373話 動物公園でのデート
前回のあらすじ「パーティを楽しんだ!」
―翌日「隣県の動物公園・動物園エリア」―
「あ、この動物かわいいです!」
「かわいい……どちらかというとカッコイイじゃないかな?」
「そうですか? ネコみたいで可愛いですよ? ほら! この肉球とか……」
「それは……まあ、ネコ科の動物だしね……ホワイトタイガーは」
ユノの初めて見たホワイトタイガーの感想について相槌を打つ僕。確かに可愛いと言われれば、そうかもしれない。今も一生懸命、窓を引っかき僕たちを捕まえようとする姿はカッコイイというには少々難しい。
多次元総合会議の翌日、僕はユノと一緒に遊園地が併設されている動物園にやって来た。2人っきりのデート……とはいかず。
「獣人である私からしたら、少しばかり心苦しいですね」
「獣人からすれば、何か自分が捕まっている気分なのです?」
「そうですね……何か捕まった気がしますね」
護衛のシシルさんと僕のパートナーであるレイスも一緒である。
「シシルさんはしょうがないと思ってましたけど……レイスも来るなんて驚きかも。こんな時っていつもは泉たちと一緒にグージャンパマに行っちゃうし」
「あちらもデートなのです」
「ふふ♪ それは仕方ないですね」
泉とカーターもデートに行ってるのか……フィーロとサキが邪魔をしていないか気になってしまうのだが。
「あっちも賑やかそうだね」
「そうでしょうか? 泉たちのデートを邪魔しないようにフィーロとサキも配慮すると思いますよ。ねえ、シシル?」
「ご安心して下さい。私はあくまで護衛です。口出しせずに草葉の陰から応援させていただきますので、こちらはお気になさらず」
「私も静かにしてるのです……あ、こっちにライオンがいるのです」
「え、それは気になりますね……確か百獣の王って聞いていますが、かなりお強い姿をしているのでしょうか……?」
ホワイトタイガーが展示されている檻の近くにライオンの檻があり、その動物がどのように呼ばれているのかを知っているシシルさんが興味も持ち、ポケットに隠れているレイスを連れて移動する。
彼女は護衛である。彼女の傍から離れるわけにはいかないので、僕とユノもその後に続く。さらに、その近くにはジャガーも展示されていてそちらへとシシルさんが移動する。そのため僕とユノはさらにその後を歩く。
「へえー……私と似たような動物がこんなにも……」
帽子で隠した自分のケモ耳を帽子越しにさするシシルさん。ネコ科に近い動物の獣人である彼女からしたら、ここにいる誰よりも興味のある動物たちなのかもしれない。
「(薫……)」
「(うん?)」
ユノが僕の腕を指で突っつきながら声を掛けてくる。僕がそちらに振り向くと、ユノが持つピンクを基調としたМTー1の画面を見せてくる。そこにはメール機能を使って書かれた文面が載っていた。しかし、あちらの字で文章が書かれていて読めなかったので、僕はアイテムボックスからセシャトを取り出してその文章を確認する。
そこに書かれている内容……『シシル……すっかり夢中ですね』と書かれていた。僕も同じように自分のМTー1を使って『そうだね』と返事をする。
獣人であるシシルさんの近くで喋ると、小声でも何を話しているのか聞こえてしまう。そこを配慮して僕とユノはメール機能で会話を続ける。
『シシル。いつ気付くでしょうか?』
『あの調子だと、しばらく気付かないんじゃないかな……』
シシルさんがいつ気付くのかと、ワクワクしながらメール機能で会話をし続ける僕とユノ。
「あっちには世界一凶暴な鳥であるヒクイドリが展示されているのです!」
「せ、世界一? それは一体……」
レイスの話を聞いて、急いでそちらへとシシルさんが向かう。
『ふふ! 本当に気付いていませんね!』
『ここまでとは思っていなかったけどねw』
主人そっちのけで動物園を楽しむシシルさん。そんなシシルさんの姿を眺めつつ、僕とユノも動物園を楽しんでいくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―しばらく時間が経った頃「隣県の動物公園・遊園地エリア手前」―
「申し訳ありませんでした……!」
「気にしなくていいですよ。僕とユノも楽しめたので……あ、ソフトクリームどうぞ」
近くの売店で売っていたソフトクリームをユノとシシルさんに手渡す。あの後、大体の動物を見た所で、主人そっちのけで楽しんでいる事に気が付いたシシルさん。先程まで顔を真っ赤にして慌てていて、ようやく落ち着いた所だ。
