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389話 変異種ギアゾンビ戦

前回のあらすじ「ゾンビゲームおなじみの変異種登場」

―「ソーナ王国・夜光石採掘場 東通路 謎の部屋」―


「ぎゅる!」


 変異種ギアゾンビがその場で飛び跳ねて、地面に付けていた手足をお腹側に向け直して、そのまま天井に張り付く。首の切断面から覗く目をこちらに向けると、脇腹にある8本の触手を伸ばしてこちらに攻撃を仕掛ける。それを見て、泉とフィーロだけ後ろに下がり、僕たちは前に進みつつ、触手による攻撃を避ける。


「鎌鼬!」


 僕は黒刀に変形させた鵺に風を纏わせて、風の刃を飛ばして変異種ギアゾンビに攻撃をするが、天井をカサカサ……と、まるで黒光りするGのような動きで、天井を移動して攻撃を避けていく。


 ちなみにだが、その姿を見て、僕の背筋がゾクッときてしまった。見た目もそうだったが、動きも気持ち悪過ぎる。


「アイス・ランス!」


 変異種ギアゾンビが避けたタイミングに、氷の槍を飛ばすシーエさん。すると、変異種ギアゾンビは天井からすぐさま下りてその攻撃を避け、再びブリッジ姿で床に立つ。そして、先程まで天井に隠れていた腹から突き出た腕の口が開き、そこから炎をシーエさんたちに向けて吹き出す。


「サンダー!」


 そこに、雷魔法によるカウンターを仕掛ける泉。この攻撃は避けられず直撃し、吹き出していた炎が止まる。


「スパイラル・アイス・ランス!」


「もう一回……鎌鼬!」


 そこに、僕と炎攻撃を避けていたシーエさんで左右から追い打ちを仕掛ける。今の変異種ギアゾンビの2つの目は、僕とレイスに向いている。これなら……。


「ぎゅろろろろ〜〜!!」


 奇声を上げ、腹から突き出た腕を天井に掲げる変異種ギアゾンビ。その瞬間、僕とシーエさんの魔法が霧散して消えてしまった。


 魔法を打ち消されるのは予想出来ていた。ギアゾンビが出来て、変異種のギアゾンビが出来ない訳が無いのだから……唯一、予想出来ていなかったのは、魔法を打ち消すのに視認する必要が無くなったことである。


「ぎゅるろ!」


 8本の触手全てを僕とレイスに向けて、攻撃してくる変異種ギアゾンビ。すると、レイスが僕の服にしがみつき、触手攻撃の回避方法を僕に任せてきた。


「弾き飛ばされないでね!」


 僕はレイスにそこだけ注意して、襲ってくる触手を避けていく。身体強化魔法も打ち消されたようで、さっきより自分の動きが遅くなった気がする。


「アイス・ランス!」


 変異種ギアゾンビが、僕たちに気を取られている間に、シーエさんが魔法での攻撃を仕掛ける……が、何も放たれない。


 それは、泉も同じで杖を前に構え、魔法を使うが何も起きなかった。


「ぎゅる!」


「あっ!」


 仲間の状況を確認して出来てしまったほんの僅かな隙を、変異種ギアゾンビはそのチャンスを逃さず、触手で僕の右足を掴み、そのまま持ち上げて宙吊りにする。


「た、大変ッス! このままだと、薫が……」


「薫兄が触手プレイの餌食に……!」


 そんな声が聞こえて、泉たちの方を向いてみる。普通なら、慌てた表情や心配そうな素振りをすると思うのだが……。


「ねえ? 何でそんな嬉々しい表情をしてるのかな?」


 2人は期待に満ちた表情だった。何なら泉はスマホを取り出して、撮影の準備までしていた。


「大丈夫……ユノも喜ぶような絵になると思うから!」


「……」


 あまりの緊張感の無さに、思わず無言になる僕。彼氏が触手に襲われて、童貞を失われるシーンを見て喜ぶような物だろうか? ああいった物は創作だから興奮する物では無いだろうか?


「ぎゅるぎゅる……」


 ゆっくりと……絡みついていない触手で、今まさに僕を襲おうとする変異種ギアゾンビ。心無しか、その触手がヌメっている気がする。


「か、薫? 大丈夫なのです? 覚悟は出来てるのです?」


「いや、無いから。そんな事させないから……」


 同じく期待しているレイスにそう伝えた所で、黒刀の剣先を変異種ギアゾンビのお腹の腕に向ける。


「鵺……黒槍」


 僕が言った途端に、槍の形に変形する鵺。しかも、僕の思っていた通りに柄が伸びて、お腹から突き出た腕を貫く。


「ぎ、ぎゅる!!?」


 変異種ギアゾンビは思いもよらぬ反撃を受けた事に、慌てたような声を上げ、さらに僕への触手の拘束を緩めてしまう。それによって、僕の体が下へと移動を始める。


「よっと……」


「はわわ……!」


 宙吊り状態だったので、頭から落ちていく僕は、すかさず体勢を変え、受け身を取ってダメージを軽減する。落ちる際に、咄嗟に手を放したレイスが無事なのを確認したところで、変異種ギアゾンビの方へと走り出す。


