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355話 不審者その2

前回のあらすじ「どんな痴漢にでも、すぐさま対応できる薫のスキルが発動した!」

―「ショルディア夫人邸宅・応接室」―


「流石、薫ちゃん! とりあえず、こいつから話を聞き出せそうね」


「……良かったんですけど……良かったんだけど……なんか素直に喜べないんですけど」


 クナイがおでこにクリティカルヒットしたらしく、絶賛気絶中の不審者。先ほど見せてもらった写真の誰でもなさそうに見えるが……。


「失礼します」


 家政婦が手で口を開け、口の中から何かを取り出す。


「ティッシュ?」


「それを両頬仕込んで、顔の輪郭をごまかしていたのね」


「太っちょの時は、もしかしたらシリコン製のマスクとか使っていた可能性もありますね」


 家政婦さんはそのティッシュを真空パックに入れ、ショルディア夫人宅の警備をしている警備員に渡す。


「これを至急アザーワルドリティに持ち込んでDNA鑑定に掛けて下さい」


「了解しました」


 家政婦さんの指示を受けて、ティッシュの入った真空パックを持って警備員は部屋を出ていった。


「あれ? これって警察の仕事じゃ……」


「今回ばかりは、これが正しいわ。恐らく、警察の持つ犯罪者リストに載っていない可能性があるもの。それなら世界中のありとあらゆる情報を引き出せるそちらに任せるのが一番よ」


「そうなんッスね……」


「それより……僕としてはこいつが僕たちの顔を知っちゃったのが問題なんだけど。下手すると顔写真を撮られて、他のメンバーに情報を共有されていたら……」


「それは大丈夫みたい。写真を撮ろうとして薫ちゃんを見たら欲情しちゃって……その瞬間に、薫ちゃんのクナイで気絶しちゃったみたいだから」


 橘さんが指を差す方向を見ると、ソフィアさんがノートパソコンとペンを接続して何かを確認している。恐らく、あのペンみたいなものは小型のカメラ機能が付いた物なのだろう。


「ソフィア。何が映ってるかしら?」


「ここの庭を撮影した物……後は、建設中の寮の写真も撮ってますね」


「そちらも建物内部が撮られてるかしら?」


「はい。建物の梁や柱……恐らく、爆発物を仕掛けるための下見かと……」


「そう……至急、オリアに連絡して建物内に爆発物が無いか調べるように連絡して頂戴」


「了解です」


 ショルディア夫人の指示を受け、ソフィアさんはスマホを取り出して、オリアさんに連絡を取り始める。


「何で爆発物を仕掛ける下見だと思ったのです?」


 すると、レイスが先ほどの会話で気になった事を訊いてくる。


「梁や柱を多く撮影していたからかな……? 少ない爆弾で効率よく建物を破壊しようとしていると思ったんじゃないかな」


「その通りよ」


 すると、僕とレイスの会話を聞いていたショルディア夫人が答えてくれる。


「もし、襲撃とかを考えるなら、通路全体が分かるような写真やホールの全体写真とかも撮るはずだもの。柱や梁となれば……恐らく爆弾、または毒薬なんかを散布する装置を、そこに取り付けるつもりなんでしょうね」


「なるほどなのです」


 ショルディア夫人の説明を受けて納得するレイス。泉やフィーロ、そしてユノもその話を聞いて頷いている。


「……ただの衣装合わせのつもりだったのに、とんでもない事件に巻き込まれてしまいましたね」


「そうだよね……むしろ、薫兄がここにいなかったら、こいつを逃がしていたかもしれないもんね」


「そうね……でも、どうやってこいつはここに侵入したのかしら? セキュリティはしっかりしているはずなのに……」


「それは……」


 僕はそこで橘さんに目と合わせる。先ほどから気になっていた事があり、橘さんがそれに気づいているのか確かめるためだったのだが……。ウィンクで返事を寄こしてくれた。


 どうやら、橘さんも気付いていたようなので、僕はアイテムボックスから、新しい武器の蓮華躑躅を手に嵌めて、そのままこの室内で気になっていた場所へと素早くダッシュして何も無いところをぶん殴る。見えているものが真実なら、そこには何もなく、僕の拳は空を切るだけなのだが……。


「がっ……!」


 男性のうめき声と共に蓮華躑躅を通して、何かに当たった感触がする。そこに橘さんも来て、僕が攻撃した位置から少しずれた場所に横蹴りを決める。すると、またしても男性のうめき声が聞こえ、さらに壁にぶつかった音も発生する。


