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384話 6月の初仕事

前回のあらすじ「皆……仲良くね?(権力という圧力あり)」

―6月「ソーナ王国・王都」―


 色々な出来事があって、どこか長く感じた5月も過ぎ、今日から6月……。


「久しぶりに来たのです」


「ユニコーンであるシエルと出会った時以来だからね……そう考えると、1年前ぐらいになるのか……」


「私達は初めてだぜ! しかし……昼なのに夜の街みたいだぜ」


「木が発光する光で生活をしているんですね……これは、なかなか面白いですね」


 そんな話をしながら、水路沿いに作られたメインストリートを進んでいく。ソーナ王国の王都は森の中に作られた王国であり、日の光が全く届かないほどに木々が生い茂っている。本来なら真っ暗なのだが、生い茂っている周辺の木々が淡く青い光を発しており、その光を頼りに人々は生活を送っている。


「キャレットが安いよ! さあ、買った買った!」


「ガルガスタ王国から仕入れたチーズ! あの勇者と魔導士も一押しの品だよ!」


「……あの店主。ああ言ってるけど本当なのか?」


「言った覚えは無いかな……ねえ。レイス」


「言った覚えが無いのです」


 グージャンパマで採れる食材で作れる料理なら話したことが多々あるが、この食材が一押しとかは話した覚えは無い。だから、あの店主は話を盛っている可能性が高い。すると、それを聞いたマーバが、それをネタにして店主にちょっかいを出そうとしたが、面倒ごとになると判断したシーエさんがマーバを捕まえて無理やり止めさせるのであった。


 という訳で、今日はシーエさんたちと一緒にソーナ王国に来ている。ここに来た目的は、ユノの誕生日プレゼントに必要なある素材を手に入れるためである。プレゼントの素材の1つである誕生石は、以前にカーターたちとアリッシュ領で手に入れてある。だから……それである物を作ってもらおうと思っていたのだが……。


「まさか……こうなるなんて……」


「しょうがないのです。まさか、そんなしきたりがあるなんて思っていなかったのですから」


 突如、知ることになったビシャータテア王国の王家のしきたり……それを知るきっかけは昨日までさかのぼる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

―5月最終日「ビシャータテア王国・王宮 応接室」―


「お疲れだったな。これで薫たちの役割は一旦は落ち着いたか」


「そうですね……しばらくは小説家として大人しくしてようかと。後は新しい魔法とかの練習も」


「うむ……地球での主な障害だったヘルメスは解体させることに成功したが、まだ魔王の脅威が残っている」


「むしろ……こっちの方が厄介ですけどね。ついにはあちらに手下を転移させることに成功させてますし……」


 ヘルメスは黒の魔石と機械を使って、他の組織にはない力を手にした。しかし、魔王アンドロニカスはこの黒い魔石の生みの親であるイレーレ時代の知識を持ち、さらに多数の魔族を引き連れており、それでいて本人は強力な魔法を使えるコッペリア……こちらの方が厄介さは桁違いである。


「今、各国協力してそれに対抗する力を用意しているが……魔王の復活が2、3年掛かるのかも怪しいしな。どれだけ短い時間で用意できるか……」


「同感なのです」


 そう言って、出されたお菓子であるクッキーを頬張るレイス。出されたお菓子は前のような物と違い、バターや砂糖も使われている地球の物と遜色のないくらいの物になっていた。この短い時間でそこまでの料理の水準になっているとは……食への欲求とは恐るべきである。


「それで……今日の要件はなんだ? ただ、報告に来たとかでは無いだろう?」


「はい……実はユノの誕生日に誕生石をあしらった指輪を送ろうかと思っているんですが……」


「何! 指輪だと!!」


 声を荒げ、急に立ち上がる王様。その様子に僕は慌てて事情を話す。


「は、はい! 他の人たちにも、ユノには婚約者がいるぞというのを周知させるためにも、指輪を送るのがいいかな……と。それで、王様ならユノの指のサイズを把握してるかなと思いまして、こっそり教えて欲しいんですが……」


「そ、そうか……うむ……」


 僕とユノが婚約関係であるというのは周囲も知っている事実なのだが、一部の貴族勢力が自身の権力を高めるために、どうにかしてその婚約を無効にして、自身の血筋の者を近づけさせようとしている噂を聞いている。


