404話 港町フォルニカでの会談
前回のあらすじ「圧倒的な力で殲滅してみた」
―「魔国ハニーラス・港町フォルニカ 応接室」―
「魔族撃退のためとはいえ、カルク閣下の領土を荒らしてしまった事をお詫びします」
魔族の部隊を撃退した僕たちは、残党狩りをフォルニカの騎士団に任せ、領主と共に館の応接室で会談をすることになった。そこで、まずはこちらに敵意が無い事を示すのと、話が通じる相手と理解してもらうために土地を滅茶苦茶にした事を謝罪する。ちなみに、僕のお面は付けたままであり、泉は外している。
「頭を下げないでいただきたい! 助けられたのはこちらですし……それより、リーリア姫様からお聞きしましたが、四天王であるアクヌムを討伐したというのは本当でしょうか?」
カルクさんがそう訊くので、僕はアイテムボックスからアクヌムの核と魔石を取り出してテーブルの上に置く。閣下は眼鏡を掛けて、アクヌムの核と魔石を手に取りじっくりと観察し始める。
「閣下……」
「……間違いない。実際に対峙した時に感じた魔力の反応がある」
「それじゃあ……リーリア姫様の話は」
「本当のようだ……」
深い溜息を吐くカルクさんと側近の方。それが何を意味しているのか分からない僕たち。
「リーリア姫。お二人の反応なんですが……私達のやった事ってそれぐらいにヤバい事なんですか?」
「泉の疑問だが……魔国ハニーラスと夜国ナイトリーフでは、四天王を討ち取った者には多額の懸賞金と地位を約束していたのだ。つまり……」
「うちらにその権利があるって事ッスか?」
「その通りじゃよ。『他国の者が勝手にやった』と言い通してもいいじゃろうが……今回の手助けもあるから難しいかもしれんな」
そう言って、オラインさんが出されたお茶を口に含む。その様子は冷静であり、慌てた様子が無い。しかし……こちらとしては少し問題がある。
「そうしたら……今回の件はリーリア姫の指揮の元で討伐がされた事にしませんか? こちらの大陸の国と荒波を立てたくないので……」
「分かってる。だからこそカルク閣下と口の堅い側近に来てもらったんだからな……彼らは反対派じゃないからな」
「反対派?」
「実は……お主らに黙っておったのじゃが、国内には西の大陸の国と交流する事を反対する勢力があるのじゃ。西の大陸の人間は野蛮人という風潮があってのう……そんな奴が、海を渡ってやって来た西の大陸の住人達に対して誠意のある対応をするとは思えないのじゃ」
「僕たちは異世界から来てますけど……って、そんなの分からないか……」
「リーリア姫。話を聞いていると彼女達は……まるで」
「この2人は異世界人だ。異世界に飛ばされて困っていた私を助けてくれてな。その後、彼らが持つ西の大陸の国々の王家との繋がりを使ってもらい、ここまで送り届けてくれたのだ。また、この4人には異世界である地球と西の大陸の使者としての役割も担っている」
「なんと……そうなると我々がここを管理していた意味がありましたな」
そう言って、僕たちの方を見て品定めをするような目をするカルクさん。信頼できる相手なのか確認しているのだろう。反対派では無い以上、理不尽な判定をされる事は無いだろう。
「閣下! 今度は空飛ぶ船が……」
そこに、この街の騎士が部屋に入って来る。カルクさんは彼に飛空艇を港に案内するように指示を出し、僕はカルクさんの了承を得てからМT―1を使って、飛空艇にいるカイトさんに同じ内容を伝えておく。
「このような状況ですが……皆様の来航を心より歓迎いたします。そしてリーリア姫、戦友であるオラインを送り届けて頂き感謝します。停泊の許可は出しますが、街の中に入る際には一度こちらにご相談下さい」
カルクさんが手を出すので、僕はその手を取って握手をする。とりあえず、ここに滞在していいという許可を貰えた。後は……。
「カルク閣下。お願いがあるのですが……ここに転移魔法陣を敷かせてもらってもいいでしょうか? 必要な物資を補充するのと、友好の証としてこちらの街の復興に必要な物があれば提供もしたいと思うのですが」
「ふむ……ありがたい話だな」
「閣下。それはいくら何でも不味いのでは?」
「さっきの力を見ただろう? 進攻する力を持つ彼らがこちらに対して敬意を最大限に払っている。それに我が国の姫を救ってもくれたのだ。それにこの判断は私の一存でも無いしな……リーリア姫」
「許可してくれ。仮に何か言われても私の方で父上を説得する。まあ、この2人だったら父上も納得されるだろうがな」
「それは……どういう事で?」
「薫。仮面を外してもらっていいか? カルク殿を味方に付けておけば何かと融通してくれるだろう」
僕は一度頷いて、付けていた狸のお面を外す。すると、カルクさんの表情が一瞬にして驚きの表情になり、座っていたソファーから下りて、僕を前にして膝を付く。
「閣下!?」
