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33話 一方の地上組は?

前回のあらすじ「クックック……黒マテリア」

―薫達が「彗星」を使う少し前「ビシャータテア王国・王都より南東の森」アレックス視点―


「いやはや凄いですね。これは」


「ああ。ワイバーンがここまで弱体化してるとはな」


「私達の出番が全く無いわね」


「まあ、死んではいないからトドメは必要だぜ」


 シーエ達がそんな話をしている中で私はあっけに取られていた。彼らが飛んでいたのも驚きだったが、まさかワイバーンがここまであっけなく無力化されるとは思っていなかった。


 カシー達が最大威力のエクスプロージョンで3匹を空から引きずり降ろし、火傷と落下した衝撃で2匹は倒し、死んでいなかった1匹はシーエの魔法剣で難なく倒すことが出来た。平常状態のカシー達が一日一回放てるあの最大威力の魔法でこの結果だった。


 ところが、このワイバーン達には火傷は無く、かなり強い衝撃だったのか変な態勢だったのか足や翼が折れていたり、体中から血を流していたりしている。ただ言えることは、すでにこの2匹は戦える状態ではない。


「王子。どうした。驚いているのか?」


「ワブー……当然だろう。あのワイバーンが横たわって立ち上がってこれないのだからな。ただの落下だったら、足の骨が折れていようが襲ってきているはずだ。正直な話だが、2人が使ったエクスプロージョンより強力な魔法だと思う」


「そうですわね。あの2人の呪文って何属性なのかしら? 火、風、水じゃないわね……」


「カシー。それならこれは地属性だ」


「地属性魔法? で、でもこれには土とか何も……」


「ま、待て! 地属性!? あの最弱と位置付けられている地属性の魔法の威力とは思えないぞ!」


「王子の言う通り……まさか大地の力を使ったまた別物の力ってことかしら?」


「その通りだ。カーターから報告は受けていたが……素晴らしい呪文だな」


「もし、それが本当なら地属性の最弱は返上ね。威力は私達のエクスプロージョンと同格、何発も撃てるという魔法の効率からしてこちらの方が上かしら? 何にせよ新人魔法使いが使えるような魔法では無いわね……」


 2人が冷静に考察し感想を述べる。成りたての魔法使いがワイバーンを地面に引きずり降ろし、まだ余力もあるというのは、もはや賢者越えなのではと思ってしまう。


「はあ~。私は溜息が止まらないのだが」


「王様も同じだったな。この頃、溜息ばかりしていただろう?」


「父上が何か物思いにふけっていると思っていたら、このことか…」


 溜息もつきたくなるな、これは。異世界の交流に成功したまでならいいだろう。それらの恩恵を受けるためにも他国も口うるさく言ってくることないだろう。


 しかし……異世界の住人によってこの短期間で強力過ぎる魔法が創られてしまった。このことが他国に伝わったら、どのような行動を取られるか想像に難くない……。もしかして、今回の彼等との同伴は私にコレを見せるためだったのかもしれない……。


「父上も苦労するな」


 帰ったら父上を労わなければ……。


「ファイヤー・ブレード!!」


「アイス・ブレード」


 話している間にシーエ達がそれぞれの魔法剣でワイバーン達の首を落とす。実にあっけない。これほどあっけなく終わっていいのだろうか。


ドオーーーン!!


「……どうやら、また落ちたみたいね」


「次は俺達が仕留めるか?」


「止めときましょう。あの4人に切ってもらった方が、素材とか綺麗に回収できるわ」


「……それもそうだな。俺たちは不測の事態になった時に対処するとしよう」


「さっそく音のした方に移動しましょう」


「それでは、私達が先頭を進みますね」


 シーエたちを先頭に移動を開始する。次のワイバーンはどれだけのダメージを受けて倒れているのだろうか。


「王子」


「なんだワブー?」


「俺が馬車で黙った理由が分かっただろう?」


「……ああ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後(アレックス視点)―


 その後も、また1匹、また1匹と空からワイバーンが落ちてくる。


「はあー!!」


「グギャアアー!!」


「……ふう」


 魔道具である自分の剣をワイバーンの頭に全体重をかけて突き刺す。魔法使いであるシーエたちとは違い、ただの人間である自分にはワイバーンの首をキレイに切るなんて芸当は無理である。そもそも、こんな風にワイバーンの頭に簡単に登るなんて不可能なのだが。


「お見事です」


「カシーありがとう。とは言っても身動きの取れない相手に止めを刺しているだけなんだけどな」


「それでも、倒したには違いないのだからお気になさらず」


「お、あいつら帰ってきたぞ! おーい。そっちはどうだぜ?」


「こっちは終わったわよ」


「そっちも終わったみたいだな」


 別の位置に落ちたワイバーンにトドメを差しに行ったカーター達が戻ってきた。


「これで残り1匹か?」


「そうですね」


「楽勝だぜ!」


「そうね」


 後、1匹やれば終わる。王都に被害が出ないというのはもちろんうれしいが、ここまで簡単に討伐が済むとは思っていなかった。


「残り1匹を倒したら通信で王都から人員を呼んで素材の回収をしましょう。ワイバーンの魔石なんてかなり貴重な物が手に入りますしね」


「この調子なら5匹から皮をキレイに回収出来そうですね」


「泉には鞣した革を報酬として渡すとして、薫は……どうするか」


「ワイバーンの素材で何が欲しいと言われても、異世界の住人である薫は困るだけねきっと」


「素直に今回の売上の一部を渡すが、一番いいんじゃないのか?」


「ワブーの言うとおり、それがいいんじゃないかしら。それとレイスとフィーロは何がいいかしらね?」


「おーい。お前らまだワイバーン狩りの最中だからな? ……ったくこんな風にのんびりお喋りできるとは思ってなかったぜ」


「そうだったな。少し上の様子を見てくるとしよう」


 ワブーが木々のせいで見えない上の戦況を確認するために飛んでいく。マーバの言う通り普通なら急ぐし、もっと緊迫した状況なのだが、今回は彼らが落としてくれるのでそれを待つのみだ。


「大変だお前ら!」


「どうしたのかしらワブー?」


 飛んで上の様子を確認していたワブーが慌てて戻ってくる。何かトラブルかあったのだろうか?


