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398話 出発前日のお話

前回のあらすじ「リーリアさんと薫の関係に薄々感づている代表者の方々の様子」

―リーリアさんが来て7日のお昼頃「薫宅・庭」―


「ふう……」


「うん♪ イイ感じね。薫ちゃんまでとはいかないけど……ある程度までは技術を習得できたわね」


「ありがとうございます。こんなにも武術に長けた人間がいるとは……世界は広いな」


「私もそう思うわ……色々な人に手ほどきしたけど、魔物の女の子なんていうのは初めてよ」


「それは光栄だな」


 そう言って、リーリアさんと橘さんが笑い合う。戦闘訓練をしたいという事だったので、2日ぐらいは僕が相手をしていたのだが、たまたま用事があって家に来た橘さんが、僕とリーリアさんの訓練を見て『午前中なら指導してもいいわよ♪』とノリノリだったので、3日目から今日までの間は橘さんが相手をしている。お陰様で、家庭菜園と庭の手入れが出来て助かっている……というのも、リーリアさんがこちらに来て今日で7日目。明日はいよいよ魔国ハニーラスに向けて出発する。


 長期間、家を離れるので、その間の留守をシシルさんたちに頼んだり、小説家としての仕事を済ませておいたり、必要な食料をアイテムボックスに詰め込んだり……と、準備をほぼ済ませた。


「いよいよ明日ね……薫ちゃんとレイスちゃん、そしてリーリアちゃんも無事に帰って来るように……って、リーリアちゃんはあっちに帰るから少し違うかしら」


「ふふっ! 大丈夫です……ちゃんと意味は伝わってますから」


「それは良かったわ。薫ちゃん……あなたの家の事はしっかり守ってあげるから、安心して行ってきなさい」


「はい」


「帰ったら、ひだまりで祝勝会なのです! その時は橘さんも一緒なのです!」


「ええ! その時はぜひ呼んでちょうだいね……それじゃあ、仕事に戻らないといけないから、私はここで……それじゃあ」


「ありがとうございました」


 橘さんにお礼を伝える。橘さんはこちらに振り返えらずに手を振って、そのまま車に乗って帰ってしまった。


「いい師に出会えたな」


「紹介した身としては嬉しい言葉ですね……それで、リーリアさん。この後、グージャンパマに行って飛空艇の最終チェックの付き添いに行くんですが……一緒に来ます?」


「もちろんだ。ただ……汗を流してからでいいだろうか」


「大丈夫ですよ。お昼ご飯を済ませてから行く予定だったので……それに」


 すると、そこに1台の車が庭に入って来る。


「薫兄、来たよ!」


「ウィーッス」


 車から出てきたの泉たち。僕に挨拶してから、そのままリーリアさんと話を始める。


「2人も一緒に行くのか?」


「もちろん。私も一緒に戦いますからね……まあ、薫兄やリーリアさんみたいな体術は出来ないですけど」


「そんな無理しなくていい。そもそも強力な魔法使いが後方にいるというだけで頼りになるしな……」


「そう言ってくれると助かるッスね。後方からの迎撃に期待して欲しいッス!」


「ああ。頼んだ……」


 フィーロの言葉に苦笑いしながら返事するリーリアさん。何故、苦笑いをしているかと言うとだが……召喚魔法セイレーンの映像を見たからである。あちらの大陸にはいないのだが魔物の間でもドラゴンは強力な存在だと知られており、その中で頂点に君臨するゴールドドラゴンを執拗に何度も地面に叩きつけるセイレーンの姿を見て、若干引いていたのを思い出す。ちなみに……黒いドレスを着たセイレーンの方は見せていない。


「薫兄! すぐあっちに向かうの?」


「いや、お昼ご飯を済ませてからだよ。泉たちは食べた?」


「ううん。ゴチになろうと思って食べてないよ」


「素麵だけど……いい?」


「いいよ!」


「じゃあ……用意するから待ってて。後は……」


 僕はそのまま縁側に行き、緑のカーテン兼食用に育てていたゴーヤを数本切り取る。素麵だけだと物足りないと思うので、ゴーヤチャンプルも用意するとしよう。


「そういえば……ユノは?」


「学校だよ。今日の夕方にこっちに来る予定」


「そうか……てっきり付きっきりでいるかと思ったんだけど」


「そうするつもりだったみたいだったのです。けど、薫に『学校にいかなきゃダメ!』って言われて渋々行ったのです」


「いいんッスか?」


「学業を疎かにしちゃダメだよ……それに負ける気は毛頭ないからね」


 今回の戦いは特別ではある。が、この戦いで負けるつもりもなければ、死ぬつもりもない。それなのに、なるべく一緒に入るとか、何か思い出作りをしようとか……これが今生の別れになるような雰囲気はなるべく出したくない。


