346話 モンスターハンター
前回のあらすじ「クーと一緒に調べもの」
―「軍事施設エーオース・食堂」―
「あ、勇者様!」
菜の花入りのタルタルソースで春の訪れを感じながら昼食を取っている僕に、誰かが声を掛けてきたので振り向くと、オアンネスの修道士がこちらに駆け寄って来る。
「どうしたんですか?」
「キマイラが現れて! 今! 聖都に向かってきてるんです! お願いします! どうか討伐を……!」
「え? あ、はい……?」
「おお! お願いしますね!! 私は他の戦える者に伝えますので!」
そう言って、修道士は足早に去っていく。
「……レイスがいないんだけどな」
僕はそう言って、箸で掴んでいた白身魚を食べる。タルタルソースに混ぜ込まれた菜の花が良いアクセントになっていて美味しいな……今度、家でも真似してみようかな。その時は鶏肉でも……。
「わんわん!」
「あ、ゴメン。現実逃避してたね……」
僕はササッと昼食を食べて、討伐の準備をするのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「イスペリアル国・城壁 正門前」―
「お疲れ様です!」
いつもの巫女服に着替えて、イスペリアル国の城門までやって来ると僧兵の方々が集まっていて、僕を見ると一斉に挨拶をしてくれた。
「お疲れ様です。それで状況はどうなんですか?」
「監視塔からの報告では、キマイラはこの城門に向かって街道を進行中です。他にも鳥型の魔獣も連れていると……」
「数は?」
「キマイラは1体。空を飛んでいる鳥型の魔獣は5羽になります」
「それは……厄介だね」
今回、レイスがいないため空を飛ぶことが出来ない。そのため、鳥たちが下りて来るタイミングで倒さなければならない。そもそも、そのような攻撃を、鳥たちが仕掛けて来るかどうかも分からないのだが。
「大丈夫なのじゃ?」
すると、そこに熊のグラッドルに乗ったオラインさんが駆け寄って来る。
「どうしてここに?」
「何やら騒がしいからのう……何事かと思って来たのじゃが……手伝いが必要みたいじゃな」
「お願いします。1人では相手が悪いので……」
「もちろんじゃ。ここで恩を売る事は祖国にとって有益になるからのう」
「がう!!」
「そうしたら、僕とオラインさんとグラッドルで先行します。その間に防衛のための人員を集めて下さい」
「分かりました。それと、冒険者ギルドに募集を掛けているので、しばらくすれば応援が来るので頑張ってください」
「分かりました」
僕はそう言って、ユニコーンを呼んでその上に跨る。
「(あれ? 今日は飛ばないの?)」
「レイスが不在なんだ。だから、今日は普通に走ってもらっていいかな?」
「(もちろん。今日はどんなご馳走が待ってるのかな?)」
「今日は……キマイラのステーキだね」
「(俄然、やる気が出てきたよ!)」
「グラッドルに魔獣の肉は毒だから……美味しい牛肉でも用意するね」
「がうっ!!!!」
いい返事をするグラッドル。もはや、人間と同等の知能があるのではないだろうか……。
「よし! 出発なのじゃ」
オラインさんの掛け声と共に、グラッドルが出発。僕たちもその後に続くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「イスペリアル国・城壁 正門前」―
「おお……見えたのじゃ]
聖都を出てから街道をひたすら道なりに走っていると、こちらへと向かってくる魔獣の集団が見えてきた。
「あれ? もしかして……誰か戦っている?」
魔獣の集団の進行は止まっていて、その場で暴れているように見える。
「(4人組のパーティーみたい)」
シエルの言った通りで、4人の男女が陣形を組んで戦っている。1人の男性が大盾を構えてキマイラの前足の爪攻撃を防ぎ、もう1人の男性が大剣で攻撃。残りの2人の女性は魔石を嵌めた杖で、空を飛ぶ怪鳥を牽制する。
「なかなか、上手く戦ってるね」
「じゃが、攻め切れていないのう……」
戦い方には問題ないが、戦力が分散され防戦一方の感じになっている。
恐らく、あのパーティーはこのために来たのではなく、他のクエストを受けていて、その最中に遭遇したのだろう。
「(……応援が来るまで持ち堪えろ! って叫んでるよ)」
