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369話 戦闘終了からの後始末

前回のあらすじ「あっという間に切り伏せる」

―「コンサートホール・物置小屋」ヘルメスのリーダーの視点―


「後、3分……」


 用意した化け物が現れてから30分。会場内が騒がしくなっている。中には、ここからすぐに避難しようと叫んでいる奴もいる。


 ここまでは予定通り……後は、あの化け物から避難する際に逸れた要人を攫って、身代金を脅し取れば……。


「その前に……こいつを置いとかないとな」


 特製の爆弾を取り出し設置する。仮にあの化け物が討伐されても、この爆弾を使って騒動を起こせばどうにでもなる。ボスの座にいるとはいえそれだけの仕事はこなしてきたのだ。姿の見えない服を着用し、さらに匂いや音さえも消せるように完璧に仕上げている……これで見つかるなど……。


「おい」


 後ろから聞こえる声に振り返る……が、すさまじい寒気と共に、俺の意識はそこで途絶えるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「コンサートホール・物置小屋」マナフル視点―


「うむ……これでよし」


 姿を隠してこそこそしている奴を、一気に氷漬けにしてやったが……あまりにも手ごたえが無い。


「つまらんのう……」


 薫達が警戒している輩なので、それなりに楽しめるかと思ったが、雑魚ばっかりである。


「あら? 終わっていましたか」


「遅かったのうメストカゲ?」


「ここでやりあうつもりですか……このメス犬?」


 妾の発言に反応して、すぐに切れるメスドラゴンのハク。やれやれじゃ……。


「そんなことより、これはどうするのじゃ?」


「こちらの世界の人間が引き取るそうですよ……私はゴルド様に報告に戻りますので」


「仕事熱心じゃのう……っと、妾も戻るか」


 氷の彫刻となったそれを置いて、薫の(つがい)であるユノのところまで戻るのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「ゴルフ場・12番ホール」―


「それで……本当にやったのかな?」


 泉が体を真っ二つにされた巨大鬼の死骸を前に、僕の背中に隠れながら確認する。本来なら彼氏であるカーターの背中に隠れたいところなのだろうが、その彼氏は巨大鬼の死骸の近くで生死の確認しているのだからしょうがないだろう。


「流石に死んでいて欲しいんだけど……」


「(多分、死んでるよ。死人特有の臭いがするから)」


 僕の横にいたシエルが巨大鬼が死んでいることを告げる。カーターとシーエさんも互いの契約している聖獣と何か会話をしているのだが……きっと、同じ内容を聞いているのだろう。


「どうやら、これで終わりのようですね」


「呆気なかったですね」


 そう。あまりにも歯ごたえが無く、呆気ない終わりである。これならスパイダーの方が厄介極まりない相手だっただろう。


「それだけ私達が強くなった……そう考えるべきかしら」


「そうかもしれん。もしくは……戦闘スタイルの違いがあるからかもしれないな。スパイダーは地上での戦闘スタイルだったのに対して、こいつは空を飛ぶことから考えて上空からの戦闘スタイルだった。戦闘機や戦闘ヘリなんかでは苦戦する相手だろうが……自由に空を飛べる俺達では大したアドバンテージを得られなかったのかもしれないな」


 ワブーの説明を聞いて、どこか納得する僕たち。確かにそう考えればこれは十分な脅威に成り得るだろう。相手が優位に立てなかったことが今回の勝因と言ってもいいのかもしれない。


「あら~……凄いわね」


 そこに橘さんがたくさんのビニールシートを持った部下たちを連れてやって来た。そして、橘さんが現場保存の指示をしたところで、部下の方々は一斉にビニールシートで巨大鬼の死骸を覆う作業を始めていく。


「お疲れ様。面妖の方々」


 橘さんがそう言ってくるという事は、部下の中に僕たちの事を知らない人が混ざっているということなのだろう。僕もそれに合わせて話をする


「ありがとうございます。けど……少々、被害を出してしまいましたね」


「死人が出ていないのだから気にしないのよ。それと、すぐにあちらに戻って欲しいのだけれど?」


「うん? どういうことなのです?」


 それに対してレイスが質問をする。一間を置いて、橘さんがゆっくりと口を開く。


「ヘルメスのリーダーが捕まったわ。氷漬けにされた状態でね」


「……呆気ないですね」


「そうなのよね……私も何か裏があるんじゃないかと思って、ホール周辺を隈なく調べさせてるんだけど……今のところは何も発見できていないわ。それだから、用心としてあなた達に戻ってきてもらいたいんだけど」


