381話 デメテルへご招待!
前回のあらすじ「族長から王へと格上げ」
―「レルンティシア国・宿舎 第一会議室」―
5月の下旬。僕はいつもの巫女服を着て、レイスと一緒に朝早くからレルンティシア国に来ている。その目的は、地球から来る空中庭園デメテルへのツアー参加者たちの案内である。
予定としては、10時頃から泉たちが笹木クリエイティブカンパニーでツアー参加者たちの案内を始めるはずなので、僕とレイスは、アリーシャ様とミリーさんと少しだけ打ち合わせをしたら、すぐに転移魔法陣がある建物へと移動するという予定だった。
しかし、互いにかなり余裕をもって行動していたため、打ち合わせ後に多少時間が出来たので、先日のガルガスタ王国での出来事について話して時間調整している最中である
「ガルガスタ王国もこれでようやく落ち着きそうですね」
「ガルガスタ王国の内情って、そんなに良くなかったのです?」
「ええ。ヴァルッサ王がしっかりと大多数をまとめていたけど、それでも反乱分子が大勢いたみたい。エイルはカバタマスを利用して、ガルガスタ王国内を混乱させようとしていたけど……逆に求心力が高まった結果になったわね。それと、あなたがデメテルから銃を彼に貸し出したのは正解だったわ。一応、研究班がカバタマスの死亡解剖を行ったらしいんだけど……恐らく、シュナイダーよりも強力な肉体強化されていたみたい。普通の武器じゃ太刀打ち出来なかったわ」
「そうですか……」
ミリーさんの話に素っ気ない返事を返してしまう僕。そのため、一緒にいたアリーシャ様が心配そうに僕を見る。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ただ……あまりにもせつなくて、小説のネタには出来ないなと思っただけです」
カバタマスが得られた幸せ……それをたった1人の魔族のせいで失ってしまった事実。もし、その時に誰か助けられる人がいたなら……。
「過ぎた事はもう何も出来ないわ……今の私達が出来る事はこれからのことよ」
「……そうですね」
「……そろそろ時間ですから。魔法陣へ行きましょうか」
アリーシャ様のその言葉で、僕たちは宿舎を後にし、地球から来るツアー参加者たちを出迎えるために転移魔法陣のある建物まで移動する。
何度かここを訪れているが、簡素な建物ばかりだったこの場所も、しっかりとした建屋が多くなってきた。地面もコンクリート舗装が施されており、この街中をグージャンパマの他の国では見られない自転車や自動三輪車が行き交うようになっている。
「自動車も走れそうですね」
「色々課題がてんこ盛りだから、こっちで走らせるのはまだ先よ。特にガソリンの安定供給が不可能だもの」
「それに町も小さいですからね……」
そんな会話をしながら、転移魔法陣のある建物であるポータル場にやって来る。このポータル場にはクロノス行きとイスペリアル国行きの2つのみであるが、今後行き先が増えてもいいようにスペースが多く取られている。また、この近くにはレルンティシア国の役所や研究施設が建っており、この2つを行き来する人たち用に考えた立地になっている。
「ドキドキするな……」
「悪魔や四天王と張り合うそんなあなたがドキドキすることなのかしら?」
「それとこれとじゃ別物ですから……きっと泉も緊張しているだろうな~……」
立場が上の人々へのプレゼンと考えると緊張する。時計を見ると既に10時を過ぎており、泉たちがツアー参加者たちと一緒に、笹木クリエイティブカンパニーからこちらへと向かっているはずである。
「いつも通り、女役を演じればいいのです! そうすれば、後はその美貌でどうにでもなるのですから!」
レイスの発言にアリーシャ様とミリーさんが無言のまま頷く。そんなので、何でもかんでも解決出来るのなら、僕の人生はもっと楽なものだったと思うんだけどな? そんな事を思っていると、クロノス行きの魔法陣が光り出す。
「クエスト開始なのです」
「頑張っておもてなしをしますか」
―クエスト「空中庭園デメテルのおもてなし」―
内容:地球からやって来た方々が満足するようなツアーをしましょう。
「ようこそ我が国へ! 皆様のご到着をお待ちしておりました!」
転移魔法陣から現れたツアー参加者たちに向かって、笑顔で挨拶をするアリーシャ様。僕とレイス、それにミリーさんも参加者たちに向けて頭を下げる。
「皆様、ここはレルンティシア国。地球の笹木クリエイティブカンパニーから、グージャンパマの魔法研究所クロノスを経由してやってまいりまして、グージャンパマ連盟の中では一番新しい国になります。そして……今、皆様にご挨拶された方はレルンティシア国女王アリーシャ・フリードリア様になります」
参加者たちを連れて来た妖狐姿の泉が、すらすらとこの場所とアリーシャ様の説明をする。それを聞いた参加者たちの中にいるマスメディアの方々がカメラや写真を撮り始める。
「凄い……一瞬にして行き来できるなんて……」
