367話 狩る者と狩られる者
前回のあらすじ「会議前にトラブル発生!」
―「市内・上空 ゴルフ場付近」―
「6人とも! あいつの引き付けよろしく!」
「任せとけ!」
引き付け役の6人と離れて、僕たちは今回の戦場になるゴルフ場へと素早く下りる。異変を察したのか、既にプレイ中だったゴルファーの方々は既に避難を開始している。
「薫兄。ここは私達で避難させるから、施設の管理者への協力の申し出をお願い!」
「分かった!」
ゴルファーの避難と、管理者への協力要請でさらに分かれる。避難は泉たちに任せて、僕とレイスはゴルファーの受付などを行うクラブハウスへと向かう。
「あ! 妖狸!?」
「すいません! 時間が無いので手短に……この施設の担当者の方は?」
「私です!」
クラブハウスの外で避難活動をしていた従業員に担当者に声を掛けると、それを聞いていた施設の担当者が手を挙げて、アピールをしてくれた。僕たちはその近くに下りて、担当者と話を始める。
「お話があるんですが……よろしいでしょうか?」
「ええ……まあ、何となく嫌な予感がするのですが……」
「その通りです……あの化け物をここに誘き寄せます。それでホールを荒らしてしまうのですが……後で修繕費、それとこれによる不利益もこちらで負担しますので、申し訳ないですが使わせてもらってよろしいでしょうか?」
「やっぱり……お断りしたい気持ちでいっぱいですが、ここ以外で戦うとなると相当な被害が出るでしょうから……やむを得ませんね」
「ご協力ありがとうございます。他に必要なことがありましたら、出来るだけ対処させていただきます」
「ありがとうございます」
ドオーーン!!!!
担当者の方と話をしていると、空から破裂音が周囲に木霊する。それを聞いた数名のゴルファーから小さな悲鳴が起きる。その後、続けて爆発音がし続けるのでカシーさんたちのオクト・エクスプロージョンの攻撃だろう。
「時間が無さそうですね……私どもはこのゴルフ場から遠くに離れていますね」
「お願いします。なるべく、被害は最小限に……」
「お気になさらず……いざとなれば新しい観光名所として売り込みつつ、それを生かしたホールを作れますので……では」
担当者はそう言って、他の従業員に指示を出しつつこの場から離れていくのであった。
「レイス……人って強いね」
「商魂たくましいのです」
「妖狸! そっちの準備は出来た!?」
すると、そこにユニコーンのユニに乗った泉とフィーロが、避難中のゴルファーと一緒にやって来る。
「話は付いたわ。後は……アレを倒すだけ」
僕はそう言って、戦っている皆を見るために空を見上げる。そこでは遠くからでも見えるような大きな炎の刃が巨大な鬼を切りかかっていた。しかし、巨大鬼も速やかに距離を取って、それを躱し、口から謎の黒い光線を放っている。黒い光線は上に向けて放たれたため地上には被害が出ていないが……。
「あんなのが地面に向けられて放たれたら堪ったものじゃない……!」
「……妖狸。アレを使えば? ダークネスホール」
「召喚魔法の必殺技を初っ端から放つなんて……敵がどんな奴か分からないのにいきなり使うのは危ないし……それに溜める時間も必要なの……そう簡単に使用できないわ……そもそも」
「そもそも……何なんッスか?」
「……それを使うほどの相手だと思う?」
「え?」
先ほどから皆の戦闘を見ているが、どうもこっちの方が有利っぽい。先ほどの黒い光線もそうだが、わざと上を向いて放たつようにカーターたちが誘導していた。それに、今は3方向からそれぞれ攻撃を仕掛けて、狙いを絞られないようにしている。
「ありゃ……あの化け物防戦一方ッスね」
「本当だ……でも、大丈夫かな? あのスパイダーみたいに……」
「それもそうね……そうしたら……シエル!」
「(いくよ!!)」
僕たちの飛翔の魔法でふわりと浮かんだシエル。それと同時に僕たちの士気を上げるために、女性のふりをした状態で叫ぶ。
「我らの道を妨げる悪鬼など切り伏せるのみ!! 我々の邪魔はさせるな!」
「新しい黒歴史乙!」
「でも……その意見に賛成ッス!」
「いざ突撃なのです!!」
そして、僕たちもこの戦闘に加わるべく、空を駆け上るのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「コンサートホール・エントランス」マナフル視点―
「ここにいたら危ない! 避難を……!」
「そうだ! こんなところに長居できるか!」
「皆さん静粛に! 今、面妖の民が総力を持って対処しています! 下手にここから離れるのは危険です! どうかご静粛に!」
