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342話 フルールの毛刈り

前回のあらすじ「人をダメにするクッションを着た羊」

―「ビシャータテア王国・南にある草原地帯」―


「さてと……しっかり、ふかふかを堪能したし……これからどうしようか?」


 僕としては当初の目的を済ませたので、特にやることは無い。


「そうしたら……これを」


 すると、ユノは変わった道具を持っていたバックから取り出す。いや……アレは……。


「バリカン……?」


「これはフルールの毛を狩る専用の魔道具なんです。フルールの皮膚は手で簡単に剝がせるんですが、その際に少しだけ痛みがあるみたいなんです。だから、如何に素早く毛皮を剥ぐ事が出来るかが勝負だったんですが、これが出来たことで、それをする必要も無くなり、しかも格段に作業効率が上がったんです。それに……」


「メエーー!!」


 僕に頭を擦りつけていたフルールがユノの方へと向かって行って、その体を横に向けてくれた。


「皮は剥ぐという痛い事をされずに、かつ暑くなって邪魔になる毛を剃ってくれる……という事が分かるので、こうやって来てくれるんです」


「もっと前に、鋏を作って刈るという発想にならなかったのかな……むしろ皮を剥ぐなんていう発想の方が難しいのに……」


「それは……そうですね」


 ユノが僕の意見に同意する。何で刈るよりも早く、剥ぐという行為になってしまったのか……不思議でならない。


「これって、カーターのご先祖が持ち帰った物かな?」


「いえ。タリー達の成果にその記載は残っていなかったはずよ……その魔道具自体は……30年前ぐらいに作られたかしら? 製作者は不明だけど」


「ああ。そうだったな……それまでは皮を剥いでいたはずだぞ」


「そうなんだ……」


「めえ~~~」


 すると、ユノがおもむろに毛を刈り始める。


「手慣れてるのです」


「毎年こうやって、毛刈りをしていたんです。だからもう手慣れた物ですね」


「へえー……もしかしてぬいぐるみ?」


「はい。私の部屋のぬいぐるみは全て手作りなんですよ」


 そう言えば、ユノの部屋に入った時に大小様々なぬいぐるみがあったな……。


「自分で素材集めしていたんだね」


「後はこうやって実際にフルールを見てあげる事で、今年のフルールの毛の収穫量がどれほどになるのかを確認するという仕事でもあるんですよ……今年は例年通りの収穫量になりそうですね」


 そう言って、手際よく刈っていくユノ。すると、ここにいた他のフルールも集まって来た。


「薫も手伝ってくれますか? 私が教えますから」


「いいよ」


「そうしたら、私達が周囲の警戒をするわ」


 そう言って、カシーさんはワブーと一緒にこの場から離れていった。


「そうしたら……」


 ユノから2つの大小の違うバリカンの魔道具を受け取り、ユノの指導の元、フルールの毛を刈り取っていく。普通なら羊が暴れないように抑える必要があるのだが、フルールは大人しく刈られていく。


「この魔道具……凄いね。あっちだと細かい所も鋏を使わないといけないのに、この2つで済んじゃうなんて」


「私のお母様が言ってたんですが、子供の頃、これのおかげでフルールの毛刈りが随分と楽になったとおっしゃってました」


「へえー……これって冒険者の仕事じゃないの? 前に聞いた時は毛刈りをしたら逃がすって聞いてたんだけど」


「フルールはこの群れ以外にもたくさんあって、時には王都の近くまで来ることがあるんです」


「その際に子供も借り出して、毛刈りをするのです?」


「フルールの羊毛は加工する事で、様々な衣服に利用できるので、あり過ぎても困らない素材なんです。だから、刈れる時は総出でやるっていうのが王都の住人の認識ですね」


「面白いね。となると……今も王都周辺ではこんな風に毛刈りに勤しんでいる人達がいるのかな?」


「そういう季節ですからね。このフルールのおかげで我々は衣服に関しては困りませんし、冬に寒さで困ることもありません。私達の生活を支える無くてはならない魔獣……それが聖獣と呼ばれる所以ですね」


