368話 鬼退治!
前回のあらすじ「戦闘準備完了……」
―「市内・上空 ゴルフ場付近」―
「はあ!」
「ギャアアアアーーーー!!」
カーターが剣を思いっきり振って、巨大鬼の胴体を切る。巨大鬼は大きな悲鳴を上げ、多少ひるむが、すぐさまカーターに巨大な拳による反撃を繰り返す。しかし、カーターが騎乗しているグリフォンのグラドがすぐさま回避行動を取り、その攻撃は空を切った。
「大丈夫!?」
「大丈夫だ! 巨体から繰り出される攻撃は面倒だが……それ以外はそこまでだ」
「今はね……スパイダーのアレが出来てこいつに出来ない理由が無いわ」
スパイダーは自身の体を作る際に取り込んだ物を使って武器を作り出していた。また、海上で戦ったクラーケも溶解液を吹き出したりと、何かしらの技能があったのだ。こいつに何も無いというオチは無いだろう。
「グオ……」
巨大鬼の視線がこちらに向けられる。すると、その目がさらに鋭い物になり、明確な殺意を向けられる。
「ヨウリ……お前サエ……イなけれバ……イナケレバ!!」
巨大鬼はそう叫ぶと、カーターたちが付けた傷跡に手を突っ込む。そして、そこから真っ赤に染まった鉈のような武器を取り出す。それと同時に傷の方も塞がってしまった。
「うえ……アレってあいつの体で作った武器だよね? 真っ赤てことは……」
「まあ……恐らく、一部血を使ってるッスね。そうなると、スパイダーと同じッスかね?」
「そうかもしれないな……どうやら、お前待ちだったようだぞ」
そう言って、カーターがこちらを振り向く。
「お生憎様、ユノが待ってるから、さっさとお引き取りいただきたいんだけど?」
「その意見に同意見なのです」
こんな化け物に待たれていても迷惑なだけである。とにかく、被害が大きくならないように倒さなければ。
「オォオオオオーーーー!!!!」
雄たけびを上げ、こちらに向かう巨大鬼。しかし、スピードが全然ない。これなら、あっという間に避けられる……のだが。こちらに向かいながら、口を大きく開いている。
「(避けるよ!)」
いち早く危険を察したシエルが、さらに上へと移動。他の皆もばらけて逃げる。そして、僕たちがいた場所を黒いレーザー光線が通り抜けていく。
「危ないね……」
「(そう? スピードが無いからそこまで……)」
「さっき話した通り、下に住宅街が広がっている。このままだと一般人が巻き込まれる可能性があるんだ」
「(そうか……そうなると、短期決戦で決めないといけない感じ?)」
「そうなるね……黒雷!!」
シエルと話しながら、魔法による遠距離攻撃を仕掛ける僕たち。他の皆も中距離から遠距離の間で威力のある攻撃魔法を放っていく。
しかし、巨大鬼はその攻撃を喰らっても全く怯むことなく、そのまま首を動かして先ほどの黒いレーザー光線をこちらに向けて連続で放っていく。
「こっち向いたのです!!」
レイスがそう叫ぶと同時に、巨大鬼の口に黒いエネルギーが集まっていく。しかし、シエルはそれが放たれるより速く横へと逸れてその攻撃を避ける。
「このままだと埒が明かないのです! どうするのです!?」
「シエル……あいつに接近できる?」
「(いけるよ!)」
「なら、接近をお願い! あいつをぶった切るよ!」
「回復しちゃうのでは?」
「大丈夫!」
僕は持っていた鵺を腕輪にして、代わりに四葩を手にする。
「これなら回復出来ないはずだから」
「なるほど……なら行くのです!」
準備が出来たところで、シエルが巨大鬼に向かって突撃する。巨大鬼はそれを迎え撃とうとして、鉈を横に構えて、薙ぎ払う構えを取る。
ドン!
