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378話 ヴァルッサ族長の昔話

前回のあらすじ「槍をオススメする薫」

―「ガルガスタ王国・演習場 武器庫」―


「それじゃあ……どうして前王と戦うのかだが、簡単な話だ。前王カバタマスは俺の義理の兄だ」


「義理の……兄?」


「ああ。亡くなった俺の姉の夫。だから義理の兄って訳さ」


 そう説明するヴァルッサ族長。姉がいたことに驚きだが、その亡くなられた姉がカバタマスの妻だったとは。


「兄貴は……確かに傲慢だった。けど、それでも国民の事を思いやれる善王だった。その傲慢さも王としての威厳を保つため、国民を引っ張て行くためにも時には大切だってな。俺によく話してたよ」


 懐かしそうに昔の事を話すヴァルッサ族長。しかし、その表情は優れない。


「そうそう……俺の姉にプロポーズしようとした時は面白かったな。いつものような威厳が無くてな。姉もその姿に笑いをこらえながら『私を幸せにしてくださいね』って返事をしてたよ。兄貴も慌てていつものような振る舞いで『当然だ! 何故なら俺は王なのだからな!』ってさ。あの時はこの幸せが……長く続くと思っていた。そう……俺は思っていた」


 先ほどよりも、優れない表情で話を続けるヴァルッサ族長。それほどまでに、この時は幸せな時だったのだろう。その時のヴァルッサ族長も、きっとこの2人がこの国をさらにより良い物にしていく。そう信じていたはずだ。


 けど……その結末は非情にも最悪のシナリオになってしまった。


「カバタマスが変わってしまったのは……お姉さんの死ですか?」


「……そうだ。しかも兄貴の子を身ごもった状態でな。兄貴は……最愛の妻と子供を一瞬に無くした。2人の関係を良しとしない連中の手によってな……」


「それって……!?」


「兄貴にはもう1人、婚約者候補がいたんだ。けど、兄貴は俺の姉を選び、複数の妻を持つ気は無いってことで、そちらとは婚約を解消したんだが……権力に目がくらんだ連中は納得しなかったみだいでな……」


「そんな……酷いのです」


「そうだな……そして、それを知った兄貴は逆上して、その婚約者候補ごと連中らを自らの手で始末。さらには自分の意思に歯向かう奴にはようしゃなく手を掛ける残忍な性格になってな……そこで、俺達は兄貴が持つカーバンクルの魔石を砕き、戦う力を削がれた兄貴を……カバタマスを捕えて、鉱山送りにしたんだ」


「……そんな事があったんですね」


「まあ、アレから結構経ったしな……もう気持ちの整理は付いているがな」


「……嘘です」


「え?」


「もし気持ちの整理が付いているなら、そんな表情で過去の話をしませんよ……」


「……そんな顔をしているか?」


「ええ……僕の知っている女の子と同じ顔をしています。あの子も……両親の話をする時に時折、そんな表情を見せますから」

 

 ヴァルッサ族長の今の顔を見ていると、両親の事を話す泉の顔を思い出す。彼女もまた亡くなった両親の事で、未だに気持ちの整理の付かない1人なのだから。


「だからこそ……カバタマスと一騎打ちをするんですよね? 過去を乗り越えるためにも……」


「……そうだ。魔導士様には悪いが、俺は早々に抜けさせてもらうぜ」


 そう言って、打倒カバタマスの決意をするヴァルッサ族長。


「それでサブウエポン決まったのです?」


「……決まってない」


「せっかくカッコイイセリフを言ったのに台無しですよ……なら、メインの武器で何とか勝てる方法を考えましょうか。ナイフだったら最初に話した関節部分を狙った攻撃しか有効打が無いです。どうにかして火力不足を補わないといけないんですが……」


