38話 商談と魔導書と服
前回のあらすじ「ドッキリ大成功!!」
―「笹木クリエイティブカンパニー・事務所」―
「これがドローンです」
そう言って、紗江さんが小型のドローンをテーブルの上に置く。
「変わった形なのです。プロペラがたくさんあるってことはこれも飛ぶのですか?」
「ああ。このコントローラーで動く。こんな風にね」
直哉が実際に操作をし始める。ドローンは事務所の中を少しだけ飛び回った後、再度机の上に着陸する。
「何か私たちみたいですね」
「確かに飛び回るという意味でははそうかもしれないですね」
「ああ。しかし君達の飛ぶはもっと上のクラスだ。重力操作なんて物を完全コントロールするのは現代科学では無理だ」
「それでも、あちらには飛ぶ技術は無いのです」
「そこは魔力で全てが成り立っているという考え方だったからだろう。あくまで魔力は周囲の物質をコントロールする物であり、それ事態が燃えたり、凍ったりするわけでは無いからな……多分」
「多分?」
「魔力がこの世にある物質というなら沸点や融点があるのだろうか、それ自身に質量があるのかとか色々調べてみないとなんとも言えない」
「一応、全部は見たかな固体時の魔石、液体時の月の雫、気体は……まあ、この空間にそこらへんにあるみたいだし」
「液体としてもあるなら、機械を動かすタービンオイルとしての使い方が出来るかもしれないな……っと、その話はここまでにしとこう。今は推察にしかならないしな」
いつも、自分が話を脱線させ続けるあの直哉が話を元に戻すとこからして、今は頼れる方の直哉の状態のようだ。それだけ、この件に興味を持ってもらえたようだ。
「さっきの話の続きをこのドローンで説明すると、ドローンはバッテリー……そちらで言うと制限時間付きの魔石と言えばいいかな……それによって活動時間が限られている。兵器に運用する際はもっと大きくしてバッテリーとかも大きくするのだが、魔石の力があれば恐らくそれが無くなる」
「つまり、永遠に飛び続けられると?」
「機械の経年劣化等による故障が起こるまでは飛び続けるだろうな。そこにカメラを取り付ければ、究極とも言える無人偵察機の出来上がりだ」
「壊れるまで永遠に追い続けてくるなんて……怖いですね」
「ああ。悪いことに使えば幾らでも使える。ドローンでこの世界を監視し、要人を殺害するときも同じくドローンでやる。これだけではない。ありとあらゆる兵器がパワーアップし、こちらの世界の秩序が壊れる。そしてそんな非人道的に好き放題にやる組織が出てくるかもしれない」
「そして、得た魔法の技術に魔力という無限のエネルギーを得た兵器で、今度はあちらの世界を侵略する……」
「薫の言うとおりだ。その危険があった。しかし……魔力を利用する権利を手にいれたのは君だった。君は良き隣人として異世界と接する事を決め、またこの技術を平和利用するために僕らの知識と技術が必要なんだろう?」
「そうだよ。それでどうかな?」
「私はさっきもいったがオッケーだ」
「……まあ、断る理由はないですね。あれだけの事ができる魔法を科学に応用する。商品として売り出す際は上手くやらないといけないですが……」
「と言うわけだ。引き受けようじゃないか」
「ありがとう。助かるよ」
「礼はいい。未知の技術に巡り合わせてもらえただけで、私にとっては十分すぎる報酬だ。でだ、これからどうするつもりかね?」
「まずは異世界にご案内って思ってたんだけど」
「なるほど、それではさっそく行こうか」
「なるほど。……じゃあ、ありません!」
また、紗江さんがハリセンを取り出し直哉の頭を叩く。
「痛いじゃないか!?」
「明後日までに納品しないといけない仕事があるのに何を言っているんですか? それが終わってからにして下さい!」
「う、うむ。そうしたら今週の土曜日になるが……」
「僕は大丈夫だよ」
「そうか。なら、土曜日に向かわせてもらおう」
「私もご一緒します。主に社長の暴走を止めるために」
「分かった。あちらにも伝えとくよ」
「というわけだ。この事は誰にも話すんじゃないぞ」
直哉はそう言って、さきほどから黙って聞いていた従業員の方々に目を向ける。
「勿論です。というよりこれは扱いを気を付けないと…」
「だな。これはガチで世界を終わらしかねない」
「まあ、そもそも魔法なんて間近で見たうちらしか信じないと思うけどな」
「確かに虚言と言われるのがオチだろうが……成果をだしていけば、これが本当の事だと信じる奴らも出てくるだろう。悪い奴らにこれがバレたら終末戦争を引き起こしかねないからな。注意しろよ」
直哉の言葉に従業員たちが首を縦に振る。ここの従業員たちが富や名声ではなく自分の探求心を満たすためだけの人ばかりなので情報漏洩は問題無いだろう。
「薫……」
レイスに袖を引っ張られ何か伝えたそうなので耳を近づかせる。さっきの話の中で分からない内容とかがあったかな?
