36話 変人社長登場
前回のあらすじ「制作秘話(一部本当)」
―「ビシャータテア王国王宮・王の書斎」シーエ視点―
「やはり妙ですね」
ここにいる全員が頷きつつ私の意見に賛同を示す。ここには私以外に王様に王子、カシーにワブー、そして私の相棒であるマーバ。この6人で昨日のワイバーン襲撃について話し合いをしている。
「ワイバーンの習性からして、やっぱり今回の襲撃はあり得ないわね」
「ああ。ワイバーンは縄張り意識が高い。もし、集団で群れるとき……それは親子のはずだ」
「でも、私達が倒したワイバーンは全て成体でした。それが8体」
「しかも、1体はデタラメな個体だっけ? 皮が他のより遥かに堅いって聞いたぜ」
「その個体から取り出された魔石も鑑定したんだけど……今まで見たことも無い最上級の魔石だったわ。魔道具にしたらかなり強力な物ができるわ」
「スプレッド・ファイヤーボールを撃てる所からしてもかなり特殊だと思います。ワイバーンがそんな攻撃をするなんて聞いたことがありません」
「だな。それでお前らはどう思う?」
皆、黙る。それは単に偶然でまとめていいのか、もし偶然ではなければ、一体何が原因なのか。それぞれが頭の中でまとめてる最中なのだろう。
「私はこれでははっきりとは言えないかしら。全くの偶然の可能性もあるだろうし…」
「そうだな。これだけでは検討には不十分だろう」
「そうですね」
「まあ、そんなもんだよな」
「シーエはどうなんだぜ?」
「……そうですね。私もどう意見です。でも大きく3つには推察できるかと思います」
「ほう。その3つとは?」
「1つ目は単に偶然。たまたま、食料を求めてこちらに集団で来て、たまたま特殊な個体がいた。これが1つ目ですね」
「まあ、普通に考えたらそうだな」
「そして、2つ目は彼らの棲み処に何かしら問題が起きたか。例えば、冒険者が乗り込んで戦闘になったとか、他の強い存在に奪われたか。これが2つ目」
「ワイバーンより強いってなると、ドラゴンとか一部の魔獣ですし、そうそう無いですよね。」
「そうね。それに襲われたならケガしていた個体とかいてもおかしくないと思うのだけど……」
「そして、3つ目ですが……意図的に誰かが送りこんだです」
ワイバーンを飼い慣らすなんて、そんな話は聞いたことが無いがしかし…。
「そうなのよね……あまりにもタイミングが良すぎるのよね」
「ええ。薫さん達の情報を元に、あらゆる分野が変わろうとしている時にワイバーンが来る。少し都合が良すぎるかと」
「シーエの言うとおり、俺も考えてはいたんだがな……」
「我々が今、この状況ゆえに気にしすぎとも考えられなくはないんですよね」
「そうなんですよね……」
「とりあえず私はもっと情報を集めるべきだと思うぜ。ワイバーンがどこから来たとかまず調べようぜ?」
「マーバの言うとおりだ。まずは巣穴を見つけるべきだな」
確かに、マーバと王様の言う通りで、そこに何かしらの原因があるのかもしれない。
「そうしたら、被害のあった村々に騎士を送り、情報を集めるとしましょうか」
「そうだな」
王様以外の全員が賛成する。しばらくは情報収集で有力な情報が入るまで待つとしよう。
「それと、お前らもあのフライトってのを覚えてくれや」
「「もちろん(だぜ)!」」
カシーとマーバの反応が速かった。息を合わせる様子は無かったが……ほぼ同時に返事をしている。
「ふふふ。やっとあれらの魔法を調べられるわ……」
「新魔法楽しみだぜ!」
「やれやれだな」
ワブーの言葉に私は思わず苦笑いをするのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「車内」―
梢さんとの打ち合わせから翌日、ある場所に向かって僕は車を走らせる。
「直哉って人に会いにいくんですよね?」
「そうだよ」
「たびたび、話に出てくるんですが実際どんな人なんですか?」
「変人。頭が良くて色々な分野の知識を持っているし、それらを使って機械を作ったりする技術を持ってるんだけど……」
「だけど?」
「変な物ばかりで、役に立たない。」
全自動で玉ねぎの皮を剥くだけの機械とか、キレイな渦巻きを描けるボールペンとか、かなりピンポイントっていうか、マニアックというか……とにかく残念である。
「それなのに、その人を紹介するのですか?」
「うん。直哉の場合、直ぐに脱線するから如何に真っ直ぐ走らせ続けられるかなんだよね」
「……つまり周りの人達がコントロールすればいいと?」
「その通り。この話を聞けば、周りの社員が何とかしてくれるとは思うけどね」
頭脳と物を作る技術は一流なので心配はない。心配なのはよく脱線して変な方向性に行くだけだ……そして今回の魔法に関して、直哉は絶対飛び付くだろう。僕はそう確信しつつ車を走らせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―しばらくして「笹木クリエイティブカンパニー・工場前」―
