332話 逆五芒星の宝石
前回のあらすじ「お祭りを満喫!」
―スプリング・フェスティバルの翌日「薫宅・書斎」―
「……」
レルンティシア国でのお祭りを終え、久しぶりに家でゆっくりと本を読んで過ごす。
「いきなり、休めと言われてもな……」
この前、レルンティシア国での昏倒事件で、僕が働き過ぎだという事を知ったユノたち。そして、次の日にはその報告を受けた関係各所から強制的に休日を取らされた。しかも、梢さんからも小説の執筆活動も休むように言われてしまった。
「疲れている体で執筆しても、いいのは書けませんから! って言われちゃったしな……」
レイスも気を使ったのか、泉の家に3日間ほど泊まると話をしていた。つまり……最低でも3日は休めということだろう。
「どうするか……」
少しだけ畑を弄ったらゲームでもしようかな……晩御飯はコンビニで買ってきたお弁当があるし、今日は一日、家でゆっくり……。
「そういえば……」
僕はアイテムボックスから、手に入れた魔石を取り出す。窓の外の光に当てると、紫色の魔石の中にはハートマークみたいな模様が刻まれているのが良く分かる。
「謎の……フェニックスの魔石か」
山岳地帯の窪地の棲み処から、より安全なデメテルに移住したフェニックスからもらった魔石。この魔石はフェニックスの体内にあった魔石であり、過去に死んだ仲間たちの物だそうだ。そんな大切な物をもらっていいのかと思ったが……。
(自然に還らないから困ってるんだよね……)
……と言っていた。おい、それでいいのか? と思ったが……まあ、何かに使えると思ってフェニックスの羽と一緒に結構な数を貰ったのだが……。
「何の魔法が込められた魔石なんだろう?」
何とこの魔石の効果について誰も知らなかった。一番の知識量を持っているマクベスにも四天王エイルの情報を共有する際に訊いたのだが……。
(フェニックスは羽が素材です。その羽を土に混ぜ込む事で、周囲の土地を豊かにする作用がありますね。それなので……フェニックスの魔石については知らないです。そもそも、普通に虹色の魔石しか取れないはずですよ?)
マクベスはそう答えていた。つまり……この魔石はイレーレたちが滅びてから新しく出来た新種の魔石となる。僕は手元に一個だけ残して、他は研究チームに渡していおいたが……調査結果はまだ出ていないそうだ。
「紫色……ってことは、どの属性にも属さない魔法が込められていることになるけど……」
一番の候補だったのはフェニックスが巣を守る為に使用していた魔法である。魔法名は無く、効果は結界と隠蔽の両方の力を持つ魔法ということが分かった。フェニックスたちは協力してあの窪地の上に結界を張り、上からくる雨や雪などを防いでいた。そして結界の反対側は周囲の風景と同化するというかなり特殊な魔法である。フェニックスに頼んで目の前で使ってもらうと、一方向に周囲の風景に同化したパネルを設置するような魔法だった。
で、それを使えると思った賢者の一人が、さあ! 周囲の風景に同化した俺に魔法を当ててみろ! と言ったので、丸見えのその賢者に魔法を撃ちこんで吹き飛ばしたという事故が起きたと報告が入っている。
「フェニックスは火属性と風属性の魔法を使うから、赤か緑の色をした魔石なら、どんな魔法か何となく目星が付くんだけどな……」
魔獣から採れる魔石は虹色に発光している。それは聖獣も例外ではないのだが、唯一の例外としてカーバンクルの魔石が挙げられる。僕たちもたびたび戦闘で使っているが、カーバンクルの魔石は超近距離魔法で高火力のセイクリッドフレイムという魔法が使える。そして、その魔石の色は火属性を表す赤色であり、また、このセイクリッドフレイムはカーバンクル本人も自衛のために使用している。
「やっぱり、目の前で見せてくれたその魔法が使えるというのが、しっくりくるんだけどな……」
日の光に照らしながら見ていたフェニックス魔石……温かくなってきた日差しに照らされて、ほんのり熱を持ち始める……。
「ふわぁ~~……」
日差しのその温かさに思わず欠伸が出る。このまま、お昼寝するのもありかな。
♪~♪~~
すると、玄関のチャイムが鳴る。誰が来たのだろう? 僕が休暇中だと知っている人たちは来ないだろうし……。
「か~お~る~!! いる~~!!?」
