表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/503

359話 敵情視察

前回のあらすじ「商店街に潜入開始」

―歩き始めてから数十分後「9つの商店街・ヘルメスのアジトの近く」―


(……そこじゃ)


 マナフルさんが首を向けるその先には、商店街から横に逸れてすぐ近くにある古びた廃ビルへと向けられている。


「(そのまま歩いて下さい)」


(分かった)


 僕は腕時計に仕込まれているカメラでそのビルをこっそりと撮影。そして僕たちはそのまま静かに通り過ぎていく。横目でチラッと見たが、人のいる気配は感じなかった。


「(誰かいる気配しましたか?)」


「(いえ全く……)」


 小声で話す僕と楓さん。どこで聞かれているのか分からないのだ。ここはバレない様にしなければ……。


(……うむ。音はしないのう)


 耳をピクピクと動かして音を確認するマナフルさん。結局、見つからなかったらしく、その首を横に振る。


「(そうなると留守か、仲間が捕まったから既に移動しているか)」


(いや……ここから強く匂いが残っている。恐らく、まだここに潜伏しているはずじゃ)


「(そうですか……)」


「(とりあえず、ここを見張れる場所を探さないといけませんね)」


「(ですね)」


 人気の少ない商店街。どこかの物陰に隠れて見張るとしても、人がいるだけで目立つのだ。この商店街内で長時間見張るのは止めといた方がいいだろう。


 僕はスマホを取り出して、メールでオリアさんたちに近くのデパートに集まることを提案する。返信がすぐに来て、そのデパートで落ち合うことになった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―10分後「商店街・デパート外部」―


「ここですね」


 僕は隠しカメラで撮った写真をスマホに映しだし、それを他の人たちと共有する。今、商店街の中でも比較的人通りの多い所にいる僕たち。マナフルさんが店内に入れないため、その周辺で話し合っている。


「うむ……。見張りはいなそうだったが……罠か?」


「それもありえそうね……」


 オリアさんとミリーさんが、例の建物について違和感を感じている。


「誰もいないというのは妙ね……アジトの中はもぬけの殻かもしれないわね」


「でも、マナフルさんが言うにはまだ人が使っているみたいです。そうですよね?」


(間違いない。臭いがあそこに収束していた。他のところに臭いがあったとしても、一時的な物じゃろうな)


「ってことは……何らかの理由であそこに留まっているっていうのか?」


(じゃろうな。で、どうする? あの建物に集まったところを一網打尽にするのか? それとも、ここで動いている今を狙って、各個捕まえていくか?)


「うーーん……どうします? 僕としては一気に捕まえた方がいいかと思うんですが」


「私も同意見よ。フェンリルの鼻で地の果てまで追いかけられるとはいえ、1人ずつ追いかけるのは面倒よ」


 ミリーさんの意見に全員が同意する。他の皆も同意見のようだ……が、1人だけ頭を傾ける人物がいる。


「先輩? 先輩は反対ですか?」


「いや……同意見なんだが、相手の人数が分からないからな。そうなると、見張って人数を把握する必要があるだろう?」


「そこは大丈夫ですよ。マナフルさんがあそこで臭いが収束するって言ってたじゃないですか……だから、数も分かるはずですよ」


「……そうなの?」


(5人じゃ。それと、もう少しでここの前を1人通るぞ? ほれ。あの黒い服を着て、帽子で顔を隠している奴じゃ)


 皆がそれを聞いて怪しまれないようにその男を確認する。その手にはビニール袋があり、袋から何かがはみ出ているのが確認できる。男はこちらに気付かずにそのままアジトのある方へと去って行ってしまった。


「……何か装置を作っているようだな。ミリー。君は何を作っていると思う?」


「さあ……どちらにしてもろくでもない代物でしょうね。ポピュラーなら爆弾かしら」


「おいおい!! ……っと、もしそんなのが爆発したら大変な事になるぞ?」


 先輩が一度大声を上げるが、すぐさま普通の音量に戻して話を続ける。ミリーさんの言う通りの物が作られているとしたら、かなり大変な事だろう。


「彼の言う通りだ。あまり悠長に待っている時間は無い。奴等がアジトに集まり次第、一気に制圧するとしよう」


「そうしたら、さっそく準備しましょう。薫たちはあのアジトの近くをマナフルを連れて見張っていてちょうだい。マナフルの鼻なら戻ったかどうかなんて臭いで分かるでしょうから」


「分かりました」


 僕はレイス、マナフルさんと一緒に他のメンバーから離れ、敵のアジトがある場所の近くまで戻る。


「(商店街ってこんな複雑な所なのですね)」


「(いや、ここは9つの商店街が集まっているからそう見えるだけだよ。昔はもっと活気があった場所らしいんだけどね)」


(そのような雰囲気はところどころで感じるのじゃが……栄華と衰退がここまでハッキリしているのは珍しいのじゃ)