「チョットした出張に行って来て、仕事に一区切り付いたら帰る……ただ、それだけだよ」


「戦場に行くのが出張って……いい度胸してるッスね」


「なめているつもりは無いけどね……ほら、リーリアさんは汗を流して来て下さい。他の皆はお昼ご飯を作るのを手伝ってくれないかな」


 僕は皆に指示を出してから、家の中へと入る。皆も僕の後に続いて家に入り、リーリアさんはお風呂場で汗を流しに、泉は私用を済ませたいということで居間に向かう。レイスとフィーロは料理の手伝いをしてくれることになった。


 僕がおかずのゴーヤチャンプルを作っている間に、素麵を茹でていくレイスとフィーロ。お陰様で、すぐに昼食の準備が終わり、出来た料理を居間に居間に持っていくと、泉がリーリアさんの髪をドライヤーで乾かしていた。


「私用は終わったの?」


「うん! 出発前に済ませておきたかったんだよね……よし。乾きましたよ」


「すまない」


 そう言って、乾いた髪をシュシュで束ねるリーリアさん。その姿を横目にテーブルに出来た料理を並べていき、皆の準備が出来た所でお昼ご飯をいただく。この1週間でリーリアさんもこちらの生活に慣れたようで、お箸を使って素麵を食べながらテレビを見ている。


(夏本番! 今の時期にオススメの観光スポットをご紹介していきます! まずは……)


「……こっちだと観光業というのがあるのだな」


「うちらは魔国ハニーラスへの観光ッスね」


「さらに魔王城への見学ツアー付きなのです」


「ちなみにお代は?」


「魔王の頭に鉛玉を1発ッスね!」


 『イェーイ!』と言って、ハイタッチする3人。僕は行儀が悪いと注意すると、それを見ていたリーリアさんが笑いだす。


「普段なら、『危険な奴らなんだぞ! 気を引き締めろ!』と隊員に恫喝するところなのだが……お前達にはあまり意味がないだろうな」


「いや、僕には効果がありますからね? 一緒にしないで下さいね?」


「ひどっ!? せっかく気を使って、渾身のボケをかましたのに……ねえ?」


「全くッス」


「そんなんじゃモテないのです」


「僕にはユノがいるから必要ないよ……」


 僕はそう言って、素麵を啜る。始まったばかりこの夏。その最後になるかもしれないテーブルの上に並ぶ夏の定番料理をしっかりと舌で味わうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―午後「アオライ王国・王都 港」―


「これが飛空艇か……見た目は船だな。これが飛ぶとは思わないんだが……」


 午後、僕たちは魔国ハニーラスから一番近い港町であるアオライ王国の王都の港に来ている。港に停泊中の飛空艇2隻を見たリーリアさんは、これが本当に飛ぶのか懐疑的である。


「帆のように、折りたたまれた翼らしき物があるみたいだが……あんなので飛ぶというのは……」


「リーリアさん。あっち」


 泉が海側に指差ししながら、リーリアさんの名前を呼ぶ。呼ばれたリーリアさんは一度泉の方を見てから、指差す方向へと視線を向ける。


「……お、おお」


 泉の指差す方向、そこには試験飛行中の、翼を広げた状態の飛空艇1隻が港に戻って来るところだった。


「あれで魔国に帰るのか。そうか……少し信じられなかったが……本当に船が飛ぶんだな……」


「あっちで飛行機やヘリコプターとかを見たのに信じられないッスか?」


「信じられない。飛行機やヘリコプターはコウクウリキガクという学問からきちんとした理由があって飛べると分かったし、魔法で飛ぶとかは魔族の連中が使ってくるから、そこは信じられるのだが……こんな大きな物が魔法で浮かせられるなんて……」


 驚きを隠せないリーリアさん。その間にも飛空艇は移動を続け、今は垂直にゆっくりと下りてくる最中である。その光景を静かに見守る僕たち……そして飛空艇はゆっくりと海に着水をする。


「おお……凄いッスね」


「一度、あっちで離着陸を経験しているはずなのですが……改めて見ると、迫力があるのです」


「皆さん! お待たせしました!」


 その声に反応して上を見上げると。着水した飛空艇から手を振る船員がおり、これから乗船するためにスロープを下すと教えてくれる。


「乗船しますけど……リーリアさんいいですか?」


「ああ」


 驚いているリーリアさんに乗船してもいいか尋ねてみると、問題無いということだったので、僕たちは下ろされたスロープから、飛空艇へと乗船するのであった。

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