388話 変異種
前回のあらすじ「北通路の攻略開始!」
―ミッション開始から2時間後「ソーナ王国・夜光石採掘場 北通路 研究所区画」―
「グラビティ!」
泉たちがギリギリのところまでギアゾンビを近付けてから、グラビティを使用して取り押さえる。
「アイス・ブレード!」
身動きが出来ないギアゾンビにシーエさんが氷の剣で首を切断する。
「これで終わりですね……薫さんとレイスも大丈夫ですか?」
「余裕なのです!」
「防御は脅威だけど……それ以外はそこまでの脅威じゃないね」
僕たちは部屋を次々に調べ、中にいるギアゾンビを倒していき、ついに北の通路の奥のこの部屋まで辿り着いた。
「ふう……」
「お疲れだな」
すると、調べているこの部屋に直哉が調査班の人たちを連れて一緒に入って来た。
「まだ、この部屋ちゃんと調べてないから危ないよ?」
「そんな悠長にやってられん。この辺りは長期間、浸水しているから魔道具を使っての乾燥作業もあって手間暇が掛かるしな……それにこの部屋には培養カプセル内のギアゾンビがまだ残っているが……出てくる気配は無さそうだ」
そう言って、ギアゾンビが入っている培養カプセルに手を当てる直哉。この後、彼らがどう処理されるのか……少なくとも、サンプルとして残すようなことはしないだろう。
「ちなみに、何か発見はあったのです?」
「この培養カプセルが、今のところ一番の発見だな……とにかく北の通路の安全は確保できた。今度は東の通路を頼むぞ」
「分かってるよ……しかし、東の通路って何があるんだろう? 北は研究区画、南は居住区だし……」
「ああ……それだが、恐らく食堂やリフレッシュルーム……後は倉庫とかだろうな。北と南にそれらしい部屋は無かったしな。まあ、ここに建物があったようだから、そっちにあった可能性もあるが……この研究所が行っていた事を考えると、明るみになりにくいこの地下で一通りの研究活動が出来るようにしていたはずだろうしな」
「でも……そっちにもギアゾンビがいたんだよね?」
「そこなんだよな……私達が拠点としているあの場所にギアゾンビは寄って来なかった。しかも、近づいたら襲ってくるのに、襲った後は追わずに元の場所に戻っていたみたいだしな……」
「まるで警備しているみたい……」
泉のその発言に直哉は口元に手を当てて考察していく。
「ああ……そうか。確かにそうとも取れるな……となると、あの通路の先には何か重要な物があって、あいつらはそれを守ってるって事か……」
「ということは……あの先には警備が必要な何かがあるってことなのです?」
「そういう事ッスよね」
レイスとフィーロの言う通りで、これから調べる東の通路にも何かしらの研究設備か研究成果が保管されているかもしれない。
「とりあえず……こっちは大丈夫そうだから、あっちに行ってみるよ」
「頼んだ。今の話で期待が持てたしな……こっちも何かしらの成果を出してやる」
「私達もこっちを調べるわ。そっちはよろしくね」
北の通路の調査を直哉とカシーさんたちに引き継ぎ、僕たちは来た道を戻って、今度は東の通路の調査に向かう。北の通路と同じで、バリケードが設置されており、見張り番も2人いた。
「お疲れ様です」
僕は見張り番の人たちに、この先のついて訊いてみると、通路を塞ぐようにギアゾンビ2体が立って通路の先に行かせないようにしているらしく、この先に何があるのかは全くの不明だそうだ。
バリケードを抜け、その先へ進むと、見張り番の方々の話の通りで、通路を塞ぐように2体のギアゾンビが静かに立っていた。
「さっきは通路から室内が覗けるような場所で戦いましたが……こちらの通路はただの壁ですね」
そう言って、シーエさんが剣を構える。僕と泉ですぐさま、2体のギアゾンビを魔法で拘束し、シーエさんが2体の首を一気に切り落とす。
「では、進みましょうか」
ギアゾンビの死骸をそのままにして、さらにその奥へと進む。すると、通路の先には金属の両開きの扉が1つあるだけだった。
「ボス部屋……」
「縁起悪いこと言わないでよ泉」
長く、何の変哲もない通路を歩いた先に現れた扉。この地下は、階段を下りた先にある広い空間から3方向に伸びる通路を少し歩かなければ、それぞれの区画に着かないという不思議な作りをしている。
「……薫さん。この先には何が待っていると思いますか?」
扉を見ていると、突如シーエさんがこの先に何があるかを尋ねてくる。もしかしたら、顔に出ていただろうか……?
