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343話 バリカンの作成者

前回のあらすじ「ちなみに別の場所で泉たちもフルールの毛を刈っている模様」

―その日の午後「ビシャータテア王国・魔法研究施設カーンラモニタ」―


「その魔道具か……」


 僕たちはユノと一緒にカーンラモニタへとやって来て、ドルグさんとメメに同じ内容を尋ねてみる。


「それね……あたしらも分からないんだよね。いつの間にか、この魔石の作り方が載った紙があって……誰が用意したか訊いたんだけど……」


「誰も心当たりが無い?」


「そうじゃ。で、いつの間にかその魔道具も流通していてな。不思議や不安とは思いつつも……それによる恩恵が凄かったからな。前王とも相談して、定期的に作るようにしているんだ」


「そうですか……」


「ただ……魔石以外、つまり魔道具本体を作れる奴には心当たりがあった」


「「「え?」」」


 それはどういう事だろう。この王都では広く流通している魔道具。その本体を作る職人であるクラフターと呼ばれる方々はこの王都でも、かなりの人数がいる。


「この魔道具って、ほんの数人しか作れない特別な物だったとか?」


「今じゃこの国のクラフターを名乗ってるやつなら誰でも作れるぞ……今はな」


「……なるほど。今は物があるから誰でも作れるようになったけど、一番最初……何も無い状態から作れたのは、お一人しか当てはまらなかったんですね」


「そうじゃ。そして……最初に作られたと思われる魔道具をわしは見ていてな……よく知るアイツの作った物だと一目で分かったんじゃよ。何せ魔道具の仕上げの磨き部分に癖があったからな」


「それなら、何でその人は名乗らないんですか?」


「会って問いただしたさ。じゃが……違うと言われて頑なに認めんのじゃよ。わしの兄貴は」


「お兄さん!?」


「え? そのお話、お父様に報告は……?」


「してあるよ。ただ、本人が認めないからどうしようもできないって感じだね……ただ、認められればすぐにでも報奨を与えるとは言ってたよ」


 メメはそう言って、やれやれというような感じで腕を広げている。


「何で……言わないんですかね? 」


「さあな……ただ、わしと同じ職人気質じゃからな、もしかしたら、黙って報酬を受け取れない何か秘密があるとは思ってるのじゃが……にしても、薫はどうしてこれに興味を持ったんだ?」


「これなんだけど……あっちのバリカンってやつに似てるんだ。だから、これを作った人物って、あっちの世界を知っているタリーさんかと思ってたんだけど、時期的に違うって言われちゃって……もしかしたら、こちらの人が一から作った物の可能性もあるけど……」


「そうか……気になるようなら行ってみたらどうじゃ? 王都の商業地区にいるからすぐ行けるぞ」


「そうしたら、行ってみます」


「ああ、頼んだぞ。きっと……」


「きっと……?」


「何でもない。気にしないでくれ。兄貴の名前はヴェルン。それとこれを渡して欲しいのじゃが……」


 そう言って、布袋を渡すドルグさん。中には紫色の魔石がたくさん入っている。その後すぐに目的地の書かれた地図も渡してくれた。


「兄貴の所に渡す予定の加工済みの魔石じゃ。それを渡せば俺の知り合いと分かるじゃろうから……頼んだ」


 そう言って、加工済みの魔石が入った袋を渡して作業に戻るドルグさん。僕はそれ以上は何も訊かないで、レイスとユノの2人一緒に部屋を後にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「ビシャータテア王国・商業地区 大通り」―


