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335話 旅立ちの日

前回のあらすじ「国際会議編! 5月に公開決定!」

―4月初旬「ショルディア夫人邸宅・庭園」―


「来月……ですか?」


「ええ」


 そう言って、ショルディア夫人が紅茶を飲む。話がある。と、言われてやって来た僕とレイスはガゼボでお茶を楽しみながら、ショルディア夫人とその話をしているのだが……いよいよ国際会議が来月に行われることが決まった。


「普通はもっと準備期間を設けるものじゃないですか?」


「本来はもう少し早く行われる予定だったのよ? それだから、事前の準備はあらかた済んでるわよ」


「そんな物なんですね……」


 違うとは思うのだが……これ以上、深く追求する話題でも無いので、頷いておく。


「そして、すでにあちらにも話しているわ……それで、当日はあちらの国家の代表が一同にして参加することになるわ」


「僕たちはその護衛ですね」


「そうよ。しっかり頼むわね」


「任せるのです!」


 出されたクッキーを飲み込んでから話すレイス。自分の母親を守る為でもあるので、いつもより気を引き締めて務めることになるだろう。


「それで……オラインさんはどうかしら? あなたの領事館暮らしには慣れたかしら?」


「はい。自国にこちらで体験した事を報告するためにも、色々見て回ってるそうです。国内の情報は話せる程度で話してもらっています」


 退院したオラインさんは、相棒のグラッドルと一緒にイスペリアル国にある僕が管理する領事館で過ごしてもらっている。仕事は領事館の見回りと、話せる程度で各国の代表に魔国ハニーラスがどんな場所なのかを説明してもらっている。熊の背に騎乗する鬼の魔物というのは非常に目立つ存在であり、今では聖都のチョットした有名人である。


「グラッドルが騒ぎを起こさずに、静かにしてくれているのはありがたいですね」


「野生の熊なのに、本当に賢い子ね」


「最近、中に人がいると思い始めていますね」


「ふふ……それは面白いわね。そういえば……オラインさんに自分の両親を紹介していたみたいだけど、側妻にするつもりかしら?」


「違いますよ……チョット訊きたいことがあったので、確認してもらったんです」


「あら……教えてくれないのかしら?」


「最後に確認することがあるので……それが終わったらですね」


「ふーーん……楽しみしてるわ」


「あまり期待しないで下さい……っと、そろそろ行かないと」


「お見送りに行くのね」


「ええ。それだから、ドラゴンの鱗を安定して得られるのも今日までですね」


「竜人と商業ギルドの橋渡しをしてるのだから、いつでも鱗を手に入れられる立場のくせに……」


「はは……それでは失礼します。お茶ご馳走様でした。レイス?」


「はいなのです」


 僕とレイスはショルディア夫人に挨拶をして、ガセボを後にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「イスペリアル国・領事館 ドラゴンが住む小屋の前」―


「立派に成長したね」


「ガゥー!」


 グリーンドラゴンの子供が大きく鳴いて、褒められたことを喜んでいる。その背中には、大人と比べたらまだまだ小さい物だが、立派な羽が生えている。


「グオ―……」


「お世話になりました。と言ってますね」


 領事館の庭で生活していたグリーンドラゴンが帰郷するということで、所要でこちらに来ていたハクさんが安全のため同行することになった。ちなみに今はドラゴンの姿になっている。


「いえいえ。ただ、庭を貸していただけなのでお気になさらず」


「グオ!」


「ご馳走をいただいたと言ってますが……?」


「僕たちが討伐した魔獣のお肉を渡してたんですよ。僕たちには毒でも、ドラゴンの皆さんにはご馳走ですから」


「グオ!グォオオ!」


「この前の、こんがりお肉は美味しかったと言ってますけど?」


「生肉もアレだったので……焼き機を使って、表面をこんがり焼いてパリッと仕上げ、中から肉汁が溢れるように……その時は御夫婦に調理のお手伝いをしてもらいましたが……あ、そうそう。これをどうぞ」


 僕はその時に使った巨大な焼き機をアイテムボックスから取り出す。


「ぜひ、あちらに戻っても美味しい物が食べれるように持っていって下さい。僕たちからのお祝いの品です」


「グォオオ!!!!」


 グリーンドラゴンの夫婦が雄たけびを上げる。これは翻訳されなくても分かる。


「喜んでくれて良かった。それと使用後はしっかり洗って、乾燥させて下さいね。ちなみに壊れたら、僕の方から商業ギルドに頼んで作ってもらいますので、連絡を……ハクさん。怖いです」