「(そうですね……)」


 昔は大勢の人で賑わったこの商店街だが、時代の変化に上手く乗れずに衰退してしまった。9つの商店街が集まっているのにコンビニや飲食チェーン店などが一店舗も入っていないのが、その廃れ具合を現している。


 ちなみに今、小声で話している理由なのだが、先ほどまでは楓さんが横にいたので、普通に喋っても僕と楓さんが喋っている風に見えて問題は無かったが、今は鞄に隠れている精霊のレイスと、見た目は真っ白な毛に覆われた大型犬であるマナフルさんだけである。ここで普通に喋ったら大きな独り言を話している男性と思われてしまうだろう。


「(いや、女性だと思われるのです)」


(じゃな)


「(僕の心を読まないでよ……)」


 僕はスマホを取り出して写真を適当に撮る。


(何しとるのじゃ?)


「(小説の取材。こんな独特な商店街をネタにしないのはもったいないからね)」


 シャッターが閉まった人気のない商店街と古びた看板。その中でも営業しているお店。昭和感が漂う変わったお店の名前……。その独特な雰囲気は小説の題材にするのにピッタリである。


(怪しまれないのか?)


「(こんな堂々と写真を撮っている人が、自分たちを追いかけている追跡者とは思わないでしょ?)」


(そんなものなのかのう……うむ?)


 マナフルさんが横を振り向く。その先には一人の男性がこちらへと近づいてくる。


(……気を付けろ。追っている奴の一人じゃぞ)


 僕はマナフルさんからの注意を受けて、その男性とは目線を合わせないように、向きを変えてお店の写真を撮っていく。近づいてくる男……僕は時計に内蔵されたカメラでこっそりと男を撮影する。男は僕が盗撮しているとは気が付かずに、こちらに見向きもしないまま横を通り過ぎていってしまった。


「(バレなかったようなのです)」


「(……だね)」


 先ほどデパート近くで会った男、そして僕の横を通り過ぎた男もアジトのある方へと向かっていた。これで2人はアジト内部にいることになるはず。


「後の3人も帰ってくると嬉しいんだけど……」


 すると、僕の思いが通じたのか他の3名にも取材中に遭遇した。それぞれ、こっそりと撮影して顔を記録していく。


「(これで5人揃ったね)」


 これで、仮に逃がしたとしても、この写真を使って皆が追い掛けることが出来る。


「薫。待たせたかしら」


 そう言って、ミリーさんが一人でやって来た。


「いえ。有意義な時間でしたよ」


 僕はミリーさんの横にくっつき、スマホに記録されている5人の男女の写真を見せる。


「流石ね。すぐにでも、この写真を皆で共有しましょう。私に送信してくれる?」


「もちろん」


 5人の顔が写った写真をミリーさんに送り、そこからミリーさんが他の人達に写真を送ってくれた。


「送信……っと」


「これで、ターゲットの確認も済みましたね。それで、皆の準備は終わったんですか?」


「終わったわよ。最初にオリアとその部下の人達が侵入するから、私達は逃げた奴らの確保。警察官のお二人は本部長に連絡して、この周囲に警官を配備してもらっているわ」


 そんな話をしていると僕のスマホではなく、通信魔道具のMT-1の方に電話が来る。画面を確認すると、相手はオリアさんからだった。


「もしもし」


「薫か。ミリーから作戦は聞いたな?」


「はい。今、アジトの近くにいるんですが……ターゲット5名。全員、アジト内部にいます」


「了解した。そうしたら、君達はその近くで待機、取りこぼしがあったら対処の方を頼む」


「分かりました。突入のタイミングは?」


「……今から5分後だ。私達がこれからそちらに向かうが、他人の振りをしてくれ」


「はい。それじゃあ……作戦を開始します」


 僕はMT-1の通話を切って、それを鞄の中にしまう。


「5分後ね……」


 ミリーさんが上着の中に隠し持っている拳銃の安全レバーを外す。


「物騒ですね」


「安心して。弾は雷の魔石を作った特注の非殺傷弾だから。まあ、当たったら1日はまともに動けないかもしれないけど」


「それはそれで物騒ですよ……」


 僕はアイテムボックスから帽子を取り出して、それを目深に被る。この帽子は妖狸の際に付けるお面と同じ魔法が施されていて認識阻害の効果がある。そして、手甲の蓮華躑躅を手に嵌め、両手をポケットに突っ込んで手甲が見えないようにする。


「そっちの方がよっぽど危険よ」


「確かにそうなのです」


 ミリーさんとレイスから指摘されたが、鵺と四葩を使っていないのだから、十分に手加減だと思うのだが……。


 そんなやり取りをしていると、オリアさんが部下を連れ、そのまま僕たちの横を通り過ぎ去っていった。僕たちも突入時間になる前にアジトから近い場所で待機するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