「これほどの技術力……実際にお目に出来るとは……」
転移魔法陣を使用しての移動に感嘆する者。
「アリーシャ……あのラエティティアのアリーシャだよな?」
「そのはずだ。」
地球でのアリーシャ様の事を知る者が、女王として現れた彼女に戸惑ったりと、様々な反応が見て取れる。
「今、私の事を見て知っている方もいらっしゃるかと思われますが……地球ではラエティティアの教祖としてあちらにいたこともあります。そして、ここはそのラエティティアに所属していた者達が作り始めた国となります。それゆえ、異世界独特の真新しさは無いと思われますが、どうぞ街並みをご覧になっていただければと思います……長い話になりましたが、早速デメテルへとご案内致します」
そう話したところでアリーシャ様を先頭に、ここにいる全員がデメテルへ向けて移動する。
「あのー……質問とかはどのタイミングですればよろしいでしょうか?」
「ご質問があれば挙手をお願いします。基本的にはお気軽に質問されて結構です。ただ、今回のツアーの時間配分がありますので、それを超過するようでしたら、お断りさせていただくこともあるのでご了承下さい」
「そうしたら……この国の成り立ちをお聞かせ下さい! 先ほどの話からして、アリーシャ女王がラエティティア教祖としてあちらにいた理由……それにも関わる内容じゃないかと考えているんですが!」
「ええ。その通りです……この国は……」
移動しつつ、記者の質問を返すアリーシャ様。その隣をミリーさんが警護を務める。僕たちと泉たちは、この一行からはぐれてしまう人がいないかを注意する。
「あの~……」
すると、ツアー参加者の1人……確か、外務官だったかな? その人が僕に何か訊こうと尋ねてくる。
「何か?」
「質問は妖狸さん、それと妖狐さんに尋ねてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ? ただ、今はアリーシャ様が説明されているので、それが終わったら他の方も一緒に聞いて頂く形になりますが」
「なるほど……そうしたら、次に質問させていただきますね」
その人はそう言って、アリーシャ様の話を静かに聞き始める。
「なるほど……すると、私達がその恐ろしい変異型ペストに罹る恐れは無いのでしょうか?」
「全くないとは言えません。しかし、ここで生活を始めて半年以上は経過して、その間誰も発症はしていないので可能性は低いと思われます」
「なるほど……となると、異世界グージャンパマと交流が増えると、そのようなデメリットもあるという事ですね」
「そうですね……ただ、既に両世界の知識人が集まり、情報を元に対策案を講じてますし……それこそ、今回案内する施設にはそれらを対策する薬草が多く栽培されてますので、現代ならそこまでの大問題にはならないかと」
「もしかして……先日の日本で起きたバイオハザードを解決に導いたあの薬も?」
「半分はそうですね。デメテルに貯蔵されていた素材と、そちらにいる妖狸達が直接、竜人と交渉して必要な素材を集めて出来た物になりますね」
「なるほど……ありがとうございます」
そこで1人目の質問が終わる。すると、今度は先ほどの人が手を上げて質問を始める。
「面妖の民の方々に質問ですが、空中庭園デメテルはどうしてレルンティシア国の上空にあるのですか? 空島ということは移動できるかと思っているんですが……」
外交官の方の質問……それはどうして、空中庭園デメテルがこの国に存在しているのかという理由。僕が泉の方を向くと、アイコンタクトで『答えろ』と訴えてくるので、僕がその質問について説明をする。
「宙に浮いているので動くのではないかと思われますが……空島には推進力が存在せず、また古代の技術でその場に留まる力が働いています。そのため、その質問の返答としましては……元々、ここの上空に存在していたデメテルの下にレルンティシア国がたまたま建国されたというのが理由ですね」
「なるほど。けれど……さきほどのアリーシャ女王の話からして、レルンティシア国の住人はデメテルの存在を知らかったようですが……? 伝承という形で伝えられていてもおかしくないのでは?」
「この世界は一度、魔王アンドロにカスの手によって大混乱に陥った時期がありました。その際に起きた天変地異によって、デメテルを含むそれらの施設の所在地が不明になり、また伝承とかも途切れたと考えられています」
「そんな事が本当にあったのですか?」
「ありました。その当時を生きている当事者からも、お話を伺っています。もし、他に訊きたいことがあれば、空中庭園デメテルに当事者が控えてますので、そちらに詳しく訊いてもらった方がいいかと」
「分かりました。質問に答えて頂きありがとうございます」
そこで、一度下がる外交官の方。ずると、我こそと言わんばかりに、ツアー参加者たちから手が上がっていく、そして、この後も次々と来る質問に、僕たちは1つずつ丁寧に答えていくのであった。




