405話 王都訪問
前回のあらすじ「魔国ハニーラスでの1日目終了」
―翌日「魔国ハニーラス・王都から少し離れた場所」―
翌日の早朝、港町フォルニカを出立し、魔国ハニーラスの王都へと向かう僕たち。飛空艇はお相手が警戒すると思い、数名で移動することになった。ちなみにリーリアさんは僕の聖獣に相乗りしている。本当は同じ女性である泉の方に乗って欲しかったのだが、何かあった時に臨機応変に対応できないという事でこちらに乗ることになった。
「これ大丈夫かな……敵対意思があると捉えられそうだけど」
「飛空艇で移動するよりかはいいだろう。それに、現在この国は魔族と戦闘中だ……それから身を守る最低限の部隊ということで、俺達以外に騎士団の隊長と副隊長が護衛に就いているという事にすればいい」
「ということで……ワブーの言う通りの設定でいきましょう。リーリア姫もよろしいかしら?」
「もちろんだ。何か言われたら……その時は私が対応するから安心してくれ」
「何も無ければいいんですが……」
「まあ……トラブルが起きそうだとは思うぜ? 戦時中でピリピリしてるだろうし。例の反対派とかも出しゃばって来る可能性だってあるんだぜ?」
「そうよね……カーター。婚約者は守りなさいよ?」
「わ、分かってる!」
サキの言葉に動揺するカーター。『婚約者』という言葉に過剰に反応し過ぎである。先ほどから、このようにどこか緊張感の無い会話が続いている。
今回、僕たちの魔国ハニーラス行きに付いて来たのは面妖の民のメンバー……つまり、いつものメンバーである。そこにリーリア姫が加わった11人となっている。オラインさんも一緒に連れて行きたかったのだが、グラッドルを置き去りにしてしまうという事と、僕たちの事情に詳しいハニーラスの住人が1人いた方が互いの意思疎通がしやすいだろうということであちらに残ってくれた。その代わり、両親宛に手紙を受け取っており、それを渡しておいて欲しいと頼まれている。
「どんな技術が待ってるのかしら……楽しみだわ!」
シーエさんの聖獣に相乗りしているカシーさんが戦時中なのを忘れ、これから向かう王都で見る事が出来るだろう魔国ハニーラスの技術力を楽しみにしている。リーリアさんはそれを聞いて、少々呆れた表情を浮かべている。
「カシーさん不謹慎ですよ。そもそもビシャータテア王国の騎士団の隊長さんと副隊長さん……それに賢者の皆が僕たちに付いてきて良かったの? あっちの指示とかあったよね?」
「心配ありません。次期副隊長に任命される騎士の1人が指揮を出しますので問題ありません」
「次期副隊長……じゃあ、カーターさんはどうなるんですか?」
「変わらずだ。そもそもビシャータテア王国の騎士団の構成は隊長1人に副隊長が3人だったんだ。ただ、前の副隊長が家庭の都合や病気なんかで次の奴が育つ前にいなくなって……仕方なく俺とサキだけで副隊長をやっていたんだ」
『へえー』と納得する泉。それには僕も同じ気持ちであり、てっきり騎士団の構成は隊長1人に副隊長も1人が当たり前だと思っていた。
「2人だと偏った意見になりかねないからな。多すぎず少なすぎずとなった時に副隊長は3人ってなったらしい」
「かなり前からの決まりよね」
「1年くらいの付き合いッスけど、まだまだ知らない事があるんッスね」
「そうだね。あ、ここ迂回した方がいいって……」
「こっちもだ」
それぞれの聖獣が真っすぐ進まずに、右に曲がった方がいいと忠告する。恐らく、この先に魔族の部隊、またはそれに関係する物があるのだろう。僕たちはその忠告に従い右に迂回する。
「戦闘を回避できるのはありがたいな」
「そうね」
リーリアさんの護衛中の今、無駄な戦闘は避けていきたい。この後も、何度か迂回や休息を取りながら移動することおよそ3時間……ついに、城壁に守られた大きな街が眼前に現れる。
「少し右に……そうすれば正門に着くはずだ」
「後、これを……と」
カシーさんが持って来た青い旗を振り始める。こちらに来る際に、僕たちと魔族の区別を付けるために見えるように振って欲しいと言われていたのだ。
(城壁にいた兵士が慌てているね……攻撃する気は無さそうだよ)
「それは良かった」
シエルの話を聞いて安堵する僕。後はこのまま正門に行くだけ……僕たちはリーリアさんの指示の元、ついに王都の正門へと辿り着く。そして正門へと続く道に着陸し、そこからゆっくりとした歩みで正門へと向かう。あちらも準備が整っているようで、正門の前に槍を持った兵士が整列しており、さらに紳士服を着た老ゴブリンと、見た目が人間っぽいので、おそらく魔人という種族だろう兵士が立っていた。
「リーリア様!!」
「爺! コークス!」
リーリアさんがシエルから飛び降りて、老ゴブリンとコークスという魔人の元へと駆け寄っていく。2人はリーリアさんの前で膝を付いた。