「オラインさん。どちらの方を対応しますか?」
「うむ……それなら、キマイラをやるのじゃ。地上戦なら儂とグラッドルの方が強いのじゃ」
「なら、僕は怪鳥5匹まとめて相手にしますね。シエルが魔法を使えるので、ある程度なら耐空戦も可能だと思うので」
「了解なのじゃ! グラッドル! 奥のキマイラに向けて突撃なのじゃ!!」
「グッオオオオーーーー!!!!」
物凄い雄たけびを上げ、さらに速度を上げるグラッドル。シエルもその後ろにつくように走り出す。
「スコール! 誰か来たわよ!!」
「何人だ!!」
「2騎! 馬と……見たことの無い生物に乗っていて……」
彼らの声が届く位置にまでやって来た。しかし、グラッドルは速度を緩めずに、そのまま女性2人の横を通り抜け、そのままキマイラにタックルを喰らわす。
「おりゃ!」
グラッドルが体当たりする直前に、グラッドルの背中を使って上に飛んだオラインさんが、剣を下に向けて、キマイラの頭の一つである鳥の脳天に剣を突き刺す。
「(ウォーター・ボール!!)」
その後ろにいた僕たちは、当初の予定通りに怪鳥への攻撃を仕掛ける。怪鳥はシエルの水魔法を避けると、その鋭い嘴で僕へ攻撃を仕掛けようとする。僕は鵺を盾にして右手に、四葩を左手に持つ。
「鵺……スパイク!」
怪鳥の突撃を盾で防ぐタイミングで、盾の表面に突起を生成すし、突撃のスピードを利用して怪鳥を串刺しにする。
「凄い……」
「この格好……勇者さん!?」
「監視塔からの応援で来ました! 詳細は後で聞くので、とりあえずここにいる魔獣の討伐をします!」
「分かりました!」
「これならイケる!」
女性2人はそう言って、守りの体勢から攻めへと切り替える。
「ファイヤー・ボール!」
「ウィンド・カッター!」
2人が空を飛ぶ怪鳥に向かって、攻撃魔法を繰り出していく。先ほどまでの、防戦から攻勢に変わったことで、怪鳥の群れの統率が崩れていく。
「はっ!」
怪鳥の1匹が空中から無数のウィンド・カッターを放ってくるので、僕は女性2人もカバー出来る壁を鵺で作り、その攻撃を防ぐ。
「シエル! あいつら壁を越えて、追撃してくるはずだから気を付けて!」
「(任せて! えい!)」
シエルがアイス・ランスで、壁の左側越えてきた怪鳥2匹を落とす。すると、シエルが向いている方向とは逆の方から別の2匹が攻撃をしようとしている。
「ファイヤー・ランス!」
「アイス・ランス!」
今度は、女性2人が先手の魔法攻撃を繰り出す。怪鳥がそれに気を取られている間に、僕はシエルから飛び降り、城壁状態の鵺を変形させて、城壁から突起を作って、空を飛ぶ怪鳥まで続く階段を作り出す。
階段を駆け上がる際に、アイテムボックスから濃い青色の魔石を取り出し、四葩の柄の部分に掘られた窪みに、その魔石を嵌め込む。
「ジェイリダ」
マグナ・フェンリルか魔石に込めてくれた魔法を発動させる。すると、四葩の刀身から冷気が発生する。
「……いくよ」
勢いよくジャンプして、2匹の怪鳥を一刀。怪鳥は切ったと同時に、その体に霜が発生する。
「(よっ……と!)」
凍死した怪鳥と一緒に落ちる僕を、シエルが背中で受け止めてくれる。
「(お疲れ!)」
「うん……お疲れ」
互いに労いの言葉を述べると、ドシッ!と重い音が城壁状態の鵺の向こう側から聞こえたので、鵺を盾にして小さくしてみる。
見えたのは、地面に倒れているキマイラと、それを眺めている3人の男女と1匹の熊の姿があった。
「終わったようじゃな」
「……そうみたいだな」
そう言って、オラインさんたちは武器を下ろす。
「サニー、ハレは無事か?」
「ええ。この勇者さんと愛馬のおかげで無事よ。そっちは?」
「無事だ。ただ、クラウドの盾が割れてしまったがな」
スコールさんの言葉を聞いて、視線をクラウドさんに向けると、確かに、手に持っている盾が半分に
割れてしまっている。あれでは、先ほどのような攻撃を防ぐことは難しいだろう。
「気にするな。どうせ、買い換える予定だ。それより……この魔獣の群れは一体何だったんだろうか……?」
「さあな……ただ、キマイラが出るなんて、聞いた覚えが無いな」
今回のイレギュラーな騒動に、首を傾げるスコールさんとクラウドさん。その2人の姿を見た僕たちもまた、首を傾げるのてあった。




