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391話 プロポーズ

前回のあらすじ「何か分かったようで分からなかった」

―6月中旬「ビシャータテア王国 王宮・2階廊下」―


「それでは……結局、その契約書の中身は分からずじまいだったのですか?」


「そうなんだよね……」


 僕はユノと話をしながら、灯りによって照らされた廊下を進んでいく。王様達の居住空間であるこの場所には見張りの騎士たちはおらず、誰かに話を聞かれる心配は……。


「そういえば、シシルさんは聞いちゃってるかな?」


「どこかで聞いているとは思いますけど……口は堅いので大丈夫ですよ。それに彼らには知ってもらわないと、警戒も対処もすることが出来ませんから。それにしても……その店主の考えは興味深いですね」


「うん。もしかしたら同名で別人のアンドロニカスさんの可能性もあっただけど……マクベスに契約書の映像を見せたら、ここに載っているのは僕たちの知る魔王アンドロニカスで間違いないらしいからね……マクベスと同じ思想だったアンドロニカスが、突如として考えを変えた原因……あそこが何か関係しているのかもしれないね」


 アンドロニカスとあの施設は何かしらの関係があったのは確かだ。しかし……今回の調査ではそれが何だったのかは分からずじまいだった。だが、1つだけ成果になりそうな出来事があった。


「後は……マクベス次第かな。あの契約書を見て、魔王アンドロニカスと断言してたし、何か思い当たる節があったみたいでさ。『期待はしないで欲しいけど……何か思い出したらお話しします』って」


「それは……期待してしまいますね」


 クスッと笑うユノ。今回の自分の誕生日パーティーのために、泉たちに作ってもらったドレス。深い青を基調としたドレスにスパンコールがあしらわれており、夜空をイメージさせるドレスになっている。そこにアレキサンドライトとアクアマリンを使用した装飾品がさらに美しさを引き上げている。


 ちなみに僕は宮廷衣装と言われるような服を着ており、ちゃんとした……そうちゃんとした男装をしている。肩に掛かる長い髪も後ろで縛って纏めており、まともに男性っぽい姿をしている。


「さてと……この先の階段を下りると、パーティー会場ですよお姫様?」


「そうですね……では、エスコートしていただけますか?」


「もちろん」


 僕がそう言うと、ユノは右腕を僕の左腕に絡めてくる。その状態で、ここから少し先にある階段まで移動して、下へと下りて行く。階段はエントランスからは丸見えの状態であり、そこでパーティーを楽しんでいた来賓客の視線を一同にして集めてしまう。


「おめでとう。ユノ」


「綺麗よ……ユノ」


「ありがとうございますお父様、お母様」


 すると、階段を下りたところで王様と王女様が一番最初にユノの誕生日を祝う。そしてユノの兄であるアレックス王子が続いて祝ってくれた。


「おめでとうユノ。サプライズじゃなくて残念だったんじゃないか?」


「もう……隣にいる薫に失礼ですよ?」


「いえいえ……お義兄さんのおっしゃる通りですから。仕方ないですよ」


「……薫さんにお義兄さん呼ばわりされるのは違和感がありますね。何せ自分より年上ですし」


「いつもは自分と同世代の女性扱いしているんですから、この位は気にしないで下さいよ」


「努力します。ユノの婚約者ですしね……そちらの装飾品の宝石を取って来て下さった以上、ユノと本気で結婚する意志を示してくれましたから」


 アレックス王子のその一言に周囲の雰囲気が騒がしくなる。大半は勇者である僕と、一国のお姫様が結婚するというロマンティックな話に盛り上がっているだけだが、一部の人からは妬ましさや、嫉妬などの混じった視線が僕に向けらている。


「いや~……兄として嬉しい事です!」


 あからさまに、周囲にいる僕とユノの結婚反対派の連中を煽るアレックス王子。つまり……そう言う事だろう。


「それだけじゃありませんよ?」


 微笑んでいるアレックス王子と真剣な眼差しでこちらを見る王様と王女様の前で、僕はユノの方を向いて、片膝を付き、用意していた箱を前に差し出す。そして……箱をユノの前で開ける。


「夜光石を使った指輪です……周囲に流されて、今まで言えてなかったからここで言わせてもらいます……」


 そこで一度、呼吸を整える。今までそれっぽい事は何度か言った事はある。でも、これだけの大勢の前で、それも捻った言葉や遠回しな言い方では無い、真っ直ぐな言葉で言うのは……きっとこれが初めてのはずである。