「(紗江さん…どこからハリセンを出してました?)」
「(……分からない)」
紗江さんって魔法使いなのではと思いつつ、この後、少しだけ打ち合わせをして、僕たちは家に帰るのだった。
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―「薫宅・居間」―
「魔法をまとめないと」
家に帰った僕たちは使用できる魔法をまとめる作業をすることにした。小説を書く際に資料として利用するためというのもあるが、魔法を覚えていくと何が使えるか分からなくなる時があるからまとめといた方がいいぞ。とカーターに言われたのでまとめることにしたのだ。
「魔導書の作成なのですね」
「魔導書ってそんな物なの?」
「そうなのです。魔法使いが魔法を創り、それを記したのが魔導書として後世に残ってるのです」
「へえ~。でも、見たことないけど?」
露店に魔導書販売なんて無かったはずだけど……。
「魔導書はだいたい国の管理です。なんせ国の機密情報扱いですから」
「王様に頼めば見せてくれるかな?」
「私としては見ても意味が無いと思うのです。恐らく世界の理を熟知している薫なら使えると思いますし、何よりさらに強力な魔法を創れる気がします」
「世界の理を熟知って言い過ぎな気が……それに、強い呪文って雷撃と彗星ぐらいだし」
「それですよ……魔導書として形を残せば恐らく最強の魔導書として言われる位なのです」
「それも、今のうちだよ。多くの人が科学を知ることで当たり前に使えるようになると僕は思うけどね。とにかくまとめていこうか」
手帳にレイスと話しながらメモしていく。
「だといいのですが……」
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―「薫の魔導書」(簡略)―
火属性
火弾:火の玉を一つ飛ばします。物に当たると火の粉を撒き散らします。
水属性
水弾:水の玉を一つ飛ばします。物に当たると水が飛び散ります。
水連弾:水の玉を複数飛ばします。物に当たると水が飛び散ります。
氷弾:氷の玉を一つ飛ばします。尖った状態にも出来ます。
風属性
風弾:風の玉を一つ飛ばします。物に当たると当たった対象を吹き飛ばします。
地属性
石弾:近くに石を一つ飛ばします。強さは石の硬さによって変わります。
飛翔:空を飛びます。
呪縛:敵の重力を増やし、敵を束縛します。
彗星:巨石の重力を増やし、上空から相手に当てます。
神霊魔法
雷撃:対象の頭上から雷を落とします。
無属性魔法
異世界の扉:専用魔法陣から異世界に行けます。
鉄壁:防御力を上げます。装飾品にも有効です。
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―「薫宅・居間」―
「書くとこんな感じか…」
「11個は凄いのですよ。恐らく連弾シリーズで後3つほど増やせそうなのです」
「火連弾、氷連弾、風連弾それをいれて14個か…」
「普通の魔法使いでもここまでの数は無いと思いますよ」
「そうなの?」
「はい。普通は4属性の初級とプロテクションの5つに、得意な属性の中級や上級をプラスしての10個ぐらいだと思いますよ。ここまで様々な属性魔法をバラエティに……しかも神霊魔法が使えるのは珍しいのです」
「でも……うーん」
「どうかしたのですか?」
「なんか……こう……ゲームのような必殺技が欲しいっていうか……」
「必殺技ですか?」
「うん」
カシーさん達のエクスプロージョンみたいに自分だけの特別な魔法が欲しい。それはもう効率とかそんなの無視して見た目と威力重視のカッコいい魔法が……。
「うーん。私はあれを使ってみたいんですけど……」
「何々?」
レイスから必殺技の提案が出たので聞いてみる……なるほどアレから思い付いたか。
「創ってみようか。物は試しにさ」
「そうですね。薫と色々な魔法を創ったのです。もはやこれも何か出来そう気がするのです」
「じゃあ……そうしたら……」
この後、2人で提案してとりあえずの形と練習方針を決めるのだった。
―?????―
効果:まだどんな物か不明。
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―同じ頃「高級ショップフロリアン」泉視点―
~~♪~~♪~♪
私、多々良 泉! 今、異世界で服を作っているの!
