361話 小休止
前回のあらすじ「歩く戦術核兵器」
―「薫宅・居間」―
「お相手はミリーさんからですか?」
「うん。もしかして、聞こえてた?」
「まあ、襖を挟んでるだけだしね……でも、ミリーさんが何を話しているかは聞こえなかったけど」
「そうか……」
僕は再びテーブルの前に座って、食事の続きを取りながら、先ほどの通話の内容を話し出す。
「まずはヘルメスの目的だけど……やっぱり爆弾だった。建物内に50個の爆弾が保管されていたみたいだよ」
「50個の爆弾か……そんなのが爆発したら大変だったよね」
「泉の思った以上だと思うよ。その爆弾を市内の至る所に設置して混乱を起こそうとしていたみたいだから」
「え? 会議が行われるホールが狙いじゃなかったんですか?」
予想外の話に、僕以外の皆が驚いている。それもそのはずで、この5人より前に捕まえた2人が建設中のホールを調べていたのだ。だから、そこを狙っていると考えるのが当然のはずである。
「そこはミリーさんも気にしているみたいで、何か隠していると思って、捕まえた奴らの調査を続けているみたいなんだけど……もしかしたら、本当に何も知らないかもしれないって」
「仲間なのに知らないって……そんなことがあるの?」
「それなんだけど……逮捕した5人のうち3人はバイトだったみたい」
「バイト……え? あのバイトッスか?」
「うん。簡単な組み立て作業のお手伝いってことで、ただ、高額なバイト代目当てに仕事をしていただけだって……まさか、それが爆弾の作成のお手伝いしていたとは知らなかったみたいだよ」
「バイト……あれ? ヘルメスってそんなことをしてたっけ?」
「してないよ。恐らく少ない人数を補うための苦肉の策……僕たちに次々と邪魔されたせいで、色々活動に支障をきたしているみたい。それと、今日捕まえた5人の内の残りの2人はヘルメスのメンバーだったんだけど、その2人も町の爆破以外の指示は受けていないみたいだよ」
「つまり……町を爆破したら、それでこのグループの役割はお終いだった……そういうことですか?」
ユノの回答に、僕は頷いて正解の意を表す。
「超ハイテクの光学迷彩服を着用していたのに……それだけ?」
「不自然なのです。以前のヘルメスが起こした事件から考えれば、他に何かを企んでいるはずなのです」
「そうだよね……」
僕はそう言って、カツを一口食べる。報復だけが目的だった可能性もある。しかし、僕たちの活躍で大分、痛手を負っているヘルメスにそんな余裕があるとも思えない。なら、この爆弾をあっちこっちに仕掛けて、身代金を要求するつもりだったのではないかと思うのだが……。
そもそも、今回の逮捕劇は、国際会議を行うホール、ショルディア夫人宅の2ヶ所に潜入していた2人を捕えたことがきっかけである。市街地に爆弾を仕掛けて混乱を起こすというのが理由ならわざわざここに潜入する必要が無い。
「おとり……?」
「え? おとりって?」
「ショルディア婦人の家で捕まえた2人、そして今回新たに捕えた5人はおとりで、本当は他のグループが動いているんじゃ……」
「他のグループなのです? 検討はついているのです?」
「検討なんてついていないよ……とりあえず、ショルディア婦人の家で捕えた奴等から何か情報を得られなかったか、明日オリアさんたちに確認してみるよ」
とりあえず、ヘルメスのアジトは押さえ、その中にあった光学迷彩服も全て回収したのだ。すぐにヘルメスが国際会議の妨害活動をするのは難しいはず……これが、僕の考え過ぎで済めばいいのだが……どうもきな臭い。もう一度調べる必要があるだろう。
「今度の会議……大丈夫でしょうか?」
「安心して……何も起こさせないから」
今回の会議は、今後の世界の行く末を決める大事な物である。だから、何事もなく無事にやり遂げなければならない。
「そのためにも、今日の内に原稿を上げとかないとな……国際会議の直前とかになったら書いている暇も無さそうだしね」
「売れっ子作家は大変ッスね」
「まあね。でも、こっちは好きでやっているし……いい気晴らしになってるからね」
「そうしたら……夕食の後片付けは私がやりますから、執筆の方を励んで下さい」
