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340話 2つの報酬

前回のあらすじ「お好み焼きパーティー」

―翌朝「イスペリアル国・領事館 食堂」―


「うむ……妾は満足じゃ。朝ご飯も美味じゃったのじゃ」


 そう言って、食堂の床で寛ぐフェンリル。あの後、僕を除く皆が、お好み焼きをたくさん食べたせいで、帰るのが億劫になって領事館に一泊することになった。


 そして、僕が朝食の準備をしていると、ここの床で寝ていたフェンリルが起きてきたので、先に朝食を提供したところだ。


「にしても……お主、しっかり食べておるのか?」


「大丈夫です。他の物を食べたりするので」


 昨晩のお好み焼きは全て女性陣に食われてしまったので、僕はこっそりカップラーメンで済ましていたりする。


「お主……女子に尻に引かれるタイプじゃな」


「そこは否定しないよ……」


「ふふ……面白い奴じゃ。さて、そろそろ帰るとするかのう」


 寛いでいたフェンリルがスッと立ち上がって。アオライ王国へと帰ろうとしている。


「急ですね……ハクさんに挨拶しなくてもいいんですか?」


「いらんいらん。それより時折、食事に来るからよろしくなのじゃ」


「え? 僕たち、ここにいなかったりするんですが?」


「安心しろ……しっかり使いの者に連絡させるのでな。急に訪ねるという無粋なことはせんから安心するのじゃ」


「……代理を立ててもいいですか?」


「構わんが……美味しい物を作れるのか?」


「僕のような素人じゃなくて、プロに頼みますので安心して下さい」


「よかろう。それでは……あ、そうじゃ。すまないが魔石を1つ貰ってもいいか? なるべく、強力な魔獣の物がいいのじゃが」


「強力な魔獣……これでもいい?」


 フェンリルのその申し出に、僕はフェニックスの魔石を見せる。


「うむ……これは既に加工済みの物じゃが……問題無いぞ」


 すると、フェンリルはそれを口に咥えて、一旦床に置く。すると、フェンリルの周りから冷気が発生し、一気に食堂内の温度が下がる。何をするのかと思って見ていると、フェンリルから青白い光が発生し、すぐに収まってしまった。


「うむ。完成じゃ」


 そう言って、フェンリルは自分で作った深い青色になった魔石を、再度、口に咥えてそれを僕に渡そうとする。僕は手を出し、それを受け取って魔石を確認する。魔石は透き通っていて、中に最初に刻まれた物とは別の模様が刻まれているのが見える。


「これって……?」


「お主は色々厄介ごとに首を突っ込んでるようじゃしな。妾の魔法を入れておいたのじゃ。これで試してみろ」


 そう言って、フェンリルが水球を出すので、それに魔石を近づけて念じる。すると、水球はあっという間に凍ってしまった。


「魔法名はジェイリダ。目の前の物を凍らせる魔法じゃ。生きている者を瞬間凍結することは無理じゃが、動きを鈍くして、そのままじわじわ凍えさせて凍死とかが出来るのじゃ。上手く使うといい」


「あ、ありがとうございます……」


 これを鵺に取り込めば、シーエさんのような、物体を凍らせる剣が出来るかもしれない。魔獣を捕える時に使えそうだ。


「しかし……あんな珍しい魔石を使って良かったのか?」


「大丈夫です。まだ、余りがありますし、それにどんな魔法が込められた物なのか分からないので」


「何じゃ……知らずにあの魔石を渡してきたのか……あんな魔法を込められた魔石じゃから、処理に困って渡してきたと思ったのじゃが」


「分かるんですか!?」


「先ほどの魔石……鳥のような魔獣の物じゃろう? 以前にそれを見たことがあってのう……それを手にした魔獣にオス共がやられるという事があったのじゃ」


「フェンリルを……?」


「うむ。妾も危ういと思って、そやつごと周囲を凍らせて仕留めたくらいじゃ」


 そんな強力な魔法が込められているのか? でも、誰もそれを使えないんだけど……。


「そいつは炎を使う奴でな……自分の周囲を炎の海にするという魔法と火炎弾を放つ魔法を使うのじゃが……その魔石を使って、辺りを燃やし尽くしたのじゃ。そいつの得意魔法を融合させてな」


「融合!?」


「うむ。その魔石は魔法同士を混ぜれる物でな、そいつは火炎弾を周囲にばら撒き、さらに火炎弾が破裂して周囲の物を焼き尽くすという、馬鹿げた広範囲焼却魔法を使っていたのじゃ……まあ、お主らはそんなことをせずとも、強力な魔法が使えるから意味が無いかもしれんのう……」


「いや……あるかも」


「ほう? それはどのようにじゃ?」


「そうだな……」


「おはようなのです……ふぁ~あ~……」


 すると、レイスがちょうどいいタイミングで起きてきた。


「お! グッドタイミング」


「え?」


「フェニックスの魔石が何なのかを、フェンリルが知ってたんだ。これから外で試したいんだけどいいかな?」


「はい……ん?」


 寝起きにいきなりこんな事を言われて、レイスが混乱している。まあ、しょうがないだろう。


「他のフェンリルと一緒にされるのは心外じゃな……」


「あ、はい……すいません」


「気にしなくてもよい……それより、帰る前に見せてもらぬか?」


「上手く出来るか分からないですけどね」


 とりあえず、朝食の準備の手を一旦止めて、2人と一緒に領事館の庭に出る。


「つまり、2つの呪文を1つにするということなのです?」


「そうそう。でも僕たちの場合は同じ属性の魔法は意味が無いと思うんだ。そうなるように作って練習すればいいからさ」


「なるほど……異なる属性で複合魔法を作れるか試すってことなのですね」


「うん。この前の風燐火斬は鵺にカーバンクルの魔石を取り込んで炎の剣を作り、僕たちの魔法で四葩に風の力を纏わせてという手順を踏んだけど、それをカーバンクルの魔石無しで繰り出せるかもしれない。とりあえず、何の装備の力も借りずに複合魔法が撃てるのか試したいところなんだけど……」


