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329話 王の采配

前回のあらすじ「強制終了」

―「ユグラシア大陸・???」―


「ご苦労だった。また一つ我の復活に近づいた……ふふふ」


 魔王様が笑ってる。エイルが集めてきたフェニックスの巣の小瓶を見て、かなり上機嫌だ。まあ……黒いフードでいつものように顔なんて見えないんだけど。


「もう少しですね……魔王様」


「そうだな……後、もう少しで必要な素材が全て手に入る」


「そうしたら、いよいよ……」


 すると、今度はネルも笑い出す……こちらも、同じく見えないから不気味だ。


「魔王様! 褒めて下さいよ!」


「うむ? そうだな……よくやった」


「ありがとうございます!」


 今度は横にいるエイルも笑顔で体をくねくねさせている……こっちはキモいな。


「やれやれ……」


 こんな不気味空間の中にいるのは正直言って辛い……さっさとここから出て昼寝でもしたいところだ。


「ふっ……シェムルは我輩の復活には興味無いか」


 一人だけ無表情の俺に気付いた魔王様が声を掛けて来る。すると、ネルとエイルの二人が怒った表情で俺を見る……めんどくさいな……。


「ダメ?」


「構わん。お前は元からその調子だったしな……それとも、勇者と呼ばれる奴と遊びたいのか?」


「まあ……そうだね。あれだけのオモチャ、なかなかお目に掛かれないし」


「ふふ……そうか」


 そう言って、椅子に深く腰掛け直す魔王様。特に俺を責めるつもりはなさそうだ。


「あんたの目……節穴じゃないの? あいつら大したことなかったわよ?」


 エイルのその発言に、俺も含めた全員がエイルに視線を向ける。


「何? 戦ったの?」


「フェニックスの血を回収する際にね。確かにあの女……私の次くらいに美女だったけど、変わった武器を使用する魔法使いってところね。神霊魔法を使っても大したダメージじゃなかったし」


「変わった武器……そういえばシェムルも同じことを言ってたな。黒い武器だったか?」


「うん。剣だったり籠手だったり……」


「私の時は大盾だったかしら」


「うむ? 勇者の武器はそんな変形をするのか?」


「変形じゃないよ。あれは……変態。まるで粘土のような素材で、勇者の意思で硬さや姿が変わってるんじゃないかな……」


ガタン!


 すると椅子に座っていた魔王様が、ものすごい勢いで立ち上がる。


「まさか……!! そんなバカな!?」


「ま、魔王様……?」


「何故……勇者がノーネームを?」


 ノーネーム……確か、魔王様が世界侵略に使用した武器だったはず。それを薫が使用していたってことか。


「何と! どうして勇者が魔王様の武器を!?」


「……シェムル。三度、勇者と戦ったお前からしてどう思う?」


「ああ……多分だけど、あれって勇者の専用武器だよ。その証拠に、他の奴が装備している所を見たこと無いし」


「そうか……」


「確かに、私が戦った奴らで、それらしき物を使っていたのは勇者だけでしたわね……まあ、大した強さじゃ……」


「エイル……それは侮り過ぎだよ。あいつ……俺と本気で戦った事が無いし、それにアクヌムを倒した方法がどんな物か分かってないしね」


「どういうこと?」


「薫達はアクヌムとビシャータテア王国のお城の中で戦闘を行って勝った。そして……監視していた奴らの報告ではお城は大した損壊をしていない。つまり、あいつらには麒麟という召喚獣以外にもアクヌムに対抗できるコンパクトで強力な魔法を使用できる……って考えないの?」


 その言葉にエイルは何も言わずに、黙って腕を組んで静かに俺を見ている。アクヌムは周囲に氷の棘をばら撒いて相手の動きを阻害し、そこに自身の超質量を使っての打撃だったり、水の体ということで窒息させるという単純だが、対処しにくい攻撃を得意としていた。そして……アクヌムの最大の難点はその水の体である。あれによってあらゆる攻撃が無効にされるのだ。それこそ、麒麟という召喚魔法ぐらいの圧倒的な破壊力のある魔法ではないと難しいはずだ。


「皆、分かってると思うけど、アクヌムのバカはあの体のおかげで、作戦は失敗しても倒されることは無いと思っていた。しかし……結果は、薫の切り札である麒麟を使わせる間も無くやられた……」


「なるほど。勇者にはいくつかの奥の手があり、それをまだ隠しているということか」


「そういうこと」


 立ち上がっていた魔王様が再び座り直して、何かを考える仕草をしている。


「……我が復活を早くせねばならないかもな」


「私が行って、始末しましょうか?」


「いやいい。ここは我が復活を最優先にする。シェムルの話が本当なら、四天王二人に対しては、わざと逃がしたという可能性もある……それによって調子づいた所を一網打尽にする気なのかもしれん」