(やれやれじゃな……)
何やら変な化け物が現れたらしいが……ここまで狼狽えるとは、だらしない奴等じゃ。あの薫の方がよっぽど代表になるに相応しいと思うのじゃが……。
「マナフルさん? 大丈夫ですか? 何かお考えのようですが……?」
「うむ? 何、お主の伴侶の方がよっぽど立派な代表になれると思っただけなのじゃ。気にしなくて大丈夫じゃ」
「ふふ……! こんな状況でそのようなお考えとは……となると、その程度の輩ってことですね」
「そうじゃな。それよりも、お主らの方が気を付けるべきじゃ」
「それって、ここにこの会議を邪魔する輩がいるという事ですか?」
薫の伴侶であるユノ姫と話をしていると、1人男性が尋ねてくる。うむ……どこかユノ姫に似ている気が……。
「ええ。あくまで外で暴れている化け物はおとり……本当の狙いはここだと薫はお考えのようですお兄様」
「そうか……薫さんの考えならほぼ確定だろうな」
「私もそう思います」
「こやつはお主の兄だったか」
「あ、ご紹介遅れました。ユノの兄のアレックスと申します。以後お見知りおきを」
「うむ。礼儀正しいのう……どこぞのじゃじゃ馬姫も見習ってほしいのう」
「あはは……父の後を継ぐ予定ですのでこれぐらいは」
「そうじゃな……それくらいの紳士的な対応してもらわないとな……ふむ?」
「……敵ですか?」
妾の少しの疑問。それを感じ取ったアレックスの表情が強張る。
「恐らくそうじゃな……そこに見えないのに変な匂いを醸し出す輩がいるのう……」
「どの辺りですか?」
「妾の向ている先にあるあのソファーの横。座ってタイミングを計っているのじゃ」
「他に同じ匂いは?」
「……ここではしないのう」
「なら……ここで1人捕まえましょうか」
アレックスはそう言って駆け出す。その手には水と風、それとあの融合の魔石を持っている。
「荒ぶる流れ……今ここに起きろ! メイルストローム!」
妾の言った場所に逆巻く水の竜巻が起きる。それと共に男のぐもった悲鳴が発生し、そのまま何かが叩きつけられる音が聞こえる。
「……やれやれ」
この前の男どものように、着ていたヘンテコ服の機械が壊れたらしくその姿が露になる男。そのままアレックスは組み伏せて捕える。
「こやつを捕えよ! 侵入者だ!」
アレックスの声を聞いて、周囲にいた警備員がその男を連れていく。周囲の代表が侵入者に慌てる中、アレックスとユノ姫は冷静にその男を見ている。
「お見事ですアレックス様」
「我らより早く捕らえるとは……」
「マナフル殿どの助言があったからだ。ハリルそしてクルード、気を引き締めよ。敵は既に来ているぞ」
「「御意」」
そう言って配下が頭を下げる。配下に激励するアレックス。わざわざ自分で捕まえることで鼓舞させるとは……なかなか逞しい男じゃ。
「(あのような息子が跡継ぎでは国も安泰ですね)」
「(ふむ。このような場で息子の成長を見るとはな……しかし、クルード達が反応するも難しい輩とは……)」
アレックスの父親であるサルディア王と薫から総理と呼ばれていた男が小声で話している。クルードと呼ばれる男は獣人のはず。その獣人の鼻を持ってしても気付かぬのか……。
「……ふむ。おいフェンリル!」
すると、そこにドラゴンの王であるゴルドが、妾を呼びつける。
「なんじゃ若造?」
「お前の事だ……既に後何人いるか分かっているのだろう? こちらも手を貸す……さっさと終わらせるぞ」
「ほう……妾の手を借りるとはな。何が目的だ?」
「妖狸が困る状況になれば……互いに困ったことが起こるだろう?」
「なるほど……それは一理あるのう」
薫が困る……それはすなわち、妾達が楽しみにしている食事に支障をきたすという事……確か、薫の母親が今日は手の込んだ料理を出すとか言っておったな……。
「で、どうだ?」
「数は先ほどの奴を除いて5人じゃ。妾は単独で追えるが……」
「……愚弟、ハク」
「既に気配を捕えております」
「同じく、数も5人ですね」
「ならば、すぐに捕えてこい。抵抗するようなら……」
「すまないが……なるべく生かす方向で頼みたいんだが」
そこに総理が、襲って来ている奴らを生かすように頼み込んでくる。
「どうしてじゃ?」
「ヘルメス奴らから情報を聞き出したい。殺さてしまうと何も得られないからな……奴らの悪だくみを明らかにしなければ……」
「うむ……構わん。その方が狩りとしては面白いからのう」
「え?」
周囲から驚きの声が上がるが……妾には関係ない。妾はフェンリルのさらに上位であるマグナ・フェンリル……女王なのだから。




