382話 未知との遭遇
前回のあらすじ「異世界に迷い込んだツアー参加者たち」
―「レルンティシア国・湖 発着所前」―
「これは……一体?」
「浮かんでますね……」
静かに停止した湖に浮かぶ前の物より大きいサイズのエアカーゴを見て驚くツアー参加者たち。実際にはゴンドラのように釣られているのだが、それが太いワイヤーではなく、光の粒子線となれば宙に浮いているようにしか見えないだろう。そんな中、エアカーゴの扉が開いて中からセラさんが現れる。
「彼女はセラ。この上にある空中庭園デメテルの女主人になります」
僕がツアー参加者たちにそのような自己紹介をする。すると、すぐさまセラさんが不満そうな表情を見せる。
「妖狸様? 私は元女主人です。今は妖狸様と妖狐様の所有物ですよ」
セラさんの所有物発言に驚くツアー参加者たち。
「勘違いするような発言ッスね……」
「なのです」
レイスとフィーロがあたかも他人事のように言っているが、僕たちパートナーがそんな奴だと思われてもいいのだろうか……。とりあえず、ツアー参加者たちの勘違いを晴らさなくては。
「皆さん。驚かせて申し訳ありませんでした……彼女はコッペリアといわれる存在でして、古代文明が作り上げた動く人形となります。セラさん……指のアレをお願いします」
僕がそう言うと、セラさんが見えるように手を前に出すと、人差し指の先端が開き、そこからいくつもの小さなツールが出てくる。
「つまり……ロボットですか?」
「そういうことですね」
「後は、ポウシリーズというコッペリアもいます。地球のマスコットのような見た目をしていますので、楽しみにしていて下さい」
泉の言葉を聞いて、マスコミ関係は期待感を煽るようなレポートを自社のカメラに向けて行う。一方、政府関係者は自立型のロボット技術がこの世界に存在することに驚き、その所有者が僕たちであることに危惧するような会話が聞こえる。
「(あの人……私達のことを危ないとか言ってるけど、何かしなくていいの?)」
「(気にしなくていいよ。そもそも、ほぼ自立型のロボットの集団を個人で保有しているなんて、脅威にしか見えないだろうし)」
口元の表情を変えずに、小声で話す僕たち。国際組織では無く、個人が所有するロボットの集団。しかも、僕か泉の命令1つで動く集団となれば、どんな無害なロボットであっても脅威にしか見えないだろう。
「それでは皆様。どうぞ中へ……これより、しばらくは空の旅をお楽しみ下さい」
セラさんがそう言って、エアカーゴへとツアー参加者たちを招く。ツアー参加者たちは1人、また1人とエアカーゴの中へと乗っていく。
「あれ? 妖狸さんたちは別なんですか?」
ツアー参加者たちがエアカーゴへと乗っていく中、僕たちがそれぞれの契約獣を呼んでいる所を見たツアー参加者の1人が、僕たちにその質問をする。
「一応、そのエアカーゴには魔獣対策が施さているんですが、念のために私達は外を警備しますので……」
『エアカーゴに乗ったら、それぞれの契約獣が拗ねるから』と素直に言ってもいいのだが、取材されている以上、凛としてカッコいい姿を見せたい。
「という訳で、お気になさらず!」
泉はそう言って、ユニの背中に颯爽と乗って、フィーロと一緒に空へと逃げる。僕も質問をしてくれたツアー参加者に一礼してから、レイスと一緒にシエルの背中に乗って空へと翔け出し、泉たちと合流する。
少しして、ツアー参加者たちを乗せたエアカーゴが出発。その近くを僕たちはゆっくりと飛んで移動する。中ではセラさんによる空中庭園デメテルの詳しい説明が行われているはずだ。
「いや~……疲れた。慣れない事をするのって大変……フィーロは疲れてない?」
「うちはいつも通りッスからね。特にお淑やかな女性のフリをしている人とは違うッス」
「ねえ? 僕に何か言いたい事でもあるのかな? 怒らないから言ってごらん?」
「それって、後で絶対怒るやつッスよね」
「大丈夫……今日、持ってきたおやつがお預けになるだけだよ」
「酷いッス! そんなのあんまりッス!」
「薫……いくら何でもそれは」
「その分、頑張ってるレイスの取り分が増えるけど?」
「……当然お報いなのです」
「レイス!? 酷いッスよ!?」
慌てるフィーロ。その姿を見て、思わず僕たちは笑ってしまう。ツアー参加者たちがいないこの時間は僕たちにとってはちょっとした休憩時間である。
(ねえ? 僕たちの分もあるよね?)
