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352話 とりあえずの決着

―1時間後「セレクトショップこもれび・店内」―


「この施設で、研究されたのは生命の創造……神の領域か」


「納得したのです。この施設では、倫理を無視した非合法な研究を行っていた……そして、これが昔のイレーレが侵した罪でもあったのですね」


研究内容を一通り確認した僕たち。時間は1時間ほど経っていたが、精神的には夜通し確認した感じがしている。


「お茶を淹れ直してくるわ」


「え、でも……」


「こんな情報を聞けたのから充分よ」


「漏らすなよ」


「しないわよ。言ったでしょ? 現役を引退した身だって」


店主はそう言って、新しいお茶の準備を始める。そんな姿を見ていると、泉が本の感想を話しだす。


「生命の研究……法が整備され制限が掛かった中で、どちらの国にも属さない組織があったなんて……」


「でも、何だか分かる気がするッス。実際にこの地球でもヘルメスとかいう組織がある位ッスから」


「フィーロの言う通りだ。この世界にも大小様々な非合法な組織はある。これを書いた奴はそんな非合法な組織に属したマッドサイエンティストと呼ばれる存在なんだろう」


「自分の知識……いや、素晴らしい研究成果を世に知らせたかった……か。複雑な気分ですね。内容はどれもこれも口にし難い……過去のグージャンパマの繁栄の闇の部分ですから」


「もしかしたら、当時の両国の政治関係者も関わってるかもしれないな……まあ、施設がアンドロニカスの暴走時に破壊されているなら、数千年経った今ではそれを証明する物は何も残っていないだろうがな」


「それが私達を助けるなんて……薫の言う通りで、複雑なのです」


聖獣……これらの正体は、このイリスラークで最高の生命体と判定された存在である。ここはグージャンパマに住む生物を捕獲し、ありとあらゆる様々な実験、時には強制的な繁殖などをさせたりしていた。言っておくが……グージャンパマの生物とは、人間も含んでいる。


「特殊な魔獣を聖獣として呼ぶようになったのは、このイリスラークが起源で、ここから人伝に伝わっていったみたいだな」


「ここは捕獲した聖獣を、異なる種族なのに無理矢理、掛け合わせたりもしていた……ただ、医学が発展していなかったせいか、上手くいかなかったみたいですね」


「遺伝子という考えが無いからな。もし、それらの知識があったら大変な事になっていたかもな。彼らの目的は完全たる生物の誕生だったようだし……いや、これから起こり得るかもしれないが……」


近似した生物なら人工的に交配させられる地球。もしかしたらイリスラークみたいなヤバい組織が地球で作られ、聖獣同士を掛け合わせるということが行われてしまうかもしれない。


全く予想されていない危機では無かったが、未遂とはいえ、グージャンパマですでに行われていた事が問題であり、その研究内容がこうやって実在するのも色々面倒である。


これだけで、お腹が一杯になる内容なのだが、ここからが問題である。


「どこまで知らせます?」


一番簡単なのは、ここにいる全員が、この情勢を自分の胸の内に仕舞い込んで、この本を抹消する選択肢がある。


しかし、本の中には有益な情報もあり、グージャンパマに住む種族がどんな風にして人族から分かれていったのかが詳細に書かれていたり、当初の目的だったフルールが聖獣と呼ばれる由縁もここに記されている。また、滅んでしまったイレーレの生活環境や当時の情勢などの記載も見られ、歴史的な価値もあったりするので、おいそれと捨てるわけにはいかなかったりする。


「そこは君の親しい関係者に言えばいいだろう。彼らに決めてもらえばいい」


「それが問題なんですけどね……直哉にマクベス、セラさん……ショルディア夫人や総理は?」


「ショルディアには私から一部情報を伏せた状態で伝えよう。総理は君から、大統領にはソフィアに任せる。違法研究が行われていた事実だけ伝えて、詳細に関しては研究に携わる関係者の中でも一部の人間しか知らない事実にしておけばいい」