「ドルグは何を言いたかったんでしょうか?」


「そうだね……何かその件で問題があるのかも」


 僕は商業地区の大通りを歩く。買い物客で賑わい、大勢の人が行き交っている。


「お、あの子達かわいい……!」


「止めとけ……」


「え? でも……」


「後で説明してやる……残りの人生詰みたくなかったら、あの2人は止めとけ……!」


「そうだ。ほら行くぞ!!」


 3人組の男たちがそんな会話をしながら、そそくさとその場から離れていった。


「中央にいた男性……知らなかったんだね」


「あっちの世界のような情報システムがこの世界には無いですからね。一応、ドローインなどで写真は出回っていると思いますけど、その数も限られてますから」


「王都に住んでいても知らない人は知らないと……」


「そうですね」


「あ、そこを曲がるみたいなのです」


 レイスに言われて、持っていた地図を確認する。確かにここで曲がるみたいなので僕たちは大通りを曲がり静かな裏路地を進んでいく。


「この通りにあるのです」


「あそこじゃないですか? ほら、看板もありますし」


 ユノが指差す方向に、金づちとヤットコをクロスさせた鍛冶屋のような看板があった。


「クラフターを生業とする方々は、鍛冶職人として働いている方も多いんです。他にそのような看板は見当たらいないので、ここで間違いないでしょう」


 ユノはそう言って、お店の扉を開ける。僕とレイスもその後に続いて建物の中に入る。


「いらっしゃい!」


 カウンターにいる男の子が元気よく挨拶をする。店主であるヴェルンさんのお子さんだろうか。


「……お姉さん達? ここ鍛冶屋兼クラフターのヴェルンのお店だけど……冒険者かい?」


「こっちのお二人はそうですけど、私は違いますよ……今日は魔石の搬入で来たのですが」


「ああ! そういうことか! チョット待って! 親方を呼んでくる!」


 男の子は素早くカウンター席から立ち上がり、後ろの作業場へと続く扉から親方の名前を呼び始める。


「わったわった! そんな叫ぶな……って!!?」


 作業場から現れたのはドルグさんとそっくりの人物……親方であるヴェルンさんは僕たちを見て、驚いた表情を見せる。


「姫様!? それに、どうしてあんたが一緒に……!!」


「僕のこと……?」


「え……あ、いや……人違いのようだな。すまねえ」


 そう言って、男の子に作業場の片づけを指示して、この場から席を外させる。


「まさか、姫様が来られるなんて……アイツ、何をしてんだ?」


「ちょうど、ここへ来る予定があったので、そのついでです」


 そう言って、ユノが僕に魔石を渡すように頼むので、持っていた魔石入りの袋を手渡す。その時のヴェルンさんの表情はどこか落ち着かない様子だった。


「用事って……」


「フルールの毛刈り用の魔道具の作成者についてです。あなたが一番最初に作られたと聞きまして」


「弟が言ったんだろ? ちげえからな……そもそも、その話は姫様が生まれる大分前に片付いた話だ? 何で今さら……?」


「あのバリカンの作成自体はあなたがしたけど、設計図みたいな物はアンジェさんという方が提供したんじゃないですか?」


 僕がそう言うと、袋に入った魔石を確認しながら話していたヴェルンさんの手が止まった。


「お前さんは……一体……」


「こちらの方はアンジェさんのお孫さんの薫さんです」


 それを聞いて、再び驚いた表情を見せるヴェルンさん。そのまま僕の方を見て、腑に落ちた表情を見せてくれた。


「……そうか。なら、アレを持ってきたのか?」


「アレ……?」


「知らないのか?」


「はい。お婆ちゃんはそれを誰かに伝える事も無く亡くなったので……娘である母さんからもそのような話は聞いていないです……でも」


 僕は思い当たる物をアイテムボックスから取り出して、ヴェルンさんに見せる。


「もしかしてこのネックレスですか?」


 僕はお婆ちゃんが持っていた悪魔の紋章が刻まれた青い宝石が付いたネックレスを見せる。


「……それだ」


 ヴェルンさんはそう言って頭を下に下げる。その姿は何か観念したかのようにも見える。


「……チョット待ってろ。アンジェからだまし取ってしまった物を取って来てやる」


「だまし取った?」


「ああ……それと、茶を出すぞい。それを飲みながらゆっくり話させてくれ……」


 そう言って、カウンター裏の扉から出て行ったヴェルンさん。


「……もしかして、ドルグさんが言いたかったのってこれだったのかな」


「内容は知らなくても、何かあったとは察していたんでしょうね」


「それにしても……だましたとはどういう事なのです? ここに飾れている商品を見る限りは、そんな馬鹿なことをするような職人とは思えないのです」


 レイスはそう言って、飾られている槍に触れる。デザインはシンプルで、実戦を考えられた物になっていて、矛だけではなく柄も丁寧に作られており、名品といっても過言ではないほどの物になっている。それクラスの品々が店内に、そこかしこと飾られているのだ。いい加減な人では無いのは確かだろう。


「すまねえな……」


 そう言って、男の子と一緒に戻って来たヴェルンさん。男の子がお茶を出している間に、ヴェルンさんは右手をカウンター席に向けて前に出す。その右手には先ほどは着いてなかった指輪が指にはめられていた。きっと、お婆ちゃんから預かった品を、僕と同じ指輪型のアイテムボックスに保管していたのだろう。


 そう考えていると、カウンター席に二つの武器が現れた。1つはデザイン性のある戦鎌、もう1つは左右非対称の籠手……お弟子さんが席を外したところで僕は訊いてみる。


「これは……?」


「俺はそれを騙し取って買い取ったんだ……お前さんの婆さんからな……本来なら、貴族がコレクション用として高値で買う代物を……な」


「両方とも魔法使い専用の武器なのです!?」


「……そうだ」


 そう言って、俯くヴェルンさん。その驚きの品に僕たちは、思わず互いに顔を見合わせるのであった。

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