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370話 ヘルメスの最後とこれからの予定発表

前回のあらすじ「ヘルメスを一網打尽」

―「コンサートホール・ホール内」―


「……という理由より、この世界にも魔力という未知の物質が存在することが判明しています。ただし、この物質は……」


 各国の代表が見つめる中で、直哉があちらで得られた情報を発表している。会議は予定より大幅に遅れて開始されることになった。既にコンジャク大司教のグージャンパマについての発表は終わっていて、僕の前にいる菱川総理とシャルス大統領の近くの席で小声で話し合いをしている。


 現在、僕はグージャンパマの代表の護衛の一人として代表たちの後ろで待機している。その隣にいる泉は緊張した面持ちで、直哉の発表を見ていた。


「そんなに緊張してどうしたの?」


「いや……何か視線が痛いというか……」


「しょうがないわよ。だって、あのヘルメスを完全に潰した張本人たちがいるんだもの。あそこの国とか軍事国家だから、脅威となる私たちが怖いんじゃないかしら」


 そう話して、僕は先程からこちらを警戒している彼らに向けて笑顔を見せる。狸のお面越しなので、恐らく僕の口元が釣り上がったのに気付いた彼らは、慌てて視線をこちらから逸らしてくれた。


「今の妖狸の姿を見て、結構な数の人が視線を逸しましたね」


「でも、まだこちらを見てる人達がいるのです」


「奥の席の奴らなんて、気にせずに見てるッス」


 泉とは反対の方にいるユノが、レイスたちと会話をしながら、こちらを除いている奴らが他にいないかを確認する。まあ、特に何かをする訳では無いのだが。


「ヘルメスか……呆気ない終わり方だったね」


「そうだね……」


 泉の呟きにそう答える僕。ヘルメスの件について待合室で菱川総理にショルディア夫人、シャルス大統領の3人から話があった。


 あのバイオテロの後、拿捕した研究船をくまなく調査した所、船長室のパソコンからヘルメスに資金提供をしていると思われるリストが発見された。それを元に各国が密かに資金提供者たちを捕らえていき、さらにその資金提供者を取り調べをして、ヘルメスに関わる組織を抑える。そして、その組織の組員から……という具合で芋づる式に捕らえる事に成功。また、使用されていた口座も凍結させたため、人員も資金も不足したヘルメスは、既に虫の息だったらしい。それこそ嘘をついてバイトを募集する位に……。


 それを踏まえ、今回の襲撃は、恐らく不足してしまった資金不足を解決させるために、各国の代表を人質に身代金を要求するのが狙いだったのでは無いかという話だった。


「ゲームのように、強力なラスボスと対峙しなくて良かったから、いいんじないかしら?」


「妖狸……そのラスボスを先程、倒しましたよね? 面妖の民の皆さんならともかく、普通は無理ですよ?」


「それは……そうなんだけど……」


 確かに今回の相手の方が厄介極まりない……はずだった。口から某怪獣映画のように口から光線を放ち、しかも飛行能力と再生能力を有していた。そんな奴にミサイル攻撃が効くかどうか、地上からの戦車による砲撃が届くのか……そう考えると勝てるかどうか怪しい存在だろう。


 しかし、こちらには対魔族専用武器の四葩による弱体化攻撃と、あの巨大鬼より優れた飛行能力。そして多種多様な魔法……大勢の市民が巻き込まれる危険性を除けば、こちらの方が歩があったりする。しかし、それ以上に有利な点が1つある。


「あのスパイダーやクラーケのように高い知能を有していなかった。本来なら足元に広がる住人を人質に取られたらお終いだったしね」


 僕は巨大鬼の知能は低いと判断している。1つは先ほど述べた住人を人質に取らなかったこと、2つ目は、空を飛んでいるカーターたちを口からのビーム攻撃している際に偏差射撃を一向にしていないかったこと……この2点からして、あれらの能力と引き換えに知能が低下してしまったのかもしれない。


「知能が低いアレだったらスパイダーやクラーケの方がラスボスには相応しかったかもね」


「それは……納得かも」


 僕の意見を聞いて、聞いていた皆が頷く。今回の巨大鬼が姑息な手段を取る知能が無かった事……これが一番の勝因である。


「……以上になる。今回、発表した内容は一般にも公開するので、見返したい場合はそちらを確認して頂きたい」


 直哉の発表が終わったようで、各国の代表たちから拍手が巻き起こる。無限のエネルギーの可能性を持つ魔力がどれだけ自分たちに恩恵を与えるのかが、これで理解されただろう。


