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333話 王家の証

前回のあらすじ「薫の春休み(3日間)」

―その日の午後「笹木クリエイティブカンパニー・展示室」―


「おお……!!」


 あかねちゃんが目をキラキラさせながら、笹木クリエイティブカンパニーの展示室の中を眺めていく。今、あかねちゃんが見ているのは、レッドドラゴンの翼で展示品の中で最大級の展示物になる。ちなみに、このレッドドラゴンは僕たちが以前討伐したあのドラゴンである。そして、地球では見る事ない魔獣の剥製も近くに置かれている


「この貝殻の一部……デカいね」


「それチョットした島ぐらいのサイズを持つ魔獣だったんだよ……あの麒麟でやっと、倒した位だったし」


「それは大物だったんだね……」


「あ! あれって何?」


「うん? どれどれ……」


 あかねちゃんが、隣に置いてあるサンドウルフの毛皮について訊いてきたので、それを父さんが設置されているパネルに書いてある内容を読み聞かせていく。その姿は、実の親子のようだ……いや、年齢的にも見た目的にも孫とおじいちゃんの関係のような……まあ、いいか。


「そういえば……いいんですか紗江さん? 春休み期間中で、他のお客さんで予約一杯だったんじゃないですか?」


「これらを回収している薫さんのお願いですし、従業員なのですから問題ありませんよ。それに今の時間は休憩中ですから」


 オラインさんとの面会の為に、笹木クリエイティブカンパニーにやってきた僕たち。今日は彼女の最後の検診という事で、それが終わるまで、この展示室であかねちゃんの思い出作りに勤しんでいる。


 ちなみに、この展示室の一般公開は前までは笹木クリエイティブカンパニーの入り口で受付をしていたが、笹木クリエイティブカンパニーの前にある道路の通行の邪魔になるということで、現在は予約制となっている。ちなみに転売が出来ないように入場前に身分証明書で確認するようにしているそうだ。それでも、疑わしい人が入ったりするらしいのだが、いつの間にか姿を消していると紗江さんが話してくれた……何が起こってるのかは、深くは考えない方が幸せなのだろう。


「凄い! あ! アレって何!?」


 他の展示物に目を引かれた、あかねちゃんが指差す方向には白銀の魔石……浮遊石が置かれている。


「これは浮遊石。念じると宙に浮ける代物だよ……やってみる?」


「うん!」


「じゃあ……私と一緒にやりますか! 薫? これって、滅びの呪文とか……」


「そんな機能は付いていなからね……とりあえず、それの使い方だけど……」


 僕は母さんに浮遊石の使用方法をレクチャーする。一通り説明すると、母さんはあかねちゃんの手を取り、浮遊石を使って一緒に宙へと浮いていく。


「浮いてる!!」


「ほら。二人共こっちを向いて……」


 父さんがスマホのカメラを使って、カメラ目線の二人を撮る。その後、二人は何度も上下に浮き沈みをして無重力を楽しんでいく。すると、今度は両手繋いで輪になるポーズをしている……母さんが、これ! 映画のワンシーンを再現してみたかったんだよね! と話している。それなら、父さんとやった方がいいのでは? と思ってしまう。


「親子って感じですね」


「そうだね」


 あかねちゃんが母さんたちの所に来て、およそ半年だが、すっかり慣れたようで何よりである。


「おーーい! 薫!」


 すると、直哉が展示室の入り口から、僕の名前を呼びながら近づいてくる。


「もういいぞ。今は病室で待機しているから会いに行くといい」


「ありがとう直哉。母さん! 準備出来たって!」


「うん? ああ、分かったよ」


 浮遊石の効果を楽しんでいた母さんは、すぐに地上に下りて、あかねちゃんに紗江さんと一緒にいい子にして待っているように話を始める。


「薫。オラインのところに両親を連れて行くなんて……何かあったのか?」


「チョットね。詳細は話せないけど」


「……そうか。でも、隠し続けるような秘密でも無いんだろう?」


「うん。いつかは話すよ。それだから今は……」


「分かった分かった。その調子だと、分かったからってこちらの研究や開発には影響を及ぼさないのだろう? なら、聞く必要は無い」


「ありがとう直哉」


「お前の素直な礼は調子が狂うな」


「怒るよ?」


「冗談だ……ほら、さっさと行け」


 直哉にそう言われ、あかねちゃんの事は少しの間だけ紗江さんに任せて、両親を連れてアザワールドリィの施設へと向かうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数十分後「アザワールドリィ・病室」―


