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336話 氷狼フェンリル

前回のあらすじ「旅立ったドラゴン達」

―およそ2時間後「アオライ王国・港町タゴン」―


「さ、寒い……!!?」


「死ぬッス!」


「み、皆! これで暖を取るのです!!」


 レイスが慌てて火の球体を生み出すと、泉たちがそれに両手を近づけて暖を取っている。アオライ王国の転移魔法陣がある建物から出て来た僕たちを迎えたのは、お伽噺の氷の女王が住む国を彷彿させる氷漬けになった街並みであった。


「これは見事に凍ってるね……」


 アオライ王国の賢者さんの要請を受けて、やってきた僕たち。急な要請だったため、僕とレイスだけで来るつもりだったのだが、ちょうど領事館に来た泉たちも話を聞いて、一緒に来ることになった。その理由は……。


「フェンリル……毛皮……私、負けない……」


歯をカタカタと震わせながら話す泉。生け捕りの場合、毛皮を剥ぐことは出来ないと思うのだが……まあ、そこは黙っておこう。そんな訳で……今回の依頼はフェンリル捕獲である。


―クエスト「フェンリル捕獲大作戦!」―

内容:アオライ王国の王都で、我が物顔で暴れているフェンリルをどうにかしましょう。


「しかし……どうにかしろって、どうすればいいんだろう……」


「あ、来た!」


 声のする方を見ると、オルデ女王が兵士を連れてやって来た。


「よく来てくれました~! さあ、フェンリルをどうにかして下さい!」


「いやいや……どうにかって……色々あるでしょうって……」


 どうにかしろと言われても困る。フェンリルはアオライ王国の聖獣なのだ。力づくで大ケガさせてもいいなら召喚魔法を使えるが、ダメならばどこまでの事をやっていいのかを確認しなければならない。それにフェンリルの特徴も把握しないと……。


「ということで、フェンリルに詳しい方を呼んで下さい。そうしないと対処の仕方が取れませんから」


「それなら……私の出番ですね!」


 すると、どこから現れたのかアオライ王国の商業ギルドのマスターが腕を組みつつ登場する。


「いつからいたんですか?」


「ついさっきです! こんな儲け話……女王に任せておけませんから!」


「不敬ですよ!? 誰か! この女を捕えなさい!!」


「捕えたら、こっちが困りますから……で、フェンリルについて訊かせて貰えますか?」


「もちろん♪ いい成果を出してもらうため、その協力は惜しまないですよ~♪」


 ごまを擦りながらニコニコ笑顔で喋ってる……こんな非常事態……なんだよね? こんなやり取りをしていると、本当に非常事態なのか疑わしくなる。


「とりあえず、どうしてフェンリルが王都を襲ってるのか教えてくれませんか?」


「そこですが……不明です。突如、王都を守る城壁を氷の魔法で乗り越えて、王都内に潜入、そこから、こんな風に見境なく凍らせています」


 ギルドマスターが指差す方向には氷漬けにされた建物がある。住居からお店……特にこれといった共通点が無く、ギルドマスターの言う通り、見境なく凍らせてるようだ。


「フェンリルがなのです?」


 ギルドマスターの説明を聞いたレイスが、火で暖を取ったまま不思議そうな表情を浮かべる。


「レイスはフェンリルの事を知ってるの?」


「知っているのです。フェンリルは孤高の存在。常に一匹で行動を取り、その強さはドラゴンの次と言われています……しかし、むやみやたらに暴れるような性格では無いのです」


「それなのに、この王都で暴れている……か。フェンリルが暴れる理由に心当たりは?」


「それが不明なのです。とりあえず、早く止めないと、いつ人に被害が及ぶか……」


「まだ、人に被害は出ていないんですか?」


「幸いなことに。今は冒険者達と兵士達が協力して、住人の避難をさせつつ、フェンリルの動きを封じているところです」


「うーーん。そうか……」


「どうかしたの薫兄……って、今の話って少し不自然か。これだけ魔法を放ってるのに、人に全く当たっていないなんてあり得ないもんね」


 泉の言う通りで、街中が凍ってるのだ。普通はケガ人が出ていてもおかしくないだろう。しかも、フェンリルは王都にいきなり入って来て、強襲しているのだ。その強襲時に何も知らない市民が被害に遭っていてもいいはずだ。そうなると……。


