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351話 こもれびの真実その2

前回のあらすじ「61話参照」


*明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

―「セレクトショップこもれび・店内」―


ボロボロで、くすんだ紫色の表紙。その表紙にはグージャンパマに通っている僕たちには見慣れた文字が書かれていた。


「研究レポート……かな」


「そちらの、お嬢さんはこれが読めるのね」


店主が表紙に書かれていた文字を読んだ僕に視線を向け、尋ねてくる。


「はい。グージャンパマで使われる一般的な文字ですから」


「グージャンパマ……例の異世界ね。道理でこの世界の言語を当てはめようとして、上手くはまらなかった訳だ」


店主はそう言って、先ほどから作っていたほうじ茶ラテを出していく。


「遠慮せずに飲んで。新しい知識をくれたお礼よ」


「そうしたら、プラス2人分を用意してもらえないか。何時までも鞄の中にいるのは窮屈だろう」


「鞄……まさか、聖霊も一緒に来てるの?」


店主の質問に、オリアさんはこちらに目線を向けるという行為を取る。それがどういう意味か分かった僕と泉は、それぞれの鞄から相棒の聖霊を呼ぶ。


呼ばれたレイスとフィーロはすぐさま鞄から飛び出て、カウンター席のテーブルの上に降り立ち、店主にお辞儀をする。


「この聖霊は……そうか。この2人が巷で騒がれている面妖の民の妖狸と妖狐だったのね」


「隠してて、ごめんなさい」


「いいのよ。私も泉ちゃんに隠し事をしていたしね」


店主は手早く3つ分のほうじ茶ラテを準備して、自分もカウンター席側、泉の横に座る。


「そいつと知り合いと言う事は、組織の事は知ってるのよね」


「はい」


「この際だから、訊きたいッスけど組織の名前って無いんッスか? 何か話づらいッス」


「残念だが無い。名前は便利だが、時として、我々の存在が露呈しかねないからな」


「後は有耶無耶にするのが簡単というのがあるわ。適当なペーパーカンパニーに失敗を押し付けたりとかね。ほら、いつの間にかこんな会社があったみたいな事が無いかしら?」


「それを聞いていいのかな……?」


「巻き込まれてるんだから、問題ないわよ。それに、しばらくしたらオリアはどこかの組織に所属になって、別の人達が新しい組織で同じ仕事をするだろうし」


「だな。この騒ぎが一段落したら、私はグージャンパマと地球の往来に関わる新しい会社の役員に収まる予定だ」


「なるほど……組織の解体と設立を繰り返す事で、前後の繋がりを無くして、表舞台に出ないようにしてるんですね」 


「もしかして、ショルディア夫人もなのです?」


「アレは別よ。様々な呼び名を持つ世界を裏から支える巨大な組織。あそこが無くなると大分面倒な事になるわね」


「君達が聞くような組織名は主にそこの事を指すぞ。今の君達なら幹部も狙えるかもしれないが……」


「「遠慮しときます!」」


 泉とフィーロが遠慮する。そんな組織に入ったら、どんな制約を課されのか分かったものでは無い。当然だが……。


「僕もかな……レイスはどう? 入っておけば、ノースナガリア王国にとってはいい事じゃないかな?」


「私は将来ノースナガリアの女王として、あちらにいることが多くなるので必要無いかと……」


「互いの世界の連絡の取り合いも電話やメールですぐにとはいかないだろうしな。無理にしなくてもいいだろう……っと、話が脱線したな。そろそろ、お前と泉の父親の関係を聞かせてもらおうか?」


逸れてしまった話を、オリアさんが戻す。それを聞いた泉と店主の顔付きが神妙な物になる。


「そうだね。泉ちゃんのお父さんだが……あいつの家族の事は知っているかい?」


「いえ。聞いていなくて……母親の家族が濃かったせいか、気にならなくて……」


美人コスプレイヤーの姉に、見た目中学生のオバサンとなれば確かに……。


「特に薫兄がこの見た目で男性とか……色々、濃過ぎるんです」


「……だから、どこの情報屋も行き着かないのか。美人姉妹で注目されてるから私もそう思ってたし……あなた、いい医者を紹介するけど……どう?」


「僕はこのままで別に困らないので! それより、泉のお父さんの家族ってどんな人たちだったんですか?」


このままだと、また話が逸れそうな雰囲気だったので、語気を強め、店主に話を進めるように促す。


すると、店主は目を細め、ここではない遠く……昔の事を見つめながら話を始める。


「知らない。あいつも顔を覚えていないって言ってたから……あいつは孤児だったからね」


「孤児……ですか」


「養護施設育ちでね。物心が付く前に捨てられたって……」


「もしかして、店主が引き取られたんですか」


「そんな面倒な事したくないよ。だから、ずっと独身だったし」


「じゃあ……どうやって知り合ったんですか?」


「その養護施設が経営難だったんだよ。それで、当時最年長だった泉ちゃんのお父さんが、養護施設を存続させるために、私の元で情報屋として働いたのよ……養護施設にはこれ以上、新しい孤児は引き取らないと誓わせてね」


