385話 ソードシャーク討伐(略)
前回のあらすじ「素材回収クエスト開始!」
―「ソーナ王国・冒険者ギルド 執務室」―
「まさか……こんなタイミングで勇者様が来るとは。これは運が良かったな」
部屋に入って来た僕たちを見るや否や、そう言って笑みを浮かべるギルドマスター。夜光石がが採れない理由を訊くため、ギルドの受付に尋ねたところ、冒険者ギルドの3階にあるこの執務室に案内されたところである。
「人の顔を見て、そんなセリフを吐くなんて失礼じゃないのかオッサン?」
「マーバ……失礼ですよ」
「いや、そちらの精霊の言う通りだ。いきなり、こんな事を言い出したらそう思われてもしょうがないだろう……それで、夜光石を探してるんだったな?」
「はい。それで何か事情があるんですよね?」
ギルドマスターは椅子から立ち上がって、僕たちをソファーに案内し、ソファーに座ったところで話の続きを始める。
「シーニャ女王から話があってな……夜光石の採掘場所はいくつかあるんだが、その中で一番大きい採掘場所にソードシャークという鮫型の魔獣が現れたせいで、採掘が出来ない状態になってしまってな」
「ソードシャーク……え? どういうことなんだぜ?」
マーバがソードシャークという魔獣を聞いて困惑している。この王都周辺には海は無く、そもそも鮫型の魔獣がどうやって陸地にいる人を襲うのだろうか不思議でしょうながいのだろう。皆が不思議に思っている中、僕は思いついたことを言ってみる。
「もしかして夜光石って……湖や池の底から採れる鉱石?」
「ご名答だ。夜光石はこの国を照らしている木々が朽ちて、水中で長い年月を掛けて変化した鉱石だ。だから、鉱山のような採掘はしないぞ」
「ああ……だから、ソードシャークが邪魔になるんだな」
「そういうことだ。それで、その討伐依頼が掛かっているんだが……水中にいるソードシャークを誘き出さないといけないからな。なかなか思うようにいってないのが現状だな」
「それなら、こいつらに頼めばいいんじゃないのか?」
そう言って、マーバが僕とレイスに指を差す。確かに、僕たちや泉たちに頼めば、話は早いのかもしれない。しかし、ギルドマスターには別の思惑があるのだろう。
「それはそうなんだがな……何時までもおんぶにだっこって、訳にはいかないからな。冒険者たちに経験を積ませ、育っていってもらんとな」
「後輩育成お疲れ様です」
「はは、ありがとう。しかし、そちらの事情を考えると、ゆっくりしてられないようだな。頼めるか?」
「大丈夫です。ただ、夜光石を優先的に譲ってもらっていいですか?」
「もちろんだ。ただ、掘っていては今からじゃ間に合わないだろう……夜光石はこちらで用意しておく。等級のいいものを……な」
「当てがあるのです?」
「ああ! 知り合いの店に今すぐ掛け合ってくる! 無かったら……女王に掛け合ってみるさ。王宮には備蓄があるだろしな」
「お願いします。それじゃあ……いってきます」
僕たちは執務室を後にして、教えてもらった採掘場へと向かうのであった。
「あ。そうだ……」
僕はМT-1を手にして、大至急、知り合いに電話を掛けるのであった。
―クエスト「夜光石が導く先へ」―
内容:ユノのプレゼントに必要な素材である夜光石を得るために、夜光石の採掘場所に出てきたソードシャークを狩りましょう! なお、全てのソードシャークを狩る必要なありません。なるべく多くやっつけましょう!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―数時間後「ソーナ王国・夜光石採掘場」―
「ほへー……デケェ湖だぜ」
「そうですね」
それぞれの契約獣に乗って空を飛んでいると、青い光で照らされている森の中に突如現れた大きな湖。対岸が遠くに見える程に大きく、手前には採掘者たちが建てたと思われる家や小屋などが見える。僕たちはとりあえず、そこに下りて状況を確認する。
「うお! ユニコーンに乗ってきたってことは……勇者様ですか!?」
ここを警備しているのだろう兵士さんがやってきて、僕たちが何者なのかを確認してくる。その騒ぎを聞いて、周囲の人々の視線がこちらに向けられる。
「冒険者ギルドの依頼でやってきました。お話を訊きたいのですが……」
「それでしたら、私がご説明しますわ」
どこからか聞こえる聞き覚えのある声。すると、兵士さんの後ろから護衛を連れたシーニャ女王が現れる。
「シーニャ女王!? どうしてここに……?」
「ここは夜光石の一大採掘場で、夜光石で作られた品々は国の大切な収入源でもあるのです。そこで魔獣が暴れていると聞いたので、私が直接、視察に来たのですが……少々、おかしい所がありまして」
「それって……ソードシャークがどこから沸いたか分からないですか」