「ご機嫌ッスね」
「そりゃあね~。なんせリアルハンター服を作れるんだもの」
ワイバーンの討伐の後、フロリアンの店主シークさんにワイバーンの皮とあっちの服の知識を提供する代わりに、お店の一角を使わせてもらっている。あっちから持ってきたミシン等の道具(薫兄に発電機と一緒に持ってきてもらった)を使い、ワイバーンの皮と、お礼としてシークさんから頂いたフルールの毛皮を使って、ガチのハンター服を作っている最中なのだが……。
「カーターさんやシーエさんならこれでいいんだけど……」
ただいま、薫兄のハンター服を描いているのだが上手くいかない。
「俺がどうかしたか?」
私の横から顔を出してきてドキッとする。近くでフライトの練習しているのは分かっているけど、イケメンがここまで間近に顔を近づかせてくると女としてグッとくるものがある。
「い、いや~。今、作っている服が男性服だから薫兄よりカーターさん達の方が似合うな……と」
「確かに薫には似合わないわね」
「姉御の言う通りッスね。少しカッコよすぎるというか……」
「アレのせいか……」
恐らくワイバーンの戦いで薫兄が着てたキトンのことだろう。あの後、見た人たちがマネてこの王都の女性がオシャレとしてキトンを着るようになったのだ。
「まさかあそこまで流行るとは思っていなかったわ」
「まあ、可愛いからね」
そう言ってサキがくるっとその場で一回転する。そう。今の彼女もキトンを着ているのだ。見た目は寒そうだが、生地自体が保温効果が高いブラッディー・スパイダーの糸で出来ているのと、飾りの魔石がカイロみたいに温めてくれるので問題無いとのことだそうだ。
「このデザインはいいな。動きやすそうだ」
「そ、そうですか! あ、それならどうですか?この服出来たらプレゼントしますけど?」
「え、いいのか?」
「はい。着てもらって感想さえ聞ければ。次の服にその意見を反映するので。お試し品として受け取っていただければ」
「そうか? それならいいんだが…何かお礼しないとな。何かあるか?」
「いいですよ! お試し品ですし、それでお礼を頂いても……」
「それは難しいと思うッスよ。何せこの材料ッスから……」
「確かにね。金貨何十枚かしら…」
「ワイバーン変異種の皮(魔法の加工済み)、フルールの毛皮(魔法の加工済み)、その他の生地(魔法の加工済み)だからな。流石にただ貰うというのは……それに男として廃る気がしてならない」
「かなり高性能な防具になるわね。下手すると、今着ている鎧より強いかも……」
「まあ……気にしないでもらえれば……」
「そうしたら、こっちで勝手に用意しとこう。こちらの厚意だからいいだろう?」
「は、はい。分かりました」
「そうしたら、サイズを計るッスよ」
「え……」
「どうしたッスか?」
「ううん。何でもないよ」
その後、気になる男性のサイズを計るという行為がどれだけ大変で心臓をバクバクさせるものなのかを知ることになったのだった。




