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392話 決戦の予兆

前回のあらすじ「プロポーズ大作戦大成功!」

―ユノの誕生日から数日後「魔導研究所クロノス・通信室」マクベス視点―


「お疲れセラ」


「マクベス様。定期報告ですが……どうかされました?」


「うん? ああ……そう見えるかい?」


 グージャンパマで起きた出来事をセラに定期報告してもらうため、クロノスとの通信を繋げた直後……私の顔を見て、セラが私の心配をする。原因は……薫さん達が見つけたアレである。


「あの薫さん達が調べて見つけた……契約書ですか?」


「その通り。あの契約書……下に書かれていた名前の1つに聞き覚えがある。確か……ユグラシル連邦の軍関係者だったはず……そんな奴が、コーラル帝国に作られたあの施設に何の用があったのか……そして、契約書に一部に書かれていたアンドロニカスの名前……あの日、アンドロニカスがどうしてあのような凶行に走ったのか……その原因が分かるのかもしれないチャンスかもしれない」


「マクベス様……」


「……もう少し調べてみたい。手伝ってもらうかもしれないが、いいだろうか?」


「問題ありません。必要な事があれば仰ってください」


「ありがとう……では、とりあえず定期報告を頼む」


「はい。では……」


 私はここで一度契約書の事を考えるのは止めて、いつもの定期報告を聞く。魔王アンドロニカスや魔族と関係の無い情報ばっかりだが、これからは、より人の世界に関与していくのだから全く必要のない話ではない。


「それと……薫様がついに結婚するようです」


「それはいいことだね。私も後で祝辞の言葉を述べないとな……」


ビー!!ビー!!


 突如、鳴り響くブザー音。それはセラのいるクロノスではなく、今、私がいるセフィロトからだった。


「マクベス様?」


「……どうやら、最悪の事が起きたようだね」


 このブザー音は、ある魔力反応が一定値を超えた時に鳴るように設定されている……当然、その観測相手は魔王アンドロニカスだ。


「セラ。皆さんに連絡を……魔王が復活、もしくはその兆しが見られたと」


「至急、関係各所に連絡します」


「頼みました」


 通信を終え、私はセフィロトを静かに眺める。いよいよ、彼との最終決戦が始まる……もう、時間はない。私はセフィロトの機能を使って、再度、薫さん達が見つけた契約書と、その際に発見された数枚のレポートの解析を始めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「魔国ハニーラス・カタルの森」お姫様視点―


「ハアハア……」


「くっ! まさかここで会うなんて……」


 魔族との前線地域の1つであるカタルの森。情報収集のため、隠密行動をしていた私とコークスだったが、最悪な奴に見つかり、木々を利用して何とか振り払おうとしていた。


「大丈夫ですか姫様?」


「私に構わうなコークス……! とりあえずは……」


「ふふ……見つけた♪」


 逃げる私達の前に現れる魔族……人間に近い見た目をしており、あの魔王アンドロニカスの腹心の1人……。


「ここであなたを始末すれば、魔王様もきっと大喜びね……さっさと前線の状況を確認したら帰るつもりだったけど……ラッキーだったわね♪」


 そう言って、気色悪い笑顔を見せる四天王エイル……。


「最悪ね……こんな所でおばさんと会うなんて……」


「誰がおばさんよ!! まあ……いいわ。ここであなたを消せば、ハニーラスの士気に大ダメージを与えられるわ……」


「タダでやられないわ……!」


「姫様。お下がり下さい……」


 そう言って、コークスが前に出る。私は魔法を使うために、少し下がってコークスから距離を取る。


「ふふ……あなた達だけで立ち向かうのかしら?」


「そうだが?」


「……」


 すると、無言のままこちらを見るエイル。すると、指を鳴らし、何かしらの攻撃を仕掛けようとする。どこから攻撃が飛んでくるのか分からず、エイルの警戒を怠らずに周囲を確認する。


「何を……!?」


 すると、私の足元に突如として現れる魔法陣。光輝いてる所からして、今すぐにでも何かしらの魔法が発動するのは明確……両手を前に構えて防御の体勢を取る。


「さようならお姫様……」


「姫様!!」


 コークスの叫ぶ声が聞こえる中、私は光に包まれるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「魔国ハニーラス・カタルの森」コークス視点―