「そうか……強さとか賢さとか、そんなのが関係していると思っていたけど、そういう理由で聖獣と呼ばれる聖獣もいるのか……」


「ですね。けれど……他の聖獣の事を教えてもらった側としては、確かに物足りなさがありますね」


「かわいいし、癒されるのでこれはこれでアリだとは思うのです」


「そうですね」


「……ユノ。フルールを聖獣にするって決めたのって誰なのかな?」


「それは……昔の王家の人間とかじゃないでしょうか?」


「まあ、そうだよね……」


 僕はフルールの毛を刈りながら、その意見に納得しようとする。しかし……どうも腑に落ちない。そもそも、各国に1体はいるという状況はどうなんだろうか……。


「気になるようだったら、マクベスに訊いてみてはどうなのです? ヴルガート山で、ゴルドさん達の祖先がどんなドラゴンだったとか知っていたのです」


「そうだね……帰ったら訊いてみるよ。とりあえず今は……」


 僕は刈られているフルールの傍で、順番待ちをするフルールの群れに視線を向ける。


「全力で毛刈りしないといけないかも」


「そうですね……この数ならお昼頃には終わりますね」


「頑張っていくのです!」


 僕たちはそこから無心になって、フルールの毛刈りを行っていくのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お昼過ぎ「ビシャータテア王国・王宮 洗濯場」―


「ここに置いて良かったの?」


「はい。この後、綺麗に洗って乾燥させる作業があるので……」


「あら。お帰りなさい。どうだったかしら?」


 アイテムボックスから刈り取ったフルールの毛を、洗濯場の一角に取り出していると王女様が室内に入って来る。服装を見ると、また外で枝の剪定とかをしていたのだろう。


「豊作でした!」


 そう言って指を差すホクホク顔のユノ。ユノが指差す方向を王女様が向くと、少し驚いた表情を見せる。


「よくこれだけの量を集められたわね……」


 そう言って、王女様が顔を上に向ける。


「ご迷惑ですよね……これ」


 王女様が見ているのはフルールの毛。しかし高さは僕たちの倍以上ある。


「いいわよ。使いの者と一緒にやっていくし、これらは王宮内で使う物で、大量に使うから問題無いわ。ただ……これ、薫とユノの二人だけよね? 多分、カシーはやらないだろうし……」


「そうですけど?」


「こんな短時間でよくこれだけの量を集めたわね……」


「薫が刈り方を覚えた後、無心になってやっていたので……凄く速かったですね」


「そうだった? 僕としてはユノより少し遅かったかなと思っていたけど」


「幼い頃からやっていたユノより少し遅い位で済む薫がおかしいのよ? 薫って器用なのね」


「そうかな……自覚無いんだけど。それより気になるのが、カシーさんがやらないと思っていたのは何故ですか?」


「「ああ~……」」


 親子揃って苦笑いをし、顔を見合わせている。


「あの子……家事全般が苦手なのよ。本当に研究一筋って感じで」


「ああ~……納得」


「しちゃったのです」


 研究のため魔法研究施設カーンラモニタに戻ってしまって、今ここにいないカシーさんには悪いが、やっぱりそうですか。と僕は思ってしまうのであった。


 その後、別室で王女様と一緒に遅い昼食を取りながら、気になっていたことを訊いてみた。


「あの道具の作成者?」


「はい。大体30年前とは伺ったんですが」


 食後のお茶を飲みながら、あのバリカンの作製者について王女様に尋ねてみる。


「それなんだけど……私も分からないの。もちろん夫もね」


「王様も知らないんですか?」


「先代の王がそれの製作者に報酬を出すと言って、お触れを出したらしいの……けれど結局、取りに来なかったそうよ」


「そうですか……」


「しかし……どうして、これが気になったのかしら?」


「いや……特に理由は無いんですが、ただ……バリカンにそっくりなんですよね」


「バリカン……?」


「あっちの世界にあるフルールに似た動物の毛を刈るのに使う道具とそっくりなんです。だから、カーターの先祖であるタリーさんが持ち帰ったんだと思ったんですが……」


「少しだけズレるのよね……この魔道具はタリーが亡くなってから普及したのよ。だから違うと思うわ。むしろ……」


 そこで一息つく王女様。


「あなたのお婆様であるアンジェ様じゃないかしら?」


「それは……」


 思っていた。だってその当時、こっちの世界に行き来出来る人物はお婆ちゃんしかいないのだから。しかし、それはそれで少し疑問に残る所がある。


「お婆ちゃんは、魔王対策で忙しかったはずなんです。だから、このような魔道具……魔王討伐とは程遠いこのような魔道具を普及させる余裕があったのかな……って」


「確かにそうですわね……」


「それなら、カーンラモニタに行ってみたらどうかしら? 魔道具を作るのには魔石は必須。そして、それを加工できるのは魔法使いだけです。当時の状況を知るドルグとメメなら何か手がかりになる情報を知っているかも知れないわ」


「そうですね……この後、行ってみます」


「ええ……ユノも一緒に行ってらっしゃい。アレの洗濯はこっちでやっておくから」


「え? でも……」


「気にしないの……それより、早く孫の顔が見せてね! 泊まって来てもいいわよ!」


「だから、気が早い!! というより、どうしてそうなるの!!」


 いきなりの発言。僕は王女様のその天然なセリフにとりあえずツッコむのであった。

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