403話 港町フォルニカ防衛戦……だったはず
前回のあらすじ「東の大陸に到着!」
―「飛空艇1番艦シグルーン・甲板」―
「ついに……儂は帰って来たのじゃな……」
「ああ……まあ、私は約1週間ぶりだがな」
先ほどのアナウンスを聞いて、リーリアさんとオラインさんの2人が急いで甲板にやって来た。東の大陸に戻ってきた事にしみじみと感じており、2人の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「感謝する皆。こんなにも早く戻れたのはお前達のお陰だ」
「いえいえ……こちらもお姫様に色々と我慢を強いた事をお詫びします」
「お堅いな」
「時と場合でちゃんと変えませんと……ね」
そこで、僕たちから笑いが起きる。とりあえず、海を越えたのだ。後は適当な場所に一度着陸して、こちらの前線を整えるために陣を敷ければ……。
「ちなみにだが……ここはどの辺りなのだ?」
「えーと……」
「地図いる? グリフォンの巣で撮った壁画のでよければあるよ?」
泉がそう言って、スマホに保存されたグージャンパマの世界地図の写真を見せる。僕はそれを使い、2人にこの辺りだと教える。
「魔国ハニーラスの領土じゃな……しかも、近くに町があるはずじゃ」
「ああ! しかもカルク殿が管轄する港町だ。そこからなら王宮にすぐに連絡も取れるはずだ!」
「それってどこなんだい!?」
すると甲板上で作業中だったカイトさんがやって来た。
「ここだ。この地図の地形どおりなら、ここにあるはずだ」
「……北だね。そうしたら少し進路を変更して、そちらに向かおう」
「いいのです? 確かドローンが……」
「大丈夫大丈夫……君達が寝ている間に戻って来たよ。だから、安心して欲しい。そうしたら、北に進路を変えるように話してくるよ」
カイトさんはそう言って、船内へと戻っていった。しばらくすると、飛空艇は進路を北に変え、大陸と平行になるように飛んでいく。
「カルクさんってどんな人なの?」
「オラインと同じ鬼人で、その昔は前線で活躍した将軍だ。今は前線から離れ、港町フォルニカの総統をしている……確かオラインがカルク殿の下で働いていた事があったか」
「はい。それとカルク殿に誘われて、町にも一度訪れた事がありますのじゃ。前線から離れている町じゃから、漁港としてかなり栄えている街なのじゃ!」
「あ、意外にも近くだったんだね……ほら」
泉が前方に指を差す。それは町ではなく無数の煙……煙があるってことは誰かが火を起こしているとそう判断したのだろう。ただし……色は黒である。
「薫! アレだが……!」
「黒い煙……非常事態の可能性があるね」
「え、なんでッスか?」
不思議そうに首を傾けるフィーロ。白煙と黒煙の違いだが、白煙は主に水が蒸発する時であり有害性は無い。逆に黒煙は固形物や不燃の物質が含まれており人体に有害な煙である。つまり……。
「まだ町が見えないこんな距離で見える黒い煙……つまり何か大きな物が燃えているのじゃ! それこそ家屋何件分とかじゃ!」
オラインさんの説明を聞いて、あの黒い煙が異常だと理解したフィーロ。煙の色で判断するのは早計かもしれない……。とりあえず、僕はカイトさんたちと相談するために操舵室に向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからしばらくして「魔国ハニーラス・港町フォルニカ 総統の執務室」カルク閣下視点―
「閣下! 魔族の軍勢の勢力は今だ衰えず、既に町にも被害が出ています!」
「分かってる! 騎士団はどうしている」
「前線に出て、魔族と交戦中です。それと町の2ヶ所の出入り口の警備と町中の被害確認……それと港からの襲撃にも備えています」
「くそっ! 戦力が足りない……」
「姫様が亡くなったという話からの今回の襲撃……やはり姫様は」
側近はそう言って、顔を伏せる。リーリア姫がエイルの手によって亡き者にされたという通達があったとほぼ同時に、各地の魔族の動きが活発になっている。姫様がお亡くなりになり、陛下が心を痛めているこの状況……奴らはその隙を狙ったのだ。
「……今はそんな話をしている場合じゃない。とにかく今は」
「失礼します閣下!」
すると、部屋の扉をノックせずに1人の兵が室内へと入って来た。
「閣下の前で失礼だぞお前!」
「申し訳ありません! 火急の知らせがありまして参りました!」
「申せ……」
「空に謎の影を発見。海岸沿いに沿って、こちらへと向かって来ています! ただ……敵襲にしてはその数が少しおかしいのです」
「数がおかしい……?」
「はい。確認された数は2つ……しかも、翼を持たない何かに騎乗して移動しているように見えると……」
「騎乗……魔族にそんなのはいないはずだが……」
「失礼します閣下!」
そこに息を荒げた執事がやって来る。今度は一体……。
「カルク殿!」
すると、そこに亜麻色の髪を持つ女性が部屋に入って来る……まさか!?
「リーリア様!」
私は慌てて膝を付き、頭を下げる。一体どうしてここに……この町に入ったいう情報も……。
「急な訪問失礼した……薫達に頼んで空からここまでやって来たのだ」
なるほど……港を守護していた騎士達が見た影はリーリア姫様だったのか……うん?