「いや。僕が……」
「いいから。夕食をごちそうになって、何もしないなんて悪いでしょ? ほら行った行った!」
「うーーん……それじゃ、お願いするね」
「はい♪」
この後、夕食を終えた僕は食器の後片付けを皆に任せて、2階の書斎へと籠るのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―4時間後―
「……よし!」
執筆を終え、原稿を梢さんに送ったところで背筋を伸ばす。ふと、時計に目をやると11時になっていた。
「11時か……お風呂入ってこなきゃ」
僕はパソコンの電源を落とし、書斎のある2階から1階へと下りる。すると、居間から皆の話声が聞こえる。そういえば、今日は家に泊まっていくのかな……? とりあえず、居間の方へと向かってみる。
「あ。終わりましたか?」
「先にお風呂貰ったよ!」
居間の襖を開けると、布団が引かれ、その上で談笑しながら皆でゲームを楽しんでいた。
「執筆は終わりましたか?」
「うん。後は梢さんから指摘された箇所を直して終わりかな……それで、泊っていくんだね」
「あ、言ってなかったっけ?」
「うん」
今日はユノのスーツ姿を見せに来るとしか聞いていない。だから、それが済んだ後の事は何も知らなかったりする。
「明日は学校がお休みなので、こちらに泊まって、明日は薫たちのお仕事をお手伝いしようかと思いまして」
「お仕事……僕はさっき言ったとおりだけど……泉は?」
「デメテルに行くッスよ。ある素材の回収ッス」
「素材……一体何なの?」
「フェニックスの羽! あれを使って衣服を作りたいと思ってたんだ! 国際会議へ向けての準備が一段落したから、夏に向けての新しい服を作りたくて!」
「フェニックスの羽で作られた衣服……オートで復活呪文が発動しそうだね」
とあるゲームでは瀕死から復活できるオーソドックスなアイテムである。それで作られた衣服となれば完全復活か、オートで蘇生する機能があってもおかしくはないはずだ。
「実際にはそんな効果は無いけどね。グージャンパマのフェニックスの羽って土に植えれば凄い肥料になるんだけど、水に入れて熱すると特殊な無色の染料になるんだ。その染料の効果が、まさに夏にうってつけの効果なんだよ!」
「その効果って?」
「服が透けなくなるのと、汗を無臭にして外へと逃がす速乾機能! これで夢の白ワンピースを作れるよ! 汗染みの心配が無いのもいいんだよね!」
「へえー……そんな効果があったんだ」
「レルンティシア国では一般的な使い方だったみたいだよ。アリーシャ様から教えてもらったんだ。それで、試しに作ってみたいというのと、教えてもらったお礼にフェニックスの羽をアリーシャ様にお裾分けしようと思って」
「なるほどね」
あと少しで5月になるこの時期、夏服を作るという意味ではちょうどいい頃なのかもしれない。
「また、皆でお揃いのコーデしようね!」
そう言って、泉が凄く楽しそうな目で僕を見る。うん。分かっていた。その皆という中に僕が含まれているのは分かっていた。
「……着ないよ?」
「大丈夫なのです。どちらに回答をしても着る運命なのです」
「はいはい……それじゃあ、お風呂入ってくるから」
レイスの返事を軽くあしらって話を切り上げる。時間は11時、さっさとお風呂に入ってゆっくりしたいところだ。
「薫。お風呂から上がったら一緒にゲームしませんか?」
そう言って、ユノがテレビ画面に指を差す。先ほどから映っていた有名キャラがマシンに乗ってコースを走るレースゲーム。64より前のスーパーの時からやっているので、割と得意なゲームだったりする。
「少しだけならいいよ」
「じゃあ、待ってますね♪」
笑顔のユノとそんな約束をして僕はお風呂場に向かう。ユノには悪いがベテランドライバーとして負けるわけにはいかない……と、変な闘志を燃やすのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―???視点「???」―
「そうか……全員、捕まったか」
「はい……どうしますか?」
「問題ない。全ては計画通り……さあ、始めよう。ヘルメスに泥を塗った面妖どもに復讐を……!」