「よくぞ……ご無事で」
「心配を掛けてすまなかった……この通り、私はピンピンしてるぞ」
「申し訳ありませんでした……私があの場でお守りしなければいけないのに……」
「気にするな……」
3人が互いの無事を喜んでいる最中なので、とりあえず僕たちは、それぞれの聖獣を返還して、リーリアさんの近くで紹介されるまで待機する。だいだい2,3分後ぐらいだろうか、老ゴブリンの執事さんがこちらに目を向けてくれた。
「それで……そちらの方々が」
「ああ。ここまで私を送り届けてくれた者達だ」
僕たちに話が振られたので、早速、自己紹介へと入る。
「初めまして。今回のリーリア姫の護衛任務のリーダーを務めています成島 薫です」
最初にリーダーである僕が自己紹介を始めて、その後、他の面々が簡単な自己紹介をしていく。それが終えると、今度は僕たちの来訪理由を話し始める。
「今回、私たちの来訪理由ですが、リーリア姫をこちらに送り届ける以外に、西の大陸と異世界である地球の特使、それと魔族との戦いに関して協力関係を結ぶために参りました」
「陛下から話を聞いてます。詳しい話を聞きたいとのことで、謁見の間へとご案内致しますが……よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
元からそのつもりで来たのだ。ここに来て謁見できないような事を言われたら、こちらが困り果ててしまうだろう。僕たちは早速、老ゴブリンの執事さんを先頭にその後ろに続いて城壁の門をくぐっていく。
「これは……」
入るとすぐに見える建物全てが窓ガラスが割れたり、壁が壊されたりなどされてしまった建物が目に入る。さらに、その建物の前では大勢の兵士たちが治療や復旧活動をしていた。
「昨日、こちらに魔族の襲撃がありまして……城壁内部に入り込まれてしまったのです。何とかこの場で抑え込めましたが……被害はご覧の通りですね。後は城壁を飛び越えるような魔法攻撃によって、一部の建物に損害が出てるのですが、幸いにも市民には被害が出ていないのでお気になさらず。さあ、こちらに乗り物をご用意してますのでどうぞ」
コークスさんの説明を聞きながら、用意してくれた中型の恐竜のような魔獣が引っ張る馬車に乗る僕たち。2台用意されていたので、それぞれ分かれて乗り込む。僕とレイスが乗る馬車には、リーリア姫と老ゴブリンの執事さんにシーエさんとマーバが乗ることになった。
「大きな通りですね」
「今、通っているこの道は緊急時に兵士が素早く動けるように整備されている道でしてな。魔族共の襲撃がいつ起きてもいいようになっているのです。また、建物も基本的に不燃の材料で作ることを義務付けしておりましてな。そのため、このように似たような建物が多いのです」
言われてみたら、確かに同じサイズの家が並んでいる。見た目もそっくりではあるが、入り口や窓周辺などの飾りつけや、設置されている看板を工夫することで個性を出そうとしている。
「襲撃があったのに、お店はやってるのです」
「日常茶飯事ですからな」
「武器屋に防具屋……そこは分かるけど、花屋もやってるんだぜ」
「そうですね……この辺りは我が国の王都と変わらないですね」
他の王都と変わらない生活をしている市民。しかし、その市民の姿は他の王都では見かける事は無いだろう。
「ゴブリン、オーク、ラミア……」
「鬼人もいるのです」
「あの人族に近い人って……魔人ですか?」
「そうですな。この大陸には人族、エルフ、ドワーフ、獣人、オアンネス、そして精霊は住んでいないはずでしてな……まあ、夜国ナイトリーフは分からないですが」
「夜国ナイトリーフって、こことは違うのか?」
「常に夜の国で決して日が昇る事が無い小さな国……そしてそこを統治しているのはヴァンパイア族だ。他の種族も住んではいるが……少数だな」
「そうえいば姫様。その話で思い出したのですが、少し前に夜国ナイトリーフの統治者であるフロリア様がお見えになっています。今は王宮にいらっしゃるのですが……」
「そうか……良かったな薫。あっちでは伝説の存在であるヴァンパイアに会えるぞ?」
リーリアさんがうっすら笑いながら、僕をからかってくる。僕の家で1週間ほど泊まっていたリーリアさんはその間にあちらの知識を得ているので、地球では伝説の存在であっても、この魔国ハニーラスからしたら隣国の住人程度で伝説でも何でもないと言いたいのだろう。しかし、それよりも確認したいことがある。
「……血を吸われませんかね?」
「安心しろ。勝手に吸う事はしないはずだ……多分」
リーリアさんの『多分』という不吉な言葉に、この後の謁見にて、何かしらのトラブルが起きない事を祈るのであった。