 そこでユノの誕生日に指輪を渡すことで婚約関係が良好であり、邪魔する隙は無いということを周囲に知らしめようと思ったのだ。ビシャータテア王国のお姫様であるユノだからこそ、必要な事だと思ったのだが……。


「それなら……少し問題がある」


「問題?」


「ああ。王家のしきたりみたいなものでな……指輪を送る際には、ある物を必ず使用することが習わしなのだ」


「そのある物って……一体何ですか?」


「夜光石だ」


「ああ……夜光石ですね。光を吸収して、暗いところに入ると光り出す石ですよね」


「そうだ」


 肯定する王様。名前からしてそうだと思ったのだが……恐らく両者が思ってるものはまったくの別物だろう。地球の夜光石……別名ルミナスストーンと呼ばれている石であり、これはガラス粉末と夜光材料を使用して作られる人工石である。対して、グージャンパマだが……恐らく天然石なのだろう。何せソーナ王国には光る木なる物があるのだ。光る石だって在ってもおかしくは無い。


「それと指輪の元となる金属を混ぜ合わせる事で、暗い所で淡い青色の光を発光させる。これが、この国では『どんな暗い状況でも必ず希望がある』と願掛けみたいな所があってな……最初に送る指輪なら、この条件を守って欲しい。ドルグとメメにも話しておくから素材を手に入れたら持っていくといい」


「ありがとうございます」


「……あれ? 夜光石って王家で保管していないのです? そんな大切な意味があるのに?」


「……あ」


 何か夜光石を採って来るような話になっていたが……レイスの言う通りで、夜光石を王家で保管していてもおかしくないはずである。


「実は……夜光石はこの国では採れない素材でな。そして……その石があるのは隣国のソーナ王国だ。だから行商人に頼んで、入手してもらうのがいつもの事だったのだが……これだとユノの誕生日に間に合うか分からないしな。手っ取り早く、採りに行った方が早いだろう」


「うーーん……常時販売しているお店とかは?」


「無いとは言い切れないが……チョット待て」


 王様が手を叩くと、部屋の入り口から、魔法使いであり隠密組織シャドウを率いる獣人のハリルさんと、パートナーの精霊であるクルードが入って来る。


「話は伺っています……現在、王都で販売している者はおりません」


「え? そんなすぐに分かるの?」


「夜光石は時折、クラフターの奴らが使う素材でな。そこそこの人気があるのだが……どうも、ここ最近流通が留まっているらしい。だから、採りに行った方がいいのは確実だな」


「そうか……なら、早速行ってきますか。レイスいいよね?」


「もちろんなのです」


「待て……そうしたら、シーエ達も連れていけ。婿がユノに送るプレゼントだ。十全の状態で送ってもらわないとな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

―回想終了―


「すいませーん! 夜光石って売ってないのです?」


「夜光石か……すまないね。今は売り切れなんだ」


「そうなのですか……でも、どうして?」


「さあ……どうも採掘場で何かあったみたいなんだが、誰も知らないんだよね」


「なるほどなのです。教えてくれてありがとうなのです!」


 レイスはそう言って、露天商の主人にお礼を言ってこちらに戻って来る。


「聞いていたのです?」


「うん。採掘場で何かあった……か」


「どうしますか薫さん?」


「シーエさん。一度、冒険者ギルドに行ってもいいですか? 何か情報を得られるかもしれないので」


「分かりました」


 露天商の主人の話を聞いた僕たちは、詳細を聞くためシーニャ女王からではなく、冒険者ギルドに向かう。


「なあ? シーニャ女王に聞いた方が早いんじゃねえの?」


「そうとも言えないかな。ほら。もし本当にヤバい状況だったら、シーニャ女王や冒険者ギルドは、僕たちに依頼として頼んでくると思うんだよね」


「なるほど。今回はそのような話が無い以上、自国の兵か、一般の冒険者達に問題解決のための依頼しているんじゃないかと思っているわけですね?」


「そういう事です。ただ……どうして夜光石が採れないかの情報が流れていない以上、少し怪しい雰囲気があるんですけど……」


「とりあえず冒険者ギルドに行ってみましょう。何も得られなかったら、今度はシーニャ女王に会いに行けばいいのですから」


「ですね」


 その後、メインストリート沿いにある冒険者ギルドに辿り着いた僕たちは、さっそくギルドマスターから夜光石が採れない事情を訊くのであった。

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