「そ、そんな事が……」


「ありえそう。初戦なんて、囮を使ってすぐに逃げてたくらいだし……俺を倒そうとした時が一度あったけど、その時は片腕を負傷して、薫達は仲間を連れて人数に有利な状況だったかな……」


「はははは! 実に素晴らしい観察眼だな……ということだネル。奴らの狙いが分からない以上、わざわざ危険を冒す必要は無い」


「ははっ!」


 ネルが頭を下げて、魔王様の目入れに従う。俺としてはオモチャをお預けになるので嬉しくは無いが。


「案ずるなシェムル。その時が来たら、勇者の相手はお前に任せよう」


「……りょーかい」


 それが、いつになるのか分からないお預けを食らって、俺は実につまらなそうに返事をするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―エイルとの死闘から数日後「ビシャータテア王国・王宮 客間」―


「そうか……厄介な相手が残ったようだな」


「はい。それと、現在、四天王は魔王の復活に必要な素材を集めるために、頻繁に各地に赴いているみたいです。マクベスも予想より早く復活するのではないかと、危惧していました」


 僕は先日の四天王エイルとのレルンティシアでの出来事を王様に説明する。あれから数日経ったのだが、エイルが再び現れる事は無かった。念のために数日間、僕とレイスでレルンティシアに滞在していたのだが……無駄足になってしまった。


「ご苦労だったな。それで昨日はゆっくり家で休めたのか?」


「ええ。お陰様で。今日は祭りを楽しんできますよ」


「そうかそうか……今日はユノと一緒に楽しんでくるといい。それで、孫の顔はいつ見ることが出来るんのだ?」


「早い! 早いから!! というより、未成年の娘さんが男性に犯されてよしと思わないで下さいよ!」


「見知らぬ男ならともかく、しっかりとした働きをしている薫だからな。むしろ歓迎するぞ」


「……どこまで準備は進んでるんですか?」


「後はお前達次第だな」


 僕とユノの結婚が円滑に執り行われる為に、冒険者としての仕事をこっそり頼んでいる王様なのだ。すでにそこまでの段階に来ていてもおかしくはない。


「そうですか……うーーん……」


「何だ? ユノと何かあったのか?」


「ユノとは問題無いですよ。ただ別の問題がチョットだけ」


 僕の祖母が、ユグラシア大陸にある一国の王族の関係者だということを王様には伝えていない。何せ、僕たちが王族の関係者という物的な証拠は無いのだから……まあ、マクベスに証言してもらうという手もあるのだが……。


「……もしかして、我の負担が増えるパターンなのか?」


「うーーん……もしかしたら?」


「はあー……ユノ。どうなのだ?」


「本当ならお父様の負担が大きくなるのは確実ですね」


 後ろを振り向くと、出掛ける準備をしていたユノがレイスと一緒に部屋の扉を開けて、入って来るタイミングだった。


「お前がそこまで言うのか……」


「大丈夫ですよお父様……他の国から不満を言われる程度ですから」


「それを厄介だと言うのだ……お前の口からそれを伝えることは出来ないのか?」


「……薫。お父様にはお伝えしてもいいのでは無いでしょうか?」


「どうかな……確定ではあっても、証拠が無いし……」


「……私も伝えた方いいと思うのです。お母様にもお伝えするべきかなと思ってるので……」


「ああ……そうか。レイスも関係するのか……」


「中々の大事なのか?」


「はい。私と薫の婚約の意味が変わるほどに」


「薫? 話してくれないか。どうなのかはこちらが判断する」


 真剣な目で僕を見る王様。それだったら話してしまうか。


「……それじゃあ、僕の祖母なんですけど、ユグラシア大陸にある魔国ハニーラスの現国王の姉でした」


「……何?」


「だから……ハニーラスの王様の姉です」


 僕がそう言うと、頭を抱え始める王様。グージャンパマの文化的には大問題だというのが分かる。


「これは……確かに問題だな。つまり、これは王家同士の婚姻関係になるかもしれないしな……」


「問題ですかね?」


「魔国ハニーラスの反応次第だな。そうなれば泉と付き合っているカーターのリーブル家も関わって来るだろうし……武人殿や茂殿にも関わって来るだろうな……」


「二人共、貴族とかに興味が無さそうですけど?」


「そう言う問題では無いからな……とにかく、分かった。その辺りは我の方で何とかするとしよう。ユノ……分かってると思うが、この件に関して他言無用だ」


「心得てますわ。それと、その情報の元であるオラインさんには、薫から王家の命令として黙っておくように指示してますのでご安心を」


「うむ。抜かりはないようだな……それじゃあ、気を付けて行って来るように。薫、頼んだぞ」


「はい」


「それでは、行ってきますね」


 レルンティシアでのお祭りに参加するために、僕たちは部屋を後にする。出る際に王様の悲痛な叫びが聞こえたのは……気のせいだろう。たぶん。

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