「もちろん。今日はレモンとホワイトチョコが入った美味しいクッキーを用意してるから期待しててね」
(やったー!)
シエルはヒヒーンと鳴いて喜びを顕にする。ふと、仕事中だったのを思い出して、シエルに魔獣の気配が無いかを訊いてみると、特に変な気配は感じ取れないとの事だった。
「安心して見てられるね」
「うん」
そう返事をして、泉はゆっくりと空へと上昇していくエアカーゴを眺める。するとエアカーゴの中から外へ向けてカメラを回している人たちがいる。そのカメラが僕たちの方へと向けられたので、軽く手を振ってサービスをしておく。
そのようなやり取りをしつつ、上っていくこと15分。ついに空中庭園デメテルの発着所へと到着する。エアカーゴの中から降りたツアー参加者たちは発着所からすぐ見えるデメテルの外側の景色を眺め始めている。
「凄いです……空中庭園の名にふさわしく、空中庭園の下を雲が流れています! まるで、お伽噺の浮島です!」
リポーターが目の前に広がる絶景に興奮しつつリポートする。今日の天気は良いため、雲は空中庭園デメテルの下を流れる程度だが、これが曇や雨などの雲が多い天気だと、下は雲海になり、浮島と呼ばれるのに相応しい見た目になる。僕としては、その景色を撮ってもらいたかったと、少しばかり残念な気持ちだったりする。
その後すぐに、アリーシャ様がツアー参加者たちに呼びかけて、発着所を出て、空中庭園デメテルの敷地へと入る。
「この高さ……普通ならもっと寒いはずだが、何とも無いな。これも古代文明の技術か?」
「左様でございます。本来ならこの場所は飛行機が飛ぶ高さよりさらに高い場所になりますね」
「ふむ……そんな場所にこのような浮島を作るとは……グージャンパマの古代文明の技術力は地球の技術を遥か上回っているのだな……」
「すいません! あっちの朽ちた建物は?」
「アレはゲートの一部です。カーゴの中で説明させていただきましたが、ここを地球の施設で例えるならテーマパークとなります。皆様がいるこの場所は、デメテルに入園するためのゲートが置かれていました。その後、長期間におよぶグージャンパマの復興作業や、魔王の侵攻への対策として長らく本来の役目を果たしていませんでしたが……支配人である妖狸様と妖狐様から、今後テーマパークとして運営すると決まりましたので、一部の朽ちた建物を撤去し、新しい建物や娯楽施設を建設中です」
「そうなると……今はテーマパーク的要素は無いと?」
「そうなりますね。ただ、支配人からは『これだけの庭園でも見物である』と仰られまして、今回は庭園散策しながら、現在も稼働中の施設をご案内させていただきます」
セラさんが冷静にツアー参加者たちの質問を捌いていく。シエルたちを還した後、僕たちはツアー参加者たちの後ろに付いて、セラさんの説明を静かに聴いている。
「流石、秘書だね」
「そうだね」
「ポウ! お客さんだポウ!」
すると、そこにポウが、数体のミニポウを連れてやって来た。そのマスコット的な風貌を見て、ツアー参加者たちからは可愛いという声が聞こえてくる。
「こちらはポウとミニポウ達になります。施設の修理や維持などをしてくれています」
「ポウ! よろしくだポウ!」
そう言って、お辞儀をするポウとミニポウ達。その後、ミニポウ達はそれぞれの持ち場へと戻っていき、ポウは僕たちと一緒にツアー参加者たちの案内をするのであった。