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331話 Shall We Dance?

前回のあらすじ「連勤12日でお疲れの薫(深夜残業あり)」

―お昼頃「レルンティシア国・仮役場 お祭り会場」―


「綺麗ですね」


「うん」


 春を祝うスプリング・フェスティバルが始まり、ミリーさんを含めた若い女性で、レルンティシア国で踊られていた伝統のダンスを踊っている。今はフェニックスの羽で飾られた祭槍の周りで、クルクル周っており、それによって広がるスカートは、まるで白い花が開花する様を彷彿させる。


「それだけじゃありませんよ」


 僕たちの隣にいるアリーシャ女王がそう言うと、踊り子たちからピンクと白色の光の粒子が生まれ、空へと舞い上がっていく。白の粒子が最初は多く舞っていたが、その数を徐々に減らしていき、最終的には淡いピンク色の粒子が舞台を彩っていく。


「冬から春へと移り行くさまを表してるんですね」


「泉さんの仰る通りです。昔はこのようなステージではなく、あのフェニックスの羽で飾られた祭槍を持って、王都内を練り歩きながら踊ったんですよ」


「日本でもそんな感じで踊る祭りはあるけど……ここまで派手な演出はなかなか無いかな……」


 山形の花笠祭りや徳島の阿波踊りに……鳥取のしゃんしゃん祭りとかも、その規模と踊りの華やかさで有名だが、この踊りは少ない人数でありながら、それに負けず劣らず華やかさがある。


「国が復興したら、このお祭りは立派な観光資源になりますね……きっと」


「そうですね。その時は観光客も招いて、大規模に行いたいですね……だから、こうやってゆっくり見られるのは、今だけの特権かもしれませんね」


「確かに」


 僕たちが会話をしている間にも、あちらから持ってきた楽器が奏でる音色に合わせてダンスは続く。周りにいる国の復興のために働いている職員も、今日ばかりは仕事を忘れて、振舞われるお酒や食事を楽しみながら見ている。


「……あ。もしかして、これが宗教団体と勘違いされた原因?」


「ああ……年に一回は故郷を思って開かれていたので、何も知らずにこの光景を見た人からそう思われても仕方ないですね……。まあ、そう思われていた方が、魔石の事を隠せると思って、あえて否定もしませんでしたが」


 地球では、ラエティティアという組織名で活動していたレルンティシア国の住人。宗教法人と言われていたが、実際のところは気象関係などの一般向けの情報から、各国の機密情報など独自の技術力と情報網を使用して顧客に提供する事業をしていたらしい。そして、その裏ではグージャンパマに帰るための情報収集や新技術の開発などが行われていたとのことだった。


「上手く運営してましたね……普通なら、大国とかに危険視されそうですけど」


「当然ですよ。何せ……私がいますからね。長寿というのは武器なんですよ」


「……エルフだからこそ出来る方法ですか。ちなみにどんな方法で?」


「それは秘密です。復興が終わるまでは……ね」


 それは残念と思いつつ、ここでこの話は止めて、ミリーさんたちのダンスへと再び視線を向ける。さっきよりもテンポが速くなっており、ダンスも激しくなっている。時々、練習風景を見ていたので、ダンスもいよいよ佳境に入ってるのが分かる。周りの人からの声援や拍手も入って、さらに盛り上がっていく。


タン!


 音楽が終わると同時に起きる光の粒子の演出。それと同時に周りの人から拍手が巻き起こる。中には涙を流している人もいる。ふと、アリーシャ女王の方を見ると、同じように涙を流していた。


 当時のレルンティシア国を知っている人物は既にアリーシャ女王のみであって、他の人々は当時のレルンティシア国を知らない人たちである。だからこそ、アリーシャ女王のようにそこまで喜ぶものなのかと感じる人もいるだろう。しかし……。


「ミリーさん泣いているッスね」


「そうね」


「仕方ないのですよ」


 精霊3人娘がお菓子を摘まみながらそんな話をしているが、ミリーさんのように先人の思いを背負って、この職務に勤めている人たちもいる。だからこそレルンティシア国があった場所で、小規模だが同じ祭りが行えたことに特別な思いを抱いていてもおかしくは無いのだろう。


「さあ! ここからは自由に踊って楽しみましょう!」


 アリーシャ女王のその一言をきっかけに、祭槍の周りで人々が陽気な音楽に合わせて踊り始める。定番のダンスから、男二人がふざけた踊りをして、周囲の人々を笑わせたり、男性が女性に声を掛け、一緒に踊ったり……。


