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337話 フェンリル戦

前回のあらすじ「ちなみに王都の半分以上が凍りついている模様」

―「アオライ王国・港町ダゴン 商業地区にある高い建物の屋上」―


「黒雷連撃!」


「ウィンド・ハイカッター!」


 こちらを睨みつけるフェンリルに攻撃を仕掛ける。黒雷連撃による上からと、ハイカッターの前からの攻撃。普通なら、泉たちが放つ魔法に目がいってしまって、僕たちの魔法による上からの攻撃には気付かないだろう。しかし、フェンリルは上からも攻撃が来ることが分かっていたかのように、素早く横へと飛んで攻撃を避ける。それだけでは無く、足に力を入れて、こちらへと突撃しようとしている。


「鵺。大盾!」


 鵺を大盾にして、突撃に備える。僕の力だけでは飛ばされてしまうので、大盾の底を尖った形にして、スパイクとして屋上に突き刺す。


ドンッ!


 大きな音、そして大盾から強い衝撃が走る。ふっ飛ばされてしまうかと思ったが、屋上に刺したスパイクがそれを防いでくれた。


「針地獄!」


 僕はすかさず、盾の向こう側に大きなスパイクを打ち出すような勢いで作り出す。これでフェンリルを突き刺せるかと思ったが……どうやら避けられてしまったようだ。僕は大盾を解除して、今度は黒槍にして構える。


「ちっ! 面妖な武器を使うな……なら」


 フェンリルは自分の周囲に大きな氷の槍を6本展開する。そして、それを撃ち出さずにそのまま走り出す。


「ガウ!」


 吠えると同時に、氷の槍が撃ち出される。僕はそれを黒槍を振って落とす。


「ほほう……」


 そう言って、フェンリルはストックしていた氷の槍に飛び乗る。さらに、新たな氷の槍を作り出して、それに飛び乗って、その前に乗っていた氷の槍はこちらに撃ち出す……というモーションを繰り返す。


「そんな方法で空を翔るなんてアリなの!?」


 氷の槍を生み出して、それに飛び乗ってを繰り返して、高速で縦横無尽に翔るフェンリル。しかも、他のストックしている氷の槍もランダムで撃ってきている。並大抵の相手なら氷の槍でその身を貫かれて、とっくにあの世行きだろう。


「あわわ……!!」


「……そこ!」


 僕はフェンリルの動きを予測して黒槍を右前方に向けて突く。しかし、フェンリルはさらに速度を上げてそれをすり抜けていく。


「ウィンド・ハイシールド!!」


 僕たちの後ろにいた泉たちの方を見ると、風の防御魔法を使って氷の槍を防いでいた。


「薫兄との訓練のおかげで、何とか攻撃についていけてる……かも!」


「それは良かった……よっ!!」


 僕は鵺を盾にして攻撃から身を守る。障害物が無いこの屋上では物陰に隠れることが出来ない。さらにフェンリルが素早すぎるために避けるのも難しい。このままだと攻撃に転じることはかなり難しいので、鵺を防御に回すために、アイテムボックスから四葩を取り出しておく。


「もう~~……!! 魔法をストックしつつ高速移動するなんてズルい!」


「ふむ……」


 するとフェンリルが間合いを取って、離れた距離から僕たちを睨みつける。


「どうやら、お前らさえいなくなれば、我を止める手段は人間共には無さそうだな……なら」


 すると、フェンリルの毛が逆立ち、その身から青白いオーラが立ち込めると同時に、周囲の空気がさらに冷たくなる。鉄壁の魔法と、この長羽織を着ているのに体が寒い……。もしかしたら、これらが無かったら、この寒さだけでやられていたかもしれない。


「グルル……!!」


 フェンリルの唸り声と共に、先ほどの氷の槍がさらに増えて10本になる。ここからがフェンリルにとって本気なのだろう。


「ガァアアア……!!」


 準備が終わったと同時に翔け出すフェンリル。先ほどまでは、この広い屋上内で納めていた動きが、屋上より外側……つまり、何もない空を走り出す。しかも、先ほどの槍の上に乗って走ってるわけでは無い。恐らく先ほどの氷の槍を応用して、空中に小さな氷の足場を作ってるとは思うのだが……その考えが合ってるのか分からない。


「ガアーー!!」


 10本の氷の槍を、更に高速で撃ち出す。それはまるでマシンガン……違うのは弾が巨大で、撃った後は屋上を破壊したり、突き刺さったままになって、僕たちの行動を阻害するという面倒くささも含んでいることだ。しかも、それで弾が高速でリロードされるのだからタチが悪い。


「防御が間に合わないよ! 攻撃しようにも早くて当たらないし……どうすればいいの!!?」


「そんな弱音を言ってる場合じゃ無いッス! とにかくアレを使うッス! 二人もこっちに来て欲しいッス!」


 フェンリルの攻撃を防いでいた僕たちは、フィーロに呼ばれ二人に合流する。


「エアロ・フォース!!」


 泉が呪文を唱えると、周囲に風の壁が発生する。それはまるで竜巻の中心にいるようだった。フェンリルはその周りを駆けまわっている。


パリーン!パリ―ン……!!