「流石、勇者様ですね……ご名答です」
魔獣はゲームのように時間経過で沸いて出てくるような存在ではなく、他の生物と変わらず繁殖行為で種を増やしていく存在である。つまり、ソードシャークがこの湖に住み着いていて、それが増えて大問題に……と思っていた。
しかし、この湖には元々ソードシャークは生息していおらず、また、この湖は湧水で出来た湖であり、川と繋がっていない。ちなみに……ソードシャークは陸を移動する事は出来ない。
「ソードシャークはここから遥か先の川では確認されていますが……流石にそこからやってきたというのは考えにくいかと」
「となると……魔族がやった可能性がありそうですね」
「そうなりますね……ただ、何のためでしょうかね? 夜光石にそんな特別な力は無いはずですが……」
「それって本当なのです?」
「我が国の賢者が、国内で採れる素材に、私達が知らない特別な効果が無いかとクロノスで一度調べているんです。それで、夜光石には特殊な効果は無いというのが結果でした」
「それは、妙ですね……」
今回のソードシャーク討伐……どこかきな臭いところがある。けれど、まずは……。
「とにかく、ソードシャークをやっつけましょう。原因はその後にでも」
「そうですね。それで……どうやりましょうか?」
「それなんですけど……シーニャ女王。ここの採掘はどのようにされるんですか?」
「基本は素潜りだそうです。後は、あのようなサルベージ船を使用してます」
そう言って、シーニャ女王が船に指を差す。そこには小さなクレーンが付いた船があった。アレで湖の底をかっさらって、その中にある夜光石を回収するという方法だろう。
「となると……湖の水を一ヶ所に集めて、氷漬けにするはダメそうですね」
「それは……そうですね。というより……そんな事が出来るのですか?」
「僕たちの黒風星雲で集めて、シーエさんたちの召喚魔法でカチコチに出来ると思うんですよね……その際、他の湖の生物も一網打尽にしちゃいますけど」
「それは容認できません! 他に案は無いんですか!?」
少しだけ、怒りをあらわにするシーニャ女王。僕たちが対処するならそれが一番手っ取り早い方法なのだが……まあ、やっぱりダメか。
「ありますよ? そう思って……」
「おーーい! 薫兄!」
シーニャ女王と話をしていると、そこにユニに乗った泉たちが上からやって来る。それを見たシーニャ女王は、この後何が起こるのか理解したのだろう。僕を見て静かに頷き始める。
「スパンコールに使えそうな夜光石が採れる湖ッスか……でかいッスね」
「でも! 私達には関係ない! ここの湖の鮫を狩り尽くして素材をゲットするのよ!! で、どうするの?」
「凍らせるのNGだから、セイレーンで何とかできない?」
「それなら邪霊鬼神状態ならイケると思うけど……補助してね?」
「もちろん」
すると、泉とフィーロが早速、邪霊鬼神セイレーンを呼び出す準備をする。シーニャ女王は兵士に指示して、周囲にいた人々に湖から下がらせる。そして、僕たちも武器の準備をして、取りこぼしがあった場合に備えるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―数分後―
「ありがとうねセイレーン! 今度、夜光石でこのドレスをさらにグレードアップしておくね!」
「……♪」
自分の服がさらに可愛くなることに喜ぶセイレーン。その後ろにはソードシャークの群れの死骸が山になっていた。
「あっという間ですね」
「まあ……ドラゴンも恐れるセイレーンだぜ? 当然じゃねえの」
セイレーンが呼んだ凶暴な魚の群れとヒュドラに追われて逃げ出したソードシャークの群れを一網打尽にした僕たち。依頼で来ていた冒険者たちも率先して討伐に協力してくれたこと、セイレーンが誘き出してくれたこともあって、10分足らずで終わってしまった。
「討伐にご協力してくれた冒険者達に感謝を致します! 些細な追加報酬ですが、お酒と食事をご用意しますので、是非とも英気を養ってください」
シーニャ女王のその追加報酬に大喜びする冒険者たち。我先にと、お酒と食事を頂こうとこの場から離れていく。
「それじゃあ……僕たちは当初の予定通り……」
「薫兄……チョットいい?」
依頼の報告をするために、この場から離れようとする僕たちに泉が呼び止める。
「あ、そうか……ごめん。泉も夜光石が欲しいんだよね。すぐにシーニャ女王にお願いして……」
「違うの。セイレーンが……この湖に変な構造物があって、そこの水を抜いておいてくれたみたいなの」
「「「「え!?」」」」
その発言に、僕たちは驚きの声を上げる。どうやら、いつものように変な事に巻き込まれてしまった事に、僕は頭を抱えるのであった。