「お加減どうですか?」


「うむ! すっかり良くなったのじゃ!」


 そう言って、笑顔で左手をグルグルと回すオラインさん。


「これなら、直ぐにでも兵士として復帰できるのじゃ……で、そちらの親子は?」


 僕の後ろにいる両親について尋ねるオラインさん。確かに、親子に見えるよね……実際には60代の夫婦ですが……。


「その前に見てもらいたいのがあるんだけど、見てもらっていいですか?」


「構わんぞ? それで見せたい物って?」


 熊のグラッドルの頭を撫でながら話すオラインさんの間で、青い箱を取り出した僕は、蓋を開けて中にあるネックレスを見せる。


「ネックレスか……はて、見たことがあるような……うん? この紋章……え?」


「これなんだけど、後ろにいる母さんのお婆ちゃんの遺品なんだ」


「……そちらの女の子……え? 母さん? お婆ちゃんの遺品?」


 文脈が無く、ただ単語を呟くオラインさん。グラッドルを撫でていた手の動きはすっかり止まっていた。


「薫? その子、大丈夫なのかい? 顔面蒼白を通り越して、真っ白になってるよ?」


「驚きの白さだね……」


「大丈夫。むしろ、一気に言ってあげないと、何度、床に頭を叩きつけるか分かったもんじゃ無いからさ……」


 顔面真っ白で無表情のオラインさん。すると、いきなり体がプルプルと震えだし、座っていたベットから崩れ落ちるように下りて、そのまま正座、そして母さんの方を向いて、床に頭を押し当てる。要はどけ座である。


「姫様に対して無礼な口ぶり……大変失礼いたしました!!!!」


「ちょ、ちょっと! 頭ぶつけたでしょ!? 凄い音がしたけど大丈夫なの!? ……って姫? 薫じゃなくて私?」


 何で、そこで僕が姫扱いなのか気になる所だが……ここは黙っておこう。


「その通りでございます! このネックレスの宝石に刻まれている紋章は王家の紋章! そして、こちらのデザインは現国王様の持っている物と色は違えど瓜二つ……そして、それを持つ資格があるのは陛下の姉上であるアンジュ様であり、その娘となるのなら、あなた様は我が国の姫となります!!」


「へえーー……茂。私、お姫様だって」


「はははは……そうしたら、僕は年老いた王子様ってところかな」


「……姫様の殿方なのですか……?」


「そうだよ。僕は夫婦で……この子が僕達の子供。後、この子の上に年の離れた姉もいるよ」


「……」


 正座で座ったまま、固まってしまったオラインさん。それを心配したグラッドルが横から揺さぶるが……反応が無い。


「衝撃が……強すぎたか……」


 とりあえず、僕もグラッドルに協力してオラインさんの意識を取り戻すために、頬を軽く叩く。


「起きて下さい……王家の人間の前でその態度は失礼ですよ?」


「はっ!!?」


 意識を取り戻したオラインさん。王家という単語を出してみたが……効果はバツグンだったようだ。


「それで、このネックレスは間違いなく魔国ハニーラスの王家の紋章なんですね?」


「う、うむ! 間違いないのじゃ。見た目もそっくりじゃし……ただ、宝石の色は赤だったと思うのじゃ……そこが、少し気になる所なのじゃが……」


「魔王様はこれと似たネックレスを着用していたことがあるんですね」


「常に身に付けているのじゃ。だが、私が分かるのはそこまでなのじゃ。誰が作って、どうして色違いのネックレスなのかは魔王様に直接聞くしかないのじゃ」


「そうですか……」


 僕は、青い箱に入っているネックレスを見る。やっぱりというか……何というか……。


「そのネックレスに、そんな意味があったなんてね」


 母さんが横から顔を出して、ネックレスを手に取る。


「それで、おじさんは元気なの?」


「は、はい! 高齢ですが、それでもご健勝であります!」


「そうか……薫。これ持っていくんだろう?」


「ううん。そこまでは考えていないかな」


「あんた……悪い魔王と戦うんだろう? これがあれば、私のおじさん……あんたからしたら大叔父である魔王が力を貸してくれるかもしれないじゃないか」


「……どうだろう? お婆ちゃんがこっちに来たのって2000年前だよね……その間に一度も再開していないし……マクベスに魔王様宛に伝言とか残していないのかな」


 マクベスに後で尋ねてみるか……大叔父である魔王に協力を得たいなら、これだけでは物足りない。


「その前に、母さんがこれを身に付けたりするんじゃないの?」


「グージャンパマならいいけど……それ、こっちじゃ悪魔の紋章じゃないか。そんなのを冠婚葬祭には付けていけないからね。それだから大丈夫だよ。ただ、大切にはしなさいよ」


「ああ……うん……」


 形見であるし、大切な物には間違いない。だから、母さんの元にあった方がいいだろうと思ったけど……その理由に納得してしまう。


「で、母さん似のあんたがそれを身に付けて、目の前に現れた時の魔王様の反応を楽しみにしてるから! 後で聞かせてね!」


「そっちが目的かーー!?」


 母さんの悪魔のような所業に思わず、大声でツッコむ僕なのであった。

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