表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
387/504

387話 ギアゾンビ

前回のあらすじ「クエスト継続中……」

―翌日の正午「ソーナ王国・夜光石採掘場 謎の入り口前」―


 翌日、依頼を受けた僕たちが再び夜光石の採掘場に来てみると、地下へと続く入り口の周囲は既に埋め立てられており、小さな小島が出来ていた。さほど大きくない小島なので、荷物置き場のスペースを補うために周囲のボートの上には道具が置きっぱなしにされており、入り口の見張りも2人だけであった。


「お疲れ様です! ご足労いただきありがとうございます!」


「いえいえ。それと追加の物資を持ってきたんですが、どこに置けばいいですか?」


「そうしましたら、この下に仮拠点があるので、そちらにいる隊員に聞いて下さい」


「この階段を下った先にですか?」


「ええ。この階段を下ると、広い空間と3方向に続く通路がありまして、その広い空間をベースキャンプにしています。一応、昨日の段階で南方向に続く通路には魔獣がいなかったので、今はそちらをメインに調査されてますよ」


「そうなんですね……教えてくれて、ありがとうございます」


「いえいえ。施設の調査頑張ってくださいね!」


 見張りの隊員さんに見送られながら、階段を下る僕たち。さほど長くない階段を下ると、見張りの人が言っていた広い空間に、仮設のテントが3つ建っており、多くの人が慌ただしく仕事をしていた。


「シーエさん。ここって長時間、水に浸かっていたのにそんな湿気ってないですよね……これも何かの魔法を使用してるんですか?」


「泉さんも見た事のある空調関係の魔道具ですよ。それを設置して適度な湿度にしてるんです。魔道具の質にもよりますが、この辺りの空間だけなら何とかなりますよ」


「来たわね!」


 すると、1つの仮設テントで他の人たちと何やら話をしていたカシーさんがこちらに気付き、僕たちに手を振る。とりあえず、さらに詳しい事情を訊くために、僕たちはそちらに合流する。


「魔獣はここには来ていないのですか?」


「どうも決まったエリアから魔獣は離れないようとしないみたい。だから、交代で魔獣がいる北と東の通路を見張っていて、魔獣がいない南の通路を調査中なんだけど、あまりいい成果が出ていなくて困っているのよ」


「ちなみに……南の通路ではどんな所で、何が見つかったんですか?」


「南の区画は居住区だ。似たような部屋の作り、そしてそこにあるベットや調度品からしてそう判断している。研究成果を記載した日記やレポートが置かれていないかと思ったのだが……どれもこれも紙がボロボロで読むことは出来なかった」


「今も探索は続いているけど……あまり期待できないわ。だから、北と東の区画の方が期待度が高いわね」


「おーーい! ケガ人だ! ポーションを持ってきてくれ!」


 話の中、仮設テントの外が騒がしくなる。確認すると北側の通路から負傷した探索班の人たちが帰ってきており、特に酷いケガ人は腹部から酷い出血をしている。


「その前に消毒よ! 至急……って、在庫あったかしら?」


「すいません! 追加の物資は僕が持ってます! どこに置けばいいですか!」


「薫さんいらっしゃていたんですね! そうしたら、こちらに!」


 医療班の指示で、ここに来る前に立ち寄ったクロノスで預かって来た物資をアイテムボックスから取りだすと、医療班の人たちが必要な薬や道具を取って、ケガ人の応急処置を始めていく。


「来たか」


 すると、今度は直哉がどこからか現れた。でも、どうしてここにいるのだろう? 真新しい技術が発見されたとかそのような話が無い以上、わざわざ直哉自身がここに出向く理由が無いはずだが。


「どうしてここにいるの?」


「今回の魔獣がゾンビだとシーエに教えたのは私だがらな。ここにいるのは当然だろう? それと……ちょっと耳を貸せ」


 直哉がそう言うので、僕は直哉の方に耳を傾ける。


「(イリスラークが関係している可能性がある)」


 その名前を聞いて、思わず声を出しそうになる。泉のお母さんがおばあちゃんから受け継いだ禁書に書かれていたある施設の名前……。そして、この情報は限られた人しか教えていないため、ここにいる人たちの多くが知らない情報だったりする。


「(何か証拠が出たの?)」


「(さっきまで南の居住区にいたのだが……禁書の中にあったマークと同じマークを発見した。もしかしたら、ここがイリスラーク……または属する施設かもしれない)」


「それ……本当ですか?」


 すると、いつの間にかいた泉たちが話を盗み聞きしていた。


「可能性だがな。知らない者もいるから黙っておくように……それで早速、調査を頼みたいんだが……」


「その前に、ゾンビについて話してくれない? 感染するのは嫌なんだけど?」


「そいつらと戦った奴らならピンピンしてるぞ。それだから感染はない……ゾンビという例えはあくまで見た目だ……腐食した人間に歯車のような物に金属の配線……ギアゾンビとでも名付けるか」