「空を飛んで来た!? それに、かおる……それは誰ですか?」
「エイルによって見知らぬ場所に飛ばされた私を助けてくれた恩人だ。薫の手引きがあって、ここまで戻って来れた……すぐそこに来てもらっている。入室しても構わないか?」
「は、はい!」
すると、リーリア様は『かおる』と言われる人物の名前を呼ぶと、リーリア様と同じ亜麻色の長い髪を持ち、奇妙な衣服と目元を隠す仮面を被った女性が最初に入って来る。続いて同じ服装の女性1人と精霊といわれる種族2人を連れて部屋に入って来た。そして、さらにその後ろには……。
「オライン!? 生きていたのか!」
「久しぶりじゃカルク殿! 息災じゃったか?」
1年前に死んだはずの戦友がひょっこりと顔を出す。彼女は私と同じ鬼人で歳も私より大分若かったため妹のように接していた。しかし、1年前に魔族の手によって、切られた片腕だけを残して、この世から去ってしまった……それなのに、私の前にいる彼女はぴんぴんした姿で現れた。
「あはは……もしかして、俺は化かされていのか? 死んだと言われている2人がこうやって目の前に現れるなんて……」
「現実だ。後で空飛ぶ船に乗った西の大陸の兵士達もやって来る。既に協力も得られている」
「西の大陸……あはは。本当に理解に追い付かないな……」
「閣下……この者達は……」
「リーリア姫に対してその態度は改めよ。リーリア姫……信じてよろしいんですね」
「カルク殿。何もかも分からず戸惑っていると思われるが……この2人は戦況を打開させるほどの力がある。詳しい説明は省くが、彼らに戦う許可を頂きたい」
「分かりました。しかし……魔族の軍勢は多勢です。後方にいる指揮官を倒せれば……」
「4人とも……可能だろうか?」
リーリア姫に訊かれた4人が相談し始める。『じゃあ奥やるね』とか『私達はその中間だね』とか聞こえるのだが……。
「確認いいでしょうか?」
すると『かおる』という女性が、こちらに振り向き質問をしてくる。
「何だろうか?」
「味方の部隊は前線のみで合ってますか? それなら何とかなるんですが……」
俺は側近に顔を向ける。すると、静かに頷いたので前線にしか騎士がいないという事だろう。
「我が軍はそこまで辿り着いていない。だから、後方にはいない」
「それともう1つ何ですが……」
「何か?」
「……周辺の地形が多少変わってもよろしいですか?」
「……はっ?」
その質問に呆気にとられる。何を言ってるのだ? 地形を……変える? そんな魔法など陛下や一部の側近位だが……。
「カルク殿?」
「あ、ああ……問題無い。ここが奪われてしまうぐらいなら多少は……」
「それなら……一気にいきますね!」
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―30分後「魔国ハニーラス・港町フォルニカ 城壁」カルク閣下視点―
「……これは」
あれからしばらくして……戦闘は一気にこちらが有利になった。後方にいた指揮官とそれを守る部隊は謎の黒い球体に飲み込まれて、周囲の地面ごと消失。その前にいた魔法や弓などを使って後方から戦っていた連中は、巨大な9つの頭を持つ生物と巨大な空を飛ぶ魚の群れに攻め込まれ、最後には空から降って来た巨大な不気味なオーラを纏った氷の下敷きになった。
「なっ……こ、これは」
「話は聞いていたが……ここまでじゃとは……」
側近とオラインの2人があまりの光景に呆気に取られている。恐らく、下の騎士団も同じ状況だろう……。私は側近に命じて、先程の攻撃が友軍のものだと説明に向かわせる。これで、無駄な混乱は避けられるだろう。
「恐ろしいな。私もこの目で初めて見たが……さすが、アクヌムを討伐した者達だな」
「アクヌム……討伐?」
リーリア姫の口から魔王アンドロニカスの側近である四天王の1人の名前が出る。液体状の体ゆえに何人たりとも致命傷を与える事が出来ず、戦には勝っても、甚大な被害を被ってしまうため、歩く災害と恐れられた四天王アクヌム。ここ最近、奴の動きがさっぱり掴めないので、何か良からぬことの予兆だとされていたのだが……。
「言っただろう? 十分な実績があると……それが四天王アクヌムの討伐だ。その証拠にアイツの魔石と核となる物を薫が持っていた」
「なっ!? 陛下やその側近も仕留めきれずにいた四天王をあの4人が!?」
「ああ。アクヌムが西の大陸にある1つの王国への侵略を行った際に、そこで待ち構えていたあの4人に、一番の武器である液体の体を無力化され、そのまま薫によって核と魔石の両方を切られて死んだそうだ」
「そんな……まさか……」
「事実だ。それに……こうも圧倒的な力を見せつけられては……な」
リーリア姫が地形の変わってしまった大地に目を向けながら話し続ける。この戦いに勝機を見いだせた事に感謝しつつ、得体の知れないあの4人に底知れぬ恐怖を感じるのであった。