「え? 何が!?」


「薫!?」


 ざわめく室内。至って冷静なのは僕と橘さん位である。


「驚かせてごめんね。さっきからこの部屋の人の足音の数が多い気がしていたんだ。気のせいかなと思っていたんだけど……」


「これはビックリね。まさか、姿を消せるなんて……」


「馬鹿な……この服の迷彩機能は完璧のはずだ……!」


 壁近くの何もない空間がぐにゃりと歪曲する。すると、徐々に全身を青い線が縦横無尽に入った黒いタイツみたいな物を着た男性の姿が現れる。顔もタイツで覆っていて目を隠すためなのか暗視ゴーグルみたいな物を装着している。


「確かに完璧だったわ。でも、音や気配は隠しきれていなかったわ。この狭い部屋の中ではなく、扉の前で聞き耳を立てていた方が利口だったわね」


「ちっ! まさかそんなんで気づかれるとはな……」


 見つかってしまったタイツ男は、これ以上隠れるのは無理だと判断し足に装着したホルダーからサバイバルナイフを取り出した。


「逃げられると思ってるのかな?」


 僕と橘さんで男の逃げ道を塞ぐ。僕は蓮華躑躅という武器を装着しているのに対し、橘さんは無防備。これが他の人なら心配するところなのだが、僕の武術の師匠である橘さんなら安心して任せられる。


「ここで捕まる気は無い。しかし……まさか、妖狸の正体が女装趣味の男だったとはな」


「……趣味じゃないんだけどな」


「とぼけるな。そんなドレスを着てるのに趣味じゃないっていうのがおかしな話だろう?」


「そんな状態に陥っているおかしな人物なだけなんだよね」


「はっ! 言い訳も大概にするんだな……!」


 サバイバルナイフを構えたまま話を続けるタイツ男。恐らく、逃げる算段でも考えているのだろう……もしくは、僕たちを捉えた映像を他のメンバー宛に送信中なのかもしれないが……。


「そうそう……ちなみに僕たちを捕えた映像なんかを送るための時間稼ぎなら無駄だからね? 君の存在に気付いてから、ちょっとした小道具を使って通信妨害をしているから」


「なっ!?」


 驚くタイツ男。これは新しく作られた名無しの魔法であり、そしてMT-1の新機能である。雷の魔石を核として作られ、自分たちの通信の保護と、相手の通信を妨害できるという特殊な魔法になっている。


 僕が持っているのは試験的に作られた物で、どれだけの距離に対応するのか、どれだけの数の通信機に影響を及ぼすのかを試している最中である。


「一体……いつから気付いていた?」


「たまたまだよ……君のお仲間を倒したタイミングで予防策として起動させていただけだから……」


 気配に気付いた奴に仲間がいたとしたら……と、思ってそのタイミングで起動させていたのが功を奏したようだ。


「なら……!」


 これ以上の時間稼ぎは無駄だと理解した男は、近くの窓から逃げ出そうとして走り出す。しかし、その方向には橘さんがいる。


「はい。これでお仕舞いと……」


 橘さんはタイツ男のナイフによる攻撃をいとも簡単に避けて、そのままタイツ男の顎に掌底を喰らわせ、さらに足で男性の急所を蹴り上げた。


 男として一番大切な場所を蹴り上げられたタイツ男はその場に倒れて悶絶。しかし、橘さんはそのタイツ男の姿に気にすることもなく、男の手足を拘束し始める。


「さてと……こいつを連行するわ。警察署だと逃亡の恐れがあるから、あっちで勾留したいんだけど……」


「すぐに誰かを呼び寄せるので、見張りをお願いします!」


 ソフィアさんはそう言って、部屋を出ていった。笹木クリエイティブカンパニーにいる賢者さんの誰かを連れてくるのだろう。


「くっそ……お前らさえいなければ……ヘルメスは……」


「ヘルメス……ね」


 タイツ男の口から洩れたヘルメスという言葉。この件に間違いなくヘルメスが関与しているのが分かった。


「まさか……こんな技術を持っているなんてね……」


「私も予想外だったわ……まだ、これだけの物があるなんて。一度、他のメンバーと情報を共有して、国際会議当日の警備体制を強化させるわ」


「ええ。分かったわ……私も署に戻ったら、市内の巡回を増やしておくわ……他にこちらでやれることがあるかしら?」


「そうね……そうしたら……」


 ショルディア夫人とソフィアさんがヘルメスが相手だと分かって、今後の対策を相談し始める。


「……とりあえず、皆は着替えてきて」


「う、うん……」


「薫は?」


「こいつらを引き渡してから着替えるよ。逃げられたら困るからね」


「分かりました……気を付けてくださいね」


 ユノは僕のことを気に掛けながら、ドレスから私服に着替えるために泉たちと一緒に部屋を出て、ドレス室へと向かっていった。


「……当然だとは思ったけど……少し厄介な事になるかも……」


 1人で床に倒れている男2人を監視しながら、この後に待ち構えている厄介事にうんざりしてため息を吐くのであった。

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