 その後も、地球における魔石の取り扱いについての案や、それらを管理する新組織設立案、異世界グージャンパマの社会形式などなど、様々な議題や発表が粛々と進んでいく。そして会議も終わりに近づく……が、最後にトラブルが起きる。


「ぜひ、妖狸にも何か発表して欲しいのですが?」


 閉会間際に、どこかの国の代表がそんな発言をする。そして、いくつかの国の代表たちも、その意見に賛同していく。


 僕としてはこのような場に立たずに、ひっそりと聴いているつもりだった……しかし、彼らの意見もごもっともで、そもそも異世界との交流を一番に始めたのは僕である。それなのに発表しないなんてありえないというのも頷ける意見である。


「どうするの妖狸?」


「……菱川総理。アレを発表してもいいですか?」


「うん? アレってなんのことだい?」


「デメテルの件です」


「ああ……あれか。それは確かに……」


 菱川総理がすぐさまショルディア夫人とシャルス大統領の2人にも伝える。それを聞いた2人からも許可を頂いたので、それらを発表するべく壇上へと向かう。


「……」


 その間に向けられる大勢からの視線。異世界と初めて交流することに成功した先駆者としての尊敬の眼差しだったり、奇妙な格好をした美女としての好奇の眼差し……それらが入り混じった眼差しを感じつつ壇上へと上がる。


「皆様、初めまして……面妖の民のメンバーであり、リーダーを務めています妖狸といいます。この場で本名を名乗らない事をお許しください」


 ここで一度ゆっくりと頭を下げる僕。自己紹介もあるが、実際には何の発表の準備もしていない僕が、一度頭の中を整理するためのチョットした時間稼ぎだったりする。


 とは言っても、本当に何の準備もしていないので、ここは長く話さずに短く手早く終わらせるように話すとしよう。


「さて……皆様から何か発表して欲しいとのことですが、私自身が人前で発表するという事に慣れておらず、今回の発表も他の人にお任せするつもりでした。そのため、大した話題も用意していないのですが……1つだけ、私の方で予定しているイベントをこの場での発表とさせていただきます」


 僕が主催するイベントと聞いて、ホール内がざわめきだす。


「皆様の中には、本当に異世界が発見されたのかと疑われる方がまだいるかと思われます。そこで、それを解消するための一環としまして、私が管理している異世界の施設へご案内させていただきたいと思います。とは言っても、全員は無理なので人数は絞らせてもらうつもりです」


 それを聞いて、ざわめきがさらに大きくなる。中には『どうやって選考するのだ!』と言っている人もいる。


「選考方法ですが……今回の場所は一部レルンティシア国が管理する地でもあるので、施設見学の希望者からそちらにいらっしゃるアリーシャ様と選考して決めさせていただきます」


 僕がそう話すと、アリーシャ様は立ち上がりその場でお辞儀をする。こちらの世界でラエティティアの代表として務めていたアリーシャ様……それはすなわち、こちらの世界に精通している人物が選考メンバーにいるということである。こうしておけば、最初からバツが悪い連中は希望しても通らないと思って、大人しく引き下がるだろう。


 そして、その思惑は当たったようで、この話を聞いた直後にいくつかの代表団の方々の表情が暗い物になる。


「ご案内する施設の名称ですが……空中庭園デメテル。失われた古代グージャンパマの技術を結集させて作られた施設です。名前の通り上空に浮かぶ浮島に作られた庭園であり、そこにしかない珍しい植物もご覧にいただけます。また、そこに行くまでの乗り物も少し特殊な物になっていますので、それだけでも一見の価値はあるかと思われます」


 ざわめきが止まらないホール内。僕の伝えたいことは伝えたのでここで話を締めていく。


「一般への情報発信として各種メディアの方々からも希望者を募る予定ですので、異世界の取材をされたい方は奮ってご参加いただければと思います。また、見学の日時ですが今月の下旬から来月の上旬の予定となります……以上、こちらを私からの発表とさせていただきます」


 僕はそう言って話を締め、壇上を後にする。この発表は好評だったらしく、ホール内から拍手が起こる。


「お疲れ様でした妖狸」


「ありがとうございますユノ様」


 席に戻って来た僕を労うユノに、素直に感謝を述べる。その後、菱川総理の方で閉会の挨拶が行わて、この多次元総合会議は一先ずの終わりを迎えるのであった。

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