「後はグージャンパマの各国代表には話した方が良いのです。再びこのような残虐な実験をさせないためにも……」


「そうだね。泉たちもいいかな? 特にフィーロは気を付けてね!」


「何でうちにだけ念押しするッスか!?」


「だって……ポロっと言いそうだから」


ここにいる全員が一斉に頷く。本人は確かに口は堅いのだが……お喋りが好きなので、話の最中にうっかり漏らす可能性がある。


「お喋りに夢中になると、うっかり言う可能性があるから気を付けるのです」


「それは…………はい」


「話がまとまったようね」


店主がお代わりのお茶を持って話に戻る。


「バレた事だし、何か話しにくい内容を打ち合わせするなら、ここも使って頂戴。事前の連絡は必須だけど」


「ありがとうございます。機会があれば利用させてもらいますね」


「……あの~」


「泉ちゃん達は変わらずに、お手製の衣装を持ってきて頂戴。それと、佐藤さんから前に作ってもらった人形の衣服で、新しいのが欲しいって要望が入ってるわ。夏用を2、3着で値段はこの前と同じで引き受けてもらえないかだって」


「……分かりました。また、私の知らないお父さんの事を話してくれますか?」


「ええ。もちろん……あの世にいるアイツが、慌てふためくような話をしてあげる」


「はい」


自分の恥ずかしい秘密が娘にバラされる……泉のお父さんは、今頃あの世でどんな反応しているだろうか……。


僕は泉のお父さんが両手で顔面を隠し、うずくまる姿を思い浮かべる。そんな姿に苦笑しつつ、温かいほうじ茶ラテを口にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―2日後「魔法研究施設カーンラモニタ・第三研究区画」―


「えーと……これでいいんですよね」


自分の血で真っ赤な染まったフルールの羊毛をセラさんに見せる。


「はい。後は髪を少し……それらを釜の中に入れて下さい」


僕は必要な材料を釜の中に入れて、魔方陣の中に入る。


「これで、魔法使い専用の武器の所有権を変えられるのか……」


「血や髪を使用するのは、遺伝子情報を武器に覚えさせる為か……となると、魔法使いの武器を一から作る際には、何らかの方法でそれらの情報を得ているのか?」


「そうなるよね……あ、となると血液や髪を使うことで、より短時間で武器を作れるのかな?」


「ああ! それは面白いな……そうしたら、ちょうど地属性の適正がある新人が入ったから、そいつで試してみるか……」


「そうしたら……」


僕はフルールの羊毛を血で染色するために切った自分の手の平にポーションを掛けながら、後ろにいる賢者さんたちの話を盗み聞きする。


「何か色々話しているのです」


「まあ……あんな書物が出てきちゃったらね……」


あの後、直哉とセラさん、それとマクベスに報告した所、やっぱり大騒ぎになった。そこから、緊急会議が行われて、とりあえず賢者さんたちの所までは全部の情報を流すことにした。地球から来ている人たちに関しては、総理と大統領、ショルディア夫人の3人で決めることになった。


「しっかし……まさか、うちの兄貴がこんな事に巻き込まれていたとはのう」


「この2人に任せて正解だったねドルグ」


「ああ」


そんな話をしながら、ドルグとメメが僕たちの方に近づく。


「お兄さんは、2人に話したんですね」


「そうだよ。職人として恥ずかしい事をしたってね。それと王様もその理由を聞いて、褒美は渡さない事に決まったよ。深く反省している彼に、それを渡すのは悪いだろうってね」


「それに、弟子に自分の技術を叩き込ませる方が、いい罪滅ぼしになるだろうって……その方が国としても利益になるしな」


「軽いお咎めで良かったです」


「姫の婿殿が処罰を言い渡したのに、それを我がとやかく言う資格は無い。とも言ってたし……」


「そうですか……」


ビジャータテア王国の法的にそれで問題ないのだろうか心配になるんだけどな……。


「っと、そろそろやるぞ。見学者どもが騒がしいしな」


「全くだね……こっちの事も考えて欲しいもんだよ」


作業のため、2人が反対側の魔方陣に移動していく。それを見て、賢者さんたちのざわめきが大きくなる。


「これで、とりあえずは一件落着なのです?」


「一応……ね。ただ、お婆ちゃんがあの本をどこで手にいれたとか、イリスラークの所在地とか気になる所はまだまだあるけどね」


まだ、分からないところもある。が、これ以上調べると他の業務に支障を来すので、ここから先は時間に余裕がある時にでも調べるとしよう。


「おーい! そんじゃあ始めるよ!」


メメの呼び掛けを聞いた僕たちは、新たな武器……お婆ちゃんが使用していた籠手を僕の所有権にするために、静かに祈りの体勢を取るのであった。

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