「薫の適正属性である雷、水、地の3つのいずれかを混ぜた物はどうなのです? 使用者の得意、不得意も関わってくるかもしれないのです」


「そうだね……とりあえず融合が出来るのかどうかを調べるのが先決だから、それでいこうか……ただ、ピンと来ないんだよね」


 風と火なら、ゲームやアニメなどから、いくらでも思いつくのだが……僕の適正属性となると、これといった魔法が思いつかない。


「そうしたら、氷の槍に電気を纏わせる魔法とかどうなのです? 確か、そんな魔法を使うアニメのキャラがいたのです!」


「ああ……いいかも。そうしたら……」


 レイスの提案を採用し、軽く話し合って魔法のイメージを固定する。そして、的になる空き缶を庭に置き、右手にフェニックスの魔石を持って魔法を使う準備を整える。


「いくよ……」


「オッケーなのです」


 僕は左手を前に出して、新たに作った魔法を使う。


「氷雷槍!」


 僕が唱えると、氷の槍が出来たと同時に、それに電気が纏わりつく。それを空き缶に向けて撃つと、空き缶を弾き飛ばして地面に刺さった。


「刺さった後でも、電気を帯びているのです」


「麒麟の雷槍みたいな物だね。これで相手の動きを牽制するとか出来そうだね」


 地面に刺さり、バチバチと音を立てて放電する氷の槍。しばらくすると、それは砕け散ってしまった。最初にしては上出来だろう。後はこれを維持する時間を延ばせるのか、これらをいくつも作り出すことで、何かしらの追加効果を得らるかどうか……色々、検討する必要がありそうだ。


「ほほう……なるほどな。2つの異なる属性の魔法を1つにする事も出来るとは……その魔石はかなり使い手を選びそうな魔石じゃな」


 後ろで見ていたファンリルさんが、こちらに近寄って来る。


「長き時を生きている妾でさえも、このような魔法が込められた魔石を見るのは初めてなのじゃ」


「長寿の知り合いも同じようなことを言ってましたよ。こんなのは初めてだって。そもそもこの聖獣から、このような魔石は取れないとも言ってましたし」


「ふむ。そうなるとその魔石は何か特別な役目を持った魔石かもしれんのう……」


「特別な……役目?」


「不要なら無くせばいい、必要なら得ればいい。その聖獣は必要だから、その魔石を新たに作り出した。魔法とは思いの力。想像の力。何かを成し遂げるための力……その力を得るためのチャンスは誰もが持っているのだ……もちろん、お主達もな」


「……既にたくさん得てますけどね」


「なのですね……」


「そのようじゃな。ドラゴンとフェンリルの双方から気に入られているというのは、珍しいことじゃ。この縁は大切にすることじゃな」


「……はい」


「心に留めておくのです」


「うむ! 素直でよろしいのじゃ。また今度、もっと面白い魔法を見せられるように精進しとくのじゃぞ……ではな」


 すると、フェンリルさんは走って領事館を囲う塀を飛び越え、近くの建物の屋上へとジャンプ。そして、そのまま屋上伝いに走り去っていった。


「特別の役目か……それを手にした僕たちも何か役目があるのかな……」


「既にそれも色々あるじゃないですか」


 特別や役目……つまり、お仕事と言いたいのだろう。


「だね……とりあえず、クリーシャさんがまとめた書類を確認して、後はフェニックスの魔石について報告して、後はどこまで可能なのか実験して……」


「小説は大丈夫なのです?」


「大丈夫。そこは本業だからね! とりあえず、朝ご飯にしようか」


「なのです! お腹ぺこぺこなのです!」


 昨晩、普通サイズのお好み焼きを2つ食べているはずなんだけどな……とりあえず、僕もお腹が空いたので朝ご飯にするために領事館に戻る。その後、話していた通りに仕事をこなして、今日という日は過ぎて行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―次の日「薫宅・庭」―


「え? オルデ女王と商業ギルドのマスターにマグナ・フェンリルが現れてボコボコにされた!?」


 早朝、泉への護身術の技術指導をしていると、そこにハリルさんとクルードがやって来て、そのような報告をしてきた。


「ああ。何でも、お前らのような不躾な輩にはお灸を据えねばな……と言っていたそうだ。氷漬けにされた後、お前と会う時の橋渡しをすることで、これ以上は止めといてやるとも言っていたそうだが……心当たりはあるか?」


「……ああ。そういえば、今度またご飯を食べにくるって言ってましたね……後、連絡役を寄こすとも言ってました……」


 連絡役とは、その2人の事だったのか……てっきり、他のフェンリルに頼むかと思っていたのだが。


「薫さん達がフェンリルを討伐したのは聞いてましたが……その上位のマグナ・フェンリルと仲良くなっていたとは……大変気に入られたようですね」


「ええ……まあ……」


 どう返事を返せばいいか分からない僕は、とりあえずそう返すので精一杯なのであった。


「天罰が下ったッスね」


「「うんうん」」


 後ろを見ると、泉たちがいい笑顔でそう話しているのであった。


―クエスト「フェンリル捕獲大作戦!」クリア!―

報酬:マグナ・フェンリルの毛皮3頭分、ジェイリダが込められた魔石、フェニックスの魔石の情報

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