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350話 こもれびの真実

前回のあらすじ「本が見つからない」


*今年の投稿はこれが最後になります。次回は1月5日の予定、それ以降も毎週木曜と日曜の投稿になりますのでお願いします。皆様、良いお年を。

―オリアが来てから十数分後「泉宅・リビング」―


「君のお父さんは、優秀な情報屋でね。私も良く利用させてもらっていた。日本に帰った際に、偶然知り合った女性と結婚して足を洗ったのだが……」


「名前を聞いていなかったんですか?」


「ああ、本名を名乗るなんて危険だしな。当然だが偽名を使っていたよ。この国で活動するに当たって、彼の協力を得たいと思って調べたが……まさか、亡くなっていたとはな」


「まさか、お父さんがそんな仕事をしていたなんて」


「君が生まれる前だしな。しょうがないだろう。まさか、知り合いの娘と、こうやって仕事を一緒にこなす日が来るとは」


 オリアさんはそう言って、手帳から写真を取り出す。そこに写るのは若い頃のオリアさんと、泉のお父さんが一緒に写っていた。


 泉はそれを手に取り、静かに見ている。自分の知らない父の姿に何を思っているのだろう……。


「じゃあ……今、あっちで働いている人の中には、私のお父さんと面識がある人がいたりして……」


「いる。私が知っている限りでも4、5人はいるな」


「そうですか」


 泉は見ていた写真をオリアさんに返した。半年ぐらいの付き合いだが、まさかこんな接点があったとは。


「彼には借りがあってな。何かしら恩を返したかったが……それはもう無理のようだな」


「……この後、両親のお墓に行きますか?」


「ああ。そうしたら、この花はそちらに供えるとしよう」


 そう言って、横に置いてある花を見るオリアさん。花はフリージア。花言葉は信頼・友情。そこから察するに、互いの本名は知らなくとも、信頼し合える仲だったことが伺える。


「そうしたら早速……」


「本探しはどうするッスか?」 


 両親のお墓へと案内しようとする泉に対し、先ほどから静かに聞いていたフィーロが口を出す。


「お取り込み中なら、別の日でも構わないが?」


「いいですよ。お母さんが持っていた本を探していただけですから」


「君のお母さんが持っていた本……グージャンパマに関係する内容か?」


「はい。今はセラさんとマクベスの2人にも一緒に調べてもらっていた件です」


「フルールの羊毛の調査か。察するに、様々な情報を頼りにここまで来たという所のようだな」


「幼い頃の泉が、グージャンパマの字で書かれた書物を見たらしいんです。ただ、その本が見つからなくて……」


「もしかして、私の見間違いかな……」


「でも、そうしたらアンジェさんは、どこにその本を

置いたのか分からないのです」


 そこで考え込む泉たち。これ以上の情報が無いため、どうする事も出来ない……はず。


「で、君は何か新しい発見をして、そこから次を探しているのか?」


 オリアさんが僕の方を見ている。3人が悩んでる中、僕だけ悩んでいる様子が無かったのが、不自然に見えたのだろう。


「何か分かったんッスか!?」


「どうして黙っていたのです?」


「早く教えてよ!」


 矢継ぎ早に話しかけて来る3人。頭の中でまとまっていないので、ゆっくり話をしていく。


「さっき話したでしょ? 泉のお母さんに本を渡した理由は何だろうって。もしかして、泉のお母さんは本の内容は知らなかったんじゃないかな……」


「母親から受け継いだのに知らなかったと?」


「オリアさんの意見はもっともなんですが、お婆ちゃんは急激に容態を悪くして寝たきりになったんです。だから、その直前、意識がまだ少し残っているタイミングで渡したとしたら?」


「ただの海外の本という認識で引き継いだ可能性があるということか……」


「そして、もう1つの仮定を組み込むと、どうして泉のお母さんに本を引き継がせたのか、ある程度、納得する理由が出来るんだ」


「その仮定って?」


「泉のお父さんが情報屋をしていた事を知っていたとしたら……お婆ちゃんは何も告げられ無い状態で本を託そうとした。けど、中に書かれている字は地球で使用されていない字で、このままでは娘たちが読めない。そう思ったお婆ちゃんは苦肉の策として、泉のお母さんに本を託し、泉のお母さんが気になって本の中身を調べようとした際に、泉のお父さんが、それに最適な人物を紹介してくれると……そう、考えていたとしたら?」