「分かりません。ここの地下の作り……大分、不自然な作りなんですよね。通路を少し進まないと、それぞれの区画に着かないなんて、かなり変わってると思うんですが……それが何を意味するのかが思い付かないんですよね」
「……もしかしたら、本当は何かあったのでは? 浸水や経年劣化でそれらが作動していないだけで」
「防犯システムが壊れているって事ッスね。そういえば……ここってイレーレがいたころの時代なら、魔王アンドロニカスのせいっていう可能性もあるッスよね?」
レイスとフィーロの言う通りで、その可能性もある。ここはイレーレの文明が崩壊する前の施設であり、その時代に魔王アンドロニカスによって魔石に刻まれていた情報は一度壊されている。この壊れ具合は、最近の調査で分かったのだが、場所によって違う事が分かっている。恐らくだが、この施設の場合はかなり酷い影響を受けており、システムに深刻な不具合が起きているのかもしれない。
「でも、それならギアゾンビも機能停止しているんじゃねえの?」
「それが原因でギアゾンビの魔石に変異が起きて、今のギアゾンビが出来た可能性もあるけどね……とりあえず、扉を開けて入ってみよう。ここで推測しても意味が無いからさ」
この金属の扉に取っ手は無く、恐らくは自動ドアなのだろう。試しに扉に手を当てて、自動で開かないか試してみるが……何も起こらない。念のため鵺をバールに変形させて、扉の隙間に当て、てこの原理で開かないか試し見るがビクともしなかった。
「強引にいくしかないみたい?」
「だね」
泉の問いに、僕はそう答えつつ、装備している蓮華躑躅に斥力の力を溜めていく。
「獣王撃!」
扉に向かって、斥力の力がこもった拳を渾身のストレートでぶちかまし、片方の扉を破壊する。
「うん?」
扉を破壊したその先に見えたのは、他のギアゾンビより一回り大きく、その体にはより様々な歯車や配線が肉体に組み込まれているギアゾンビが何もない大きな室内にポツンと座っていた。
「ボス部屋で当たってたッスね」
「見ろよ。あいつの後ろ……奥に続く扉があるぜ」
マーバの言う通りで、座っているギアゾンビの後ろに金属製の扉がある。あの先には一体何が……。
「先行しますね。マーバ行きますよ」
「おう!」
シーエさんとマーバの2人が室内へと入り、ギアゾンビに近づいていく。
「ぎゅるろろ!!」
すると、突如奇声を上げ立ち上がるギアゾンビ。しかし、その動きは鈍間であり、今までのギアゾンビと違って襲い掛かるスピードも遅い。
「はぁあーー!」
シーエさんは一気にギアゾンビに近づいて、首を一刀にする。
「凄いです! シーエさん!」
「流石ッスね!」
あっという間にギアゾンビを倒してしまったシーエさんに歓声を送る泉とフィーロ。ギアゾンビが無力化されたのを確認して、僕たちも室内へと入っていく。
「ぎゅろろろ!!」
その瞬間、再びあの奇声が室内に響く。しかし、刎ねられたギアゾンビの首は床に転がったままである。
「ぎゅろ!!」
すると、首の無いギアゾンビの体が起き上がる。そして、切断された首のところから、大きな目玉が出て来て、こちらを覗いてくる。
「「「「ひっ!?」」」」
その姿を見た女性陣から悲鳴が起きる。しかし、このギアゾンビはさらにブリッジの体勢を取り、歪な4足歩行で歩き出す。
「ぎゅるろろ!!!!」
一際、大きい奇声を上げるギアゾンビ。すると、ギアゾンビの腹部を引き裂いて、手のひらに目と口が付いた1本の腕が腹部から生える。最後に両脇腹を突き破って、8本の触手のような物が生えたところで変異が終わった。
「ぎゅろ!? ぎゅろろろ!!」
何が言ってるのか分からない。しかし……こちらに敵意を向けているのは分かる。
「泉……ホラーゲームのボスってこんな感じのが多いけど、実際に目にした感想はどう?」
「気持ち悪いって! 私達のSAN値がゴリゴリ削られたんだけど!?」
泉の意見に、女性陣は一斉に首を振ってそれに同意しつつ臨戦態勢を取る。
「来ます!!」
シーエさんが叫ぶと同時に、先ほどとは違って獣のように素早く、歪に動く変異型ギアゾンビが、僕たちに襲い掛かって来るのであった。




