分かるわ~……下等下等って五月蠅い馬鹿どもに共感する訳じゃないけど、私達が長年苦しんでいた宿敵を、見た目的に弱そうなあの4人が倒したなんて……」
そう言って、溜息を吐くフロリア。私とフロリアは幾度となくアクヌムと対峙した事がある。その能力としぶとさのせいで、他の四天王の侵攻を許してしまう事も多々あった。それだけに、アクヌムは私達が一番に越えなければいけない壁だったのだが……それは、私達の力で超える事無く終わってしまった。フロリアにとって、奴をその手で地獄に送りたかったのだろうが、それはもはや叶わぬ夢となってしまった。
「けれど、その証であるアクヌムの核と魔石を持っていた。お前も確認しただろう?」
「悔しいけど、もちろん確認したわよ……で、ついでにあの子の持っているアレもね」
「……」
薫の持っていたアレ……それは魔物と魔族が体内に持つ黒の魔石。それを加工したアクセサリーを彼は腕に付けていた。
「あなた、アレに何回も反応してたけど……どうかしたのかしら? 特別っていえるような気配は特に無かったわよ」
「気にしないでくれ。ただ……知り合いと同じ波長だった気がしただけだ」
薫の持っていたアクセサリーとその後ろにいた泉という女性のアクセサリー……その2つから、かなり前に亡くなった姉の気配を感じた……気がしたのだ。それはかなり微弱であり、ただ似たような気配という可能性も十分にあり得る位の物だった。
「それより、これからの事を話そう。どうやら風向きが大分変ったようだからな」
「あなたがそう言うならそれでいいわ……で、何か妙案があるのかしら?」
「妙案とはいかないが……一応な」
私は執務室に置いてある地図を取り出し、これからの戦略を説明していく。アクヌムという脅威が無くなった以上、作戦次第ではこちらに十分な勝機がある戦いも出来るだろう。
それから、私はフロリアと食事会の時間になるまで、じっくりと今後の展開について話し合うのであった。