「薫達が戦っているワイバーンの火球だが……あれはスプレッド・ファイヤーボールだ」


「何ですって!?」


「確かスプレッド・ファイヤーボールってカーター達の得意魔法だったな?」


「王子の言うとおりです。放射状に広がって、相手の行動を阻害するため非常に便利な魔法名なんですが……ワイバーンが使うなんて聞いた事がありません」


「特殊な存在かしら? どちらにしても薫達が危ないわね」


「急いで加勢するぞ」


「とりあえず。空を見渡せる場所に移動を……」


ドオーーーーン!!!!


「うおっ!」


 今までより大きい音がする。その後、森の中に突風が起こり、しばらくして風は止んだ。


「一体、何が?」


「急いでいきましょう!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「ビシャータテア王国・王都より南東の森奥地」アレックス視点―


「これは!?」


 音のした方に向かうと木々は倒れ、その中央にはワイバーンが岩の下敷きになり手足が千切れたぼろぼろの状態で絶命していた。しかも地面はワイバーンを中心にへこんでいる。


「……薫とレイスね。これ」


「そうだろうな。きっと……」


 カーター達がこの惨状を生み出した原因は薫とレイスだと断言する。


「どんな呪文だぜ?」


「私も知らないわ。恐らくストーンブレットの強化魔法だと思うんだけど」


「ああ……そういえば、薫さん。確か事前に巨石をアイテムボックスに回収してましたね……あんな感じの……」


「ええ見覚えがありますね。あんな感じの岩だったかと」


 アイテムボックスに巨石を収納していた薫さんに尋ねたら、いざという時のためにね。って言ってたな。まさか、こんな風に使うとは。


「おーい! 薫!」


 カーターが大声で飛んでいる4人に声をかける。それに気づき彼らが降りてきた。とりあえず、無事に終わった事を喜び、そして彼らの未知の魔法に対して父上に報告したらどんな顔をされるかと思いながら彼らを迎えるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「???」―


 この施設内にある一室に集まった我ら4人。その部屋には円卓が置かれておりローブを羽織った私を含む4人が座っていた。さらにその円卓から少し離れた所に茶色いローブを身につけた者が片ひざを付き、一連の報告をする。


「ワイバーンの群れがやられたか」


「はい」


「被害はどれ程だ? 王都は襲えたのだろう?」


「それが……魔法使いに事前に落とされました」


「なに? 1体はクラス持ちのワイバーンだぞ?」


 魔獣の中でも特殊な技能を持ったり、他の個体より身体能力が高い魔獣に付けられる称号であるクラス持ち。今回の襲撃にはゴールドクラスの中級火属性魔法に、他のワイバーンと比べてかなり硬い鱗を持っており、ワイバーンとしては最高クラスの存在を仕向けたのだったが、結果は失敗。その報告を受けて、他の者達からも動揺の声がする。


「まさか……襲う前に落とされるとは。まあ、あそこはカシーとワブーという上級爆発呪文の使い手がいる。恐らくそいつらに邪魔されたな」


「爆発音があったということなので恐らくは。あと、騎士団の隊長と副隊長に王子も出ていたそうです」


「王子はどうせついでだろう。だが……二度目の異世界との交流でこれ以上の発展をさせないように滅茶苦茶にするつもりだったが、そうはいかなかったか」


 「異世界の門(ニューゲート)」……我々とは違う世界へ行くための魔法。成功者は1人もなく。なんとか生きて帰ってきた者もすぐさま死に絶える。その死因も様々で切られてたり肌が火傷で爛れていたりと、とにかく使えば必ず死ぬ魔法だった。


 そう……あの時までは……プライム、そしてタリー……。あの二人が異世界の行き来に成功させたことであの王国は存続の危機を脱し、あろうことか豊かになった食料事情が味方してこれまでにない繁栄を迎えることになった。


「ケケ。どうする俺が行って直接滅茶苦茶にしてやろうか」


 そう言って、同志が掌に青い炎を出す。


「よしましょう。私たちはあくまで命令通りにするだけ。お前もあの方の怒りを買いたくは無いだろう?」


「けっ。つまらねえな~」


 同志は掌に出した炎を消し。椅子に体を預け、両手を頭の後ろに持って椅子にもたれる。


「で、どうするのだ」


「定例の会議が近いからな……それが終わってからだな。今度は量で襲うか」


「それならウルフかゴブリンだな。ゴールドクラスを複数体用意するとしよう。今度は確実に……な」


「仕掛ける時期はそうですね……賢者がいなくなった後にしませんか? クスス……」


「ハハ! その時は俺を行かせてくれよ。少しは楽しみがいがありそうだ」


「はいはい。分かった分かった」


「そろそろ時間だ。これでお開きにするとしよう」


 そして、全員席を立ちその部屋を後にしていく。そして部屋には私1人が残った。報告の限りはまだ我々の脅威になるようなことは起こっていない。それなら今度の会議の後にでも徹底的に壊せばいい。そう……。


「全ては魔王様のために……」

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