「本はその人物の元にあると?」


「……なーんてね。かなり、強引なこじつけだね」


「それなら……私に心当たりがある。しかも、この町にいるぞ」


 オリアさんの発言に僕は驚いて、そちらへと顔を向ける。


「無駄足になるかもしれないが、聞くだけ聞いてみた方がいいだろう」


「なるほど、当たって砕けろって事ッスね!」


「砕けちゃダメなのです……」


「でも、この家で何も見つからない以上、気分転換に行ってみるのもアリかも」


「泉の意見に賛成かな。それにオリアさんの知り合いなら、それはそれで何かいいヒントを得られそうだしね」


 僕たちの意見が一致する。これで何かを失う訳でもない。それなら、行くだけ行ってみるのもありだろう。


「それでは案内しよう」


「その前に、お墓に寄るのです」


 この後、オリアさんと一緒に泉の両親が眠るお墓に行く僕たち。そのお墓の前でオリアさんは静かに冥福を祈るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お墓参り後「古びた商店街」―


「ここも大分、賑やかになったね」


 墓参りを済ませた僕たちは、商店街近くの駐車場に車を停めて、オリアさんの案内で知人のお店に向かっている。


「名物、異世界饅頭はいかがですかー!」


「間もなく、笹木クリエイティブカンパニー行きのバスが出発しまーす!」


 歩道を歩いていると、ついこの間までシャッターが閉まって静かだった駅前が賑わいを見せている。売り子が熱心に道行く人に売り物のアピールをしたり、関係が無いのに異世界と商品に名前を付けて販売をしている。


 また、バスの運行をお知らせするガイドの人が、バス停付近で待機して案内をしていたりと、前とは比べ物にならないほどの人が往来をしている。


「あ、コンビニがオープンしてる」


「あっちは、飲食チェーン店が入ったね」


「笹木クリエイティブカンパニーから、一番近い最寄り駅だからな。こうもなるだろう」


「それでも、結構な距離がありますけどね……それで、紹介する方はどんな人物で、どこにお住まいなんですか?」


「この先の道を曲がって、そこで店をやっている元調査員だ。彼女は暗号解読のスペシャリストで、それを活かして翻訳などもしていた」 


「へえー……そんな人がこんな近くにいるなんて」


「泉? ここって……あのばあちゃんのお店が近くッスよね?」


「うん」


  泉の持っている鞄の中に隠れているフィーロの話を聞いたオリアさんが、泉の方に視線を向ける。


「それは……こもれび、という名前の店か?」


「……はい。そこに作った商品を置かせてもらったりしています」


「そうか……」


 オリアさんの後に続いて、道を曲がると少しだけ静かになる。そして、正面がガラス張りのオシャレなお店の前で立ち止まる。お店の扉にはCLOSEの看板が掛けられている。


「やっぱり……」


「あのばあちゃん、只者じゃ無かったんッスね……」 


「二人共、知り合いなのです?」


「つい先日、泉がここに商品を卸していたッス。ちなみに、ばあちゃんとうちには面識は無いッスよ」


 オリアさんは扉を開け、店の中に入っていく。僕たちも中に入ると、店の入口近くはセレクトショップ、奥はカフェという変わった造りになっているお店だった。


「来たわね。いきなり来るなんて何の用事で……」


 店主のお婆さんが、カフェに設置されているカウンターから顔を出す。そして、その顔はすぐに驚いた表情になる。


「何で……泉ちゃんも一緒なの!?」


「単刀直入に聞く。彼女の父親から本を預かって……いや、翻訳を頼まれなかったか?」


「……ちょっと待ってもらえるかしら」


 店主はそう言って、店の奥に入ってしまった。しかし、その行動が僕たちの求める物が、ここにあることを告げている。


「どうやら、正解のようだな」


「まさか、おばあちゃんがお父さんの知り合いだったなんて……どうして教えてくれなかったのかな……」


「泉……」


 隠し事をされていた事にショックを受け落ち込む泉。その姿を見て、フィーロが何を言えばいいのか戸惑ってしまっている。


「きっと、その事についても教えてくれるよ。店主さんは悪い人じゃ無いんでしょ?」


「それはそうだけど……」


「ショックを受けるのは店主さんの話を聞いてからでも遅くないでしょ?」

 

「……そうだね」


「待たせてごめんなさい」


 泉と話をしていると、店主さんが店の奥から戻ってきた。その手には、付箋がびっしり貼られた1札の本……。


「これが、お探しの本よ」

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