348話 引き継ぐ力
前回のあらすじ「意外な人物が知っていた」
―夕方「イスペリアル国・領事館 食堂」―
「それでお婆ちゃんは何て言ったんですか!」
僕は思わず席から勢いよく立ち上がって、マナフルさんに問いただす。まさか、こんな形で知ることになるなんて。
「そう慌てるのでは無い。どうやら本人も確証が無いらしくてな。あくまで出来るかも位なのじゃ」
「焦らさないで、早く言ったらどうです?」
「お主に言われなくても分かっておる……お主の祖母はこう言っていたのう。私達の武器を引き継いてもらうために。とな」
武器を引き継ぐ……つまり、魔法使いの武器は所有者の変更が可能ということか?
魔法使いの武器は、個々によって形状が変わる専用武器であり、似た物はあるかもしれないが、一品物である。魔法使いが持てば、魔法の効果上昇に負荷の軽減が働く。しかし、他の魔法使いがそれを手にしても、その効果が働く事は無い。
「それって、かなりヤバいかも……」
これが魔族に知られたら大変な事になる。魔法使いの専用武器が1人1つでは無くなるということは、魔族にとっても、これらを複数持てるということを指している。
また、それが長年に渡って強化された物だとしたら? 所有者が変わり、その所有者の元でさらに強化されたら? これが剣とかならば、名刀として魔法無しでも十分に戦えるレベルになるだろう。
「無限に成長する武器なんて……」
まあ、無限とは言っても限度はあるだろう。でも、ステータスがカンストするまで育てられる武器なんて頼りにもなるが、下手したら自分たちの首を締めるかもしれない。
「どうやら、役にたったようじゃな」
「はい。十分に」
とりあえず、明日セラさんに会ってみよう。この話から、何か新しい情報を得られるかもしれない。
「それは良かったのじゃ。ただ、妾からのお礼がこれでは気が済まないのう……魔石をいくらかもらってもいいか? ジェイリダの魔法が込められた魔石を作ってやろう」
「ありがとうございます。あ、そうだ……それで、思い出したんですが、ジェイリダって相手を即座に凍死させる魔法じゃないですよね? 今日、魔獣相手に使用したら一瞬にして凍死したんですけど……」
「妾が使うなら、相手にもよるが出来なくはない。しかし、魔石に込められているジェイリダは威力が落ちているからのう……無理なはずじゃ」
「このメス犬の考えが正しければ、原因は薫さんにあることになりますね」
ハクさんのメス犬発言に、再び2人が睨み合って一触即発の状態になる。このままだと、話も逸れそうである。
「原因か……やっぱりコレかな」
話を続けるためにも、僕はアイテムボックスから四葩を取り出し、ハクさんとマナフルさんに見せる。
「これに嵌め込んで使いました」
「ふむ……とんでもない武器を持っているようだなお主は。我々のように体内に魔石を持つ者を衰弱させる武器とは……これなら、切った奴らが凍死したのも納得なのじゃ」
鼻で四葩の匂いを嗅ぎながら答えるマナフルさん。魔力って匂いで感じ取れるのか、疑問である。
「ペクニア様の魔法を切っていたくらいですからね。そもそも、この剣だけで、今回の魔獣は倒せたんじゃないでしょうか」
「お主の意見に同意したくはないが……恐らく可能じゃな。その剣はあまり見せびらかさないようにするんじゃな」
「はい」
マナフルさんからアドバイスを受けた僕は、四葩を静かにアイテムボックスの中に仕舞う。強力な力を持つマグナ・フェンリルのマナフルさんや、シルバードラゴンのハクさんが、揃って四葩が危険な武器と判断するとは……。
「お主らと戦うのは御免じゃな。それより、旨い飯を食いに来た方がよっぽどいい」
「それには、流石に同意ですね」
そう言って、食事を続ける2人。貴重な情報を得られ、これからどうするべきか決まった。僕も食事を……。
「ただいまなのじゃ!」
「ガウ!」
そこに、元気よくオラインさんとグラッドルが食堂に入って来る。
「っと? 何か凄い事になっているのじゃ」
「……ガウ」
2人を見て驚くオラインさんとグラッドル。しかし、その場に留まることはなく、こちらへと寄って来る。ここで生活している関係でハクさんと、たびたび会うことがあるので、すっかり慣れたようだ。
「遅かったですね?」