「いや〜……楽しかったのです!」
テーブルの上に置いた鞄の影に隠れながら、頼んだチキポテを食べながら笑顔を見せるレイス。レイスもシシルさんが主人そっちのけにしている事に途中から気付いていたが、僕たちの意思を悟ったようで、何食わぬ顔でシシルさんを誘導していたりする。
「お二人も何か仰ってくれればいいのに……」
「まあ、楽しんでたからね」
「ですね。あなたの可愛らしい姿……とても良かったですよ」
ユノのその一言にガクッと肩を落とすシシルさん。僕とユノはシシルさんの楽しそうな姿を見つつ、しっかり動物の餌やり体験や、動物と触れ合ったり、一緒に写真を撮ったりと楽しんでいるので問題ない。
「まあ……シシルさんが気付くまでに、こんなに掛かるとは予想外だったかな……」
「ぐっ!!?」
「私は想定内でしたね。一番最初にデートしたあの遊園地でも、1人で大はしゃぎしてましたから」
「ぐはっ!!?」
一番最初……県内の遊園地でユノとデートしていた時からいたんだ……あれ? あの時も車で移動していたけど、どうやって付いてきたんだろう? 自宅からあの遊園地まで1時間ぐらい掛かるとは思うんだけど……。
「シシルさん。今日は一緒に車に乗ってここまで来ましたけど、あの時はどうやって付いて来たんですか?」
「それは秘密です……ん、すいません。ここから離れましょう」
先ほどの落ち込んでいた様子から、いつもの雰囲気……ビシャータテア王国の隠密部隊シャドウとしての仕事モードに戻るシシルさん。その視線を追うと、こちらを遠くから眺める若い男性のグループがいた。
ゴールデンウィークだから友達と一緒に遊びに来ているのだろう。楽しそうな雰囲気で会話をしているのが見える。そして、その中の1人がこちらを仕切りに気にしており、仲間たちに教えている。
「面倒になる前に行きましょう」
「そうですね」
僕たちはそそくさと出たゴミを片付け、彼等から距離を取ろうと移動を始める。僕たちが移動するのを見て、声を掛けようと慌てて1人の男性が迫ってくる。
「そこを曲がって下さい。人混みに紛れましょう」
ゴールデンウィーク期間ともあって、大勢の人が園内を行き交っている。その中に紛れ込んでしまえば、見つけるのは至難の業だろう。
人混みに紛れて、動物園エリアから遊園地エリアに移動する僕たち。人混みが少なくなった所で、後ろを振り返って男が付いて来ていないかを確認する。
「撒けたようですね」
「はい。声も聞こえなくなりました」
無事に撒けた事に安堵する僕たち。
「そうしたら早速、アトラクションに乗りにいくのです! で、最初に何のアトラクションに乗るです?」
「あ! アレはどうですか? 浮いて落ちる感覚面白そうですよ!」
ユノが指差す方向にはタワー型のライドアトラクションがある。特に怖いとか、苦手という訳では無いので、そのアトラクション乗るために列に並ぶ。
「ここにある2つのジェットコースターに乗りたいですね! 特にこの木製ジェットコースターとか!」
「楽しそうですね……私はこの観覧車やメリーゴーランドに乗ってみたいですね」
「……身長制限。私はどうなのです?」
列に並びながら、次の乗るアトラクションを相談する3人。すっかりデートという趣旨から外れてしまっている。
「まあ……楽しんでいるからいいか」
その後、タワー型アトラクションで独特の浮遊感を楽しんだ僕たちは、さらなるスリルを求めて木製のジェットコースターへと移動する。
「木製のジェットコースターからでいいの?」
「はい! シシルの乗りたいアトラクションは基本的にほのぼのとした乗り物なので、気持ちを落ち着けるために最後にしようかと」
「ユノ様がそう仰るなら」
「私も問題無いのです!」
僕の質問に3人共答えてくれる。もはやデート要素がどこかに行ってしまった気がする。
「うわ! 何、あの3人組? モデルの集まりかな?」
「そうじゃないかな……あれ? 私、あの金髪の女性を見た気が……」
通り過ぎた女性から思わぬ発言が聞こえた。もしかしたら昨日の多次元総合会議の中継に映ったユノを見たのかもしれない。本人は何も発言せず、ただ静聴していたのでバレないと思っていたが……。
「訊かれた時用に、適当な返答を用意しとかないとな……」
とりあえず人違いと納得出来るような返答内容を、3人が楽しそうに会話している中、僕は1人考えるのであった。