「変な仮面を付けた……」


「それはギガの方かな……」


 いきなりボケる泉にツッコむ僕。レイスとフィーロ以外、何にツッコんでいるのか分からないので頭を傾げている。


「とにかく……人間をベースに改造した魔獣……いや、人体実験の副産物が残ってるってことかな」


「ああ……それで奴らはどうしても攻撃が効かなくてな。試していない土魔法や雷魔法なら倒せるかもしれない……薫。すまないが奴ら……いや、彼らを倒して欲しい。既に彼らには理性は無く、その状態で生き永らえている。ここで倒し安らから眠りを……命を弄んだ実験に終止符を打って欲しい」


「……分かったよ」


 直哉の真剣な眼差しに、素直にその頼みを承諾する。いつもの直哉なら『さっさと討伐して、ここにある英知を調べさせろ!』とか言ってくるのに、その気配が全くない。


 それはカシーさんとワブーも同じで、いつもと違って積極性が無い。きっとこのような研究に憤りを覚えているのかもしれない。


「それじゃあ……早速だけど、北の通路をお願いできるかしら?」


「分かりました。早速行きましょう」


 直哉と別れて、僕たちはカシーさんの案内で北の通路へ向かう。少し進むと、腰の高さほどしかないバリケードが3つ連なって置かれており、その間を見張っている自衛隊員と魔法使いの姿があった。


「お気をつけて!」


 敬礼する彼らを後に、さらに通路の奥へと進む。すると、ただの金属で出来た通路だったのが、左右がガラス張りになった通路になる。そのガラスの向こう側には人型だが、その体には様々な無機物がくっついた何かがゆっくりと室内を徘徊していた。さらに室内を確認すると、本が置かれた棚や机、その横には生物を閉じ込めたカプセルと破損しているカプセルが多数あり、恐らくここを徘徊している魔獣はこのカプセルから出てきた物だろう。反対の部屋もどこかの研究室のような作りをしており、ここが研究区画だと判断できる。


「ア、アア~~……」


 通路の先から、何かの声が聞こえる。すると、魔獣……ギアゾンビが向こうからこちらへとゆっくりと歩を進めてくる。


「チビボム」


 すると、カシーさんが杖を前に出して、小さな火球を向かって来るギアゾンビに撃ち出す。すると、ギアゾンビが手を前に出すと、その火球はギアゾンビにぶつかる前に消失してしまった。


「普通なら爆発するんだけど……あんな風に消えちゃうのよね」


「他の魔法も同じだ。それで、銃で対抗したり、不意打ちそ仕掛けたのだが……あの見た目でかなり硬くてな。中途半端な攻撃は意味をなさなかった。強力な銃火器を用意すれば対処できるかもとは言っていたが……この施設を破壊しかねないからな」


「そこで、僕たちなら小規模で済むと?」


「そうだ。で、どうだ?」


「うーーん……とりあえず、試してみるか」


 僕たちもそれぞれの魔法を放ってみるが、どうしても魔法がかき消されてしまう。その間にもギアゾンビはゆっくりと近寄ってくる。


「アイス・ウォール」


 シーエさんが氷の壁を作るが、それもギアゾンビが手を出した瞬間に、すぐに霧散してしまって足止めにならない。


「……困りましたね」


「魔法無効化で防御力高いって……反則だよ! ねえ薫兄?」


「そうだね……レイス。アイツに近づくけどいい?」


「大丈夫なのです?」


「まあ……多分」


 僕はレイスと一緒にギアゾンビへと近付いていく。


「気を付けろ! さっきのケガした奴も鈍いから大丈夫だと思って、接近戦で戦おうとしたら、凄い勢いで迫って来たそうだ!」


「りょーかい……」


 ワブーの注意に返事をしつつ、さらに近づく。すると、ギアゾンビがいきなり走り出して僕たちへと接近してくる。


「危ない!!」


「……呪縛」


 ギアゾンビが呪縛の射程距離に入った所で発動させる。すると、ギアゾンビはそのまま前のめりに倒れ、必死にもがき始める。手を出して魔法を無効化しようと必死に動くが、呪縛が無効にされることは無かった。


「お休みなさい」


 僕はアイテムボックスから四葩を取り出して、暴れるギアゾンビの首に思いっきり突き刺す。首と胴体が離れたギアゾンビは動きを止めて、その活動を停止させた。


「倒したの?」


「見ての通りだよ。このギアゾンビの防御魔法って一見完璧に見えるけど、こんな風に全体に拘束を掛ける魔法だったら無力化出来ないみたいだね」


 このギアゾンビが魔法を無効化する際、必ず手を前に出している。となると、このギアゾンビの魔法無効化には、手を前に出して力を使う必要があるということになる。ならば、手の動きを封じてしまえば無力化も出来ないのではと思ったのだ。


「たまたまかもしれないから、油断しないようにしないとね……」


「無力化を無力化してるぜ……こいつ」


「そうですね……薫さん。トドメを刺すときは私もお手伝いします」


「そうしたら、私達も動きを止める係だね!」


「一気に進むッスよ!」


 ギアゾンビの倒し方が分かった所で、それぞれの役割を決めた僕たち。その後、出てくるギアゾンビを倒しながら、この施設が何なのかを知るために通路の奥へと進むのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