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345話 エーオースで調べてみた

前回のあらすじ「武器回収」


*作者の都合のため、次回の更新は12月14日になります。お手数をお掛けしますがよろしくお願いします。

―翌日「イスペリアル国・カシミートゥ教会 大司教の執務室」―


「これが……ララノア様が使用していた武器ですか……何と神々しい」


 そう言って、コンジャク大司教が武器を手に取る。僕としては……そう思わない。


「これをララノア様の像に持たせて……」


「止めときましょう……戦鎌を持たせるのは……」


 あの後、ヴェルンさんから受け取った2つの武器について、丸1日を掛けて調べた結果、お婆ちゃんとララノアが使用していた武器だという事が確定した。籠手はお婆ちゃんの物であって……つまり、残った戦鎌はララノアの物になる。武器を受け取った時からもしかしたらとは思っていたが……これが逆だったら良かったと思ってしまう。


「あっちの世界だと、大きな鎌を持つ神って死神を連想してしまうので……イメージ的にあまり良くないかと……」


「そうですか……う~ん。残念です」


 非常に残念そうな表情を浮かべながら、コンジャク大司教は手に持っていた戦鎌を机の上に置く。


 今日、このカシミートゥ教会に来たのは、隣国のノースナガリア王国にレイスが帰省し、昨日、来れなかった軍事施設エーオースに向かうつもりだったのだが、せっかくララノアの使用していた品が見つかったのだからと思いコンジャク大司教に見せに来たのだ。


「それで、もう一つの武器がアンジェ様の物だったんですね……何か薫さんと似てますね」


「そうですね……」


 机の上にある籠手を見て、マクベスから聞いたお婆ちゃんの戦い方を思い出す。お婆ちゃんは切り込み隊長として、両手に籠手を装備し、迫りくる敵をちぎっては投げをしていたらしい。ただし、僕が使う魔法とは少々異なるらしく、地属性の魔法で地面を隆起させたり、時には崩壊させたりする戦い方であって、僕のように重力を操る事はしてないかったそうだ。


「でも……何で、形が違うんですかね?」


 籠手を見て首を傾げるコンジャク大司教。通常、籠手は右手、左手の違いはあるが、同じデザインである。しかし、この黒い籠手はそれに当てはまらず、右手は重厚で攻撃時に阻害されない程度の大きさの盾が付いた防御的なデザインで、左手は悪魔の腕のような見た目の攻撃的なデザインで、また甲の所に窪みがあり何かを嵌める事が出来るようになっている。


「右手で攻撃を防いで、左手で攻撃する……。そんな感じの武器ですね」


 僕はそれを手に取って腕に付ける。一度試しに付けてみたので、そんな労せずに装備できた。そして、その場で素振りをしてみる。右手で攻撃を受け流したり、弾いたりして、そのまま左手で相手の懐に渾身の一撃を入れる……。これが、この籠手の通常の使い方になるだろう。


「なるほど……そのように戦うのですね」


「そうです。お婆ちゃんは地属性の魔法で相手の動きが止まった所に、この右手の窪みに状況に合わせた魔法を発生させる魔石を嵌めて、拳による強烈な一撃を加えていたそうです」


「薫さんの獣王撃と同じですね」


「そうですね。ただ……お婆ちゃんはここにカーバンクルの魔石を嵌めて、炎の拳によくしていたそうですよ」


「そうでしたか……しかし、これらをどうして一介のクラフターに売ったのでしょうかね? もう少し売る場所を考えれば、もっと大金を得られるでしょうに……」


「時期的に体調を崩して亡くなる直前でしたから、そこまで手が回らなかったのかもしれません。それより……どうにかしてフルールの羊毛を大量に得ようと画策していた風に見えました」


「セラさんやマクベスさんは?」


「聞いて無いそうです。ただ、あっちの世界でヘルメスの前組織を潰した話を聞いていたので、てっきり手元にあるものだと思っていたそうです。だから……その直後に武器を売って、フルールの羊毛を得ようと画策して……」


「そして亡くなられた……」


「はい。色々な人から話を聞いたので間違いないみたいです」


 時間系列も併せて、母さんにショルディア夫人、セラさんにマクベス。それ以外に関係する人にも訊いたのでほぼ間違いない。


「今日、ここに来たのはそれ関係ですか?」


「今日はレイスの里帰りで、関係無いですね」


コンコン!


