表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
376/503

376話 決闘の準備

前回のあらすじ「デートを満喫した」

―動物公園でのデートの翌日「薫宅・居間」―


「衰弱死……ですか?」


(ああ。薫さんがあの場で魔法による拘束をしなくとも、こいつは何も出来ず亡くなっていただろう)


 デートの翌日の朝、曲直瀬医師から連絡が来て、突如として現れた悪魔は拘束中に死亡した事が伝えられる。


「僕のせいじゃ……」


(死亡解剖の結果、悪魔の体内に多数の損傷が見られた。人間なら多臓器不全を起こしていてもおかしくないレベルだ。最初から手遅れだった訳だ)


「そうですか」


(一応、直哉君にも話ししたんだが……これで『異世界の門』の失敗作を使用すると自身の体に負荷がかかるのが分かった。となると、変な場所に繋がった以外にも、このような要因があった事が立証されたという訳か……って言ってたかな。他の関係者にもその事を話すそうだよ)


「直哉らしいですね」


(ああ、全くだね。それとだが……実は他の場所でも発見されたらしくてね。この後、それの死亡解剖する予定だ。そこで分かった事があったら連絡するよ)


「ありがとうございます。でも、珍しいですね? 曲直瀬さんからこう直に連絡をくれるなんて」


(……ちなみにだが、オラインさんからはそのような症状は無かった)


「……そうですか。ありがとうございます」


(いや、私が出来ることなんて、そのぐらいだからね。これから大変な事になると思うが……気を付けて)


「はい」


 そこで電話を切る曲直瀬医師。ヘルメスの一件が片付いたと思ったら今度は魔王軍とは……。


「一大事なのです」


「そうだね。このままだと被害が大きくなりそうだし……マクベスたちと一度相談が必要かもね」


♪~♪~~


 玄関のチャイムが鳴らされる。誰が来たのだろうかと思いつつ玄関の扉を開ける。


「朝早く申し訳ありません。至急、ご依頼したい事があって参りました」


 そこにいたのはガルガスタ王国の賢者さんたち。こっちに来てまで依頼しに来るなんて、よっぽどの事が起きたのだろう。


「ご依頼って?」


「前王カバタマスの討伐のお手伝い……いえ、決闘のお手伝いをお願いします」


「……デュエルのお手伝い?」


 日本には決闘罪というのがあって、そのお手伝いとかは……とかくだらない事を考えつつ、賢者さんたちと一緒にガルガスタ王国へと向かうのであった。


―クエスト「デュエル・スタンバイ!」―

内容:前王カバタマスとの決闘のお手伝いをしましょう! 詳細は賢者たちとヴァルッサ族長から聞きましょう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―しばらくして「ガルガスタ王国・大型ゲル内」―


「よう! 来てくれたか」


「来ましたけど……」


「平和なのです?」


 ヴァルッサ族長がいるこの大型ゲルまで、賢者さんたちと一緒に街中を歩いて来たのだが、特に住人は普通の生活をしており、凶悪な罪人が脱走中という雰囲気が微塵も感じられない。


 前王はその暴虐性から炭鉱送りにされた罪人であり、その結果、王国という名前があるのに、族長が国を運営するというヘンテコな状態になっているのだが……。


「説明してやる。とりあえずそこに座ってくれ」


 僕はヴァルッサ族長の前の座椅子に座る。ヴァルッサ族長の様子を先ほどから伺っているのだが……どうも緊急性というのを感じられない。周りの人たちからもそのような雰囲気を一切感じられず、いつも通りの仕事をしているという感じである。


「あの……緊急事態なんですよね? でも、雰囲気的にそう感じられないんですが?」


「緊急事態は合っている。が、国が滅ぶとかそこまでの事態にはならないで済んだんでな。だから、こうやって落ち着いているって訳さ」


「どういうことなのです?」


「レイス譲の言いたいことは分かる。まず、最初にだが……数名の族長が裏切って元国王を脱獄させた。先日の会議の際にな」


「つまり、元王様であるカバタマス派の人たちによるクーデターってことですか」


「そうだな……が、その族長達はそのカバタマスに殺された」


 その一言に違和感を感じる。自分を助けに来た人たちを殺すなんて、よっぽどの理由が無いとそんな馬鹿な事はしないだろう。


「監視していた奴らからの報告でな……シュナイダーと同じ道を辿ったそうだ。しかもカバタマスは既に理性を失っている」


「それって……魔族による仕業ですよね?」


「だろうな。不自然な筋骨隆々とした体になっていたのは確実だ。まあ……いつ、どのようにしてカバタマスに接触したのかとか色々分からないところがあるんだが……どちらにしても、カバタマスは今1人で、この王都を探して平原をさまよっているそうだ」