 風の壁の向こうでフェンリルが放ったいくつもの氷の槍が、風の壁にぶつかって砕ける。すると、フェンリルは少しだけ速度を落としながら、様々な位置から氷の槍を放っていく。牽制しつつ、様子を伺っているのだろうか……。


「空に逃げる……のは、厳しいか」


 シエルたちを呼んで、騎乗して戦いを挑むことも考えたが、それによって、この状態のフェンリルがこちらに興味を無くして、街中に戻ってしまうのは非常に不味い。


「……どうする? そろそろ破られそうなんだけど!?」


「こっちはこの防御魔法で手一杯ッス!」


 フェンリルはこの魔法が長時間続かないと判断したのか、元の速いスピードで怒涛の攻撃を続ける。そんな中、泉とフィーロが僕にこの場の解決策を求めるてきたのだが……蝗災や黒風星雲のような相手の動きを阻害する魔法を使用したいところだが、このフェンリルに効くだろうか? ボロボロになった屋上では基本的に地面を這って移動する蝗災は無理だし、黒風星雲は魔法発動時に遠く離れられてしまっては無駄打ちになってしまう。もっと、最悪な事を考えれば、鵺を手放したその隙をフェンリルに突かれてやられてしまうだろう。


「となると……呼ぶか」


「召喚魔法を使うんだね! どっちを呼ぶの?」


守鶴(しゅかく)……それと尾曳(おびき)


 僕の言葉を聞いて、泉とフィーロが首を傾げる。


「薫兄? 召喚魔法って2体呼べるの? しかも尾曳って誰?」


「まあ……見れば分かるよ。ねえレイス」


「……確かに。それと一番被害が出ないのですね」


 どこか納得するレイス。時間が無いので、僕は細かい事は後回しにして、さっそく準備を始める。


「鵺……展開」


 黒装雷霆・麒麟を呼ぶ際に使用した鵺の形態。切り絵のように薄っぺらくなった鵺がドーム状になって僕とレイスを包む。そしていつものように、グリモアで魔法陣を地面に展開。そしてアイテムボックスから媒体となる砂を、いつもより多めに魔法陣の上に出しておく。後は召喚に必要な土属性の魔石を1つ用意してレイスに持ってもらう。


「2人を呼ぶのに、魔石は1つなの?」


「うん」


 時間が無いので、手短に返事だけをする……。レイスの持つ魔石にだけ集中して……力を込めて……。


「長き時に渡り、土地を守りし妖術使いたちよ! 今、我が呼びかけに応え。かの地より馳せ参じよ!守鶴! 尾曳!」


 口上を言い終わると、僕たちを包んでいた鵺が、僕たちにぶつかる事無く、レイスが持つ魔石を包むぐらいの大きさに縮小。そして鵺に包まれた状態の魔石は、鵺と一緒に媒体となる砂の中に入っていく。


 すると、砂が動き出して3つに分かれる。そのうち1つはいつものように錫杖に狸のお面、そして僧侶のような姿を持つ美少年の守鶴。その横の砂からは赤い手毬に狐のお面、そして白い着物を着た白髪の美少女の尾曳。そして、最後の1つはその二人より少し高いところを浮く、黒星のよう黒い球体が現れる。


「おお……対になるようにデザインしたんッスね」


 フィーロが初めて会う尾曳を眺めていると、その視線に気づいたのか守鶴の後ろに隠れてしまった。


「ねえ……? 大丈夫なの?」


「大丈夫……それとゴメン」


「いきなり謝るって、どうしたの?」


「フェンリルの素材……今回は諦めて」


「え?」


 僕は泉それだけを伝えておく。僕が四葩を構えると、守鶴はいつものように和傘と茶釜を展開。一方、尾曳は守鶴の後ろに隠れたままである。


「ねえ! 尾曳って何もしていないけど?」


「大丈夫大丈夫……僕たちが動いたら何かしらの行動をするから」


「何かしらって……何?」


「まあ、見てて……泉たちは魔法を解いてもらって、それとここから動かないでね」


 僕の話を聞いた泉たちはエアロ・フォースを解除する。それに気付いたフェンリルが氷の槍を僕たちに目掛けて撃つが、それは2本の和芸和傘によって自動的に防がれる。さらに茶釜から繰り出される赤城颪の効果で、僕たちが今いる場所より外側の空気が乾燥していく。


「ガル!?」


 乾燥していく空気に気付いたフェンリルは、慌てて僕たちから距離を取りながら走る。近くにいたら危ないと判断したのだろう。


「ふざけたマネを……だが、それで勝てると思うな!」


 叫ぶフェンリル。そして、それと同時に宙に浮いていた黒い球に黒い花弁のような物が1つ作られるのであった。

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