「ここが、直哉がやっている会社」
「変わった建物ですね」
壁が波型スレートで出来た少し古い建物が2棟あり、さらにその横に真新しい建物が1棟ある。この3棟共工場でありヘンテコな物が産み出されていく魔の巣窟である。
「とにかく片付けて下さい!」
「会心の出来なのに~」
「レイス。ポケットの中に居て」
「分かったのです」
レイスがポケットの中に隠れた直後に、目の前の大型機材とかの搬入に使われる扉のシャッターが上がり、中から謎の機械を運ぶ従業員と言い合いをしている男女が出てくる。
「ですから……って、薫さん?」
「紗江さん。こんにちは」
楠木 紗江さんここの秘書兼経理をやっているブレイン的な存在。良く横道にそれる直哉を折檻し、業務の軌道を修正してる。この人が会社を支えているといっても過言では無い人だ。
「やあ! 遊びに来たんかい?」
「うん。バカ社長に会いに来た」
そして、このバカ呼ばわりしてる彼こそが笹木 直哉。この会社、笹木クリエイティブカンパニーの社長で残念な天才である。ただし、知識とそれを可能にする技術を持ち合わせており、それが一種のカリスマ性となっている。そのため、従業員も彼が社長でも文句は出てはいなかったりする。
「酷いな~」
「珍しいですね。薫さんがうちのバカ社長に会いにここに来られるなんて」
「君も酷いな?」
「ええ。そこのバカに仕事を依頼したくて」
「遂にはバカ呼ばわりか!? 酷すぎないか!? って……仕事?」
「そう。ちょっと長期の仕事になりそうなんだけど……」
「え? 薫さんがうちに仕事?」
「嘘でしょ?」
従業員から次々と声が聞こえる。ちなみに従業員は十数名。そしてたびたび来ているので、顔馴染みだったりする。
「小説家である薫さんがバカに仕事の依頼って……明日は猛暑日にでもなるかしら?」
「いや。そろそろバカ呼ばわりしないでくれないかな~」
「バカでしょうが! こんなガラクタを作ってどうするんですか?」
「僕も気になってたんだけど……これ何?」
中央に円柱状の金属製のボックスがあり、そこから色々なパイプがついていて、円柱状の金属の上にあるこれまた金属製の球体に集約されている。かなり大きく大人数人がパイプみたいなものを下に挟み何とか転がしながら移動しているようだ。
「ガム製造機だよ!」
「へえ? ガムってあの噛むガム?」
「ああ。ちょっと映画でやっていたから造れないかなと思ってさ~」
「……味は?」
「今はブルーベリーに設定してあるよ」
「……この円柱状のへこんだところから板ガムが一枚だけ出てくる感じ?」
「ふふ……そうだよ!」
「……食べたら体が青くなって膨れるとか変な物じゃないよね?」
「流石に、この天才でもそこまでは再現できなかったよ」
……某お菓子工場の映画を見て自分も造ったらしい。形は大分違うが。
「こんなガラクタ造ってどうするんですか!?」
「いや。意外に遊園地とかそんな所で売れるんじゃないかな?」
「確かに、こんな生産性の無い物を売るとしたら、そういうアミューズメントな場所になるでしょうね? こんな整備のしにくい物じゃなければの話ですが?」
このような機械の場合、出来上がる品は人が口にするため、こまめに機械をキレイにしなければいけない。そして……今回の機械はそこがかなり面倒な仕組みになってしまっているようだ。
「あはは~。そこまでは考えてはなかったな~」
「あはは。そうですか……」
その後、直哉の体からゴキッと音が鳴り体がくの字になる。相変わらず、キレイなフォームから繰り出されるあのボディブローには惚れ惚れする。
「わ、脇が甘い……」
紗枝さんから渾身のブローを喰らった直哉はがその場に崩れる。あれはしばらくは起き上がれないだろうな……。
「少しは反省しろー!! たく……それで薫さん。私達に仕事、しかも長期ってどんな依頼ですか?」
「それは中で話すよ。ところで僕も手伝うけど? それ運ぶの」
「え。いや、大丈夫ですから。それに薫さん従業員じゃないですし」
「そうだよ。それにこれかなり重いからうちらだけでいいからさ」
紗江さんと従業員の方々から、やんわりと手伝いを断られる。これを運ぶ際にケガをされたら困るのだろう。
「ふふ。そうだよ。何せそこの所も考えてなか、へぶし!!」
今度は従業員の方々から、地面に這いつくばった状態で踏まれている。何ともまあ……中のいいことで。
「(レイス。虚空を使って運ぶからよろしく)」
「(分かったのです)」
皆から注意が逸れている間に小声で、レイスと打ち合わせをする。これで驚かせる準備は整った。
「大丈夫だよ。僕これでも力持ちだから」
僕はそう言って、ガラクタに向かって歩く。
「でも、怪我したら大変ですから」
「まあまあ、見ててよ」
「いや、無理だって!」
従業員から無理と言われるが関係ない。何せ魔法のデモンストレーションも含んでいるのだから……さあ、いっちょ魔法の力を見せつけようか!