「もしかして、フェンリルの体に何か変な物が付いていませんか?」


「いえ。それらしいのは……特に」


「そうですか」


 竜のペクニアさんに使用されたのと同じような魔道具を取り付けられて、操られているのではないかと思ったが……それは違うようだ。


「そんな話はいいんです! とにかく止めて下さいよー!」


 ワガママ王女がなりふり構わず、素の状態で懇願している。かと言って、ここで下手な手を打てば、それこそ、のちのち大きな問題になりかねないのだ。


「とりあえず、フェンリルと戦っている前線の方に行ってみますね。実際にこの目で見てきます」


「はい、お願いします。もし、フェンリルの素材が手に入ったら高値で買いますからね!」


「……」


 それどころじゃないでしょうって……。とは思ったが、そう何度もツッコむ気は無いので、早々にこの場から離れようとする。


「薫兄! これ!」


 すると、泉が僕の長羽織を手渡してくる。時期的に使わないと思って、メンテの為に泉に渡しておいたが……どうやら、アイテムボックスに入れっぱなしだったようだ。


「終わったら、また私に返してね。綺麗にするから」


「うん」


 僕はその淡いクリーム色の長羽織を羽織りながら、皆と一緒に現場の方へと歩き始めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「アオライ王国・港町ダゴン 商業地区」―


「アォオオオオーーーーン!!!!」


「凄い雄たけびッスね」


「おお……あれがフェンリル! ゲームで見たのとそっくり!」


「こんな状況じゃ無ければ素直に喜んでたんだけどな……」


 転移魔法陣のある建物から移動した僕たちは、現在、フェンリルが暴れている教会前から、少し離れた建物の屋上より双眼鏡を使って観察している。


 青と白を基調とした毛に覆われ、地球に存在する狼より2周りも大きい体躯、顔を見ると黄金色の瞳に鋭い牙を持っている。


「カッコいい! あの背中に乗って走ったら気持ちいいだろうな……」


「ユニが嫉妬してもいいんッスか?」


「それは……困るかな」


 そんな話をしている泉たち。緊張感が無いなと思いつつ、観察を続ける。


「アォオン!」


 大きく一鳴きすると、周囲の建物が凍っていく。それを冒険者たちは後退して避けて、魔石使いは炎の攻撃を仕掛けるが、その素早さで軽く避けてしまう。


「……本気で戦っていないな」


 フェンリルという聖獣の感情を読める訳では無いが……どことなくその表情は暇そうだ。


「欠伸をしているのです」


「レイスもそう見える?」


 そう、欠伸をしている。大勢の冒険者たちを相手している前で大きく口を開けている。


「どうやら、操られているとかじゃなさそうだね……」


 何か切羽詰まった状態には見えないし、ペクニアさんのように、体のどこかに操る魔道具が付いているようにも見えない。


「どうやら……碌でもない理由で、襲ってそうだねこれは……」


「とりあえず、私、ユニを呼ぶね。フェンリルの言葉が分かった方がいいと思うし……」


「そうだね……泉! 伏せて!!」


 僕の言葉を聞いた泉がフィーロを両手で掴み、その場にしゃがみ込む。すると、そこに氷の槍が通過していった。


「おっと!」


 僕とレイスもすぐにしゃがんで屋上の塀に隠れる。飛んできた氷の槍はそのまま屋上を通り越して、街中に落ちていった。


「明らかに、仕留めるつもりだったよね……」


「そうッスね……」


 突如、フェンリルはこちらを向いて氷の槍を飛ばしてきた。今の攻撃は明らかに僕たちを狙っている。


「どうやら、目を付けられたかな」


 ゆっくり、立ち上がって屋上の塀から、少しだけ頭を出す。先ほどまでいた場所にフェンリルがいない……。


「皆! 来るよ!」


 僕たちは慌てて武器を構える。僕と泉は背中を合わせて、周囲を警戒する。


「いきなりどうして……?」


「分からない……ちなみに訊くけど、フェンリルと以前に遭遇したとか無いよね?」


「有ったら記念写真を撮ってると思うけど……? とりあえず、ユニを呼ぶね? このままだと」


「ほう? まさか人の子とはな……」


 泉の声を遮る男のような声。それと同時に、屋上に着地するフェンリル……実際にその姿を間近で見ると、その毛並みの美しかった。


「竜の気配を感じたと思ったが……違ったようだな。まあ、いい……どちらにしても、邪魔だしな……」


「邪魔だったら……どうするのかな?」


「……そんなの簡単だ」


 そう言って、屋上を凍らせるフェンリル。僕たちの息が白い物になる。


「消えてもらおう……」

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