「分かりました。ただ……その前に」


「おーーい! あったぞ!!」


 すると、カーターたちが巨大鬼の死骸から何かを発見、それをすぐさま死骸から切り出し、それを片手に持ちながらこちらへと合流する。


「黒の魔石……」


 発見されたのは黒の魔石。スパイダーやクラーケなどは液体状の黒い魔石を注射していたが……この巨大鬼はそれ自体を埋め込んでいたようだ。しかし……。


「この周りに付いている機械って何なのです?」


 レイスの言う通りで、黒の魔石はそれ自体が発見されたのではなく、それを覆うような機械で出来たカバーに取り付けられた状態で発見されたのであった。


「制御装置みたいな物じゃないかな。黒の魔石は普通には使用できない魔石だし」


「あの黒いレーザー光線の源はこれってことッスね」


「橘さん。これはこちらでお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんよ。こちらでも手に余るようなシロモノでしょうし……そちらの運搬は任せたわ」


「分かりました。それではいただいていきます……で、そろそろ行くけど大丈夫?」


 僕は制御装置の付いた黒の魔石に付着した血を、水の魔法で洗い落とそうとしている泉達に尋ねる。


「うん! 洗浄が終わったからいいよ!」


 そう言って、制御装置の付いた黒い魔石を見せてくる泉達。それはすっかり綺麗になっており、制御装置部分に使われている金属部品の光沢も甦っていた。


「これで、お偉いさん達に見せるのにバッチリッスね」


「そうしたら、早速戻るのです」


 こちらでの作業を終えた僕たちは、再び聖獣たちの背中に乗って、皆が待つホールへと戻るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから十数分後「コンサートホール・エントランス」―


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました」


 ユノの言葉に返事をする僕。ホール内に入ると、ユノと数名のグージャンパマの関係者がエントランスで待機していた。また、エントランス内を慌ただしく動いている警備員の姿も見える。


「ヘルメスのリーダーが捕えられたと聞いたんですが……他にも何かあったんですか?」


「はい。何やら爆弾を所持していたらしく、他にも設置されていないか確認中だそうです……マナフルさんが言うにはそんな怪しい物は無いそうですが」


「妾が凍らせた男が持っていたアレじゃろう? アレに似た臭いはここからは感じられないのう」


「……だそうです」


「それは一安心です。会議はどうするんですか?」


「安全が確認され次第、会議は始める予定だ」


 そこに護衛を連れて戻って来た菱川総理が会話に入って来る。


「他の代表の方は?」


「ホールの待合室で打ち合わせ中だ。君たちがこちらに戻って来たと聞いて迎えに来たんだ」


「そうでしたか。ところで……何で沿道の人々を避難させなかったんですか?」


「あ、それ私も気になってた」


 そう。戻って来た時に周辺の様子を確認したのだが沿道で眺めていた人々とか、撮影している人たちが普通にいた。てっきり、巨大鬼の襲撃に合わせて避難させたかと思ったのだが……。


「その前に君たちが撃墜させたからな。避難させる必要がなくなってしまったんだ……本当にありがとう。君たちのおかげで変な波風を立たせずに済んだよ」


「そうですか……」


「何やら浮かない顔をしているが……どうかしたか?」


「それは妖狸含む皆が気にしていたことなのですが……ヘルメスの今回の作戦は、どこかお粗末な気がするのですが」


 菱川総理の質問に対して、僕の替わりにカーターが答える。すると、菱川総理は軽く笑みを浮かべてからその理由を話し始める。


「簡単な話だ。既にヘルメスは組織としては機能していなかっただけ」


「それって、どういうことですか?」


「詳しくはショルディア夫人の口から話してもらう。とりあえず待合室に向かうとしよう。ここにいつまでもいるのは邪魔みたいだしな」


 そう言って、菱川総理が視線を外して、僕たちの後ろの方へと向ける。それに釣られて僕たちも後ろを見ると、追加の警備員たちが入って来て、リーダーと思われる人から指示を受けているのが見えたので、僕たちはそれらの邪魔にならないように、待合室へと移動するのであった。

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