「姫様……」


「あははは!! 姫様を始末出来た事だし……帰りましょうかね」


そう言って、踵を返すエイル。私は姫様を失った怒りをぶつけるかのように、そのがら空きの背後に攻撃を仕掛ける。しかし、エイルに近づいた途端に、何者かかが私の足を掴み、そのまま地面へと叩きつける。痛みの中、慌てて体勢を立て直し辺りを見回すが、エイル以外の魔族はおらず、魔獣さえも見当たらなかった。


「残念でした~。私をやるなんて百万年早いわよ」


 そう言って、再び帰ろうとするエイル。


「姫様に何をしたー!!」


「転移しただけよ……失敗作の異世界の門だけどね」


 こちらに背後を向けたまま、手を降りながら消えていったエイル。姫様は異世界に飛ばされた……そうしたら、もう……。


「そんな……」


 主を失った私はその場で崩れ落ち、周囲の事など気にせずに泣き叫ぶ。守れなかった不甲斐なさを、自身に責めるが……何の解決にもならなかった。


 それから、どれくらいの時間が経ったのだろう……夜は明け、森の中に微かな光が射し込んでくる。私は立ち上がり、王都へとゆっくり歩き出す。エイルが私を生かしたのは……私に先程の顛末を知らせてもらい、我が軍の士気を落とすつもりなのだろう。それを知りつつも、私は報告しなければならない……姫様が亡くなられたと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お姫様の転移直後「都内・住宅地にある小さな公園」お姫様視点―


「……どうやら生きているようだな」


 私は降り続く雨の冷たさで目が覚める。光が晴れて見えたのは黒い雲で覆われた空……そして一瞬の浮遊感の後に、落ちる感覚と背中に走る激痛……。


「ああ……そういうことか」


 エイルは私をどこかに転移させたようだ。その際に高い所から落ちて、地面に激突した……。


「身体強化の魔法のおかげで助かったな」


 身体強化の魔法が掛かってなければ、どうなっていたかと思いつつ私は体を起こそうとする。すると、猛烈な虚脱感が起こり、私は立ち上がれずにそのまま地面に転がってしまう。


「くっ!? って……どこだここは!?」


 先程から空しか見えていなかった私の目が他の物を捉える。そこに広がるのは、私の知らない建物の数々に大型魔道具らしき物……地面も良く見ると、謎の技術で舗装されている……その証拠に丸い蓋のような物が嵌め込まれている。あきらかに、ここは私の知る場所では無い。


「おねえさん? だいじょうぶ……?」


 声が聞こえ、そちらを振り返ると1人の人族の女の子が手に持った道具で雨を避け、座った姿で、こちらを見ているではないか。その見たことの無い服装に良く手入れされている髪と肌……どこぞの貴族だろうか。


「あかねー? どこにいるのー!」


「あ、お母さーん! 角のはえたおねえさんが倒れてるのー!」


 女の子がそう叫ぶと、1人の女性……いや、この子より少し年上の女の子が駆け寄ってくる。この女の子が母親とは一体……?


「あかね! そいつから離れなさい!」


 母親と呼ばれている女の子は、座っていた女の子を立ち上がらせ、その背中側に避難させる。


「まさか、魔族が倒れているなんて……」


「誰が、魔族だ! 我らを侮辱する事は許さんぞ!」


 息を切らせながら、私はその失礼な発言に怒りを表す。どこの国の者かは知らないが、あんな見た目だけが似ているだけで、破壊と略奪しか考えられない奴らと一緒にされるのは心外だ。


「え? となると……魔物? でも、オラインさんの話じゃ……」


「オライン……?」


 ふと、母親と呼ばれている女の子が、死んだ隊員の名前を口にする。


「うん? 知ってるのかい? こんな風に頭に角が生えていて……『のじゃ』とか語尾に付く……」


 その説明を聞いて、死んだ隊員の可能性が高くなる。


「でも、彼女はエイルの手で彼女は死んだはず……いや」


 そうだ。エイルの魔法で生き残っている奴がいるじゃないか……今、ここに。


「まさか……ここに飛ばされただけ? でも、腕が発見されたはず……」


「大怪我だったらしいけど、今はすっかり良くなっているはずだよ。とりあえず……オラインさん呼んだ方がいいかい? ここから距離があるけど、息子に頼めば連れて来てくれるはずだから」


「頼む……それと……」


 オラインが生きているかもと分かった瞬間、先ほどの倦怠感以上の疲れが全身を駆け巡る。これはヤバい……全身の温度が下がるような感覚……指先が酷く冷たく感じる……。


「チョット!? 大丈夫かい?」


 母親と呼ばれている女の子が私に呼びかける。しかし、私はそれに答える事が出来ず、再び意識を失うのであった。

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