あ、母さんだ。連絡なしで来るなんて、僕がいなかったらどうしていたのだろう? とりあえず、僕は窓を開けて、外を見ると、庭から母さんがこっちに向かって手を振っている。その隣で、母さんの真似をして、あかねちゃんも手を振っている。父さんはどこにいるのかと探したら、車の運転席からちょうど出て来た所だった。
「何やってるの?」
「遊びに来た! それと……母さんの遺品で少し怪しい物があったから、見て欲しいんだけど?」
お婆ちゃんの遺品……およそ一年前から遺品を調べてるはずなので、今、自分が装備しているグリモアに使用されている黒の魔石だけかと思ったが……。
「ねえ! 入るよ!?」
「う、うん! 入って来て!」
すっかり眠気が吹き飛んでしまった僕は、急いで1階へと下りていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから10分ほど「薫宅・居間」―
「お休み中だったか……それは、済まなかったね」
「ううん。気にしないで。いきなり休めって言われて、暇を持て余していたところだったから」
「レイスちゃん……いないの?」
「ごめんね……今は泉の所にお泊り中なんだ」
残念そうな表情を浮かべるあかねちゃん。二人とそんな会話をしつつ、僕が茶菓子と飲み物をテーブルの上に置いたところで、母さんが話を切り出す。
「あんたの話を聞いてから、母さんの遺品の中で摩訶不思議な物が無いかって探してたんだけど……あの黒い魔石って呼ばれる物以外は見つからなかったんだ」
そこで一息吐くために、出したお茶を飲む母さん。いつもと違う母さんの雰囲気に、それが魔法のような効果が無くとも、どこか変な雰囲気を感じる物と言いたいのだろう。
「それで、ふと、あることを思い出してね。母さんが特別な日にしか付けないネックレスがあったな……って、でも、聞いた魔石の色のどれにも当てはまらないから違うと思ったんだけど」
「それって、どんな物なの?」
すると、母さんが横に置いていた鞄から、青い箱を取り出す。そしてその蓋を開けると……。
「……綺麗」
思わず呟いてしまった。それは、まるで夜空を切り取って、石の中に閉じ込めたような青い六角中の宝石だった。青の魔石のように透き通った物では無く、見た者を自身の中に吸い込もうとするような魔性を秘めた深い青……それだけなら、ラピスラズリと言われる宝石じゃないかと言われそうだが、この宝石にはもう一つ突出したところがある。
「この宝石……人工物だと思うんだよね。普通、そんな人工的な模様って入れられないでしょ?」
母さんの言う人工的な模様。それは、逆五芒星の周りに、植物のような模様を左右対称になるように刻んだような模様……いや、これは紋章と言った方がしっくりくる。その紋章は金色に光り、この深い青色の宝石に負けないように光っている……まるで、夜空に輝く星座のようだ。
「逆さまの五芒星……悪魔の象徴を表すデビルスターだね」
「明菜の母親である典子さんは魔人と言われる魔物だった……この逆五芒星は意味としてはあっているのかもしれないね」
「そうだね……」
僕は再びネックレスを見る。その六角柱の宝石が嵌め込まれている台座は白銀の金属で作られていて、そこにも細かい模様が装飾されている。
「かなり高価な代物って事は分かるんだけどね……」
「うん……それで、これって本当にお婆ちゃんが持っていたの?」
「間違いないよ? 私の結婚式にもこれを付けていたし」
「そう……なんだ……」
「で、どうだい? これって、異世界の代物なのかい?」
「……分からない。けど……それが何なのかを知っている人物に心当たりがあるよ」
「それって誰なんだい?」
「オラインさんっていう鬼っ娘がいるんだけど……その人なら、これがどんな物なのか分かるかも」
「お! いいね! そうしたら早速……って、あっちにはいけないのか」
「オラインさんはこっちにいるから大丈夫。けど、会うのに許可がいるから、連絡しないと……チョット待ってて」
僕は居間から出て、廊下で電話を掛ける。電話の相手である直哉に繋がるまで、僕は先ほどの逆五芒星の紋章が何なのか考えていたが……答えは出ている。あれはきっと王家の紋章。魔国ハニーラスの王族にしか使用する事が許されず、そしてあのネックレスは王族という証にもなる代物であること……。
「アレを見たら、オラインさんはどんな顔をするのかな……」
この前のように勢いよくどけ座をして、頭部を地面にぶつけるような事をしないでもらいたいと思いつつ、電話に出た直哉にオラインさんへの面会許可が取れないか頼むのであった。




