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371話 秘密のパーティー

前回のあらすじ「空中庭園へご招待のお知らせ」

―多次元総合会議後の夜「コンサートホールに隣接するビル・バンケットルーム前」―


「本日はようこそおいで下さりありがとうございます……さあ、主人であるショルディアがお待ちかねですよ」


 会議が終わったその夜。面妖の民としての仕事を終えた僕たちは既に始まっているパーティーに参加するため、ユノたちと一緒にホールに隣接する大型高層ビルの中にあるバンケットルームの前に着く。


 前から話題に上がっていたこの親睦を深めるという目的のパーティー。この部屋の中には既に僕の事を知っている人たち……つまり組織の方々とグージャンパマの代表たち、そこに菱川総理やシャルス大統領が既にいるはずだ。


 ちなみにグージャンパマの代表の方々は、一度あちらの世界に帰っている。その後、バンケットルーム内に設置された異世界の門(ニューゲート)を使って入室をしていると、僕の後ろにいて、泉のエスコート役のカーターから聞いた。


「……何か落ち着かない」


 一方、僕もユノと一緒に室内へと入る予定なのだが……しっかりメイクを施し、ウィッグを用いて黒髪の長髪にした後、この前の青のドレスに身を包み、肩には白のショールを掛けたいかにも女性らしい服装をしているのだが……その姿を鏡で見たとき、本当に自分なのかを疑ってしまったほどの美女だった。


「あれ? 中の人って全員僕が男だって知ってるんだよね……この姿って意味が無いんじゃ?」


 ここでこの服装でいる意味が無いのではと疑う僕。そもそも妖狸としてのお面も外しているし……。


「さあ、入るのです! 薫が逃げる前に!」


「ですね!」


 ユノとレイスが僕の腕を掴み、そのままバンケットルームへと引きずり込もうとする。しかも案内役の人も扉を開けようと、扉の取っ手に手を掛け、2人の後押しをする。


「待って!? 戻らせてーー!!」


「ヘルメスの対処で一杯だったもんね薫兄……そこだけはあいつらに感謝ね」


「全くッス……気づくの遅かったッスね」


 戻ろうとして後ろを振り向く僕に、泉とフィーロがどす黒い笑みを浮かべる。その隣にいるカーターは静かに目を閉じて僕に対して憐みを示し、サキは満面の笑みで何か面白い物を見るかのような目で見る。ああ……2人も気付いていたけど、敢えて言わなかったのか……。


 僕が顔を前に戻すと、案内役の方が静かに扉を開けていく。ここまで来たら覚悟を……笑われる覚悟を決めなければ。


「……もうどうにでもなれ」


 僕は諦めて、ユノの手を取りながらゆっくりとユノとレイスと一緒にバンケットルームへと入っていく。既に親睦会は始まっており、一斉にこちらへと視線が向けられる……ことは無かった。話に夢中で僕たちが入った事に気付いていないようだ。


「薫、ユノ。こっちだ」 


 そこに、ユノの兄であるアレックス王子が声を掛けてくる。僕たちはそのまま静かにそちらへと歩いていく。


「ふむ……これだけの美女をメロメロにさせるとは、我が娘ながら恐ろしいな」


「サルディオ王。その発言は実の娘に対して失礼では?」


「はははは! まあ……そう言った方が薫も楽ではないのか?」


「こんばんは王様」


 僕とサルディオ王が話をしていると、泉たちもサルディアオ王に挨拶を交わす。


「うむ。カーターそしてサキもご苦労……お前達は国益とか気にせず、このパーティーを楽しむといい。そこは我とアレックスの仕事だからな」


「ありがとうございます陛下。お言葉に甘えてそうさせてもらおうと思います……泉も慣れない状況でしょうから」


「ありがとうございます。少し緊張してて……」


「構わないさ。むしろ……あそこにいる2人のような気持ちでいいと思うぞ」


 そう言って、カーターが指差す方向には既にフィーロとサキの2人が、他の精霊たちと一緒に談笑しながら料理を食べている。


「あれ? レイスがいない……?」


「泉。レイスならあっち……ソレイジュ女王と一緒に挨拶してるよ」


 レイスが皆と一緒にいないのを不思議がった泉に、レイスがどこにいるかを教える。レイスは会場内に入るとすぐに、母親であるソレイジュ女王へと飛んでいき、パーティーに参加している方々へ挨拶を交わしていく。


「レイスはお姫様であり次期女王だからね……まだまだソレイジュ女王も現役だから、すぐに代替わりとはならないけど、今から母親の傍に付いて国益のために仕事をしていきたいんだって」