「お前が仕込んだのか……道理でアイツの手際がどこかお前に似ていると思ったが……それで、お前とその養護施設の関係は?」


「園長と知り合い。ただ、それだけよ? 文句があるのかしら?」


「……いや、ないな」


オリアさんがその話題から素直に引く。裏の仕事をしていた店主が、そんな浅い理由で手を貸すとは思えない。きっと、他にも理由があるはずだ。


が、僕がそれを聞くには、こちらへと放たれている店主からのプレッシャーを跳ね除けなければならない。そんな無粋な事をする気にはなれず……そもそも踏み込む勇気が無いので、ここは素直に納得しておく。


「そうしたら……おばあちゃんって、お父さんの育ての親って事で紹介してくれても良かったんじゃ……」


「アイツは養護施設のいざこざが終わったと同時に結婚して、裏稼業から足を洗ったからね……それなのに、私の話をしたら、うっかり漏らす可能性があるでしょ? だから、その時に私との縁も切らせたのよ……アイツがこの本を持ってくるまでは……ね」


店主はそう言って、置いてあった紫色カバーの本を手に取る。


「嫁の母親から受け継いだ本の内容を知りたいってね。私がしごいたアイツが分からないなんて、不思議な話で信じられなかったけどね。とりあえず前金も受け取ったから調べてみたのよ」


「あ、もしかして……本を今まで返却せずに持っていたのって……」


「何も分かりませんでした! なーんて、言えるわけなくてね。意地になっちゃって返せずにいたのよ」


自身のプライドに呆れたような仕草をする店主。手に持った本を置き、やれやれと両手を上に向けている。


「あの〜……お父さんはどんな感じでこの本を持ってきましたか?」


「うーん……そうね……」


店主は腕を組み、その当時の事を思い出そうとしばらくの間、静かになる。しばらくの静寂の間、店主がおもむろに口を開く。


「普通に世間話してたね。娘がもう少しで高校を卒業とか、奥さんのお姉さんが随分若いとか……」


「となると……お前は娘がいた事を知っていたのか?」


「ええ。だけど、泉ちゃんとの出会いは本当に偶然よ? 私もビックリしたもの……ふふ、血は争えないのかしら?」


「偶然です。たまたま、あの張り紙を見ただけですから」


「冗談よ。で、肝心の本に関してだけど……個人が作ったオリジナルの文字じゃないかと言ってたわ。それと、形が似た字や助詞に当たる箇所があったとか……まあ、そこはもう問題じゃないわね……あなた達が聞きたいのは」


「泉のお父さんは、これが何か知っていたのでしょうか?」


僕がそう尋ねると、店主は目を一度瞑り……そのまま話し出す。


「知らなかった……が、何かを危惧していた様子があったわね……」


「何か……ですか?」


「そうよ。聞こうとしたんだけど……すぐにあの世に旅立ったからね……」


「……ここに来たのって、亡くなる何日前とか分かりますか?」


「2月20日……その前後で間違いないわ」


「なるほど……」


「何か分かったかしら?」


「いえ、これだけでは何も。ただ30年ほど前にもらった本をどうして、そのタイミングで調べようとしたのか……何か、キッカケがあったのかなって」


「確かにそうだな……そうしたら、私の方で調べてみよう」


「私も手伝うわ。引き受けた仕事をこなせなかった責任もあるから」


「僕たちはこの本を調べてみますね」


「というより、本の中身を一度確認してみないのです?」


「それも……そうッスよね」


レイスたちの提案を聞いて、僕が代表して本を開き、セシャトを掛けて中を読んでいく。


「我々は滅びる……もはや、残された時間は無い。しかし、私はこのまま死ぬつもりは無い。残された時間で、破壊されてしまった……ん?」


「どうしたのです?」


「ここが翻訳されないんだけど……レイスは分かるかな?」


レイスが近づき、僕が指差す箇所を見る。


「これは……施設の名称なのです。恐らく魔石に登録されている情報から外れたみたいなのです……えーと、発音すると……イリスラークらしいのです。これは、その施設で保管された研究内容を書き残した本らしいのです」


お婆ちゃんが残したこの本。そこにどんな内容が書かれているのか読んでいくのであった。

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