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406話 グロッサル陛下とフロリア女王

前回のあらすじ「魔国ハニーラスの王都に到着!」

―「魔国ハニーラス・王城 貴賓室」―


 馬車に揺られて、魔王様……魔王アンドロニカスと混同して分かりにくいので陛下がいらっしゃるお城まで辿り着いた僕たち。リーリアさんはお城に着くと同時に老ゴブリンの執事さんと一緒にどこかへと向かった。恐らく、お父さんである陛下に会いに行ったのだろう。


 それから、コークスさんの案内で謁見の準備が整うまで、僕たちは貴賓室で待つことになった。今は恰幅のいいオークのお婆さんが対応してくれており、名前はルーネさんといって、リーリアさん専属のメイドであり、乳母として生まれた頃から世話をしていたそうだ。


「本当にありがとうございました……リーリア様が死んだと聞いた時は思わず倒れてしまいました。まさか異世界から帰還されるとは」


「たまたま、私の親族が発見しまして……お守りにしいていたこれと同じ黒い魔石を身に付けていたので、その影響で近くに転移したのかと」


 僕はそう言って、腕に付けているグリモアを見せる。グリモアに付いているお婆ちゃんの黒い魔石……魔物はこれを区別できると聞いていたが、ハニーラスの住人の誰もこれに関して触れてこないので、何の前知識もないルーネさんで反応を見てみる。


「そう……それは感謝しないとね。ちなみにこの黒い魔石だけど……魔族の物じゃないわね?」


「はい。知り合いの魔物の方の体内にあった物です。その方が亡くなられて……それをお守りとして」


「ああ、なるほどね。よくある話だよ……親や親友の形見として持ったりしてね……生きている人ならもっと強い反応があるから魔物か魔族か分かるんだけど、こうなってしまうと分からないのよね」


「そうですか」


 僕がそう言うと、リーリア姫と一緒に離れた老ゴブリンの執事さんが『準備が整いました』という事で呼びに来てくれた。僕たちはその案内の元、遂に謁見の間へと案内される。中に入ると数名の魔物の方々が両脇に待機しており、僕たちの前には玉座に座るグロッサル陛下と、その横に立つ神職に携わっていると思わせる服装の女の子、そしてドレス姿のリーリア姫がいた。すると、グロッサル陛下がこちらに対して少し驚いた表情を見せるのだが……すぐに元の凛々しい表情に戻った。もしかして、僕と泉の持つ黒い魔石に気付いたのかと思ったが、グロッサル陛下はそれには触れずに話を始める。


「よくぞ参った人族の子らよ。我が娘の送り届けてくれたこと、我が国の港町をあの忌々しい魔族から窮地を救ってくれたこと……感謝する」


「お気になさらず。このような場を設けて頂いたことに感謝いたす次第であり、むしろ陛下が大切にしている彼の地を荒らしてしまった事を、ここに深くお詫び致します」


「はは! 娘から聞いたが……物腰の低いとは本当の事だな。しかし、その姿、その声で男性とは驚きだな」


 そう言って、笑うグロッサル陛下。僕とリーリアさんと同じ亜麻色の短い髪を持つ痩せ男であり、見た目は僕と同じくらいに見えるが……リーリア姫の事前の話では、人間でいえば老人だという事だ。流石、お婆ちゃんと同じ血を引いている弟である。


「で、我々と共闘して魔王アンドロニカスを討ちたいという事だが……誠か?」


「はい。魔族の侵攻は西の大陸でもたびたび起きていまして……そして、今回リーリア姫がご帰還された情報があちらにもたらされれば、四天王エイルのことですから、リーリア姫に使った転移魔法陣を改良して、すぐにでも異世界への侵攻を計画するでしょう。我々としてはそれを未然に防ぎたいのです」


「そうか……」


 そう言って、溜息を吐き思慮を始めるグロッサル陛下。この話の流れで僕たちに落ち度は無いはずだ。あるとしたら……。


「マクベスにあったのだな」


「はい。マクベスとグロッサル陛下の関係は……既にリーリア姫から聞いてます」


「そうか……貴殿らに恨みは無い。ここで過去の戦争の件を引っ張るつもりも無いし、マクベスとは関係があるが、それは自分達の守る物を守るために協力しているだけとも聞いている。それとだが……マクベスも来るのか?」


「はい。彼も決着を付けると言ってました」


「そうか……」


 グロッサル陛下はマクベスが姉を奪った奴という考えがあるようで、『どうして姉を助けなかったんだ!!』と激怒した事が過去にあったそうだ。それから、グロッサル陛下とマクベスは一度もあっていない。だから、姉であるアンジェが異世界で生きていたという話も聞いていないのだ。