 ふと、ユノの顔を見る。先ほどまでの笑顔は無く、とても緊張した面持ちで僕と指輪を見つめている。指輪をプレゼントされるという事は知っているはずなので、そこまで緊張する理由は無いはずのだが……もしかしたら、僕がこんな凝った渡し方をするとは思っていなかったのかもしれない。


 そう思いつつ、ユノの顔を見ていたら、今度はその頬が赤くなっていく……ユノの方が自分より緊張していると分かってしまうと、少しだけ自分の肩の力が抜けたような気がする。おかげでほどよい緊張感の中で、ユノに僕の気持ちを伝える事が出来る。


「愛してます……僕と結婚をしてくれますか?」


「……はい!」


 その瞬間に周囲から拍手が沸き上がる。パーティーの主役が登場と同時にプロポーズするなんて普通は無い展開だし、もう少しムードとかにも気を配りたい気持ちもあったが……でも、ここでハッキリとユノが僕の物だと分からせておきたい。


 僕は立ち上がって、ユノに近づき、その小さな左手の薬指に指輪を嵌める。すると、ユノが嬉しそうにその左薬指の指輪を、シャンデリアの光に当てて眺め始める。


「薫兄、ユノ……おめでとう!」


 すると、今までどこにも見当たらなかった泉とカーターがいた。レイスとフィーロも一緒にいるのはいいのだが……その後ろにいる5人にも突っ込まなければならないだろう。


「どうして母さんたちがいるの?」


「何でって……愚息がついに腹を決めるって、泉ちゃんから聞いたからね。昌達もしっかりとお祝いしたいっていうから、あんたに内緒で来たんだよ」


「ふふ……サプライズ成功ね。お母さん」 


「お姉ちゃん達……おめでとう!」


 そう言って、笑顔でお祝いの言葉を掛けるあかねちゃん。その後ろで母さんと昌姉がサプライズが成功した事に喜んでいた。3人ともドレスを着て、オシャレをしているところからして、大分前から準備していたのが伺える。


「両家の見守る中、このように2人が結ばれた事……実にめでたい」


「ええ……あの薫がやっと身を固める気になって嬉しい事ですね」


「茂さん。あちらの世界の事ではご迷惑をお掛けしてしまうと思いますが……娘の事、よろしくお願いいたしますね」


「迷惑なんてとんでもない……息子の事を支えてくれるいい子ですよ。こちらこそ薫の事をこれからもよろしくお願いします」


 父さんは、マスターと一緒に王様たちに挨拶を交わしている。これで両家の顔合わせも終わってしまった……後は。


「ユノの卒業後に入籍と結婚……かな」


「そうですね……これで晴れて夫婦となるんですね」


 ニコニコしながら僕の話に合わせるユノ。先ほど渡した指輪を大切そうに触れつつ、こちらの方を見る。


「そうだね……でも、来賓客を放っておいていいのかな?」


「婚姻関係の両家が最初に挨拶するのを当然ですし、邪魔する人達はいませんよ。そう……例えば私と薫の結婚に反対派だったとしてもですね」


 ユノはそう言って、視線をある方向へと向ける。僕もその方向を見ると数人の男性が、ワイングラスを片手に何やら密談をしている。他の人たちが僕とユノの事で喜々として騒いでいる中、真剣な眼差しで密談しているので、凄く目立っている。


「私と歳の近い殿方と、結婚させようとしていたのがダメになった以上、諦めてもらうしかないですね……お兄様、お気を付けください」


「分かっている。俺も次の王として相応しい相手を選ばないとな……少なくともあいつらからの縁談話が来る前にな」


 そう言って、溜息を吐くアレックス王子。王家に嫁ぐ女性の条件というのがアレックス王子にはあるので、それを満たしつつアレックス王子の好みの女性というのがいないのが現状らしい。


「薫さん……いい女性を紹介してくれませんか?」


「ユノ以上の女性はいませんが?」


 そう返事をする僕。ユノはそれを聞いて嬉しそうな表情を浮かべ、対してアレックス王子はやれやれと言いたげな表情をするのであった。


 その後、王様が来賓者に向けて、僕とユノが結婚することになった事が告げらる。そして僕とユノは一緒に来賓者の方々に挨拶回りをするのであった。


―クエスト「夜光石が導く先へ」クリア!―

報酬:夜光石を使用した装飾品、ユノとの婚姻……結婚間近!


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