 大きなドラゴンが荒い息をしながら、涎を垂らし、こちらをガン見してくるなんて、これから捕食されるのでは無いかと冷や汗が出てしまう。


「すいません……無性にお腹が空いてしまう話だったので……」


「それだからって、僕を見ないで下さい。僕を食べても美味しくは無いですよ」


 すると、ハクさんの視線が隣を飛んでいるレイスに移る。


「……私もなのです!」


 レイスもその視線に気が付いたので注意する。このままだと僕たちが食べられてしまいそうなので、着ていた上着のポケットから、腕輪型のアイテムボックスを取り出す。


「これ、いつものやつです」


「受け取りました。例の物も?」


「アイスクリームも入ってます。クーラーボックスに入ってるので、後は冷たい場所に保管して下さい。それと、ご希望なら、その焼き機をもう一台ご用意します」


「お願いします! リーダーには私が説得しますので!」


「グオ……?」


「おっと……そうですね。このままだと夜になってしまいますね。それでは薫さん。レイスさん。また、よろしくお願いしますね」 


 ハクさんが翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がる。それに続いて、グリーンドラゴンの家族も空へと飛び立っていった。


「元気でねーー!」


「ガウーー!!」


 グリーンドラゴンの夫妻の子供が大きな返事をして、別れの挨拶を済ませると、4体のドラゴンはヴルガート山へと帰って行った。


「……ここも寂しくなるのです」


 綺麗に清掃されたグリーンドラゴンの家族が住んでいた小屋。このギガントオーガシェルフィッシュの貝殻で出来た小屋の使い道はまだ考えていないので、しばらくは空き家のままになりそうだ。


「出会いと別れの季節だからね……」


 領事館内の花壇を見ながら、しみじみする僕。咲き誇る華麗な花々を見ると、春の到来を感じ取れる。


「全く……アンジェ様の孫も規格外の方なのじゃ……」


 すると、オラインさんが熊のグラッドルと一緒にこちらへとやって来る。心なしかグラッドルに元気が無い。


「もしかして、ドラゴンに怯えていた?」


「当たり前なのじゃ。本来なら、尻尾を撒いて逃げるのが普通なのじゃ」


「まあ、そういえばそうか……」


 ハクさんやペクニアさんと頻繁に会話しているせいで、すっかり慣れてしまっていたな……。


「そういえば……ドラゴンって聖獣って呼ばれるけど、魔国にもいるの?」


「聖獣……どんな基準で決められてるのじゃ?」


「えーーと……何だろう?」


 各国の聖獣について思い出す。ヴルガート山のドラゴンはその強さから認定されていて、ソーナ王国は僕と泉が契約しているユニコーン、ガルガスタ王国はカーバンクルで、この領事館があるイスペリアル国はグリフォンに、ドルコスタ王国はトゥーナカイ、そして最近出会ったレルンティシア国のフェニックス……そのどれもが、喋る事は出来ないが、僕たちと意思疎通することができ、そして貴重で有用な素材を持つことで認定されている。


「ある程度……人間に友好的で、意思疎通が出来て……後はいい素材が取れるかもらえるような存在かな」


「なるほどのう……それなら、アピスじゃのう。そちらの牛という生き物に似ている聖獣でのう……地を揺るがして、地面は破壊して敵の動きを封じたところに、その角で敵を仕留める……大変強い魔獣なのじゃ。夜国はカマソッソという名前で漆黒の闇の中でも自由自在に空を飛べる魔獣なのじゃ」


 カマソッソ……僕の知るカマソッソなら、それはコウモリの姿をした聖獣なのだろう。


「そうか……こう考えると、各国に1体は聖獣がいるんだね……あれ? ノースナガリア王国の聖獣って……」


「イスペリアル国と同じグリフォンなのです。非常に近い国ですから」


「へえ……そうなんだ。そうなると、僕の知らない聖獣って後2体いるのか……」


 アオライ王国は知らなくてもしょうがない所があるのだが、よく来ているビシャータテア王国の聖獣については何も知らないな……後で、ユノに訊いてみようかな……。


「ごめんください!! 薫様はいらっしゃいますか!?」


 領事館の庭先で、のんびり会話をしていると館の方から誰かの声が聞こえる。どうやら僕を呼んでるようだ。僕たちは慌てて館の方に戻ると、玄関先でアオライ王国の賢者さんとクリーシャさんがやり取りをしていた。賢者さんが慌てているけど……何かあったのかな?


「どうかされましたか?」


「おお! 勇者様! 申し訳ありませんが、至急の出来事でして……アオライ王国に来て頂けますか!?」


「本当に何があったのです?」


「聖獣を捕まえて下さい!! このままでは……王都が滅んでしまいます!!」


「「「「え……!?」」」」


 割とタイムリーな話題に、先ほどまで、その件で話をしていた僕たちは互いに顔を見合わせるのであった。

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