「水破斬や鎌鼬のように、刃に魔法を付与させるとか出来ればいいのですが……そんな魔石を、ガルガスタ王国で持っていないのです?」


「無いな。風を発生させて吹き飛ばしたり、ナイフを振った時に風の刃を飛ばす物ならあるんだがな……」


「硬質化した肉体に効くかと言うと……難しいですね」


「だよな……」


 ここにいる3人で何かいい案が出ないかを考える。


「内部は弱いから、カーバンクルの魔石の魔法で、呼吸器官を燃やすとか?」


「難しいかな。近距離で使用し続けないといけないし……それにナイフの戦闘は素早く近づいて攻撃して、すぐに離脱するのが基本戦法だし……」


「そうなると……やっぱり急所狙いか?」


「うーーん……そうですね」


「お前さんならどうする?」


「……魔法が使えないこの状況なら目と口を狙います。というより、そこしか有効打が無いでしょうから」


 ヴァルッサ族長の質問に、僕はそう答える。筋肉ダルマ化した相手を制圧する方法など、それぐらいしか無い。ビシャータテア王国を襲撃して来た時の奴らも大砲や……。


「あ、ヴァルッサ族長。予備の武器で提案があるのですが……」


「いいのがあったのか?」


「はい……しかも、僕が許可すれば貸出は出来るかと」


「お前さんの許可が必要? それって……」


「デメテルに常備されている銃です。アレはどうですか?」


 デメテルにある銃という名の兵器。古代の魔法の技術を結集して作られた物であり、軍事施設であるエーオースで作られた。そのため、エーオースにも同じ銃があるのだが……あちらの管理は僕以外にも様々な人が管理者として連なっているので、色々と手続きが必要になる。


 一方、デメテルに関しては僕と泉の一存なので、あそこにある物なら僕の判断で何でも出来る。


「銃……か。確かにアレなら遠距離から攻撃できるし、確か下級ドラゴン相手に戦える道具……申し分の無い威力だな」


「なら、すぐにでも持ってきますね。その間にそのナイフの強化でもしておいて下さい」


「分かった……それと、シエンの花は用意できそうか?」


「大丈夫ですよ。明後日の決闘前には用意できますから」


「そうか。なら、銃の準備を頼む。お前さんが帰ってくるまでにナイフの強化は済ませておくんでな」


「分かりました」


 僕とレイスは一度、ガルガスタ王国から空中庭園デメテルに行き、セラさんとポウに許可を取ってから銃を持ち出し、再びガルガスタ王国へと戻って来る。その後、ヴァルッサ族長にナイフでの戦闘方法の指導、それと銃……普通の銃と分かりにくいので魔導銃(仮)の使用方法を教えるのであった。


―明後日「ガルガスタ王国・ヴァルッサ族長の住むゲル前」―


「よう! 久しぶりだね!」


「お久しぶりなのです!」


 決闘の日……早朝にガルガスタ王国のヴァルッサ族長が住むゲルまで来ると、そこには各族長と彼らを守る戦士、それとムーンラビット狩りでお世話になったヒパーニャさんたちが来ていた。


「久しぶりっす……って、お2人だけっすか?」


「泉たちは衣服の作成とかがメインの仕事ですから……それで、皆さんはどうしてここに?」


「俺達は数日前から他のパーティーの奴らと一緒に前王であるカバタマスを追跡しててな。それで、カバタマスが今いる場所へヴァルッサ族長を案内する役目でここに来たんだ。ヴァルッサ族長も今の居場所を知らないからな」


「とは言っても……昨日からある場所で動かずに座っているだけなんだけどね。だから、昨日報告に行っている奴等から居場所は聞いていると思うけどねえ」


 ゴルゴッサさんとの会話中に、ヒパーニャさんが言葉を付け加える。カバタマスは昨日からそこに留まっているという事だが……どんな場所なのだろう?


「それってどんな場所なんですか?」


「ここの近くにある花畑だよ。カバタマスは花畑の見える位置で岩の上に座って休憩しているみたいなんだ」


「それって……」


「どうかしたのかい?」


「……いえ」


 カバタマスは体の変化と共に自我を失っていると聞いていた。しかし、ヒパーニャさんたちのその話を聞いていると、まるでその花畑の所で誰かを待っているような気がしてならない。


 もし、そうだとしたら、カバタマスは自我を保っていることになる。そうなれば、今回の決闘はかなり不利になってしまう。


「(ヴァルッサ族長……勝てるのです?)」


「(分からない。カバタマスが動かずにジッと待っている理由次第かな?)」


 小声で訊いてくるレイスにそう説明しておく。


「待たせたな」


 ヒパーニャさんたちと話をしていると、ゲルからヴァルッサ族長が出てくる。盗賊のような衣服に短いマントを羽織り、腰には2振りのナイフと魔導銃を帯していた。


「昨日、話した通りだが……カバタマスには俺1人で挑む。薫達には決闘の立ち合いを、他の者は遠くから決闘の様子を見ていてくれ」


 ヴァルッサ族長のその発言に皆が頷き、異を唱える者は誰もいない。きっと、昨日のうちに話し合いを済ませているのだろう。それほどまでに、この決闘に部外者を乱入させたくないというヴァルッサ族長の強い意志を感じる。


 そして、ヴァルッサ族長を先頭に決闘の部隊である花畑へと向かう。その際に見えたヴァルッサ族長の顔は……とても、これから戦う人間とは思えないほどに淋しそうな表情だった。

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