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35話 本業

前回のあらすじ「心が痛い」

―「カフェひだまり・店内」―


忙しい昼時が過ぎて厨房で皿洗い中、昌姉と泉の話をする。


「今日も泉ちゃん達あっちの世界にいるの?」


「うん。なんかいい材料だったみたいでさ。これはいいものが作れる!って張り切ってたよ」


 あのワイバーン討伐から数日後、ワイバーンを解体したところ最後に倒した1体が他のワイバーンより堅い皮を持つ優秀な個体だったらしく、その個体の使える部分を全て貰うことが出来た。ただ、極上の魔石も取れたらしいが、それは王様たちが欲しいとのことで譲ってしまっている。そんなのがあっても僕たちじゃあ使いこなせないだろうし。それなら他の素材の売り上げの一部を貰えた方が、あちらで買い物するのに便利なので嬉しかったりする。


「フロリアンの店主さんシークさんとそのワイバーンの皮の一部を店に譲るの条件にして、他の布を譲って貰ったんだって。それで服装談義になったみたいで、シークさんから『ここで作ってそちらの技術を見せてもらえないか?』って誘われて、あっちにいって互いに情報交換しながら服を作っているみたい」


「そうなの。でも、女の子3人で大丈夫かしら」


「ああ。そこはカーターたちが護衛についてるから大丈夫」


「カーターさんたちのお仕事は?」


「王様からフライトの魔法を覚えてくれって指示があったみたい。今度、同じようなことがあった時に迅速に対処できるためだと思うよ。だから、その指導のためにレイスも一緒に行っているんだ」


「空を飛ぶ騎士さんなんて…オーバーリミット技とか使えそうよね」


「魔法剣で高速で切りつける……どっかの主人公みたいな技だよね。今度、武器の購入を考えようかな……」


「何か物騒な話してねえか?」


 そこに、マスターが夕方の仕込みをしつつ僕たちの会話に混ざる。


「あっちの世界の話だからねマスター。こっちには絶対持ち込まないから」


「泉ちゃんはワンドとして、薫ちゃんは……何かしら?」


「泉は魔法使いチョイスだからそれでいいと思うけど……僕はグローブかな?」


 痴漢相手に鍛えた拳に体術がある。だから、そのような武器がいいかもしれない。


「でも、それってかなりの接近戦で危険よ。怪我の可能性もあるから私としては剣とか槍とかの方がいいわ」


「おいおい2人とも。それよりも戦闘が無いのが一番だと俺は思うがな」


「……確かに」


 マスターの言う通りで、戦う事を前提とした話になっていた気がする。交流するのに異世界を渡るための魔法は必要でも、モンスターと戦う武器は必要はないのだ。


「それとも……なりそうなのか?」


 マスターが作業を止めて、こちらを真剣な目で見つつ問いかける。戦うようなことが起こるのかと。


「……気のせいだと思う」


「あら。その様子だとあるのね」


「……小説をまとめていたら気になることがあっただけだよ」


「お前の気になるは何か起こると同等だからな……それなら準備はしとけよ。戦うのは反対だが身を守るのは大切だからな」


「うん」


~♪~~♪


 お店にお客さんが来たので厨房から慌てて、店内に出てお迎えする。


「いらっしゃいませ! ……って」


「こんにちは薫さん」


「お疲れ様です梢さん。今日はどうしてここに?」


「この前メールで送っていただいた小説の事でお話がありまして」


「でも、あれ途中までしか……」


「はい。でも編集長が先ほど見たらしいんですけど、中々に面白いんじゃないかと。それで他の用事でこの近くに来ていたので、終わったその足で直接出向いて薫さんと打ち合わせをしようかと。ご自宅に行ったらお留守だったのでこちらにいると思いまして。電話もせずにすいませんでした」


「そうだったんですね」


「それでなんですけど……今、お時間は……?」


「昌姉? ちょっと編集さんと打ち合わせしたいんだけどいいかな?」


「ええ、いいわよ。ちょうど空いているしね」


「ありがとう。それじゃあ、あっちの席で」


「分かりました。あと紅茶をいただけますか? お店に来て何も頼まないのは悪いので」


「分かりました。席に座って待ってて下さいね」


 僕は紅茶を取りに、厨房に一度戻るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数十分後―


「今回は異世界物なんですね」


「ええ」


「でも、転生とか、神様に呼ばれたとかじゃないんですね」


「面白くないですか?」


「いいえ。かぶる可能性がありますから、むしろ他と差別化できていいと思いますよ。それに異世界との往来に制限が無いというのもいいかもしれませんね。だいたい主人公が異世界で暮らしたり、元の世界に戻るために奔放したりするのがお決まりですから」


「ゲームとかだとこういう設定って、よくあったりして大丈夫かなとは思ったんですけどね」


「それをいったら、色んなゲームのネタに引っかかりそうですけどね」


「それもそうなんですけどね」


 ここで、梢さんが紅茶に口を付ける。となると梢さん的にはここから本番の質問タイムだな。


「心配なのは魔法を使うのに精霊との契約が必要という所ですかね。そのような設定にすると登場人物がかなりの量になって、小説だと誰が誰なのか分からなくなりそうですし……」