「あいつが来たら教えて欲しい……色々、言いたいことがあるからな」


「分かりました。まあ……下手すると、直接ここに飛んできそうですが」


「それもそうかもしれんな。とにかく、貴殿らの提案を受けよう。空飛ぶ船もこちらに向かわせてもらって構わない」


「陛下!」


 すると、1人の禿げたオジサン魔人が話を遮りながら、僕たちの前へと出る。


「この得体の知れない者達を信用されるのですか!? しかも、今話をしているこの者など仮面を付けたまま……陛下に対して無礼です!」


 『そうだそうだ!』とオジサン魔人が先ほどまでいた辺りの人たちが騒ぎ出す。察するに、彼らが魔法を使えない人たちを見下している貴族の集団なのだろう。


「彼は顔に酷いやけどを負っているそうだ。それを隠すための仮面とリーリアから聞いている。だから、それに関しては不問としている」


「しかし、この者どもは下等種族です! それを……」


「傷付いた私を介抱し、母国に帰る手助けをしてくれた者に対して大変失礼では無いのか?」


 そこにリーリア姫が、オジサン魔人を強く窘める。しかし、こいつはそのまま自分の意見を話し続ける。


「リーリア姫、騙されてはいけません! きっと、何か企んでいるに違いありません。それに……このような者達の手を借りるなど、足手まといにしか……」


「え、企んではいますよ?」 


 黙って聞いてるのもバカバカしいので、今度は僕がオジサンの話を遮る。自分の話を否定するどころか、肯定する僕に呆気にとられてしまったようで、そのべらべらと喋る口が止まってしまった。


「ほう。我の前でそのような事を言うとはな……」


「私は地球と西の大陸の2つの特使としての役割もありまして、魔王アンドロニカス討伐以外に、魔国ハニーラスと夜国ナイトリーフとの国交樹立なども頼まれています」


「ふーーむ。我がすぐに賛同すると思うのか?」


「いえ。何せ長い間、関係を絶っていたんです。そんな簡単にいくなんて思っていません。だから、最初は簡単な連絡や、場所を絞っての交易とか……その辺りで落とし込められたらと思っています」


「なるほどな……そちらはどうだ女王よ?」


「ふふっ! 面白いわ……この子、何だかんだ面倒ごとを頼まれて、それで苦労するタイプの子ね……飼ってみたいわね」


 何やら物騒な発言をするグロッサル陛下の横にいた女の子……神職の方ではなく、ナイトリーフの王女様でしたか……。


「薫兄……吸血鬼のお姫様に飼われる人生ってアリじゃない?」


「泉……それ言ったら、女王様が本気にするから止めてよ」


 この状況でボケをいれてくる泉。それに対して、僕は思わず言葉を返してしまう。王族の方々に不敬と思われる行為だが……吸血鬼の女王様は笑っていた。


「あはは!! 面白いわ!! まあ……他国の重要人物だし、そんな真似はしないわ。でも……その気になったら、いつでも言ってちょうだい。このフロリアちゃんが飼ってあげるから」


「はは……」


 強く否定せずに話を流す。心の中では『ユノが帰りを待っているのでお断りします!』と叫んでいるが……まあ、黙っておく。とりあえず、話を変えるとしよう。


「それと……戦力として信用できるかどうかの話ですが、リーリア姫からこれを見せればいいと言われているんですが……」


 僕はこれで何度目かになるアクヌムの核と魔石をアイテムボックスから取り出す。すると、部屋にいた周囲の人々からざわめきが起き始める。それはグロッサル陛下とフロリア女王も例外では無かった。


「あなた……それは!?」


「……リーリア。黙ってたな?」


「はい。どこでちょっかいを出されるのか分からないので……直前まで誰にも伝えないようにしてました」


「……薫と言ったな。それをこちらへ」


 グロッサル陛下に呼ばれて、陛下の傍に近付く。その際に、また驚いた表情をするのだが……すぐに戻ってしまった。そして、またまた何事も無かったように、持って来たアクヌムの核と魔石を確認し始める。


「グロッサル陛下?」


「間違いない。四天王アクヌムの物だ……まさか、既に討たれていたとはな」


「討伐者はそこにいる薫と相棒のレイス、そして泉とその相棒であるフィーロの4名だそうです」


 リーリア姫のその報告を聞いて、さらにざわめきが激しくなる。魔国の軍隊でも倒しきれなかった存在を、たった4名で討伐したとなれば、この反応は当然なのだろう。


「たった4名……? どんな手を使ったらアレを倒せるのよ?」


「えーと……アクヌムの体の水分を徹底的に抜いて、弱体化したところをズバッと……」


「ゴリ押し過ぎじゃないかしら、どれだけの時間が掛かったのよそれ……」


「それを普通に出来る人達ですフロリア様。それで、お父様どうでしょうか? 戦力としては問題無いと思われますが」


「分かってる。我々が倒せなかった相手を倒してるのだ。その強さは認めねばならん。それとだが……我が国と夜国ナイトリーフでは四天王を討伐した者には報酬を与える事になっているのだが……何かあるだろうか?」


「でしたら……一度、西の大陸の代表達が一同に会する会議に出席していただけないでしょうか?」


 僕がそう言って、後ろを振り返ると皆がその報酬について頷いて同意してくれた。


「全く……欲が無いな。なら、その話の詳細を聞きたいのだが、今日はこちらに泊まってもらえるだろうか?」


「問題ありません」


「ならば、この場での話は終わりにしよう。部屋に案内するので、夕食までゆっくりしてくれ」


 そう言って、話を締めるグロッサル陛下。僕たちも邪魔が入るここではなく、ゆっくりと話せる場所で話したいので、素直にこの場を退席するのであった。


「まあ……うちとしたら、お礼は美味しいお菓子とか……ぐふっ!?」


「余計な事は言わないようにね……フィーロ?」


「ふぁい!」

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