「そうなると……周囲の村に被害が起きる前に叩くつもりですね」


「……早々にケリを付けたい。お前さんらの手じゃなく俺の手でな」


「族長としての使命だからですか」


「だな。だから、ここは俺が自らカバタマスを倒し、この国の代表としての威厳を保たねばならない……面倒だがな」


 そう言って、溜息を吐くヴァルッサ族長。本来、ガルガスタ王国の法に乗っ取って処罰するなら、他の国と同様に兵士たちを総員して対処するし、族長の使命だから自ら戦うとヴァルッサ族長は言ってるが、そこまでして戦わないといけない理由という訳でもない。これはガルガスタ王国の賢者さんたちからこっそりと伝えられた。


 どうやらヴァルッサ族長自身に何か理由があるらしいのだが……それは当の本人に訊かないと分からないそうだ。


「それで、依頼の内容だが……今回の決闘だが無策で戦う訳じゃない。しっかりと装備を整えてから挑むつもりだ。薫には、使えそうな素材と、攻撃用の魔石の提供……後は戦闘のアドバイスをして欲しい。もちろん報酬は払う」


「いいですけど……期間は?」


「3日。奴はゆっくりだがこちらに向かっている。そこから4日目にはこの近くまでやってくるから、そこで奴に決闘を申し込む……それで終わりだ」


 ヴァルッサ族長は『終わり』というワードに、どこか含みのある言い方をする。どうやらカバタマスとヴァルッサ族長の間には何かしらの因縁があるようだ。


「分かりました。そうしたら、早速武器と防具の作成に必要な素材を用意します……それと魔石ですが、マグナ・フェンリルさんからもらったジェイリダの魔石とフェニックスから採れた融合の魔石の2つをお渡ししますね……そして、明日は丸1日使って戦闘訓練。3日目は休息日という時間割でいいですか?」


「ああ、それで構わないぜ。あ、そうだ……すまねえが俺とカバタマスの決闘の見届け人をお願いしてもいいか。仮に俺が負けたら、カバタマスを倒してほしいしな」


「自分はいいですけど……レイスは?」


「問題無いのです」


「なら、俺は武器と防具の製作を頼んでおくから素材を、ここに持ってきてくれ……あ、ゴールドドラゴンやシルバードラゴンの素材は止めてくれよ。各国からブーイングが来るんでな」


「分かりました。そうしたら使えそうな素材を持ってきますね」


「それとだが……もう1つ。お前さん達に頼みたいんだが……これは出来たらでいい」


「何です?」


「……シオンという花を採って来てもらいたい。もしくはこれに似た花だ」


「シオン?」


「こんな花なんだが……これだと白黒で分からないが、細い茎の先にたくさんの薄紫色の繊細な花を咲かせるんだ。ここでも咲くんだが……時期的に咲いて無くてな」


 ヴァルッサ族長は近くの棚から、シオンの花が映った写真を見せてくれる……そこには、ヴァルッサ族長に似た狼の耳を持つ獣人の女性も一緒に写っており、その人がシオンの花を手に持っていた。


 ちなみにグージャンパマには花屋というお店は存在しない。それなら生活に役立つ薬草や野菜が優先されるからだ。貴族の家やお城とかにも飾られていたりするのだが、それらは全て敷地の庭で育てた自主栽培した物や、外で採取した物である。


「この花ですか……」


「無理にとは言わない。本物のシオンではなく、似た物でもいいから薫の方で入手出来ないか? あっちこっち行っているお前なら見た事あるかと思ったんだが……」


「うーーん……地球の園芸店とかならもしかしたらですけど……」


 ここに写っている花と似た物なら地球でも見たことがある。しかも名前も一緒だったりする。


「そうか! なら、それでいいから入手を頼みたいんだが……」


「分かりました。そうしたら他の要件が終わってからにでも、シオンの花が手に入らないか調べてみます」


 今日の午後にはデメテルでのプレゼンについて、アリーシャ様との打ち合わせがある。その後なら時間に少し余裕があるので、急ぎじゃなければそうしてもらいたかったりする。


「それでいい。もちろん報酬は上乗せするからな」


「分かりました。それでは一度失礼しますね」


 僕とレイスはヴァルッサ族長に挨拶をしてゲルを後にする。何の素材にするか悩んだが、下級ドラゴンの素材、それと低グレードのオリハルコンを持ってくるとしよう。


「薫……今回のヴァルッサ族長の依頼って少し変ですよね?」


「そうだね。でも……自分の手でケリを付けるというのは変わらないと思うけどね」


 レイスの質問にそう答える僕。ヴァルッサ族長は気付ていないのかもしれないが、その両手が強く握っていた事、そして時折、切ない表情を浮かべていたことを思い出すのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