「大変だね」


「……まあ、僕も変わらないけど」


 僕はそう言って、こちらへと近付く男性に視線を向ける。


「まさか、さらに美女のグレードが上がるとはな……一瞬誰か分からなかったぞ」


「菱川総理……今日の会議お疲れ様でした」


 僕は菱川総理に慰労の言葉を掛けてから深く頭を下げる。


「これだけの美女に労ってもらえるとは光栄だな……」


「男です」


「奇麗にドレスを着飾っている君を男性として見るのは難しいがな……とりあえず、飲み物を取ってきたらどうだい?」


「そうですね」


 菱川総理の助言に従って、飲み物を片手に取り口に含む。その際にパーティー会場の奥の方を見ると数組の男女が音楽に合わせてダンスを踊っている。


「結構、適当に踊ってますね」


「まあ、別の世界の人間同士が踊ってるからな……その時の雰囲気や、あそこのペアのように教えたりとかが普通だろう」


「でも……私達はショルディア夫人にダンスを教えてもらっていたんですが、それって意味が無いことに……」


「ここではユノ様の言う通りなのだが……もっと大きい物になると、踊る事にもなるかもしれないから覚えといて損は無いはずだ。少なくとも君達なら尚更な」


「ここにいる他の人と比べたら、そんな権力は無いんですけどね」


「……どうだかな。何となくだが、まだ何かとんでもない情報を隠している気がするのだが」


「気のせいですよ……本当に」


 僕はそう言って、持っていた飲み物を口にする。


「知ってるか? 何か秘密を持っている者がこうやって質問されると、その言葉を飲み込むために飲み物を自然と飲むそうだぞ」


「それ知ってますよ……本当かどうかは知らないですけど」


 菱川総理の追及に、僕は特に気にしない素振りで返答する。実際には魔国ハニーラスの王家と血縁関係があるかもしれない。というとんでもない秘密を持っているのだが……。


「こんばんはお嬢さん……それとも薫さんと呼んだ方がよろしいかな」


 すると、1人の男性がこちらに話しかけてくる。ネットニュースとかで見たような顔だが……。


「ノービリス社の御曹司様が一番最初とは……いいんですか?」


「本来なら、若輩者の私は少し後でお話を伺おうと思っていたのですが……どうも気付いていないのか、それとも話に夢中になっているのかで誰も行こうとしませんからね。あ、ショルディア夫人には断りを入れましたよ」


「ノービリス社の御曹司……レオ・エギエネスさん?」


「ええ。その通りです」


 菱川総理との会話を聞いて、思い出した名前を告げてみたが……正解のようだ。そして、ショルディア夫人に断りを入れると話していたので、組織のメンバーで間違いないだろう。


「薫。こちらの方は?」


「エギエネスグループ傘下のノービリス社の現社長のレオ・エギエネスさん。エギエネスグループ会長の息子さんなんだ」


「私の事をご存じとは……大変うれしく思います」


 そう言って、手を差し出すレオさん。


「薫さんはこのような場所でのマナーについて詳しいと思われますが……そのような意味が無いことをご了承ください」


 レオさんの言うマナー……目上の人が先に握手を求めるまで、こちらは手を出さないという事を言っているのだろう。レオさんが大手企業の社長、対して僕はグージャンパマにあるいくつかの施設の管理者という立場であるので、そこに優越を付けるとなるとこちらの方が上とも周囲から思われるかもしれないが、僕としては先に握手を求められる方が気が楽である。


「分かってます。それに日本人なので、どうも握手の方は慣れてなくて……」


 そう言って、僕はレオさんと軽く握手する。その後、ユノも握手をして挨拶を済ませる。


「でも、僕が一番でいいんですか? 僕より隣にいるサルディオ王やそのご子息に挨拶する方がいいと思うのですが……」


「いえいえ。そもそも今回の異世界の発見をしたのは薫さんです。一番に挨拶するのは当然ですし……それにビシャータテア王国の姫であるユノさんと婚約関係……それに色々、交友関係もありますから……むしろ、先に挨拶しないとそちらの方々から鋭い目で見られかねないですから」


「……そんな感じなんですか?」


 僕は振り返って、レオさんの言ったことが本当なのかをサルディオ王と菱川総理に訊いてみる。


「当たり前だろう」


「俺もだ。そもそも両世界の要人とここまで親しい間柄なのは君達ぐらいだからな? 他の奴らは何かしら利益とか考えているのに……」


 レオさんの意見に菱川総理とサルディオ王の2人が同意する。僕もそれなりに利益とか考えているつもりだが……。


「今後、我が社もこの近くに拠点を建てます。何かお手伝いできることがあれば気軽のご相談下さい」


「あら? これで話を終わりにしてもよろしいのですか? 薫とより良い関係を気付くならもう少しお話しされても……」


「ユノさんの仰る通りなのですが……」


 そう言って、レオさんは後ろを振り向く。すると、僕が会場に来た事に気付いた参加者たちの視線が一同にして向けられる。


「これ以上は、他の組織のメンバーから目を付けられますから……今日の所はこれで」


 そう言って、僕に名刺……のような物を手渡す。名刺のように名前や役職名に連絡先とか書いてあるのだが、色が黒とはかなり珍しい……。


「これは本当に信頼できる相手にしか渡さない物でして、これを我が社の社員に見せれば、私や私の側近に優先的に取り次いでくれるので必要な時にどうぞお使いください……それでは」


 そしてレオさんはその場から離れていく。ノービリス社は父さんの会社と同じ調度品や、ファッション関係も扱っていたはず、グージャンパマの代表へのお祝い品とか相談するのに丁度いいかもしれない……しかし。


「アレはなかなかの曲者だな」


「……ですね」


 サルディオ王の意見に同意する。恐らく、レオさんの狙いは僕だった。僕がサルディオ王と菱川総理と挨拶をし、そして飲み物を片手に取ってパーティーへの準備が整ったらすぐにやって来たのだ。恐らくはタイミングを見計らっていたのだろう。


「僕と関係を持てば、それはすなわちサルディオ王……引いてはビシャータテア王国との関係を持つことになりますもんね」


「しかも、印象が残りやすい一番最初を狙っていたしな」


「ですね」


「それより薫。次の方がお待ちのようですよ」


 ユノに言われ、僕は次の相手と話をするために手に持っていた飲み物を口にして喉を潤すのであった。

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