すると、鉈を構えた腕が突如爆発、さらに青い火の玉が大量に降り注ぐ。恐らくカシーさんたちとカーターたちの魔法攻撃だろう。お陰で余裕をもって相手に近づくことが出来た。僕は融合の能力が籠った魔石を四葩に嵌め込む。
「全てを引き裂く風の力よ……全てを破壊する雷の力よ……今、混ざりて悪しき妖魔を切り裂く刃となれ!」
風魔法の鎌鼬を発動させから、雷刃を発動させる。このように剣とかに纏わせる魔法の場合、先に使った魔法は後の魔法でかき消されてしまうのだが、今回は融合の魔石の効果で風と雷が同時に並行して発動させることができ、今の四葩から鎌鼬による突風と、雷刃による空気を弾く音の両方が起きている。
「天羽々斬!」
僕は手綱を持ったまま、シエルが巨大鬼のおへそ辺りから上へと翔け上がっていくのに合わせて、もう片方の手に持っている四葩で巨大鬼の体を切り上げていく。筋骨隆々の体ではあるが、鎌鼬と四葩の相乗効果で難なく切れてしまう。
「このままいくのです!!」
レイスの声に合わせて、シエルがさらに速度を上げ一気に巨大鬼の頭を通り過ぎていく。それによって、巨大鬼の頭からお腹辺りまで大きな切り傷を作ることに成功した。
「グォーー!? オォオオオオーーーー!!?」
切り傷を押さえ悶える巨大鬼。先ほどまでなら少しすれば治る程度の切り傷だが、四葩の弱体化効果と、傷口からの雷魔法の継続ダメージが働いているため、一向にその傷は塞がらない。
「オォオオオオーーーー!!!!」
傷口に塩を塗る以上の痛みが巨大鬼を襲う。必死に痛みをこらえようと悶え続けるその姿……隙だらけである。
それを悟った他の皆が強力な必殺技を決めようと、魔法陣を展開した召喚魔法の準備や、僕が使ったように融合の魔石を使用しての合体魔法を繰り出す準備をしている。
「やり過ぎかも……ね」
その光景を見て、これからその魔法を全て喰らう巨大鬼に少し同情してしまう。相手が他に手段があるのだろうか……もし無ければ、これで決まってしまうだろう。
「フラグは……立たないかな」
僕がそう呟くと、カシーさんたちが最初にネイル・ボムを唱え、相手の背後から釘型の魔法で巨大鬼を貫き、そのまま内部で爆発を起こす。
「ゴォオオオオーーーー!!」
その激痛に断末魔を上げる巨大鬼。しかし、攻撃の手が緩むことが無かった。すかさずシーエさんたちが召喚魔法で呼び出したシルフィーネによるアイスブレスが巨大鬼の顔に目掛けて放たる。その攻撃に対してとっさに目を閉じていた巨大鬼だったが、顔面が凍った事で目を開けられず、どうにかしようと手を顔に当てている。
そんなことをしていれば当然……隙だらけである。
「これでも……喰らえ!! メイルストリーム!!」
その好機を見逃さずに、今度は泉たちが融合の魔石を使った風と水の混合魔法であるメイルストリームを発動させる。水を大量に含んだ竜巻を起こす物であり、相手を激しい水流で弱らせたり溺死させたりするのが本来の使用方法であるのだが、今回はここにシルフィーネがいる。
シーエさんたちの召喚魔法であるシルフィーネはアイスブレス以外にも他の技を持っており、それがアイスフィールドという周囲の温度を低下させる魔法である。その出力を上げれば水はあっという間に氷になってしまうほどの威力があり、以前に戦ったアダマスやスパイダーではあまり目立った活躍は無かったが、本来なら十分強力な魔法なのである。
そんな魔法を持つシルフィーネが近くにいる中で、メイルストリームで全身ずぶ濡れになった巨大鬼はどうなるかというと……。
「ガガガ……!」
全身が凍ってしまってまともに動けなくなる。当然、背中にある羽も動かすことが出来ず、巨大鬼は固まったまま地面へと堕ちていく。そんな状況を静かに見ていると、目の前をカーターたちがものすごい勢いで通り過ぎていった。その際に手に持っていた剣の刀身は炎が纏ってあり、カーターの魔法であフランベルジュが発動中だと分かる。
「喰らえ! バルムンク!!」
カーターの必殺剣あるフランベルジュがグリフォンの風魔法によってさらに燃え上がり、高温でかつ巨大な炎の剣を作り出すバルムンクへと変化する。そして、カーターはその剣を振り抜き、落ちていく巨大鬼の体を左右に見事に切断する。
「あの巨体を真っ二つ……か」
巨大鬼はそのままゴルフ場へと大きな音を立てて落下。反撃される可能性がまだあるので、警戒をしたまま、落ちていった巨大鬼へと皆で近づく。
「……終わったか」
「そのようですね」
カーターとシーエさんがそう言って武器をしまう。巨大鬼はピクリともせず絶命していた。
「……何か後味悪いかな」
「そうだね」
一方、僕と泉はこの巨大鬼は元々人間のはずなので、悪人とはいえ人の命を奪ったということに少しショックを受ける。
「お前ら……こんなことで気に病むなよ?」
「分かってるよワブー。それに……僕たちもそこそこ戦闘経験積んでるしね」
ワブーなりの励ましの言葉に、僕はそう返事をするのであった。