「申し訳ありませんアンジェ様! まさか……陛下の姉上であるあなた様がご存命だったとは!!」
冷や汗を掻きつつ、僕に対して急いで釈明するカルクさん。話を聞いていた側近も慌てて膝を付き始める。
「違います違います! それに僕は男ですから……」
「そ、そうだったのか……」
安堵した表情を浮かべ、膝を付く姿勢を止めようとするカルクさんと側近の方。しかし、そこにリーリア姫が口を挟む。
「カルク殿。薫はアンジェ叔母様本人ではないが……彼女の血を引く孫であり、こちらの泉も血を引いている。その証拠として、お父様がお造りになった王家の宝を所有していた」
それを聞いて、再び膝を付いた姿勢になるカルクさんと側近の方。
「大変失礼しました!」
「顔を上げて下さい! リーリア姫!? 何で追い打ちを掛けるんですか!?」
「追い打ちではない。4人には知ってほしかったのだ……こうなるという事をな」
それを聞いて納得する僕たち。僕と泉が王家の関係者である情報。そして僕の顔がお婆ちゃんとそっくりな事。その2つを知られるとここまで大変な騒ぎになるという事を前もって教えたかったのだろう。
「なるほど……それで王家の宝って、これですよね?」
僕はアイテムボックスに入れいていた逆五芒星が中に刻み込まれた青い宝石の付いたネックレスを取り出す。それを見たカルクさんは目を見開き『あ、あれが……』っと呟く。
「城に飾られているアンジェ様の胸元に描かれている青い宝石……」
「信じてもらえたか?」
「はい。薫様、それに泉様……何かご不便があれば私どもにご相談ください。王家の所縁のあなた方を存外な扱いをしたとしたら、我々は不敬とされてしまいますので……それと、契約されている精霊にも同等の扱いとさせて頂きます」
「こっちの大陸って魔物以外の種族っていないんッスよね……うちらが契約してるって分かるんッスか?」
「我々は西の大陸から人が来た場合に備えていますので、千年前以上前の内容ですが、そちらの生活背景を把握しているんです。単独では魔法は使えず、魔石や精霊の力が必要な種族であると……」
徐々に声が小さくなりつつも説明をしてくれるカルクさん。自分は見下すつもりは無いのに、そのような発言をした事に心苦しいのだろう。だが、これで西の大陸と東の大陸の戦争がどのような理由で起きていたのかが推測できる。
「西の大陸と東の大陸の戦争……それは、魔物が魔法を単独で使える優秀な種族だからこそ、全てを支配するべきだと考えた者達が起こした戦争だったんですね」
「少し違います。その当時は何物にも頼らずに魔法を使える者こそ種族こそ頂点に立つべきという考えでした。我ら魔法が使えなかった鬼人もその当時の立場はかなり低く、今の地位はここ数百年位の話です」
「そうですか……」
リーリアさんの顔をチラッと見ると、険しい表情をしている。王家としては魔法が使える者が優秀だと考える反対派の思想を快く思ってはいないようだ。
「まあ……反対派も大分減ったがのう。薫達の文明よりかはゆっくりじゃがこの国の文明も発展してるのじゃ。魔法が使えなくとも十分に戦う方法がある。それに魔王様の側近の1人は武術に長けているのを見込まれて、魔法が使えずともその地位を授けられたのじゃ……あの考えは古すぎるのじゃ」
「しかも……王家の考えに反対して前線に出てこないからなあの連中は……」
カタカタと肩を震わせるリーリアさん。口だけ達者な奴らという事なのだろう。
「とにかく! そいつらが何か言ってきたら、こっちに相談してくれ。こちらが対応する……特に薫はそこを徹底的に守ってくれ」
「何で僕?」
「薫の場合は公の場所では仮面を付けたままになるからな。何かと口うるさく言われるだろう……だから、すぐに頼ってくれ]
「分かりました」
「薫の場合……物理で何とかできてしまいそうなのです」
レイスのその意見にオルクさんと側近の方以外の皆が頷く。僕はそこまで強引な手段で解決していった覚えは無いのだが……。
「そんな事より……リーリア姫。王都にいる陛下にご連絡しなくていいんですか?」
「分かってる。カルク殿、こちらにある通信魔道具を使用してもよろしいだろうか?」
「私の執務室にあるので、これからご案内いたします……他の皆様は私の側近を付けますので、先程話されていた転移魔法陣の設置などをどうぞお進め下さい」
そこで、僕たちはリーリアさんとカルクさんとは別れて行動をすることになった。時間はお昼頃だったのだが、その後、転移魔法陣を敷いたり、停泊に関する取り決めなどを行っていくと時間はあっという間に過ぎていく。夕方になり、僕たちが寝泊まりの準備をしていると、リーリアさんがカルクさんを連れて飛空艇に戻って来る。
「父上から指示があったのだが……」
リーリアさんから告げられる魔王様の指示……それを聞いた僕たちは、明日の打ち合わせをしてから、早めの就寝をするのであった。