「そこはなるべく分かるように語尾を付けて書いているんですけどね」


 実際、知り合いの精霊の方々の多くが語尾が独特なので、小説を書くのに大変助かっていたりする。


「このストーリーだと、この後、冒険の旅に出るとかそんな感じではないですよね?」


「はい。この後は主人公も魔法を覚えて、それを使って2つの世界を小説のネタを探すため奔放する話にしようかと」


「となると日常系ですか?」


「ええ。まあ」


「王道だと突如魔王が現れて最終的にはそれを倒すっていうのもありですよね」


「うーん。今のところは無いですかね。自分としてはほのぼの系でいこうかと……まあ、話がな長くなれば考えますけど」


「そうですか……」


 そこで、梢さんがまた紅茶を飲む。何を聞かれるかな? 今回、書いた小説は当然あちらの世界とのやり取りをモチーフにして書いている。梢さんに送ったのはベルトリア城壁での戦いのところまでだったんだけど……。


「となると、主人公の設定ですかね……」


「主人公ですか?」


「はい。渋いおじさんがこの話の主人公ですが……。この設定だと少しきついですね」


「というと?」


「渋いおっさんに精霊……何かミスマッチな感じがして」


「そうですか? なら、精霊も男にして……」


「他にも、おじさんを人質にするシーンがどうもニーズが無いように思えるんですよね」


「はあ……」


「それと、おじさんの使った武器が防犯用の催涙スプレーにドリルスティック。これならか弱い女性の方がいいような気がするんですよね。それなら購入している理由が理解できますし」


 女性が主人公か。でも若い女性の主人公なんて僕にはすぐには書けそうに無いんだけどな……。


「かといって女性を主人公にするにも、最近だと女性が主人公の物が多くあってインパクトが無いですし……」


 そう反論すると、梢さんが僕を見る……何ですかその目は?


「薫さん。ここは思い切って薫さんを主人公にしましょう」


「……はい?」


「30歳童貞、おじさんなのに超絶美女系男の娘が小説のために現実世界と異世界を奔放するドタバタほのぼの物語として売りましょう!」


「何そのキャラ!?」


「実際に私のその条件の大半をクリアしている人が目の前にいるじゃないですか」


「僕ってそんなキャラに見られてるの?」


「あ、いえ。すいません。ちょっと違います」


「と言うと?」


「30歳童貞、超絶美女系男の娘です。」


「おじさんが抜けただけですよね!?」


「どう見ても、薫さんはそのようにしか見えませんから……おじさんなんて称号は不要なんです!」


 その梢さんの力説に周りの常連客が頷いてる。いや、同意というか盗み聞きしないでよ。このままだと、本当に僕を主人公にした小説を書くことになってしまう。


「梢さん。そんなキャラ混み込み設定の主人公を作ってどうするんですか。いつか破綻しますよ。ここは少し個性的な女性がいいんじゃないですか?」


「いいえ。薫さんを主人公にすればイジリ倒し放題に、ツッコミ、エロまで担当してくれる中々な万能なキャラとしてイケそうな気がします。後、格闘技経験有りですし」


「それで書き続けたら、僕が僕の傷口を抉っていく形になりますよね!? とうかイジリ倒し放題にエロって何ですか!?」


「大丈夫ですよ……ええ、世間に顔出すわけでは無いのですから」


「知っている人が見れば、身を削ってるなアイツwwwですよね!?」


「いい作品を作るには、時には身を削る覚悟がいるのですよ……薫さん」


「でも……」


「確かに、薫ちゃんって適役よね」


「昌姉……!?」


「紅茶のお替わりはいかがですか?」


「ありがとうございます」


 昌姉がティーカップにお替りを注ぎつつ、僕たちの会話に混ざって来る。


「お姉さんも思いますか?」


「そうね。それと確かにその小説なら薫を主人公にした方がいいかもしれないわ。話が進めば小説にこんな挿絵を入れられそうですし」


 昌姉がおもむろにポケットからスマホを取り出そうとする。僕は慌ててその手を押さえる。


「ちょ! 何を見せようとしてるの!?」


「この前のキトンを着た写真だけど」


「見せなくていいから!」


 写真を出させないように止める。あんなの見せられてたまるか。


「え? キ、キトンですか……? 理由は分かりませんが……イオニア式を華麗に着こなす……お似合いですねきっと」


「見てないのになんで分かるんですか」


「イメージだけで十分に伝わります。美の女神アフロディーテのように崇高されそうですね」


 その梢さんの意見に常連客がまたまた頷く。頷いて欲しくないのだが……そもそもキトンとかイオニア式とかが何なのか全員分かるのか疑問である。


「それに、薫ちゃんだと後で30歳童貞、超絶美女系魔法少女(男の娘)になっても違和感がないわよね」


「あ!! 確かに!! そうですよね! この話のこの後の展開だと主人公も魔法を覚える予定ですもんね……なら、やっぱりここはそれでいきましょう薫さん!!」


「僕、嫌だからね!!」


「そこはどうか! 絶対ウケると思いますよ!」


「ええ~~!!」


 この後、1時間ほど頑なに粘ったのだが、最終的には梢さんと昌姉、そして何故か途中から電話で参戦した編集長さんに押し倒されるような形で主人公のキャラが決まるのだった。


「タイトルは『30歳童貞、超絶美女系男の娘が異世界を探索しますが何か問題でも?』でいきましょう!」


「僕は良くないからね!!」

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