「失礼します……コンジャク大司教。そろそろ……」


「もう時間ですか」


「そうしたら、僕はこれで」


 コンジャク大司教がミサを行う時間になったので、僕は立ち上がり部屋を後にしようとする。


「何か必要な事があれば、気軽に言って下さいね」


 コンジャク大司教のその言葉に、僕は軽く頭を下げて部屋を後にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数十分後「軍事施設エーオース・正面玄関」―


「わんわん!!」


「おしおし……元気にしてた?」


「わん!」


 長い地下への階段の先にある扉が開くと同時に、エーオースの防衛システムの要であるクーが出迎えてくれた。


「あれ? 薫さん今日はこちらにお出でなんですね」


 すると、そこに大量に物が入った段ボールを運ぶ研究員の方が通る。


「ええ。調べものがあって、こっちに来たんですが……船の整備は順調ですか?」


「予定通りですね。後はいつ試運転をするか……そう遠くない日に行う予定です。その時にはソフィアさんから話が来ると思うので楽しみにして下さいね」


 そう言って、研究員が去って行った。僕もクーを連れて施設内を移動する。その間にも多くの研究員や作業員の方々とすれ違う。


「賑やかになったね」


「わん♪」


 クーは嬉しそうに大きく尻尾を振っている。初めてここに来た時は、誰もいない静寂な空間だったが、今は誰かしらの会話や、ここで働いている人のために調理をしているのだろう美味しそうな匂いとかを感じられる。


「ここでずっと番犬として働いていた君にとっては嬉しいことだよね」


「わん!」


 僕がそう訊くと、クーは元気良く返事を返すのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから数時間後―


「うーーん……それらしき記述は無いか」


 エーオース内にある資料室に入って数時間……どの書物にもフルールの羊毛について記載は無い。


「ふぁ~~あ……」


 思わず欠伸をしてしまう。ここに来てひたすら本を読んでいたので少々疲れてしまった。


「他の場所で何か見つけられたかな……」


 フルールについての情報集めはここだけではなく、ポウに空中庭園デメテルを、魔導研究所クロノスは

セラさんがそれぞれの資料室にある本や、あるいは情報端末に何かしらの情報が残っていないかを調べてもらっている。


「……もう2時か」


 すっかりお昼を過ぎてしまった。お腹も空いたことだし、ここの食堂にでも行ってみるか……。


「クー。行くよ」


 僕は資料室の隅で寝ていたクーを起こす。クーは欠伸をしながら起き上がり、一度体を震わせてからこちらへと走り寄って来た。


 資料室を出て、食堂のある方へと歩き出す。食堂前に来ると、オシャレな黒板に今日のオススメが書かれており、これを持って来る必要があるのか分からないが、レストランで見かけるそれぞれのメニューの食品サンプルも棚に飾られている。きっと笹木クリエイティブカンパニーの人が用意したに違いない。


 それを見た後、食堂内に入ると、お昼時を過ぎたこともあって数人の人が遅めの食事をしていたり、飲み物を飲みながら休憩をしていた。僕はその人たちの横を通り過ぎながら奥の厨房へと近づく。


「いらっしゃい! あら!? 所長がこちらで食事なんて珍しいじゃないかい」


「チョットこっちで調べ物がありまして。それで、注文は大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ! それと……そっちのワンちゃんにはドッグフードを出すよ。今日は来ないなと思っていたけど……所長と一緒なら納得だね~」


 そう言って、食堂のおばちゃんが笑う。僕はおばちゃんに今日のオススメであるタルタルソースに菜の花を使った特製の白身フライを注文する。僕はフードコートで使われる呼び出しベルをおばちゃんから受け取って、適当な席に座る。クーも隣の椅子に昇って、そこで尻尾を振って、ご飯が来るのをまだかまだかとワクワクさせている。


 ちなみに、先ほどのおばちゃんは食堂で働いているがただの食堂のおばちゃんでは無い。彼女はここで働いている研究員の奥さんであり、昔は組織の日本支部のエージェントとして働いていた人である。現役を退いていたのだが、この世界の調査員が不足していることもあって、急遽駆り出されたらしい。


 そして、このような職員はここだけではなくクロノスにも派遣されていて、施設内の維持を主に担当している。


「本当に色んな人が来てるな……」


「ワン」


 僕の呟きに、クーは一鳴きして返事を返すのであった。

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