 変異種ギアゾンビの前に着く直前に、アイテムボックスから四葩を取り出し、黒槍が突き刺さったままになった腹から出ている腕を、その付け根辺りで切断する。


「……!?」


 声を発さずにジタバタする変異種ギアゾンビ。どうやら先程までの奇声は、切り落とした腕に付いていた口から発せられていたようだ。


「ダーク・アイス・ランス!」


 そこに、シーエさんの放った黒い靄を纏ったアイス・ランスが変異種ギアゾンビの両足を吹き飛ばす。


「融合魔法……天羽々斬!」


 魔法が使えるようになった事を知った僕とレイスは、四葩に取り付けられた『融合』の魔石を使い、鎌鼬と雷刃を融合させた魔法である天羽々斬の斬撃を飛ばして、変異種ギアゾンビの体を肩から真っ二つにする。


「チビメテオ!」


 そこに、泉たちがすかさず数発のパチンコ玉を変異種ギアゾンビの真上に投げ、重力を操作して、急降下させる。それは、片腕と両足を無くし、天羽々斬で麻痺して動けなくなっていた変異種ギアゾンビの全身に無数の風穴を開ける。


「セイクリッド・フレイム」


 トドメにセイクリッド・フレイムで全身を燃やす。ここまでのダメージを受けたにも関わらず、尚も動こうとする変異種ギアゾンビ。


 が、そこでついに力尽きたらしく、床に崩れ落ちる変異種ギアゾンビ。その身は炎に包まれ、あっさり焼け落ちていく。


「まさか、こんなのがいるとは……」


「今度は周囲の魔法を無力化かよ。こんなのが町中にいたら大変な事になってたぜ……」


 そこにシーエさんたちが合流し、武器は手にしたまま、変異種ギアゾンビの焼け落ちていく姿を確認する。


「これ程の魔獣……この先には何があるんでしょうか?」


 シーエさんはそう言うと、この室内の奥にある扉を見る。ボスを倒したから、勝手に開くとかは無く、扉は閉まったままである。


「……しょぼーん」


「擬音を口に出して、何を残念がってるのかな泉?」


「男の娘が触手に襲われて、何か色んな物を失うっていう絶好のチャンスだったのに……」


「ハード過ぎるからねその内容!? レイスとフィーロもだよ!?」


「紗枝さんも大喜びすると思ったッスけどね……」


 それは……ありそうだ。以前にマダーウッドとの戦闘中に言っていた気がする。


「身の回りにいる多くの女性が大喜びするのです。薫はそれだけの需要があるのです」


「真面目に言って無いから! そもそも、婚約中の男がそんな事になったら、婚約破棄されると思わないの!? ねえシーエさん?」


「それは……どうでしょうか。女性が暴漢に犯されたりとか、男が不貞を働いていたとかならあるんですが……男性が魔獣に襲われたで、婚約破棄になるというのは……」


「『襲われた』じゃなくて『犯された』です! それなら可能性が……」


「起きていない事象をあーだこーだと言っても仕方ありません。それよりも奥の確認です」


「あ、ちょ……!?」


 そう言って、話を切り上げるシーエさん。他の皆もこれ以上は何も言わず、奥の扉へと移動する。


「さて、ここも無理矢理ですかね。薫さん、お願いします」


「……」


 シーエさんを睨み付けるが、すぐに視線を、外されてしまう。仕方ないので、僕は扉の前に移動して力付くで開けようと……。


「そう言えば、ここって全く濡れていないですよね?」


「そうですね……となると、この先には期待出来ますね」


 戦闘中は気付かなかったが、変異種ギアゾンビがいたこの室内は濡れておらず、また濡れていた形跡も無い。


 ここが濡れていないということは、この奥の部屋も濡れておらず、室内の品が水から守られている可能性がある。そうなれば当然、室内は二千年前のままの可能性が高い。


「獣王撃!」


 扉を思いっきり殴る。が、扉は少しだけへこむだけで、吹き飛ぶことは無かった。それよりも……。


「うわ!!?」


「み、水が!?」


 扉がへこんだ事で、扉の隙間から勢いよく水が吹き出していく。


「シーエさん! とりあえず、魔法で凍らせて止水を……泉! セイレーンを呼んで!」


「分かった!」


 僕は慌てて皆に指示を出し、突如、吹き出した水によって、この地下空間が再び浸水するのを防ぐのであった。

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