「ギルドで冒険者登録を勧められてのう。その登録をしていたのじゃ。早く故郷に帰りたいのじゃが、それは叶わないし、その間、薫に何から何までお世話になりっぱなしになるのもどうかと思ってのう。そこで、少しは自分達で稼ごうと思ったのじゃ」
「僕としては気にしていないですよ? ここの警備もしてもらっていますし……」
「儂が気にするのじゃ。だから、宿代として受け取って欲しいのじゃ」
「だったら……一月、銀貨10枚。宿代としてはここら辺でしょうか」
この聖都にある宿の代金はおよそ銀貨2、3枚程である。しかし、僕としては、オラインさんとグラッドルはこの領事館に来たお客という扱いであるし、先ほども言ったように、ここの警備もしてもらっている。それだから、かなり安い値段を提示する。
「何か安過ぎるのじゃが……分かったのじゃ」
「そうしたら、来月からお支払いをお願いしますね。それと、ご飯どうします?」
「いただくのじゃ!」
「ガウガウ!」
元気よく返事して、席に付くオラインさんとグラッドル。オラインさんは、マナフルさんとハクさんの2人と談笑を始め、グラッドルは床に寝転んで、寛ぎ始める。
そんな光景を見ながら、僕はオラインさんとグラッドルの食事の準備のため、席を立つのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「軍事施設エーオース・通信室」―
「禁忌書……アンジェがそんな書物を持っていたなんて……」
「セラさんは聞いていませんか?」
「マクベス様と同じです。そんな物があったなんて……」
翌朝、僕はこの件を聞くなら、まずはこの2人だと思って聞いてみたが……やっぱり聞いていなかったようだ。
「しかも、魔法使いの武器を他者に継承する技術があったなんて……」
「マクベスも知らないとなると、かなり秘匿にされた内容なのかな……? それにしては、聖獣の情報が漏れすぎているような気がするんだけど……」
「それも気になりますね。セラ、各施設にそれを隠したような形跡が無いか調べて下さい」
「分かりました」
「その前に……マクベス。誰が聖獣を決めたのか分かる?」
「知りません。私自身、全ての聖獣を把握していないのです。そもそも、フルールという聖獣がいたことに驚きですから」
「私もです」
「そうか……」
お婆ちゃんが信用している相手である2人にも伝えていないなんて、一体どうして……?
「禁忌書……そこには一体、何が書かれているんでしょうか」
そのマクベスの疑問に、僕とセラさんは答える事が出来なかったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夕方「カフェひだまり・店内」―
「それで、その本は見つからなかったのね」
「うん。母さんにも訊いたけど、そんな本は見ていないって」
「それは残念だったのです」
あの後、セラさんと協力して施設内を探したが見つからずに、ノースナガリア王国から戻って来たレイスと一緒に、僕は地球に帰って来た。
「昌姉は何か知らないかな?」
「母さんが知らないなら、私も知らないわ」
「だよね……」
「こんばんは!」
「ちぃーッス!」
何の収穫を得られずに、僕が落ち込んでいると、晩御飯を食べに、泉たちがやって来た。
「どうかしたの?」
「うん? 探し物が見つからなくて、落ち込んでいただけだよ。それで、泉とフィーロは何してたの? ここしばらく、見掛けなかったけど」
「フルールの羊毛を集めて……それとマグナ・フェンリルの毛皮を使って肩掛けを作ってたの! 後は仕上げの工程だけだから、出来たら持ってくるね!」
「……持って来なくていいよ」
「薫兄ったら、連れないな……」
「それより……薫は何を探してるんッスか?」
「お婆ちゃんが所有していた本。そこにヤバい情報が載っているみたいなんだけど……知らないよね?」
念のために、2人にも訊いてみる。母さんや昌姉が知らない以上、同じく知らないとは思うが。
「……本」
すると泉が何か思い出したらしく、腕組みしながら思い出そうとしている。
「まさか……心当たりがあるの?」
「子供の頃に、何が書いてあるか分からない本を見たことがあって……お母さんがお婆ちゃんから貰った外国の本で……あ」
腕組みと独り言を止め、こちらを見る泉。その目から動揺しているのが分かる。
「グージャンパマの文字だったかもしれない……」