「無礼講って感じですね」


「ええ。こうやって息抜きも必要ですから……あのお二人のように」


 アリーシャ女王が指差す方向。そこには……。


「足を出して、右手を挙げて……」


「そうそう。そしたら、次は……」


 カーターがペアになって、泉が踊っている。楽器や音楽の少ないグージャンパマだが、ダンスという物はあるらしく、貴族であるカーターは小さい頃からダンスを習っていたらしいので慣れた様子で踊っている。


「えーと……あっ!」


「おっと!」


 泉がこけそうになった所を、カーターが両手で受け止める。ふと、泉が視線を上にずらすと、カーターと目が合う。前なら慌てて、カーターから離れて顔を赤らめるのが一連の流れだったが、そのまま二人は動かない。


「雰囲気的にキスしそうッスね……」


「うんうん」


 精霊3人娘も静かに見守っている。そう。フィーロの言うような雰囲気ではあるのだ。だから、アリーシャ女王とユノ、そして僕も静かに見守る。そして、周りの人も……うん?


 僕は二人から視線を外すと、他の人たちも見守っている……そう。お祭りに参加している皆が。これが夜なら、まだその視線が暗闇で隠せただろうが、このお祭りは真昼間に行われている……そして、二人もそこまで自分たちの空間に没頭している訳では無いので、当然のことだがその視線の集まりに気付く。


「見世物じゃないですよ!!」


 泉がそう言った所で、皆が予想通りの展開に行かずに残念そうな表情だったり、見ていませんよ? というアピールをするために、慌てて視線をずらして、持っていた酒を呷ったりする人もいる。


「残念ですね」


「僕は無理かなと思っていたけど……皆が凝視してたしね」


「つい見てしまいましたね」


 クスクスと笑うユノ。アリーシャ女王もその意見に同意とも言いたいような感じで笑みを浮かべている。


「そうしたら……お二人はどうです?」


 そう言って、アリーシャ女王が僕たちを見ている……。


「僕たちは踊らないのか……さっきまで倒れていたので」


「薫。それジョークというには、少しきついかと……」


「そうかな? 会社勤めの時に、これより酷い含みを持たせて話す人いたから……」


「ああ……分かります。私もメスガキとかロリババアとかそんな感じの悪口を言われて……」


 それは銀髪美少女のアリーシャ女王に欲情している男共の叫びのような気が……きっと、罵ってあげれば喜ぶだろう。


「……欲求不満な男って大変ですよね」


「男である薫言うのは……あ、身を持って体験してるんですね」


「言わないで、思い出したくないから……よっと」


 僕はそう言って、立ち上がり背筋を伸ばす。


「踊るんですか?」


「座りっぱなしも疲れたからね。ってことで……一曲よろしいですか姫様?」


「はい。よろこんで」


 僕が差し出した手を掴み、立ち上がるユノ。僕たちは皆が踊っている場所まで出てから、こうやって一緒に踊るのはこれが初めてなので、曲のリズムを無視して軽く踊り始める。事前に教えてもらったダンスには2パターンあり、ミリーさんが儀式で踊った物とペアで踊る物がある。当然だが、僕たちは先ほど泉たちが踊っていた物と同じペア用である。


 ユノの体を抱き寄せて踊り始める。教えてもらった踊りは大して難しい物ではなく、舞踊を少し齧った身なので難無く踊れる。そして、ユノも慣れた様子で踊ってくれる。


「これなら、ワルツの方が難しいですね」


「そうだね。練習は順調?」


「はい。こうして……こうですよね?」


 すると、いきなりユノがワルツを踊り始めるので、僕もそれに合わせてワルツに変える。


「そうしたら次はこうで……」


 ユノに合わせてステップを変える僕。しっかり踊れていて問題は無いが、なんか流されてばっかりなのは嫌なので、少し悪戯してステップを変えて主導権をこちらに移す。


「え?」


 驚くユノ。しかし、しっかりと付いて来てくれる。大丈夫そうなので、そのまま続ける。


「あの!?」


 慌ててるユノ。その姿が可愛らしくて……余計に悪戯したくなる。そうしたら次は……。


「あっ!」


 足がもつれて、倒れそうになるユノ。僕は慌てて、腰に手を当て体を倒れるのを防ぐ。一方、ユノは僕の服を強く掴んで、体を逸らしたまま、僕の方を見ている。


「酷いですよ?」


「ああ……ごめん。つい悪戯心が……で、何を凝視してるんですか皆さん?」


 先ほどの泉たちと同じような期待を込めた視線に対して、僕は注意をする。すると、先ほどと同じようなリアクションを出刃亀たちは取って、何事も無かったように誤魔化すのであった。

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